ネクストの武器選び
おばちゃんをエスコートしながらとりあえず向かったのはこの国のデパートのようなところ。
と言ってもおしゃれな感じではなく、店全てが武器を取り扱っているため見方によっては物騒な店だろう。
1階は剣、2階は槍と言う感じで並べられた武器の数々。
警備の問題で名のある鍛冶師が作った武器は全て最上階にしか売られていないが、それでも人間の鍛冶師が作ったものよりはかなり質がいい。
そんなデパートの区画の1つにユウとネクスト、あと意外にジラントもいた。
「ようお前ら、ネクストの武器探しか?」
「あ、ナナシ。そうなんだけど……やっぱりよく分からなくて」
「マスターの用事は済んだのですか?」
「終わって助っと呼んできたところ。砥ぎ師のおばちゃんは武器の目利きも一級品だぞ。あと意外なのはジラントな」
「一応よ一応。これでも『強欲』を持っているから武器の性能は分かるから良い悪いは分かるけど、ネクストの手に馴染むかどうかと言われると分からなくて」
「なるほど。それでせめていい武器の品定めに来てたわけか。おばちゃん良い剣分かるか?」
「それじゃちょっと見させてもらうよ。ネクストちゃん、両手を見せてもらってもいいかい?」
「了解しました」
おばちゃんはネクストの手をもみほぐすように触りながら何かを確認する。
ふむと何か納得したように頷きながらどこかに歩いていく。
「おばちゃん?」
「ネクストちゃんに合うのはもうちょっと短い短剣の方が合うだろうね。『短剣使い』と一言で言っても種類は多く微妙な重心の違いや柄の太さでも変わる。双剣もよさそうだけど弓も使うとなると、ここに置いてあるものよりも短い方がいいだろうね」
おばちゃんは素早くネクストの事を見極めるとエレベーターを使って最上階に向かう。
話を聞きながら移動していたが、おばちゃんの言葉に俺以外みんな驚いている。
「流石だろおばちゃん」
「う、うん」
「驚きました。私の手を握っただけで使用武器のスキルも見破られました。そして弓も使っている事もあっさりと知られました」
「ふふふ、これでも砥ぎ師の妻ですから。魔剣の砥ぎに集中する前は武器の案内もしていたし、これくらい朝飯前だよ」
おばちゃんは誇らしそうに言うが、最上階を目指してるってことはお高い物を買うって事なのね。
懐的には一切問題ないが、もしかしてオーダーメイドで頼もうと考えているんだろうか?
最上階に武器はあるが、それ以上に職人が多い。
もちろん名工と言えるだけのドワーフたちばっかりなので信頼は出来るが、一見さんお断りなんてよくある。
言い方を変えれば自分が作った武器を100%力を発揮できる、使いこなす事が出来る相手を求めていると言ってもいい。
最上階で降りると商人と言うよりは職人と言うべきドワーフたちがそこにいた。
髭をたっぷりと蓄えたドワーフ達の視線は完全にこちらを品定めしている。
だが先頭を歩くのがおばちゃんであることを知ると、さらに視線を厳しくする。
そして俺の事を覚えている奴がいたのか驚いている職人が数人いた。
おばちゃんはそんな視線に一切怯むことなく1人の職人の前に座った。
「そうガチガチに固まるもんじゃないよ。今日は知り合いの冒険者を客として連れてきただけなんだからさ」
「……恐縮です」
そういうドワーフはこの中では若い方、おそらく400歳前後のドワーフだ。
なぜおばちゃんがこの人を選んだのかは分からないが、ここにいるのであれば腕は確かなのだろう。
「それでどの方の武器を作ればよいのですか?」
「このエルフの嬢ちゃんに短剣を作ってちょうだい。弓も使うそうだから弓の邪魔にならない大きさでお願い」
「分かりました。それではエルフの方、こちらに来てください」
「了解しました」
ネクストの武器を用意するためにドワーフがネクストに色々確認を取る。
手の大きさから握力まで、出来る限りこの場で出来る測定を行い少しでもネクストの手に合う武器を作ろうとしている。
少し気が弱いと思うが、まぁそれくらいはいいか。
「おばちゃん。どうしてあの人を選んだんだ?」
「単にこれからの事を考えてだよ」
