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檻の国

 奴隷を売っていると言ったら300年前から決まっている場所がある。

 それは獣人の国とエルフの国にくっついている元エジックという国だ。

 このエジックという国はエルフと獣人が近くにいることから彼らを捕まえて奴隷にすることが昔から行われていた。

 そのため人間の奴隷は少なく、代わりに獣人とエルフの奴隷が非常に多い。


 こういうのもなんだが、獣人がいるのは必ずしも獣人の国だけではない。

 小さな村単位であちこちにあり、その村を襲って手に入れることが300年前では多かったのだが……今はどうなっているんだろう。

 獣人の国はモンスターが森に住み着いていることで安全が保障されているが、そのモンスターに子供を食い殺される可能性はあるので絶対とは言えない。

 何より高いレベルが求められる獣人の国に後から仲間に入ろうとするだけでも大変なのだ。

 そのため獣人の奴隷と言っても、元獣人の国の人達とは限らない。


 ついでにエルフの方はほぼエルフの国の住人である。

 中には人間に孕ませられて生まれたエルフも出てくるらしいが、それは非常に稀な事だ。

 それに人間の血が混じってしまったせいか魔法に対する才能は普通のエルフと比べて低く、戦力にはならないので女の子が生まれれば娼婦用、男の子が生まれたら男娼だんしょう用という感じ。


 ちなみにこのエジック、300年の間にポラリスに取り込まれていたがあまり国の風習は変わっていない。

 もともと奴隷制度はこの国に人間が少なかったから獣人や奴隷を拉致って奴隷にしたという歴史があるそうで、人間は奴隷にしない。

 つまり何が言いたいかというと、人間の奴隷を連れた俺は非常に目立つという事だ。


「300年経っても相変わらずなところは相変わらずなのな」

「これもポラリスの現環境の影響ですね。表向きは文化の維持となっていますがポラリスはこのあたりの事を“檻の国”と呼んでします。理由は奴隷が多い事からそのように呼ばれているようです」

