当たり前の恐怖心
その後は冒険者ギルドから金をもらい、ネクストの剣が出来るまで暇なので色々実験をしていた。
実験その1、極夜の成長を確認。
極夜は元も様々な魔剣を改めて打ち直した魔剣だ。
そのため極夜の最大の特徴は破壊した魔剣の能力を奪うというものだ。
と言ってもすべての能力ではなく一部の能力を手に入れる感じ。
なのでこの間破壊した魔剣の特徴、量産型のただの剣を魔剣に変える特徴と、そんな魔剣を操る能力を得た。
と言っても極夜の場合はすでに劣化版魔剣を収容しているような状態で、形状も刀に変化している。
劣化版魔剣を極夜に合体させて強化することは出来ないし、俺の身体から魔剣を生やして攻撃することは出来ない。
だが劣化版とは言え魔剣を召喚し、好きに操る事が出来るのはかなり便利だ。
今俺の目の前で魔剣が浮きながら俺の意思に従って目の前のレンガを両断した。
切れ味も悪くない。
劣化版魔剣の形状が変化したのは極夜が刀の形をしているからだろうか?
前のジラントの時にこんな事が出来ればかなり楽が出来てたな……数の暴力は甘く見ることは出来ないからな。
「ナナシ……あの魔剣壊したんじゃないの?」
「壊して能力を一部手に入れたんだ。何も嘘はついてないぞ」
「私知ってる。それ詐欺っていうんでしょ」
ユウが冷静に突っ込む。
現在鉄を掘りつくしたと言われる坑道の入り口で実験を繰り返していた。
ユウはまた強くなりたいと言っていたので軽く組み手をして今は休憩中。
その時に劣化版魔剣による数の暴力を食らわせたが、『正義』で簡単に防がれたが代わりにユウも攻撃に移る事が出来ない状況になってしまったので今回は引き分けになった。
「詐欺じゃない。嘘も約束も反故にしてないからな」
「ずる過ぎるよ。で、今はそのバイクをどうしてるの?」
「最近乗ってないからな。調整と実験」
「実験?」
「こいつ、もともとドラゴンってのは説明しただろ?」
「うん。前に言ってたよ」
「だからこいつ元のドラゴンの姿に戻せないかちょっと試してみたくなってな。『色欲』を使って元に戻せないかな~っと思って」
とりあえず『色欲』を使ってバイク状態で整備する。
最近走らせる事が出来なかったから入念に整備しておく。
走らせてなかったからか不満そうな雰囲気を感じつつも元の姿に戻せるかもしれないという話を聞いて少し機嫌を直した。
とりあえず触れてすべてのパーツはちゃんとそろっている事を確認。
これならいけるな。
振れてドラゴンの記憶を感じ取る。
そこから正しい骨の位置、筋肉の位置、内臓の場所、全体の大きさすべてを把握。
その通りに戻すように『色欲』を使用。
集中し、生前の全盛期と言えるまでに修復する。
もう大丈夫かな?っと思うと背中を突かれた。
誰かな?っと思っているとドラゴンの顔があった。
「よう。久々に元の姿に戻った感想はどうよ?」
ドラゴンは翼を広げて羽ばたいたり、身体を動かして調子を確かめる。
それにしてもこのドラゴン。やっぱり思っていたよりも小さい。
頭から尻尾までは大体3メートルくらいでかなり小型と言える。
だがその身に纏うオーラは本物で、かなり強い。
ただ小さいというよりは力を圧縮しているような印象を受ける。
とりあえずどこかに不備はないか、身体を触りながら異常はないか調べる。
ドラゴンはくすぐったそうにしていたが特に異常はないらしい。
でも念には念を入れておくべきだろう。
「ドワーフやら人間やらの迷惑にならない程度に遊んで来い。晩飯までには帰ってくるんだぞ」
俺がそういうとドラゴンは空を飛んで行った。
久々の自由な時間だ。
好きなだけと言っておきたいがさすがにずっとは困る。
そういえば今でも俺の所有物扱いなのか?
