ドラゴンの国
翌日、ズメイの案内でドラゴンの国に入る俺達。
と言ってもただ縄張りに入っただけだ。
ドラゴンの国の首都が見えてくるようになるには通常1ヵ月はかかる。
それは距離の問題ではなく、この森全体が超高難易度のクエストのようになっているのが理由だ。
基本的にドラゴンが住む土地と言うのはドラゴンの力の恩恵により植物などがより大きく、健康に育ちやすい。
そのためか多くの動植物が集まり、巨大な天然の要塞を作り出す。
それにこの辺りに出てくるモンスターは全部恐竜型だ。
恐竜型はドラゴンの力の恩恵を受けた魔物であり、ドラゴンに似て非なる魔物として人間の中では伝わっている。
実際ドラゴンと言われるのは角と翼のある事が最低条件であり、ドラゴンの角と翼がない物はすべてトカゲと呼ばれる。
で、そのトカゲのドラゴンもどきだが、平均レベル50。
これは獣人の森のモンスター達よりも高い。あっちは大体平均40くらいか?強い個体でレベル48だったはずだけど。
とにかく人間基準で見ると非常にヤバい場所と言う訳だ。
しかもドラゴンの影響を受けているからかレベルの割にステータス高いし、他のモンスターのレベル50よりかなり強い。
しかも首都周辺ならともかく、それ以外の所は自然に任せっきりなので木の根やモンスターなのが邪魔をするので思うようには進めない。
これが1ヵ月かかる理由である。
と言ってもまぁこれは周りにドラゴンがいなかったら、の話なるけど。
「いや~ズメイが居てくれると本当にこういう所だけは助かるよな」
「そのための案内ですから」
恐竜系のモンスターはドラゴンに対して絶対に敵対行動をとらない。
これは力を得る代わりにドラゴンの方が上、と言う刷り込みを行った結果だと予想している。
もしくは力をくれた親の様に感じているのかも知れない。
詳しい話を聞いたわけではないのでどこまで言ってもただの予想だが、とにかく近くにドラゴンが居たら他の恐竜たちに襲われる事はまずない。
本当にどうやってしつけたのやら。
「歩いて大体どれくらいで着く?」
「1日も歩けば到着するかと」
「それ絶対24時間歩くって意味だよな。俺とレナはともかくユウは無理そうだから夜は素直に休むぞ」
俺とレナは問題なく歩いているが、ユウはかなり苦戦している。
この辺りの木もドラゴンの影響を受けて巨大化している。
そのため地面から飛び出した木の根っこをよじ登るのに苦労していた。
「な、何でそんな簡単にすいすい進めるの~……」
「慣れだ慣れ。ぴょんぴょん跳んでこーい」
「ぴょーんぴょん……やっぱり疲れるよ~」
「あいつ、美徳系スキルのおかげでそう言うのカットしてくれるんじゃないの?」
「分かりません。美徳系スキルに関してまだまだ不明な所はありますから」
俺の疑問にレナが答えてくれる。
美徳系スキルで分かっているのは常時発動型である事と、様々な消費を削減して効率よく動けるスキルである事。
ぶっちゃけその程度だ。
最近は俺やレナから戦いについて叩き込まれているし、動きも良くなっているが……こういう歩き方みたいなのはやっぱり経験を積ませるしかないか。
「それにしても美徳系スキルって研究が全くされていないから、俺達が知っているところ以外に何かしら効果があるのかどうか全く分からん」
「スキルの研究と言う意味では大罪スキルもあまり変わらない気がしますが」
「その辺はほら、俺がスキルを独占して研究してたからあんまり遠い感じがしないんだよ。でも美徳系スキルに関しては1度戦っただけで研究不足、今はユウと言う美徳系スキルをすべて持った存在がすぐそばに居るからそこまで遠い存在に感じないが、レベル差はともかく俺と同等の理不尽さがあっていいはずだろ。レナはユウから俺と同等の理不尽さを感じた事はあるか?」
「ありませんね」
「そこなんだよな~。でも俺の大罪スキルと真逆なら1つ仮説があるけど」
