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船上戦闘訓練

 予定通り出発した俺達。

 捕鯨船はモビーディック・ムーンを探しながら進む。

 大雑把にいそうなところは特定できているらしいがそれでも誤差は確実にあるので一応としか言えない。

 まぁそれよりも面倒な事が目の前に転がっているが。


「う~……気持ち、悪い」

「………………」

「うえ~、キッツ」


 ユウとネクスト、ジラントが船酔いで早々にダウン。

 そんな3人を突っついている白猫。

 白猫は港に置いていくつもりだったがついて行くと俺にしがみついたので結局こうして一緒にいる。

 意外と白猫は図太い。

 獣人の子供と思われているのかちょこちょこ動き回っていてもかわいいの一言で片づけられているし、壁で爪とぎなどもしないから手がかからない。

 手がかからな過ぎてよく忘れる。

 白猫は3人が寝ているのを見て何で寝てるの?みたいな感じで俺の事を見るので引き離す。


「そいつらは今気分が悪いんだ。そっとしとけ」


 白猫はつまらなそうに部屋を出る。

 おそらくどこかでエサでもねだってくるのだろう。

 もしくはこの船の中でちょうどいい昼寝スポットでも探す気か?

 なんて思っているとポーラ嬢ちゃんがこちらの様子を見に来た。


「船酔いで倒れているのは……3人だけか?」

「今のところ3人だけ。まだ波は穏やかな方だから早めに慣れてくれると助かるんだけどな。ちなみに予定に変更はないか?」

「現状予定に変更はない。約1週間後にモビーディック・ムーンがいるであろう海域に突入する。その前に慣れてくれるといいが……」

「いざって時は無理やり引きずり出す。船の上での戦闘訓練もさせないといけないし、ジラントには攻撃に回ってもらう予定だから意地でも調子戻してもらう」

「旦那様のスパルタ~」

「当然だ。俺も攻撃するがおそらく俺の攻撃よりもお前らの攻撃の方が目を引く。あくまでも俺達の役割は気を引く事、身体もでかくて攻撃も派手なおまえたちドラゴンにピッタリの仕事だ」

「本当に私達でも倒せないくらい強いの?」

「あいつはとにかくタフだ。だからポーラ嬢ちゃん達に頼んで弱点を思いっきり突いてもらうんだよ」

「思いっきりやっても死なない?」

「多分死なない。身体がデカすぎて俺の攻撃じゃ小さすぎて目立たないからこその役割だ。それからサマエルは毒使うなよ。お前の毒が混じったら食えなくなる」

「倒すことを優先されるまでは行いません主様」

「それでいい。サマエルの毒は強いがあの巨体じゃすぐには死なないだろう。それにドラゴン以外には普通の呪毒だ。致死量を与えるのにどれだけのMPが必要か分からんってのもある」


 とにかく初日は他3人の体調が良くなるまで待機した。


 ――


「ふっはぁ!!」

「その調子だ。相手は水、氷系の魔法を多く使用する。水も氷も捌くのは簡単でもその破片とかが飛んできて身体に刺さったりぶつかったりする。欲を言えば水しぶきも破片も全部風で誘導しろ、そうすればダメージを受けずに済む」


