金庫からアイテムを取り出す
翌朝。
俺が起きると俺の隣りには当然アストライアが静かに寝ている。
昨日抱いてみたけど意外と良かったな。その辺は流石神様という所か?触った時の肌の滑りにシミ1つない肌、サラサラの触り心地の良い髪、唇も柔らかく、胸は大き過ぎず小さ過ぎない美乳。
なるほど、神様とはこういう事か。
「何か的外れな事で神と思われている気がする」
俺の隣りでアストライアがゆっくりと目を覚ました。
「おはよう。一緒にシャワー浴びるか?」
「そのまままた抱かれそうだから遠慮する。先にシャワーをもらうぞ」
「あがったら教えてね」
そう言って俺はアストライアがシャワーを終えるまで昨日の事を思い出す。
エロい事もそうだが、俺、脱童貞しちゃったな……
だって普段は真っ直ぐ帰って即ゲームの俺だぞ。リアルで女の子と付き合った事なんてないし、童貞卒業できるような彼女なんているわけがない。
それにこのゲーム、18禁と言っても性交に関してはぶっちゃけエロゲーとかエロアニメを見ている様な感じなのでちょっと虚しい感じがする。
だってVRゴーグル被ってるだけだから触った感覚とかしないもん。全身本当に感じる様な技術はなかったし、ネタ扱いされていた。
でも今はこのゲームの中が俺の現実。
いや~ゲームが現実になるって楽しいね。
「あがった。お次どうぞ」
「ありがとさん。あ、服どうしよ」
「昨日の服でよければ洗ってあるのですぐに着れる」
「本当に何でも出来るのな」
ありがたくシャワーを借りて風呂に入った後、服を着て朝食になる。
ちなみに朝食を作ってくれたのは秘書君。いつものニコニコ顔で迎えてくれた。
「おはようございます、ナナシ様。ご朝食の方は準備できております」
「ありがとう。いただきます」
朝食、というにはかなり量があり、どこかのホテルのバイキングみたいになっているがこれが俺1人分。
アストライアの分は普通の朝食で、トーストが2枚にスクランブルエッグ、サラダにハム、コーヒーとヨーグルト。
うん普通。普通過ぎて意外なくらいだ。
まぁ俺の場合は暴食のスキルがあるのでこれぐらい軽く食べられる。
アストライアは優雅に、俺はガツガツと朝食を食べているとアストライアが言う。
「流石『色欲』を持っているだけの事はあるな。スキルの力に抵抗できてよかった」
「あ?色欲って錬金術だが錬成術だかがうまくなるだけじゃねぇの?」
「気付いてなかったの?まぁ確かに副作用の様な物だが、色欲のスキル保有者が異性を抱くと相手の事を魅了する事が出来る。だから君に抱かれた令嬢や姫は君の事を擁護していたでしょう、あれは君に魅了されていたからだよ」
「へ~。知らなかった」
確かに抱いた次の日、随分と甘えて来る様な感じだな~とは思っていたが、スキルのおかげとは思ってなかった。
一応スキルを得た、という通知は来てもどのような効果なのかは明確に書かれている訳じゃないしな。
実はすべてのスキルは感覚的に使い方を覚えていくしかない。常時発動型、俺の場合だと『森羅万象』『状態異常無効』がそうなのだが、自分の意思で発動させたりするタイプだと完全に理解するのは難しい。
つまり俺はスキルを正しく使っているのか、最も効率の良い使い方をしているのかどうか分かっていないのだ。
特に大罪系スキルは様々なスキルを統合された最強スキルの一角なので、全てを理解できているのかと聞かれると正直言って自信はない。
特あまり使用していないスキル、嫉妬、怠惰、色欲はあまり使っていないので余計に分からない。
もう少し使い方を考えてみるか。
意外と俺に合う使い方があるかも知れないし。
「それにしても……本当に大量に食べるね」
「ん?もう少し遠慮した方が良かったか?」
「これだけ多くの料理を残されても困るのはこっち。1週間かけて食べきれるか、という所か」
そこまで多いかな……寝起きだからそんなに食えないし。
「むしろお前こそ、その量で腹足りるのか?少なすぎねぇか?」
「私はこれぐらいが普通なの。女だからというのもあるかも知れないけど、あなた基準にされるのは困る」
「そうかね~?」
そんな感じで朝食を食べた後、銀行に直行した。
そして朝一でこの銀行にある俺の保管エリアに向かう。
この銀行は空間魔法の力により空間を圧縮する事で実際よりも多くの物を収納する事ができ、ぶっちゃけドラ〇もんの四次元ポケット並みの収納率があるらしい。