その辺微妙だな。
「自由にしちゃっていいの?あのまま帰ってこないって思ったりしないの?」
「俺自身自由に好き勝手やってるって自覚があるからな、自分は自由にやっておいて他人には自由を与えないとかそこまで屑になった覚えはないぞ?あとあいつも俺の魔力の味を覚えてるから多分帰ってくると思う」
「信頼してるんだね」
「そりゃなんだかんだで長い付き合いだし」
あいつとの出会いはようやくレベル90台になった時に出会った。
奇妙なバイクがいろんな連中を殺して回っているという話を聞いて面白そうだと思って首を突っ込んだのが切っ掛け。
だがまぁバイク状態で突進とブレス攻撃しかできない状態でやっと勝てたのに、手足が出来て口もできたのだから当時のように勝てる保証はなくなったな。
個人的には強い方がいいけど。
「…………ねぇナナシ。私ってナナシの事怖がって見える?」
ふとユウからそんな事を言われた。
そんな風に聞かれると俺も興味を持つが……今のところそんな風に見えない。
「全然。でも何でそんなこと急に聞いてきた?」
「ナナシと魔剣の戦いを見てるときにレナに言われたんだ。私はナナシの事を脅威に思ってるって」
「そうか。でもそれは自然な事だろ。自分より強い生物がいれば脅威に感じる、それは生物として当たり前の事だ」
「でも他のみんなは全然そんなこと思ったことないって」
「それは嘘だな。レナとサマエルは違うだろうが、ジラントとズメイは絶対脅威に感じてた。ネクストに関しては……よく分からないけど」
「それ本当?ナナシと魔剣の戦いに全然怖がってないように見えたけど」
「そりゃ今は俺の女として一緒にいるからな。そうじゃなかったら脅威だと言ってただろうよ」
それはあくまでも今の話だろう。
だがこれを過去と言ってしまえば脅威に感じていたはずだ。
「ユウ。レナの場合はあいつがガキの頃、つまり300年前に見た俺への憧れみたいなもので恐怖を感じていないだけだ。いや、正確に言うなら恐怖よりも憧れが勝っているって感じか。サマエルは俺が前に助けてやったからその忠誠心、もしくは恩返しかな?そんな感じ。これはベレトも同じ。で、ジラントに関しては最初おも言い切りぶっ殺そうとしたんだぞ。あとでズメイが乱入してきて殺し損ねたけど」
「え!?ナナシ、ズメイの事殺そうとしたことあるの!!」
「本当に1番最初に会った頃の話だけどな」
「どんな話どんな話!!」
「どんなって……簡単に言えばズメイが調子乗って俺に喧嘩吹っ掛けてきたから、俺は、ドラゴンぶっ殺したらいい経験値と素材が手に入りそうじゃね?って殺そうとした」
「そんな簡単にまとめないでよ!!なにかこう、すごい話ないの!?」
「ない。調子乗ってたジラントを半殺しにしただけの話だ。それに今のメンバーが俺の事を怖がってないかって話の方が重要じゃねぇの?」
「それはそれで気になるの!」
…………本当にユウは感情豊かになったな。
最初の頃は本当に表情1つ変わらない人形みたいだと感じていたくらいなのに、今ではちゃんと自分で考え、疑問を解決しようとしている。
本当に最初の最初を知っている奴にしか共感は得られないだろうが、俺は非常にうれしく思う。
「とにかく、あいつらが俺に恐怖心を持っていないのは恐怖を上回る何かしらの感情があるからだ。憧れ、恩返し、繁殖、いろんな理由で恐怖を感じないようにしてるだけだ」
「その中に繁殖って入るの?」
「一応入れておいた。レナとジラントに関してはその理由も結構大きそうだしな。強い雄から強い子種が欲しいんだろうよ」
「そんな『愛』のなさそうな話は嫌だな~。それよりもみんなとの出会いの話を――」
「ヤなこった」
「あ、待ってよ!!」
そう言って軽く逃げる俺の事を追いかけるユウだった。