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決闘の仕込み

 しばらくバイクを飛ばして久しぶりに戻ってきたリブラ。

 そこで俺達はあっさりと入り、そして出口には当たり前のように秘書君が待っていた。


「お久しぶりですナナシ様。どうぞこちらに」

「ありがと。それから連れが3人に増えたんだが大丈夫か?」

「もちろんです。それでもうお1人は……」

「今出てきた」


 俺の監視をしているメイドさんだ。

 たった今終わった様なので手招きをして呼ぶ。

 そのメイドさんを見て秘書君は納得した様だ。


「なるほど、ドラゴンの方でしたか。どうぞこちらに」


 メイドさんは何も言わずただ俺の事を確かめるように時々視線だけを送る。

 ユウはそんなメイドさんのことを気味悪がっていた。


「ナナシ~、この人怖い」

「それで合ってるぞ。ユウよりも強いのは確実だし、俺だって真面目に戦わないと勝てないだろうからな」

「そんなに強いの?確かにレベル89って凄すぎるけど」


 ユウがレベルの事を口に出したらメイドさんに睨まれた。すぐにビビって俺の影に隠れる。


「個人情報の流出は慎重にな。それにしても俺の事をずっと見張ってばかりで挨拶もしないって言うのはお前の言う礼儀に欠けるんじゃないか。なぁズメイ」

「……300年前に死んでそのまま大人しくしていればこんな事をしなくて済んだのですよ、大罪人」


 メイドさんの名前はズメイ。

 ドラゴンでジラントの専用メイド兼護衛だ。

 元々ドラゴンは強い理不尽な存在だが、弱点が1つだけ存在する。

 それはレベルが上がるのが非常に遅い事。

 元々のステータスが高く、成長率も高いからかレベルが1つ上げるのに苦労するらしい。

 それなのにレベルが89になるというのは凄まじい物を感じる。

 それもこれも全部ジラントのためだというんだから凄いもんだ。


「そうツンツンするなよ。可愛い妹分兼ご主人様がクソ雑魚の人間なんかに気を許すのが気に入らないのは重々承知ですよ」

「その通りです。あなたは確かに強い。しかしそれは人間の中での話です。我々ドラゴンには通用しない」

「そうだっけ?ジラントの親衛隊を名乗るファンクラブメンバーを1人1人丁寧に倒していったはずだが、あいつら強くなってんの?」

「当然です。全員レベル80を超えるまで苛め抜きました」

「あいつらマジで強くなってんじゃん。一定数以上のドラゴン達が全員80越えって人間からすれば悪夢だぞ」

「全員貴方を殺すために強くなりました。ポラリスの傘下の中で特に忠誠心の強い国を狙って滅ぼしましたからそれなりにレベルを得る事ができました」

「本当に国がいくつも終わってたよ。よくアストライアに止められなかったな」

「その辺りは見極めていましたから」


 やっぱ怖いよこいつ。

 ジラントのためになら何だってやるクレイジードラゴンだよ。

 こうやって引き際もきちんと見極めているからこそ平然とポラリスに喧嘩売って今まで生き残ってきたんだろうな。

 俺にはその辺のスキルがなかったから殺されたのかな~。


「それにしてもよく平然とお嬢様の前に表そうと思いましたね」

果たし状(ラブレター)もらって何の返事もしないよりはマシでしょ。それに俺が突撃されて困る所にいなければ済む話だし、やろうと思えばジラントを俺にとって都合の悪い国で暴れてもらって得をするやり方だってあったんだ。やろうと思えばいくらでも利用できる」

「そのように口に出している時点でお嬢様を利用しないと言っている様な物ですが」

「そりゃ俺にだってジラントには思い入れがある。お前達にとっては300年生きたドラゴンかも知れないが、俺の中ではまだ300年前の幼いドラゴンの方が印象が強いんだよ」


