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サマエルとの再会

 エルフの男に案内してもらいながらそのサマエルがいるという研究所へ。

 そこは危険な事でもしているのか木製ではなくドワーフ製の近未来的な実験所、元の世界での外見にも気を使ったちょっとおしゃれな工場のようにも見える。

 つまりこの研究所製作にドワーフもかかわっているとなるという事になる。


「すごいね~これ。これもエルフの力なの?」

「いや、基礎的なところドワーフ製だな。そこにエルフの防御魔法やら何やらが追加で付与されている。これは確かに外から見れば怪しい施設だな」


 なんて納得しているとちょうど研究所から出てくる誰かがいた。

 髪が長くて白衣を着た女性。黒髪の髪を振り回しながら何か必死に探しているような印象を受ける。

 そんな女性が俺の事をとらえると、女性は俺に向かって真っ白な翼を広げながら文字通り飛んできた。


「主様あああああぁぁぁぁぁ!!」

「ぬおっと!」


 ちょっと変な体勢になりながらもしっかり受け止めると、女性は俺の事をコアラのように両手両足をしっかりと捕まえた。

 翼を出したまま必死にしがみつく女性の力は結構強い方でしっかりと、二度と離さないという意思が感じ取れる。

 俺はそんな女性の背中をポンポンと優しく叩きながら慰めながら謝罪する。


「勝手に死んで悪かったって。だからそんなにめそめそするなよサマエル」


 そう、これがサマエル。

 黒髪黒目なのは堕天使の証拠であり、サマエルと同型の天使たちは全員金髪で金色の目らしい。

 黒は堕天した証拠だとサマエルは言う。


「それにしてもサマエル。その足の調子はどうだ?」

「はい現在は自分でもある程度は調整できますので問題ありません。主様のおかげでサマエルは今日も平穏を楽しんでおりますですが」


 嬉しそうな顔から急にハイライトの消えた漆黒と言うにふさわしい一切光が反射しない目になりながら俺に言う。


「もう二度と僕の前からいなくならないでください。もう二度と死なないでください。もう二度とこの腕の中から逃げようとしないでください。もう僕は主様がいないと生きて行けない身体と心になってしまったのです。主様はもう少しその辺りの事を自覚していただけませんか?僕ほどではありませんがレナちゃんもジラントちゃんもベレトちゃんもみんなあなたに依存しているんです。もちろんこれがあまりいい状態でないのは自覚していますが、それでもどうしても主様が必要なのです。だから主様、決して僕達の前からいなくならないでください。もし僕達に何かできることがあれば遠慮なくおっしゃってください。共にいるためなら何でも致します。僕の身体をむさぼりたいのであればいつでも身体を捧げます、僕の知識が欲しいのであればいつでも授けます、僕の心はすでに主様の物です。ですから主様、もう二度と、死なないでください」


 ものすんごい長台詞だな!!

 やっぱ怖いよ~、本物のヤンデレさんは怖いよ~、本当に依存している人ってこういう人なんだ~。

 まぁこんな性格にしたの俺が原因だけど。


 堕天したばっかりの時に俺が拾って色々世話している間に俺の事を主様とかいうようになっていつの間にか依存してたんだよな……

 まぁ俺にとっても大変だったからこの恩返せよって言ったのが原因か?

 それとも俺が助けてやったんだからお前は俺のもんだって言ったのが原因か?