そんな超広大な場所の中で各個人の保管エリアに行くには各担当している社員と、保管している本人の認証コード2つが必要となる。
前に言った泥棒が侵入する時は担当している社員のコードか、保管している人のコードのどちらか一方を手に居れて侵入しようとする事が多い。どちらか一方だけを知っていれば侵入する所まではどうにかうまくいくんだと思う。でもその後迷子になって餓死したりしたらかなり面白い。
どうして中途半端な状態で侵入を試みるかと言うと、そうしないと色々な所から盗む事ができないからだ。
担当者のコードと保管者のコード2つを上手く手に入れたとしても行けるのは1つだけ。そこがリスクを負ってでもやるだけの価値のある所ならともかく、そうでない一般向けのエリアだった場合は出来るだけ多くの場所に侵入しないといけないだろう。
担当は1人でいくつものコードを所有していたとしても、保管している人は1人に付き1つだけ。複数の所有者コードをかき集めるのは非常にリスクが高い。
だからわざと中途半端にしているようだが……それが原因でいったい何人の犯罪者が消えてしまったのだろう。
ま、利用者ご本人には何の問題もないんだけどね。
銀行の保管エリアはSFチックな金属製の重たそうな扉の前でアストライアがコードを打ち込み、次の俺がコードを打ち込む。すると扉自動で開き、丸い円の中に入って扉が閉まればすぐ目の前だ。
ちょっとだけエレベーターに乗った時の浮遊感はあるが気分が悪くなるほどひどい物ではないし、本当に一瞬浮いたかな?ぐらいの物だ。
「着いたぞ。300年ぶりの主の帰還だ」
アストライアが面白そうに雰囲気を作ってから鉄の扉は開いた。
扉の先にある光景はファンタジーゲームに出てくるドラゴンの巣、とでも表現すればいいだろうか。辺り一面に散らばっている金貨、様々な宝石、希少価値の高い素材であるミスリルやオリハルコン、ヒヒイロカネなどの金属も散らばっている。
他の所には希少な魔物の素材一式や植物系の素材、300年前も禁止されている聖獣の素材なども存在する。
この光景を見て俺は一言。
「この配置お前の趣味だよな?俺こんな風に配置した覚えないんだけど」
「この方があなたに似合っているだろ。暴力と強奪で手に入れたのだろ?このほとんどの宝は」
「確かにそうだが、面倒だからこの辺はきっちり整頓しておいたはずなんだがな……」
面倒臭がりな俺はこの辺オートで整理していた。
金属や魔物系の素材など分けた後に名前順にオートで整理。金貨も一か所に集めていたので地面が金貨で出来ているような光景にした事はない。
と言ってもそれはあくまでもただの金、素材だからという理由でしかない。
本当に俺が大切だと思っている宝たちにはきちんと愛情をこめて整理していた。
ただそのお宝たちはかなり癖が強く、誰にでも使える物とは言えない。
「で、あいつらは元気か?」
「元気が有り余ってるから困ってる。300年放置し続けたからかなり機嫌が悪い」
「あいつらならそうだろうな。むしろそうじゃないあいつらは想像できない」
そう思いながら1つのブース、他の素材や金の様にただそこら辺に放置されているのではなくちゃんと飾られている。
そのブースに入ると俺に対する殺意が一気に襲ってきた。
アストライアは腕でその暴風の様な呪いの嵐に対して身を守るが、俺に対する殺意だけなのであまり影響はないだろう。普通の人間だったらその余波で狂ったり死んでいたりするかもしれないが、神様なので呪いの余波を受ける事はほぼない。
そんな連中に俺は軽く殺意を受け流し、普段となのも変わらない感じで言う。
「よ、久しぶりだなお前ら。また一緒に暴れさせてもらうぞ」
ここのブースに収められているのは全て呪われた武器だ。
呪われた剣、槍、斧、弓など様々なアイテムがあるが呪われていない物は1つもない。
一応ではあるが呪われた武器と言う物に対して説明しておこう。
呪われた武器を一言でいうなら意思のある武器だ。自身を装備した人間に対して戦闘欲を刺激したり、狂わせる事で戦場で自身が生まれた理由、つまり武器として戦場で暴れ続けるために所有者を支配しようとする武器の事を言う。
なので他の国や伝説に残っている聖剣などと言われる武器にも意思はあるが、所有者を狂わせる事がないので聖剣、または宝剣などと言われ歴代の王様などが持って権力を示している事が多い。
