魔剣騒動終結
俺が切って破壊した魔剣を拾っているとユウがやってきた。
「ユウ。そっちは無事か」
「うん大丈夫。ナナシの攻撃は全部『正義』で防いでたから」
「そんなことしてたのか?そりゃ助かった」
魔剣との殺し合いが楽しくてそんなこと一切考えていなかった。
そうなるとある程度の被害は防がれていたわけだ。
「何というか、結構美徳系スキル使いこなしてきたよな」
「いつまでもナナシに守られているだけじゃ嫌だから。それに私はもともと勇者だよ。もしかして忘れてる?」
「あ~、忘れてた」
「ちょっと!!勇者だからユウって名前名の私ちゃんと覚えてるんだからね!!」
「あ、覚えてたんだ。てっきり人形みたいな感じだったから覚えてないとばっかり思ってたわ」
「嘘……た、確かにあの時はかなり感情が希薄だったけどちゃんと記憶はあるからね!」
「そうみたいだな。それじゃ色々覚えてるわけだ。ベレトと俺がエロいことしてた時の事とかも」
「う。覚えてるけど……今は空気読んで離れてるじゃん!」
「今じゃエロいことに興味津々の思春期だもんな!」
「変な事言うなー!!」
そう言って叩いてくるユウ。
さて、あっちはどうなったか気になったのでおっちゃんの家に向かう。
息子さんはどうなったのか、それはそれで気なる。
で、おっちゃんの家が見えてくるとちょうど息子さんが冒険者ギルドの偉い人達に捕まっていた。
おっちゃんとおばちゃんはそれを悲しそうな目で見ている。
ユウは戸惑っていたが俺は俺で冒険者ギルドに用があるので捕まえに来たギルドの人達に声をかける。
「おい。魔剣の方はぶっ壊したぞ」
「ああ君か。それで魔剣は」
「これだ。もう壊れてるから誰が触ろうとも問題ない。もうただの折れた剣だ」
冒険者ギルドのギルドマスターの隣にいた魔法使いが折れた魔剣を調べ、本物である事が確認された。
「協力感謝する。金に関しては明日取りに来てくれ。こいつは俺達が連れていく」
「騎士団の連中は?」
「一時的にだが魔剣に乗っ取られていた影響で意識が混濁している。だから一時的に冒険者ギルドで預かり、騎士団が正常に動くようになったら明け渡すつもりだ」
「それからもう1つ。そいつと少し話をさせてくれ」
「……手短にな」
そう許可をもらった後改めて息子さんと話をする。
「よう。目的は叶えられたかい?」
「ええ。僕の目的はほぼ叶った。この先また魔剣が普及されると嬉しいな……」
「魔剣はもともと偶然生まれた副産物だ。名のある冒険者や騎士が使い、意思が宿った。それを再現しようと命削って作りだしたのが鍛冶師が生みだしたのが魔剣。どちらも魔剣だが、お前が憧れていたのは前者じゃないか?」
「そうだよ。英雄達が使っている剣が魔剣として意思を持ち、持ち主が死んだ後も役目を果たそうとする魔剣が僕にとってとても美しかった。だから僕も魔剣を作ってみたいと思った。でも作れるほどの腕はなかったし、結局壊されちゃったけど」
「もう100年ほど修行すれば弱くても魔剣は打てたんじゃないか?」
「その時はもうすでに魔剣を作ろうとするドワーフはいない。今知らしめる必要があった。魔剣こそ最強の武器だと」
そういう息子さんの目は恐ろしいほどにまっすぐだった。
自分が正しいと信じて疑わない。
ただそれだけの子供の目。
でも俺にとってその考えは少し間違っていると思う。
「魔剣は消えねぇよ。絶対にな」
「何でそんな事言えるの?」
「人は一度得た技術や知識を決して捨てない。例えそれが武器だったとしてもだ」
「……はは。大罪人が保障してくれるなら、魔剣は永遠に消える事はないんだね」
俺の言葉に安心したのか、息子さんはおとなしく冒険者ギルドの連中に連れていかれた。
それを見届けた俺達とおっちゃんとおばさん。
俺は何と言葉をかければいいのか分からず、ただ突っ立っていたがおっちゃんが口を開く。
「あいつが魔剣に強く興味を持ったのは俺のせいだ。俺が魔剣にかかわる仕事をしていたからだ」
「何が切っ掛けだろうと選んだのは息子さんだ。他人の手で止められるものならこんなことになってない」
「……本当にこの世から魔剣は消えないのか」
「消えてほしいのか?一緒に極夜を育てたのに」
「そうじゃない。お前さんの言葉には強い確信があるように感じたからだ。なぜあんな言葉が出た」
「知ってるからな~。一発で世界を滅ぼせる兵器を作り、危険すぎるから捨てましょうと言っても捨てようとしない国をさ」
「そんな国があるのか?いやそれ以前にそんな世界があるのか??」
「あるよ。俺達の世界ではそれが普通だ。きっと昔の物よりもっと高性能で、たった一発で何十万人殺せるくらいの威力になってるんじゃないかな~」
「そんな武器、いや兵器が本当に実在するのか?」
「するよ。しかも危険すぎて近くじゃ使えないからって超長距離用兵器として開発したからな。一度得たものはそう簡単に手放さない。そのせいで何万人死のうがな」
「…………武器を作るものとしてそれくらいの物をいつか作らないといけないのか?」
「多分武器と呼んでいる間は無理だと俺は思ってる。言ったろ?あれは兵器。殺すことを効率化して、自分で誰かを殺した感覚すら与えない兵器だ。多分本当の意味は違うけど、俺は自分の手で殺した感覚が残るものを武器、自分の手で殺した感覚すら残らないものを兵器と呼んでる。だから俺は武器の方が好きだ。戦闘狂だからって理由だけじゃなくて、本当に誰かを殺したという感覚を忘れたら、それこそ本物の地獄しか残らない。誰を殺しても殺した感覚すら残らない、そんな地獄」