 原因はいくつか思いつくが、今後はサマエルにも協力してもらう予定なので付いてきたいというのであれば好きなだけついて来ればいいさ。


「はいはい。これから俺と一緒に行動してもらうから好きなだけ一緒にいていいぞ」

「本当ですか!!」

「ホントホント」

「お食事の準備やお風呂のお世話もしていいですか!!」

「あ~はいはい」

「出来れば下の世話もさせてください!!」

「それはレナ達と相談しながらやって」

「レナちゃん?」


 そういうとようやく俺以外のみんなに気が付いた。

 本当に俺の事しか見えてなかったんだな。


「みんな久しぶりです!200年ぶりくらいですか?」

「お久しぶりですサマエルさん。そうですね、それくらいになるかと」

「あ~うん。久しぶり」

「ジラントちゃんはもう少し僕と仲良くしてほしいな~。スキルの事があるから仕方ないけどね。ズメイちゃんは初めましてだっけ?」

「それで合っています。あまり近付かないようにお願いします」

「しょぼん。それで……その子は?」


 最後にユウの事を不思議そうに言うのでユウは自己紹介をする。


「は、初めまして!勇者のユウです!今はナナシの奴隷をしています!!」

「そうなんだ~。私はサマエル、主様の下僕です」

「下僕にした記憶はないぞ」


 勝手に追加情報を作られても困る。

 相変わらずのようなので俺はため息をついてから改めて聞く。


「それで、サマエルはエルフの国の研究所で何してんだ?」

「あ、それはね、エルフの人達の手伝いをしてたんですよ。主様にとっても利用価値があると思うから手伝ってます」

「利用価値ね……何生産してんだ?」

「それは見てのお楽しみです!みなさんこっちに来てください!!」


 サマエルは大はしゃぎで俺達の事を研究所の中に入れてくれた。

 エルフの人達は止めたそうにしていたが、サマエルが少し不満な雰囲気を出すだけでエルフ達は止める事が出来なかった。

 こうして俺達が研究所に入り、サマエルが工場案内の真似のようなことをしながら奥に行く。


「この工場はね、これ以上エルフの国から奴隷として連れ去られないようにするための施設なんです。その連れ去られないための物を作る工場ですよ」

「連れ去られないっていうのは何かの道具か?」

「そうです。ここにある道具で作った疑似餌をまきます。それに食いついた人間達が本物のエルフを連れて行かないように」


 あ~俺は何となくその疑似餌が分かった気がする。

 他のみんなはまだ分かっていないようだが、すぐに実物を見ることになるか。


「いや~大変だったよ。形だけはすぐにできるんだけど、耐久性が作ったばっかりの頃が全然なくってね、今じゃようやく100年ちょっとの耐久性が証明できたところ。本当に大変でした」

「そういえば長老会の人が手伝ってほしいみたいな事を言っていたが」

「それは多分再現率の向上に協力してほしいんじゃないかと思います。たったの100年ちょっとしか耐久力がないですからね、もうちょっと、こちらでは150年は耐久率を上げたいと思っていますから」

「耐久率の向上とはまた面倒くさそうだな。それに多分お前らの研究に力になれるところないと思うぞ」

「それじゃ感想をください。僕達の中ではよくできた方なんですよ」


 サマエルはまるで子供のように褒めて褒めてと言う。

 ユウは何かを感じたのか俺の服の袖を強く掴む。

 きっとこの奥に存在してはいけないものがある事をなんとなく感じているのかもしれない。

 俺はそんな予感を無視して覚めるに誘われるがまま奥に行くと、サマエルは自慢げに言う。


「これが僕の研究の成果です!!」


 そう言いながら扉を開いた先には、まさにSFと言うにふさわしい光景が広がっていた。

 筒状の入れ物の中にエルフが入っており、まるで大人が胎盤の中にいる赤ん坊の真似をしているような、そんな光景が広がっている。

 これを見て驚愕するみんな。

 でも俺はどこかで見たことがある気がしたので手前の所に行ってよく見てみる。

 そして思い出した。


「これ、まさか『色欲』を手に入れた時の賢者の施設か?」

「はい。賢者ファウステス・マーが残したホムンクルスの製造を応用してエルフのホムンクルスを製造しているんです!でも元々人間を製造することを前提にしているせいか調整が大変でした。しかも作ったばかりの時は耐久が数秒だったりいろいろ大変でした」

「と言うかこの施設を造るだけの費用も大変だったろ。それにこの作ったエルフ共はどうしてるんだ?」

「本物のエルフが拉致られる前に疑似餌としてエジックの周辺に置いておくんです。これで偽物のエルフだけがあの国にあふれ、本物であるエルフ達はこの国で平穏に過ごす事が出来るんです」

「オリジナルはどう思ってるんだ?」

「オリジナル達はもう死にましたよ。ここで作っているエルフ達は当時の長老会の長老達から手に入れた血、つまりDNAを素材としているので彼らは永遠にこの先エルフが奴隷にならない未来が来るまで文字通り永遠に血を捧げたんです。ですから僕達はそんな彼らの意思を尊重し、エルフ被害を抑えているわけです」


 なるほど。

 だから疑似餌か。

 元の世界だったら大問題だけどな。

 人類のクローン生産工場が秘密裏に出来上がっていたなんて国際機関が気が付いたらどんな反応する事やら。

 そして最大の問題点は、サマエル達は彼らのできにまだ満足していないことだ。


「ただ100年以上保つ個体を作ろうとするとなぜか失敗するんですよね……なので主様に聞けば何かわかるんじゃないかな~っという期待も込めて連れてきたんです。何か分かりますか?」