「檻の国ね……本当にお偉いさんから普通の家まで奴隷がいて当然の国だもんな」


 どこかの貴族の娘と思われる女が首輪を付けた獣人の男を荷物持ちとして連れまわし、男2人がそれぞれのエルフの女の子を連れて自慢し合っている。

 その姿はまるでペット自慢をしているようで同じ人類として全く扱っていない。

 エルフの女の子たちは一応きれいな服を着ているが、死んだ目をしてただぼんやりと突っ立っているのでただのペットの方がいい暮らしをしている可能性の方が高い。

 だが意外な変化もある。


「それにしても……人間の奴隷も300年前に比べるとかなり多くないか?」

「どうやらポラリスは様々な奴隷をこの国に集め、奴隷産業をこのエジックに一任しているようです。今では奴隷が欲しければエジックに行けっと言われるほどです」


 奴隷産業ね、前の世界で聞いたらとんでもない事件だろうな。


 奴隷と一言で言っても様々な奴隷が存在する。

 大きく分けると3種類で、1つは何度も言っている拉致られて強制的に奴隷にされた者。

 2つ目は犯罪奴隷。

 犯罪奴隷は罪を犯し、裁判で奴隷として一からやり直せと言われた犯罪者達の事。

 3つ目は借金奴隷。

 借金が多すぎて奴隷として売られた間抜けな奴らの事。


「犯罪奴隷とか借金奴隷とか普通にポラリスでもいなかったっけ?」

「最近はすべてエジックに送られていますよ。どうやら首都であるポラリスは潔癖を保つことでその美しさを保とうとしているようです」

「金メッキみたいな美しさというか、落書きを消すために上からペンキで塗り潰した感じがするというか、なんだかな……」

「その金メッキも立場の上の者が本物と言えば本物の金になるのです。ですがその例えは滑稽で面白いですね」


 レナがくすくすと笑うが皮肉を言うなら俺の右に出る奴はいないぞ。

 カフェでゆっくりした後軽く最低のデートと行こう。

 店員、と言ってもエルフの奴隷ちゃんに金を払いカフェを出る。

 そして向かった先はこの国で1番厳重で大切な商業施設、つまり国で1番の奴隷商にやってきた。


 ここにレナだけ連れてユウやジラント達がいないのは連れ出したエルフ達をまとめる場所の確保とこの奴隷商に入るのに不自然な事をしたくないからだ。

 さすがに真昼間から1つでも多くの手土産を手に入れるのは無茶に近い。

 奴隷売買はこの国の主要産業でありこの国の基盤だ。

 少しでも高く売りたいのであればエルフの国からエルフを拉致って来るしかない。

 犯罪奴隷や借金奴隷ではたかが知れているのでやはり拉致って来たエルフを高値で売る方が潤うのだ。


 レナを連れて奴隷商へ向かう。

 レナが綺麗な服を着ていても問題ないのはこの奴隷文化にある。

 簡単に言えばペットにかわいい服を着させて満足している飼い主と同じ感じだ。

 金のある貴族達でペットと言ったら獣人の奴隷で性別は問わない。

 だからレナも似たような感じにすれば簡単に潜り込む事が出来る。


 それからレナには重要な役目として拉致られた獣人とエルフを見極めてもらう役割もある。

 レナの持つスキル、『嗅覚探査』は相手の位置情報だけではなく匂いからどこに住んでいたのか、親は誰か、どんなものを食べて暮らしていたのかなど細かい事を判別する事が出来る。

 なので奴隷を見て回るふりをしながらレナに拉致られてきたエルフと獣人達はどの程度いるのか確認してもらう。


「奴隷を買いたいのだが見せてもらってもいいか?できるだけ綺麗なメスがいい」


 俺がチップとして金貨をはじいて商人に渡すと奴隷商はあっさりと俺達を奥に招待してくれた。

 普通チップで金貨を払うことはない。裕福な貴族などでも大抵銀貨だ。

 奴隷を買いに来た際に金貨を見せるという事はかなり上質な奴隷を求めているというアピールでもあるので結構効果的だ。


「お客様はずいぶんと目が肥えていらっしゃるようですね。白い獣人は非常に価値が高い。いったいどこで買われたので?」

「どこで買ったのかまでは忘れたな。だが珍しいからつい大金を払ってしまったことは覚えている」


 こういえばさらに商品価値の高い奴隷を紹介してくれる。

 というか白い獣人がレアだなんて初めて知った。

 商人がその価値のある奴隷がいるところに着くまで少し歩いてから俺は聞く。


「少し遠いか?」

「申し訳ございません。価値のある奴隷達は奥の方で丁寧に飼育しているのです。中には反抗的な者もおり、猿ぐつわなどを噛ませている事もありますがそれに関してはお許しください」


 つまり奴隷達が逃げ出さないように奥の方に閉じ込めてるって事ね。

 レナの事をちらっと見たがさすが女王様、堂々としてらっしゃる。


 ちょっと歩いて付いた場所は確かに高級感あふれる部屋だった。

 調度品などはすべてどこか値の張るブランド物で統一しているんだろうな~っというのは素人の俺でも分かる。

 そして不釣り合いと言える檻の中にはでっかいベッドと簡易トイレ、机とイスがあり奴隷達はそこでおとなしくしている。

 エルフには魔法を使えなくなる首輪を付けられ、先ほど言っていた暴れる奴隷には猿ぐつわを噛ませていると言っていた通り舌を噛んで自殺できないようにしていた。

 正直意外だったのは獣人達もいて獣人の男性も部屋にいたことだ。


「獣人のオスがいるのは意外だな」

「ここにいるオス達は主に繁殖目的が大きいですね。中には面白い趣味をお持ちの方もおりまして、あれらと交わるお客様もおられます。中に入れる方もいるとか」

「繁殖用?護衛用とは違うのか」

「もちろん護衛としてご購入される方もおりますよ。しかし最近のトレンドですがすでに飼っている獣人達を繁殖させて自らブリーダーとして成功しようとしている方も増えてきました。レベルの高い獣人同士を掛け合わせ、強い個体は競技場で戦わせるのが目立ってまいりました」