「………………今日は息子の最後の望みを叶えてくれて助かった。しばらくしてから来てくれ。あいつの事支えてやらないといかん」
「おばちゃんにもよろしくお願いします」
こうして俺達はおっちゃんの家から離れて宿に帰る。
レナ達は先に帰ったようだ。
そしてユウは俺に聞く。
「ねぇ。さっきの兵器の話、本当に存在するの?」
「するよ。その兵器を使ってとどめ刺されたの俺の国だし」
「……………………え?」
ユウは驚いて立ち止まった。
俺は特に何の感情もなく言う。
「と言っても俺が生まれる前の時代、俺から見てじいちゃんばあちゃんの時代だ。100年も経ってないけど若造から見れば大昔のように感じるが、時間の流れだけで見ればたったの100年前だ」
「え、それ、本当に大丈夫だったの??」
「そりゃ大丈夫だったなんて簡単に言えねぇよ。今でもその被害を忘れないように資料館が作られたり、その兵器を廃止しようって呼び掛けてるがどの国も無視だ。その兵器を失った瞬間同じ兵器を持った別の国に使われるんじゃないかってビビってんだよ」
「…………実はナナシの国って平和じゃない?」
「一応平和。と言っても俺の国限定で他の国の事はよく知らん。興味なかったし、物価が上がって大変だ~って言っても結局金の問題だ。頭の回る奴はいくらでも金の稼ぎ方を知ってるし、知らない奴は物価が上下しようと結局その日の金を稼ぐのに必死なのは変わらない」
「それじゃナナシ以外の国は……」
「今日もどっかで元気に殺し合いしてんだろ。俺のいた世界じゃ人間しかいない。あ、人間しかいないっていうのはエルフとかドワーフとか獣人がいないってだけで他の動物は普通にいるぞ」
「…………何で人間同士で殺し合うの?」
「ただの動物としての本能だよ。本能的に他の地域に住む同種を減らしたいと思ってるだけだ」
「……………………え?え??」
まぁこんなこと突然言われたって戸惑うだけだよな。
これはあくまでも俺の持論だが、一応話しておくか。
「なぁユウ。各地域ごとに頂点捕食者と言われる生物が存在する。とりあえず魔物は省いておいて、仮にその地域の頂点捕食者が狼だったとしよう。その狼は自分たち以外のグループの狼を見つけるとどうすると思う?」
「えっと……仲良くする?」
「正解は殺し合うだ」
「え!?」
「まぁこれはあくまでも極端な話だが、最終的には殺す云々の話になるぞ。他の狼のグループが自分達の縄張りに入ってきたら当然追い払う。もしくは二度とこないように徹底的に攻撃する。その結果死ぬことの方が多いって事だ」
「な、なんで?そこまでする必要ないよね?」
「じゃあユウは自分の家に不審者が我が物顔で入ってきたら仲良くしましょうっていうのか?俺だったら追い払う」
「……その自分の家が縄張りで、不審者が別のグループの狼って事?」
「そうだ。強い奴が縄張りを持ち、侵入者を排除する。人間社会に当てはめれば縄張りが国境、不審者は不法入国者だな。結局人間もただの獣って事だ。頂点捕食者は頂点捕食者同士で殺し合うのが摂理なんだろうよ。そうやって頂点捕食者同士が殺し合う事で生態系ピラミッドはうまくバランスがとれるようになってるんだろうよ。だから人間同士が殺し合うのは自然な事って事だ」
俺がそういうとユウは絶望したような表情になった。
俺が元々いた世界の状況がおかしいからか、それともこの世界も同じように辿るかもしれない事に最悪の想像をしているのか、どちらかだろう。
だからユウにははっきりと言っておく。
「ユウ。俺達人間も結局獣と変わらない。自分達と同じグループにいる存在は仲間だが、それ以外は敵である事の方が多い。そして頂点捕食者になればそれはさらに激化する。問題はその頂点捕食者が現在人間であり、同じ人間が縄張りだの食料だのと言う単純な理由だけで戦争を引き起こすわけじゃない事だ。資源だのどの国がどこの所属するのか、どの国と外交をつなげるのか、そんな様々な理由が混ざって戦争は起きる。本当に面倒くさい」
俺がそう吐き捨てるとユウは震えながら言う。
「それじゃナナシが人を殺すのは当然だって事?」
「別に俺の殺しを正当化するつもりはない。俺は俺個人の感情だけで殺してる。気に入らないって理由だけでな」
「それが人間社会で当然なの?」
「当然の事を見て見ぬふりをして平和だという」
「私もいつか人を殺さないといけなくなる?」
ユウは震えながら言った。
先ほどよりも大きく震え、本当に怖がっている。
それは誰かに傷付けられることなのか、それとも誰かを傷付けることに対してなのか、どちらかは分からないが俺にはこんな言葉しか言えない。
「分からない。でもお前の考えはとても理性的だよ。傷付きたくないから傷付けたくない。きっとそれが真っ当な考えだ。でもこの殺し合うのが日常的に起こるこの世界でそれは難しいぞ」
「でも……できない事はない?」
「かなり難しいが」
「…………ならそれを目指すよ。殺し合うのが当然だなんて、言いたくないし思いたくない」
そういうユウの目はまっすぐだった。
とても綺麗なまっすぐな目。
ふと明るくなったかと思うと、どうやら朝になってしまったようだ。
「とりあえず帰るぞ。帰って寝る」
「……ねぇ」
「何だよ」
「今日は一緒に寝てもいい?」
「好きにしろ」