 今日はネクストの訓練を船の上で行っている。

 モビーディック・ムーンは体当たりなどをしてこないが代わりに多くの魔法を使って攻撃してくる。

 物理攻撃もないわけではないが……滅多にしてこない。

 なので今回はネクストに新しい短剣を使いながら水、氷系魔法の防ぎ方を教えていた。

 船の上と言う常に揺れた状態、そして狭さに対応するために動かずに短剣と風魔法のみで防ぐ方法を叩きこんでいる。

 本当に危険な攻撃はユウに『正義』で結界を張ってもらうので大規模攻撃に関してはおそらく大丈夫だろう。


「よし休憩。初級魔法は終わったから次は中級魔法で訓練だ」

「はい!」


 訓練をしながらもいつモビーディック・ムーンと遭遇してもおかしくないのであまり体力を削らないようにはしている。

 まだモビーディック・ムーンが現れる海域まで3日ほど余裕はあるが疲労を残させるわけにはいかない。

 戦うときに疲れていたのであっさり負けました~なんてバカバカしい死因になっては困る。

 ネクストの休憩中にユウを見る。


「ユウ。この船全体を覆う結界と検証は大丈夫そうか」

「うん。この船を覆うくらいの結界は張れたし、検証も多分大丈夫。乗り物に乗りながら結界を張るのは初めてだったから私も確認しておきたかったし」

「それでどうだった」

「流された。地上では結界を地面ごと覆っていたのがストッパーになってたみたい。でも海水は水だから結界で覆っても動いちゃうみたい」

「それじゃ体当たりされたり大規模魔法を使われたときは」

「流されたり動いたりすると思う。でもこの船を動かすくらいのパワーあるの?踏ん張りの利かない水の中で??」

「あいつはそのくらい平然とやってのける。それに魔法じゃなくてもやばい攻撃はあるし、不可視の所見殺しの技も持ってる。その情報は全員に伝えているが防ぎようがないんだよな……」

「それに私が結界を張っている間はこっちから攻撃もできないからね。あ~あ。こっちからの攻撃はバンバンすり抜ければよかったのに……」

「それくらい誰でも思いつくが、実際にできるようにするには相当難しいって事なんだろうよ。それから役目はちゃんと理解できてるな」

「……うん。私は指示を出す人の隣で結界を張るタイミング、解除するタイミングを正確に行う事。早過ぎず遅すぎないタイミングでみんなを守る」

「そうだ。お前はこの船と人を守る事だけを考えていればいい。俺達攻撃組は死なないから気にするな」

「でも……」

「でもじゃない。その結界は1つしか張れないのが最大の弱点だ。もし俺達の誰かが傷つきそうになった気に船じゃなく俺達を優先したら困るんだよ」

「…………」

「おまえは勇者だ。誰かを守り、勝つための行動を考え続けろ。そして俺達を信じろ。俺達はクジラに食われる間抜けで弱っちい存在に見えるか?」

「見えない」

「なら信じておけ。無自覚に必ず無事に帰ってくると考えておけ。その方がよっぽど普通だ」

「そうなの?そんな風に考えたことなかった」

「…………お前もしかして今色々無駄に考えすぎてないか?」

「む、無駄はひどくない!?だってレベル90のもの凄く大きいクジラと戦いに行くんだよ!!それを考えすぎって……」

「そう言われるとおまえの方が正しいように感じるが、俺は少し違う。お前俺がちょっと外に出てくるって言ったとに二度と帰ってこないと思うか?」

「え、そんなわけないじゃん」

「そんな感じで考えておけって言ってんの。確かにこれから馬鹿でかいクジラと一戦やるわけだが、帰ってきて当然、みんなで無事に港に戻るって当然だと思っておけばいい」

「……あ」

「それが戦うときの信頼ってやつだと思う。まぁ俺の場合誰かと一緒に戦うなんてあんまり経験してなかったけどな~」


 最後はふざけた感じで言うとようやくユウの表情に余裕が出来た。

 意外と戦闘時に余裕がない奴ってあっさり死んだりするとき多いんだよね。

 よく俺に立ち向かってきた英雄気取りの騎士とか、殺されるなら一矢報いてやろうみたいな連中ばっかり見てきたから余計にそう思う。

 ユウはそれを聞いて笑う。


「あんまり経験してないのにそんな事言うの?」

「だって俺を前に戦ってきた連中のほとんどがそんな感じだったからな。だから余裕を持て。油断していいとは違うが……必ずみんなで帰るのが当たり前って思ってリラックスしろ」

「分かった。油断はしないけどいつも通りみんなで帰る。これでいい?」

「それでいい」


 多分そんな感じの事だろう。

 もうすぐモビーディック・ムーンがいる海域に突入する。

 今回のクジラはいったいどれくらいデカいのか楽しみだ。

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