「これから?ああ、そういう事か」
「どういうこと?」
ユウが聞いて来るので俺は簡単に答える。
「周りにいるドワーフの職人達、いくつだと思う?」
「えっと……500歳くらい?」
「正解は700歳から800歳前後だ。でも今紹介してもらった人は400歳前後、これからの事を考えるのであれば確かにこれくらいの年齢の方がいい」
「でも若いって事は周りの人達よりもその……あれなんじゃないの?」
「この会場にいるだけ腕は確かだが、そう思われるのも仕方ないだろうな。でもネクストはまだまだ若い。しかもエルフの寿命はおよそ500年、もうすぐくたばる爺共に武器作ってもらってもすぐに死なれちゃ整備もできない。人間なら100年でもいいかもしれないが、ネクストには無理な注文だな」
「なるほど~」
「それに、あの子にも自信を持ってもらいたいからちょうどよかったんだよ」
おばちゃんも俺の話通りだったのか、頷きながら話に混ざる。
「あの400歳くらいのドワーフ?」
「そうそう。あの子も腕はいいんだが1番得意な武器が短剣でね、あまり冒険者たちから注文が入らないのよ」
「あ~。魔法が使えなくて剣に頼ってる冒険者も少なくないからな」
「そうなるとどうしても安全のために少しでも長い武器を求める。短剣だとどうしても相手の懐に潜り込まないといけないからね。それでどうしても短剣の類は女の子くらいしか買ってくれないのよ」
「そうなんだ……」
おばちゃんの話に納得するユウ。
しかしジラントはあくびをしながらちゃんと話を聞いていない。
「ジラント。そんなんだから俺に負けるんだぞ」
「ドラゴンに武器は必要ないから」
「その武器の特性をよく知らず惨敗した奴の言葉か」
俺が呆れて言うとジラントはむっとした表情を作りながらも何も言わない。
実際にそれが原因で負けたのだから仕方がない。
おばちゃんはそういった先の事も考えてこの人の事を選んでくれたらしい。
やっぱりおばちゃんはすごいなっと思っているとドワーフがやってきた。
「あなたがこのエルフの主人ですか」
「ああそうだ。金の話か?」
「いえ、それだけではなくネクスト様に合う短剣の素材に関して相談したいと思いまして」
「なるほど。詳しく聞かせてもらおう」
呼ばれるがままにドワーフとの相談に入る。
武器の素材を選ぶという事は武器の値段に関して話し合うという事だ。
おばちゃんも俺の隣に座り、どのような話をするのか興味を持っているように見える。
「それで素材はどのようなものを考えておりますか?」
「まず初めに純粋に鉄製の短剣が最も安く作る事が出来ます。オーダーメイドですのでそれなりの額にはなってしまいますが、これくらいになります」
「金貨5枚か。普通だな」
「はい。どんな素材であっても最高の仕上げをするのが我々の誇りですので」
「では逆に金などいくらでも払う、その代わり最高の素材で作ってくれと言った場合はどのような素材になる」
「我が工房で最高の素材はミスリルの合金となります。ミスリルなら魔法を発動する際の媒体、つまり杖の代わりにもなりますし、魔力を流せばほぼ手入れの要らない短剣となります。ちなみに今回はウェザーストーンとの合金にしようと考えておりましたがいかがでしょう」
「ミスリルか……ネクストは金属の種類によって耐久性などが変わる事は知ってるか?」
「はいマスター。ミスリルは魔法金属と言われ名のある金属の中ではかなりの軽量であると書かれていました。他にもアダマンタイト、オリハルコンなどがありますが加工の難しさや希少性などから最も現実的に手に入る事が出来る金属はミスリルであると聞いております」
「その通りだ。ちなみにあなたはどの程度の金属の加工までできる?」
「私の場合はアダマンタイトまで加工する事が出来ます。さすがにオリハルコンは希少性が高く手が出せません。それにネクスト様の場合ミスリル金属で少しでも軽量化させる方がよろしいかと思います。他の武器、今回は弓との併用ですのであまり重たい短剣を持たせるのは避けるべきかと」