「仮説が立てられているのであれば十分では?」
「机上の空論のままじゃ俺は嫌なの。まぁこればかりはすぐに実験とはいかないが」
俺の仮説と言うのはユウが持つスキルは戦略スキルなのではないかと言う仮説だ。
戦略スキルとは、プレイヤー達の間だけで広まっている造語だ。
自身を含めた周囲への影響力の高いスキルの事を差す。
より詳しく言うと個人スキル、戦術スキル、戦略スキルと言う風に周囲に影響を与える範囲が広いほど複数人でのチームプレイが得意と言える。
個人スキルは完全に使用者個人にしか影響を与えないスキル。
戦術スキルは6人以上の人間に影響を与えるスキル。何故6人なのかと言うとパーティーを組む時の平均が6人だったからだ。
最後に戦略スキルは10人以上の人間に影響を与えるスキル。
俺の持つ大罪スキルは俺にしか影響を与えない、つまりこれは個人スキルと言える。
覇王覇気もそうだが俺の持っているスキルは個人スキルのみ。ソロプレイヤーだから何の疑問も感じなかったが、ここまで個人スキルばかりなのは珍しい部類だろう。
そしてユウの持つ美徳スキルが仮に俺と真逆であると仮定した場合戦略スキルなのではないかと予想できる。
分かりやすく物語風に言うなら、俺は1人で不特定多数を殲滅する魔王。
ユウは戦略級、つまり国で行われる戦争規模での仲間とともに立ち向かう勇者なのではないかと俺は予想している。
実際ユウの『勇気』は周囲に精神状態異常無効をばらまく。
今は俺達3人しかいないから微妙なスキルと判断しているが、これを戦略規模、100人を超える人数に影響を与え精神状態異常を無効化出来るのならかなり有能なスキルと言える。
強い奴には誤差程度の補正だが、弱い奴に関してはかなりの強化となる。
弱者を強者に変えるスキルと言ってもいい。
ただし戦略スキルの数は非常に少なく、有名なのは『英雄覇気』と『魔王覇気』の2種類だけ。
何なる勉強不足かも知れないが不特定多数に防御系の影響をあたるスキルはあまり聞いた事がない。
敵を倒すだけなら戦略級魔法などがあるが、防御面は魔法でもあまり聞かない。
精々一定範囲内の人物のHPを回復させるヒール程度しか思いつかない。
美徳系スキルはやはり集団戦で使うべきスキルなのかも知れない。
「はぁ~、待ってよぉ~」
……当の本人は疲れてダラダラと歩いているけどな。
全く、美徳系スキルはよく分からん。
――
ユウの疲れをとるためにもゆっくり進んで2日目の昼、ようやくドラゴンの都が見えてきた。
「お~やっと見えたな。なんも変わんねぇな」
「本当に、何1つ変化のない都です」
「ねぇねぇ。色々大き過ぎない?あの扉も1度に何百人一緒に入っても問題ないくらい大きいよ」
「ドラゴンの都は一応協力体制を取っているエルフやドワーフ族のために人間ほどの大きさを基準として作られています。人型になれるドラゴン達はここに住んだり、人型になる事を嫌うドラゴン達は他の棲み処に居る事がほとんどです」
「で、俺はどこに行けばいいんだ?城か?」
「このまま武闘会会場に向かっていただきます。思っていたよりも時間が過ぎているため、即座に決闘を始めていただきます」
「思っていたよりも待たせすぎちゃったって事か。それならさっさと会いに行きましょうかね」
そんな感じで軽くドラゴンの都に足を踏み入れる俺達。
ちなみに武道会は他国でいう所の決闘状のような所で石畳で作られたステージの上で行われる。
ジラントを先頭に進むがどうやら決闘状の事は国中に知られているらしく、武道会会場の方から声は聞こえるが他の所にドラゴン達は見当たらない。
「ところでナナシ。ドラゴンの人達ってみんな人間と変わらない姿でいるの?」
「いや、普通は角と尻尾、翼は出したままだな。技術的には完全に人型になる事はズメイを見て分かる通りできるんだが、特に角と翼はドラゴン達の誇りだから出したままの方が多い。あと尻尾も出してる事多いな」