 闘技場は主に犯罪奴隷達で行われる殺し合いだ。

 何百人殺せたかによってはこのエリックの貴族に買われることもあるので唯一の自由をかけて戦う場所、なんてよく分からないきれいごとを言う場所でもある。


 やっぱり300年も経つと品揃えが変わるな~っと思っていると珍しいのがいた。

 それは白い子猫のような獣人であり、首輪をしている以外は鎖も猿ぐつわもつけていない珍しい奴隷だ。

 ベッドの上で顔を洗ったり丸くなっているのはまさに猫という感じ。

 あとなぜか全裸。


「商人。あの獣人は?」

「ああ、あの獣人は本当に珍しいですよ。連れてきた者いわく、身売りだとか」

「身売り?親にか」

「いえ、本当に1人だったらしく商品を捕まえに行くときに自分から出てきて奴隷にしてほしいと言ってきたそうです。まだまだ幼いですが全裸で連れてこられたので傷などはありませんよ」


 身売り時と親に売られたというのが多いが、獣人でそれを行うものは非常に少ない。

 獣人は獣人で群れ意識が強いのでそう簡単に子供を捨てたりしない。

 あの森の出身なのかそうでないかはレナに後で確認を取るとして、俺の感覚だとあれ獣人ですらないような気がするんだが?


 そんな俺の視線に気が付いたのか白猫は目を覚ますとベッドから飛び降りて四つ足で檻の目の前までやってきた。

 俺の事を見ながら手を前に出す。

 まさに白い招き猫状態だが、どうやら俺に興味を持ったようだ。


「触っても大丈夫か」

「大丈夫ですが檻の中に手や指を入れないようにお願いします。食い千切られる可能性がありますので」


 そのルールを守りながら白猫がの手を掴んでみる。

 白猫はそれだけで気分を良くしたのか顔を檻にくっつけて舌を出す。

 俺がその舌の前に指を出すとぺろぺろと舐め始める。

 獣人のふりをしてるのか?お前絶対獣人じゃないだろ。


「懐いているようですがいかがしますか?」

「もう少しほかの個体を見たい」


 俺が離れると白猫はニャーニャー鳴き始めたがとりあえずこの場は無視。

 他の場所も一通り見た後にまた見に来ると金貨1枚をチップとして渡して終えた。

 そしてユウ達がいるところに合流してから作戦会議をする。


「レナ、あの中にどれくらいの拉致されたエルフがいた」

「52人です。大人から子供までいました。ですが獣人の方はあの奥の方にいた獣人以外はみなこの町で生まれ育った奴隷のようです」

「ずいぶん繁殖させてるな。町の規模からしてエジック周辺の獣人達はもういないんじゃないか?」

「実はナナシ様が亡くなられた後に獣人の村の方を獣人の国にある程度移住していたんです。ナナシ様が亡くなられたことで奴隷の価値がどうなるのか分からず、行動した結果だと思いたいです」

「それでも全員とはいかないんだろ?」

「村を捨てられないという方も多かったですから当然です。しかしその村の獣人という事もありませんでした」

「なら今回は奥の部屋にいる獣人だけか。エルフの数も想定よりもだいぶ少なかったし、もう繁殖方面に力注いでんじゃないか?」

「その可能性は高いですね。この国のエルフの数だけでもすべて拉致してきたエルフではありえない数ですし、拉致してきたエルフ同士に子供を作らせた、の方が現実的です」

「300年の間にいろいろ変わってたんだな。それじゃ今夜エルフ達の奴隷を拉致しに行きますか」

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