攻略方法模索中
あまりの巨大さと防御力の高さに動揺していたが、こうなったら1つ1つ丁寧にあいつの防御力を突破する方法を見つけ出すしかない。
ジラントとズメイのブレスがろくに効いていない事から魔法系攻撃はあまり効かない。
しかし極夜による攻撃は効果があったことから斬撃系、もしくは物理系なら少しはダメージが通る可能性は高いと予想される。
サマエルがモビーディック・ムーンの攻撃を避けて破壊している間を縫って俺は斬撃を飛ばした。
嵐の影響で多少は攻撃力が下がったが、ほんの少しだけモビーディック・ムーンの覇気を切り裂く事が出来た。
「ジラント、ズメイ。どうやら物理攻撃ならあの覇気を突破する事が出来るらしい。近づけるか」
『やってみる!』
ズメイから返事がないが……あ、あいつとは隷属関係にないから無理か。
だがジラントが俺の言葉を伝えたのか2人は長距離からの魔法攻撃から近接攻撃に変更する。
モビーディック・ムーンの背に乗って噛み付いたり爪で切り裂こうとしているが、なかなか覇気を突破できない。
モビーディック・ムーンは身をよじるような感じでジラント達を追い払おうとするが、それよりも俺の方に狙いを定めている。
つららと暴風による攻撃はいまだ止まらないし、不意打ちに雷の魔法も使ってくる。
雷の魔法に関しては俺は劣化版魔剣を避雷針代わりに上空に飛ばしているためある程度防げているが、それは下級魔法であるから可能なだけだ。
下級魔法の弱点はほぼ自然現象と変わらない事だ。
雷魔法でも近くに避雷針があればそちらに誘導されるし、さっきから飛んでくるつららも風の影響を受けている。
中級以上になると自然現象の影響を受けないようになる。
例えばつららを放って風の影響で減速しないとか、軌道が変化しないとか、そんな感じ。
何故中級以上を使わないのかは不明だが、やはり決定的なダメージを与えられるのは急所を狙うかこいつの防御力を突破するしかない。
そのためにはあの防御力はどのように生み出しているのかを知る必要がある。
だが『嫉妬』は魔物には効果が発動しない。
地味に様々な攻撃をして確かめていくしかないか。
「サマエル。お前は少し待機してろ。ちょっと色々確かめてみる」
『ご武運を』
そういった後転移でモビーディック・ムーンの上に転移する。
俺式の斬撃をぶっ放したが傷付かない。
やはり物理攻撃が1番通りやすいらしい。
すぐ俺が上空に移動したことを察したモビーディック・ムーンは俺に向かって雷と風の魔法を使うが俺には転移がある。
背の上に転移した後俺は極夜を背中に突き刺し、突き刺したまま走り抜ける。
傷としては非常に小さい。人間で例えるなら爪楊枝で皮膚をなぞっているような感じ。
決定打になる気配は全くなく、少し血がにじんだ程度では簡単に回復されてしまう。
瞬間俺の身体に電撃が走った。
ダメージは大したことないが軽く痺れた。
『状態異常無効』があるのでまひでしばらく動けなくなることはなかったが、今のは放電か?