戦場から戦場に渡り、1人でも多くの生物を殺すために生まれた武器達は、その存在意義のために壊れるまで戦う事をやめないのだ。
何故そんな呪いのアイテムばっかりを集めていたかと言うと、単に攻撃力が非常に高いのと使い勝手がいいからだ。
呪われているのに使い勝手がいいと言うのも変だが、ぶっちゃけると呪われている間は勝手に道具たちが相手を殲滅してくれるので、最初の頃、戦いにまだ慣れていない時は勝手に敵を倒してくれるので非常に助かった。
その後は何度も使っている間に呪われた道具たちと仲良くなり、呪いの武器があると聞きつけては奪って使っていたのである。
まぁ中には妙な呪われたアイテムもあるけどね。
とりあえず俺は俺に怒りをぶつけてくる呪われた武器達をすべて回収。狩りゲーのごとく相手によって武器を変えて戦うつもりだ。
メイン武器は俺が捕まった後に誰かに奪われたらしいが、かなり強力な呪いを放っているのでどっかの大富豪とかが買い取った、みたいな事にはなっていないと思う。
とりあえずすべての武器を回収し、最後に俺の足となる呪われた愛車に触れた。
「よう。久しぶりにドライブしながら相手を殲滅するぞ」
そう言って俺が触れた愛車は軽くライトを光らせた。
俺の愛車は『カース・ドラゴン』という名前でこのゲーム内でも異色の呪われたアイテムだ。
見た目はどこかの特撮の主人公が乗るドラゴンの形をした大型バイクであり、ドラゴンの頭をしたヘッドから攻撃したり、空を飛ぶ事も出来る。
設定は随分と大昔に倒されたドラゴンの死体全てを使った乗り物を作ってほしい、と言う依頼を受けた誰かが骨や血肉を全て使って作ったのがこのバイクだと言う。
もちろん依頼主はそのできに満足していたが、1つだけ製作者も意図していないイレギュラーが発生した。
それは倒される前のドラゴンの魂までそのバイクに宿ってしまった事だ。
全てのドラゴンの血肉を全て使った事が原因なのか、死んだ後ドラゴンの魂が再びバイクに宿り、元ドラゴンのバイクとなって一応呪われたバイクとしてアイテム扱いされている。
そんなバイクをどうやって手に入れたかって?
ドラゴンを服従させるのは簡単だ。ただ実力を示せばいいだけだ。
実力、つまり喧嘩して勝てばおとなしく背に乗せてくれるのである。
身体はバイクになっても心も体もドラゴンなので強者に従うと言う本能があったらしく、突然襲われた時に喧嘩して勝ったらそのまま大人しく俺の愛車になった。というのがエピソードだ。
「それにしても、こいつだけは綺麗に整備されているな。魔力足りてる?」
「魔力に関してはナナシの魔力を注いで。私は綺麗にしていただけだから魔力はほぼない」
「なら突っ込んでおかないとな」
こいつはガソリンなどではなく魔力を注入して動く。もしくは普通に食事をとらせるだな。胃も腸もあるから普通に飲み食い出来る。
でも最も効率が良いのは魔力を食べさせる事なので手っ取り早くそうしている。
でもまぁこれも俺がチート級のスキルを持っているからこそできる芸当だけどな。
こいつの胃袋を満タンにするには大量のMPが必要であり、普通のプレイヤーなら何度もMPを回復させなければならないほど消費が激しい。
でも俺は『暴食』のスキルのおかげで上限がないので個人的にはちょっと消費するぐらいで済んでいる。
俺のMPで満タンにした後に俺は金貨10枚を拾ってアイテムボックスにしまう。
目的は済んだのでここから出る。
そしてアストライアに聞いてみた。
「で、俺の愛刀とお気に入りの服持って行ったの誰?」
「聖国、ポラリス。そこであなたの装備を厳重に保管していると聞いてる」
「そっか。善の神もそこに居るんだよな」
「恐らく」
なら行先は決まったな。
そう思いながら銀行から出てさっそく愛車をアイテムボックスから出して乗る。
この世界にヘルメットの規制とかそんなもんはないので、ゴーグルだけかけてエンジンの調子を確かめる。
魔力を全開まで注いだから非常にいい音を鳴らす。
俺は見送りに居てくれたアストライアと秘書君に向かって言う。
「ありがとうな。これから悪い事いっぱいしてくる」
「申し訳ないがあまりにも悪の方に天秤が傾いたらその時は私が止めに入る。その事を忘れない様に」
「ナナシ様。現在の聖国は非常に危険です。お気を付けください」
「これでも1回しか死んだ事ないから大丈夫だよ。それじゃ、またそのうちな!」
そう言った後俺は愛車のアクセルを全開にして走り出した。
向かうのは聖国ポラリス。