「……なるほど。では次にお聞きしたいのは金属以外の素材から加工して短剣を作ることは出来るか」
「金属以外となりますと……最も多いのは魔物の牙や爪を使った骨剣となります。しかしこちらの場合こまめな手入れをしなければなりません。ある程度は加工する際に壊れにくくしておりますが、やはり長い時間使うとなればこまめな手入れは必要かと。さらに言いますとネクスト様の得意な魔法と同等の属性を付与するのが難しくなります。そのため属性を付与する際に料金の方が上がってしまいますがどうしますか?」
「ネクストはどう思う」
「私が決めてよろしいのですか?」
「お前の武器だ。お前が思う最高の物を求めろ。そのために自分で考え、うまく伝えるように頑張ってみろ」
「……了解しました。ではまず私が握る事になった場合ミスリルの短剣はどれくらいの重さになるでしょうか」
ネクストはそう話し合いながらドワーフと話を進めていく。
まだただのインゴットである鉄、ミスリル、アダマンタイト、用意できる魔物の素材などを実際に持って重さを確かめ、自分に合った素材を選ぶ。
その後さらに付与したいものはないかを相談。
得意な風系の魔法を付与するかどうか、魔法を使用する頻度はどれほどか細かく確認し合う。
その結果ミスリルの合金で短剣を作る事が決まった。
「では次にですがミスリルに付与する風魔法の素材はどういたしましょう。最も一般的なのはウィンドストーン、最上級ではウェザーストーンとなっております」
「マスター、この素材はどのような物でしょう」
「どちらも風魔法の威力や射程範囲を広げてくれるアイテムだ。普通だとお守り感覚で小さいのを首から下げてたりすることもある。でも今言っているように金属に混ぜて使用する事も可能だ。と言ってもミスリルみたいな魔法と相性のいい金属じゃないと合金にはならない。それからこちらから素材の提供する事で別な物で合金を作る事は可能か」
「え、ええ。と言ってもウェザーストーンよりも高品質な物は非常に少ないと思いますが」
「こいつを混ぜた短剣は作れるか」
そう言って取り出したのは鱗。
もちろんただの鱗ではなくドラゴンの鱗だ。
風属性の中でも特に強かったドラゴンの鱗、エメラルド色に輝く鱗はすぐにこれが本物である事はドワーフの目にも明らかだった。
「こ、これはもしかしてドラゴンの鱗ですか!!」
「これを混ぜた風属性のミスリル合金。これで短剣を作れるか」
「は、はい可能です。しかしその、鱗は1枚だけでしょうか」
「どれくらいいる」
「同じ大きさの物で3枚あれば作れます」
「最上級で作るためには何枚必要だ」
「最上級となりますと……5枚はいるかと」
「なら5枚やる。これで頼む」
ドラゴンの鱗を5枚渡した。
ドワーフは受け取ると宝物を扱うように頑丈そうなケースの中にしまった。
周囲のドワーフ達からこちらを見る視線が強い。
そいつらへの威嚇の意味も含めて俺は言う。
「これでネクストに良い短剣を頼む。もし邪魔をする奴がいれば俺が助けてやる」
「分かりました。では早速作業に移らせていただきます」
「あ、その前にどれくらいで仕上がりそうだ?」
「最上級の物をご用意いたしますので2か月お待ちいただけると助かります」
「分かった期待している。あと金は好きな額を言え。それくらいの貯えはある」
そういうとドワーフはケースを持って駆け出した。
その様子を見ていたおばちゃんは呆れながら言う。
「まったく、嫌な客になったもんだね。本当にとんでもない額を吹っ掛けられたらどうするつもりだい」
「問題ないよ。ネクストに渡す最初のプレゼントだ。ちょっとくらい高くても払うさ」
「はぁ。あの子はそういう事をしないからいいけど、それでもかなりの高額になるし本当にあの子の最高傑作になるだろう。人をたきつけるのがうまいね。ネクストちゃんもちゃんと使いこなせるように頑張りなさいよ」
「はい。マスターからいただく短剣を使いこなして見せます」
こうしてネクストの短剣はオーダーメイドで注文する事にした。
周りのドワーフ達は俺に依頼されなかったことに悔しそうにしていたが、また縁があったら頼んでやるよ。