 サマエルは資料を渡しながら俺に聞いてくる。

 主な素材は某錬金術師に出てくる人体錬成に出てくる素材とあまり変わらない。

 それに加えられるのがこの世界で手に入る回復系の素材。

 肉体を一から作るために回復と言う手段で集めた素材から肉体を生成する。


 ぱっと見た感想としては十分な完成度だと言える。

 と言ってもそれは人間を作るという基準の上での話だ。

 エルフでは少し成分が違う、ではない。


 ぶっちゃけて言えば人類は種と言う視点だけで見ればどれも同種だ。

 アメリカでくだらない白人と黒人は別な人間だと言っているのと変わらない。

 動物の中で同種と言える根拠は問題なく子孫を残せること。

 そしてこれはすでに成功している。


 その例が獣人の国で俺の子孫がちゃんと孫世代にまで血がつながっている事だ。

 仮に人間と獣人が別種だった場合子供はどうにか出来たとしてもその先、孫、ひ孫は出来ない可能性の方が高い。

 それなのに俺と獣人の間にできた子供は無事に子孫を残し、繁殖に成功している。

 それは同種でないとできない当然の行為である。


 これが俺が人類は全員同種である理由だ。

 それに普通の動物ならまずそれ以前に多種に対して性的な欲求を持たない。

 ライオンが虎に、オオカミが犬に発情しないように似ている種族であっても同種がいるのであれば同種の中から繁殖相手を見つける。


 繁殖できない相手に発情する事が異常、これが世間一般における常識であり、LGBT問題の根幹だ。

 繁殖できない同性に性的な興奮を覚える事が異常、一言で表すならこれ。

 ただの信愛ならいいが性的な親愛はおかしいみたいな感じ。


 ちょっと脱線したが成分は問題ないが……やはりこれは『色欲』がある事を前提にしている製造方法なのが問題かもしれない。


「ユウ。悪いがあげた本ちょっと確認させてくれないか?」

「え、ええっと、これの事?」


 ユウは動揺しながらも宝物庫であげた本を渡してくれる。

 これにはこのホムンクルス工場の基礎となるホムンクルスの製造方法が書いてある。

 サマエルは特に気にしていないが、他の研究者達は明らかに目の色を変えた。

 何せこのホムンクルス工場の基盤となる賢者と呼ばれた男直筆の研究資料が目の前にあるのである。これで興奮しない研究者はいない、らしい。

 俺から見ればただの奪った研究資料なのだから扱いは他の本と変わらない。

 そしてやはりと言うか、重大な欠陥を発見した。


「やっぱりな。ありがとなユウ。一応大切にしまっておけよ」

「うん。でも何か分かったの?」

「多分な。サマエル、肉体的にはおそらく問題ないぞ」

「それじゃ原因は何なのか分かったんですか!?」

「おそらく原因は魂の定着だ。おそらく魂は100年程度で限界なんだろう。大方どっかで死んだ魂を拾ってホムンクルスに定着させてるんだろうが、その限界が100年だったって事だろう」

「それじゃその魂の定着を安定化させることが出来れば耐久時間を延ばすことが出来るという事ですか?」

「おそらく。でもこればっかりは技術じゃどうしようもないと思うぞ」

「え?」


 サマエルが間抜けな声を出すが多分これは間違いない。


「このホムンクルスの製造は『色欲』を持っていることが前提の製作だ。だから魂の定着には『色欲』が必須だ。だからこれを安定化するにはベレトを呼んでくるしかないな」


 俺がそういうとサマエルを含めた研究者達は落ち込んだように肩を落とす。

 こればっかりはサマエルにもできないスキルの力だ。

 もし仮に『色欲』を手に入れるとすればベレトに協力を頼むか、ベレトを1度殺して再びクエストをこなすしかない。


 そして俺はそれを許さない。


 そのことはサマエルもよく分かっているからか何も言わない。

 だからここから交渉だ。


「俺ならこの魂の定着もできるぞ」

「え!?でも『色欲』は……」

「まだ使える。その代わり契約だ。この施設の1部を俺にも使わせろ。ちょっとやりたい事がある」

「よろしくお願いします」


 速攻だった。

 何のためらいもなく簡単に頭を下げた。

 これでいいのかと思ったが、とりあえず『傲慢』と『色欲』を同時発動。このあたりの機材すべてに魂の定着を肉体が滅ぶまでに設定。

 これでも大丈夫だ。


「はい出来た」

「もう!?」

「このくらい軽く出来るっての。それに機材を動かすわけじゃないし、楽なもんだろ」

「スキルの効果を道具に付与させるのは難しい方のはずなんですけどね……」


 サマエルはそんな事を言う。

 さてこれで契約は完了だ。


「そんじゃ今度ちょっとこの機材借りるぞ」


 俺はそう笑いながら言った。

 ユウはそんな俺の事を不安そうにしながら見ている事に気が付かない。

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