雷の中級魔法。使い勝手は非常に悪く、自信を中心に雷を無差別に放つ魔法だ。効果範囲も狭く、人間が出せば5メートル離れている相手に当たれば運がいいと言えるレベル。しかし確実に状態異常マヒを与える事からソロで使う者もいない訳ではない。
本当にむやみやたらに放つという感じだが、これで中級魔法も使用する事が可能であることを知ったのはまだマシか。
もし初級魔法しか使えないならもっとありがたかったんだけどな。
なんて思っているとモビーディック・ムーンはさっきよりも大きく飛び跳ねる。
流石に足場がなければどうしようもないので転移でサマエルの頭に移動する。
「今度はなんだ」
『ご主人様!どうやら人魚達を狙っているようです!!』
「な!?」
俺はモビーディック・ムーンが背中から着水しようとしている場所に視線を向けると動けずにいる人魚達がいた。
どうやらさっきの放電は俺ではなく海中にいた人魚達に向かって使用された物らしい。
正直に言ってこれはやられた。
十分に注意を引いていると思っていたが、俺以外の奴の行動を察する事が出来るくらい余裕があったらしい。
これは単純に俺のミスだ。
モビーディック・ムーンの背は無常に人魚達を押しつぶした。
「ちっもっと積極的に攻撃しないとダメか。サマエルは毒以外の攻撃どんなのあったっけ」
『基本的には物理攻撃、もしくは魔法攻撃ですけど……』
「ダメージの入り方は今回気にしなくていい。とにかく攻撃して気を引く事だけを考えるとしよう」
そうなればもっと強く攻撃するしかない。
もう少し極夜が大きくなればどうにかできるか?だが極夜にそんな機能はない。
どうするかと考えていると極夜が点滅した。
「極夜?」
俺がそう聞くと極夜は劣化版魔剣を大量に出現させ、それを1本の巨大な劣化版魔剣にした。
大きさはおよそ20メートル。
黒いオーラの様なものが極夜と魔剣をつなげている。
「極夜。こんなことできたのか!?」
そう聞くと極夜から少し得意げな雰囲気を感じる。
まさか極夜そのものを劣化版魔剣と融合させて巨大化させることは出来なかったが、こんな形で巨大な魔剣を作り出す事が出来るとは知らなかった。
だが問題は耐久力と切れ味、あのモビーディック・ムーンに危険だと感じさせるだけの力がなければただのデカいだけのなまくら。
切れ味と使いやすさに関しては、これから確かめてみるとしよう。
そう思っていると勝手にドラゴンが出てきた。
そしてサマエルに軽く吠える。
サマエルはドラゴンに対して何か渋る。
『そんな。これは私の役割です』
「ゴウ」
『し、しかし……』
どうやらドラゴンとサマエルで俺を乗せる交代を申し出てきたらしい。
さて、今回はどうするか……
なんて考えているとモビーディック・ムーンは巨大な魔剣の出現に危険かどうか確認するためか、1本の巨大なつららをこちらに向かって放った。
俺はとっさに極夜を振るうとその動きに合わせて巨大な劣化版魔剣も動く。
しかし重さは一切感じず、切れ味は極夜に引けを取らない。
一応劣化版魔剣の集合体とはいえ極夜と同等の切れ味を誇るのであれば対処法はいくらである。
俺はサマエルの背からドラゴンの背に跳び乗ってからサマエルに言う。
「サマエル。お前はこれから防御に集中しろ。さっきみたいに人魚が危険だと感じたら手助けしてやってくれ」
『何故そんなことを?ご主人様の友人の子孫なら分かりますが、なぜそれ以外のものまで助けようとするのです?』
「恩は押し売りしておく方がいい。その方が後々こちらにとって都合のいい事を起こす事が出来る。それにお前は秘密兵器だ。できるだけ体力を温存しておけ」
『秘密兵器、ですか?私が??』
「ああ。お前の呪毒はお前だけが持つ固有スキル。お前はその力を嫌っているのは知っているが、その呪いと毒が混じった力はあいつにも効果があるのは間違いない。と言うかそれすら無効化されるほど化け物になっているとは思えない。本当にどうしようもなくなったら頼みの綱はお前の呪毒だけになる。だからいつでも致死量の毒をぶち込めるように体力を温存しておけ。さっきの攻撃を避けたり相殺する奴も結構疲れてるんだろ」
『……見抜かれてましたか』
「おまえはその特異な力のせいでHPが低い。お前の唯一の弱点だな。どうせ長期戦になるのは目に見えてる。手を抜ける部分は抜いておけ」
『……できる限りの事はします』
そう言ってサマエルは波にのまれて消えていく人魚達の救出に向かっていった。
モビーディック・ムーンは俺の事を愛で捉えているわけではないのか、サマエルの行動を無視して俺に攻撃を続ける。
もし仮にこの戦いを短期で終わらせるとすれば、それはポーラ嬢ちゃんの動きにかかっている。
俺はいつものバイクにまたがる感じでドラゴンにまたがる。
「それじゃ相棒。頼むぞ」
ドラゴンは咆哮を上げ、極夜は俺だって相棒だと言いたげにまた点滅した。
俺はドラゴンの背に乗って再びモビーディック・ムーンに戦いを挑んだ。