「へ~。角ってオウガみたいに前の方に伸びてるの?」
「耳のちょっと上あたりから後ろに向けてだな。角の数に関しては強さによって変わる」
「強さ??」
「生まれて間のないドラゴンの幼体には角がない。実は角が1対で生えてくるにはレベル10にならないと出てこない。つまり角が何対あるかによって大雑把なレベルが分かるって事だ」
「それじゃズメイさんは……レベル89だから9対?」
「残念だが8対だ。9対にするにはレベル90超えないと。ちなみに伝説によれば全てのドラゴンの先祖は10対あったらしい。つまりレベル100を超えてたって話だ」
「100!?レベル100って実在するの?」
「さぁ?俺もレベル99になってから100になる気配がないから分かんねぇ。なったらどうなるんだろうな~」
それに伝説と言っても古すぎて信憑性が低い。
寿命のないドラゴンの爺さん婆さんが話していたそうだが、正直ボケているのかどうか判断が付かない。
そんな話をしている間に武道会に到着した。
既にスタッフがおり、俺はここでお別れだ。
「ズメイ。そいつらに何かあったら、ジジババ共を食い殺すぞ」
「ご安心を、お客様に失礼な事はいたしません」
ドラゴンの唯一の良い所は正直で嘘をつかない事。
強者の余裕と言う奴なんだろうが、ドラゴンが嘘を吐く事もだまそうとする事もない。
それはドラゴンが絶対強者であり、嘘を吐くという事は弱者が行う事だと嫌っているからだ。
だからこそ簡単に嘘を吐く人間の事を嫌っているし、勝つために手段を選ばない人間の事を脆弱な種族として見ている。
まぁ俺は別だけどね。
この世界の事をゲームだと思っていたから嘘を吐く必要がなかったし、嫌われたくないから適当な事をいう事もなかった。
なにより人間にしては強いのでそれなりに評価もされている。
最終的には強さが物を言うのはやはりドラゴンだからだろうか。
なんて思いながら俺は武道会のステージに上がっていた。
そこに待ち受けていたのはピンク色の髪の高身長の美女、体付きはまさに女として最高の時期。若過ぎず、熟し過ぎていない女としての絶頂期。
動きやすさ重視のために全身を締め付ける様なスーツを着て身体のラインがはっきりと出ているのも色気を出している理由だろう。
そんな彼女を見て俺は軽く挨拶しておく。
「よ、久しぶりだな。ジラント」
「ちゃんとラブレターを受け取ってくれてよかった。これで、あなたを私の物に出来る」
そういうジラントは今にも飛び出しそうなくらいぎらついた瞳で俺を射抜く。
理性よりも本能の方がわずかに上回っている野生的な笑みに俺はつい興奮してしまう。
でもここでただ噛みつくのはつまらない。
もう少しだけおしゃべりを楽しみたい。
「それにしても本当にいい女になったな。勝ったらお前の事エロい意味で食っていい?」
「勝たなくてもいいわよ。負けても私はあなたの事を貪り尽くすつもりだから」
「ありゃりゃ、こりゃ勝っても負けても気持ちいい思いをするのは確実か。でも俺どっちかって言うとSだから俺が貪りたいな」
「残念。もう私の方がステータスは上なの。昔はあなたの方がステータスもレベルも上だったけど、今は違う。それに『強欲』も手に入れた。もう負けない。今度こそ私はあなたを手に入れる」
「いや、俺がお前を手に入れる。ガキの頃から良い女になると思っていたが、ここまで良い女になったら流石に我慢できねぇよ」
涎を垂らし、エロい意味でも興奮しっぱなしで俺はズボンの中の物を大きくしながらジラントを手に入れた後の事を想像してしまう。
でもそれはジラントもそう変わりない様だ。
あの目は雌が雄を狙っている時の目だ。
さあ。
愛し合おう。
殺し合おう。
貪り合おう。
試合開始の銅鑼が響いたのはその後すぐだった。