 この間随分とでっかくなったジラントを見たが俺の中ではまだまだ子供のイメージの方が強い。

 これが300年の空白と言う物なんだろうが、やっぱりその過程は見てみたかったな~。


「……その顔も変わらないのですね」

「え?顔??」

「その気に入らない表情も本当に変わらないのだと感じただけです」

「そんな変な顔してたかな?」


 何が気に入らなかったのか知らなかったか、今日は昼間から来ているので銀行でチャチャッと引き取るもん引き取ろう。

 銀行に到着するとアストライアが腕組んで待っていた。


「久しぶりだなナナシ。あちこちで随分と悪さをしでかしているそうじゃないか」

「そうか?そんな目立った悪い事をしたは覚えないが」

「勇者の拉致に聖域部隊の壊滅、この2つだけでも大事だというのに君はやはり大物だな。さぁこちらにどうぞ」


 ユウ達を連れて俺達は金庫に向かう。

 そして俺にとっては見慣れた、他の者達にとっては全く見慣れない景色の様で動揺している。


「ナ、ナナシってお金持ちだったの!?」

「え、そりゃある程度は金あるよ。流石にお姫様とかには負けると思うけどさ」

「……個人資産と言う意味ではかなりの額ではないかと。床に散らばっている金貨もものすごい数ですね」

「金貨なんてそこら辺で奪えるもんだろ。なにも珍しくねぇ」

「この無造作に落ちている金貨、白銀大金貨では?」

「あ~それ、どっかの領主が持ってた記念硬貨。レア物っぽいからついでもらったやつ」

「この絵、ものすごくおっきい~」

「あ、それポラリスのデッカイ教会から奪ったやつだ。奪ったのは良いけどあとは特に価値がなくてな……家もないしとりあえず金庫に突っ込んでる」

「こ、これ!?昔戦争で失った獣槍じゅうそう!!初代国王フォック・ミリオンの愛槍!!」

「あ、それ前に拾ったやつ。丁度『憤怒』のクエストを受ける森で落ちててさ、何かよく分かんないけど貴重なのその槍??」

「ナナシ~、このメモ帳みたいなの何??」

「それ『色欲』を手に入れた時のおまけの手帳だ。それにホムンクルスの製造方法とか書いてある。でもそれ読むと本当の目的は死者蘇生だったっぽいぞ」


 そんなよく分からない物、使わない物ではなく本命はこっち。

 俺の呪われた武器コレクション。

 その中にある特攻系武器を全てアイテムとして持って行く。


「今日の目的は武器か?」

「そう。今度ジラントと決闘する事になってね、それなら龍殺しの武器(ドラゴンスレイヤー)を持って行こうと思ってな」

「その選択は真っ当と言えるが、ジラントには『強欲』がある。どれだけの武器を持って行っても意味がないと思うが?」

「その辺はちゃんと作戦あるから大丈夫。とにかくドラゴンスレイヤーは持って行くぞ」


 さてこれで用事は済んだ。

 あとはジラントの所に戻るだけ……


「何してんだお前ら?」


 つい俺はそんな事を聞いてしまった。

 なんせユウは適当に分捕った本を読んでいたり、レナはでっかい槍の前で動かなかったり、ズメイに関しては俺の金貨使って寝る準備してる。

 俺に言われてハッとしたのがレナだ。


「も、申し訳ありません。どうやらこの槍、本物のようで……」

「本物?この無駄にバカデカい槍が?」

「はい。獣の国初代国王が使用していた槍がここにあったので驚いてしまって、見惚れていました」

「そんなバカデカい槍が欲しいのか??と言うかどうやって使ってたのこれ」


 槍と言うから槍と言っているが、武器としての形状は斧に近い。

 俺が槍として認識できなかった理由はただ巨大すぎるという点だけではなく、斧のような刃の部分にすぐ持ち手があるからだ。

 そして本来の槍の持ち手であろう部分は鋭い刃になっており、持つとなると斧のようになっている部分が下、尖っている方が上だと思っていた。

 それに単純な大きさで槍の直径が5メートルもあるのだから握れない。


「これはこの斧の様な所を咥えて使うのです」

「え、持つんじゃなくて咥えるの?」

「はい。初代国王は獣の姿のまま戦う方が得意だったため獣の姿のまま戦える武器をドワーフ達に作るよう頼んだそうです。それで生まれたのがこの獣槍だと聞いております」

「へぇ~。意外と貴重な物だったんだな」

「はい。非常に貴重な物です」

「ならあげるよ」

「…………え?」

「やるよこの槍。どうせ俺使わないし、欲しいならやる」

「い、良いのですか!?」

「おう。何度も言わせるな。こんなバカデカい槍使えねぇよ」


 と言う訳でおまけでこの槍も持って行く事にした。

 今度獣人の国に行った時にシリウスに押し付けておくか。

 そしてユウは何をそんな真面目に読んでるんだ??


「ユウってホムンクルスに興味あったのか?」

「ううん。全然ないよ」

「それじゃ何でそれ読んでるんだ?」

「この記録、実験の内容だけじゃなくて愛についても書いてあるからちょっと興味あって」


 あ~、そう言えばその記録用のメモ帳には日記の様な物も一緒に書かれていたな。


「この本には書いた人の愛が色々書いてあるから少しはこれで“愛”が分かるかな~っと思って」

「気になるならやるよ。もってけ」

「良いの!?」

「でも恋愛小説とかじゃなくていいのか?確かそれに結構ドロドロした感情も書いてあったと思うけど」

「ドロドロ?」

「本当は腹の中に隠しておかないといけない暗い感情の事。誰かに読まれる事を想定してないからか結構駄々洩れに書いてあるぞ」

「でも“愛”ってそう言うのも含まれるんだよね」

「含まれてるだろうな」

「…………なら読む。死者蘇生とかホムンクルスとか難しい事は分からないけど、愛について知りたいから」

「そうか」


 ユウが納得して読むというのならそれでいい。

 そして最後にズメイの頭をぶん殴った。


「あいた!?」

「で、ズメイはなに人の宝物庫の中で勝手に巣づくりしてんだ。しかも記念硬貨ばっかりの巣を作って」

「あなたは本当にこの白銀大金貨の価値が分かっていないからそう言えるのです!!この金貨は通常の金貨の100倍、時には1000倍もの価値になる希少な金貨なのです!!それで巣をつくる、これ以上価値のある巣はない!!」

「知ったこっちゃねぇ。それは俺の記念硬貨でお前のじゃない。1枚でも盗んだらお前の事殺すから」

「そんな!!」


 ズメイがなんか記念硬貨で興奮し過ぎておかしくなっているが、とりあえずぶん殴って気絶させてから宝物庫の外に出た。

 とりあえず気になった事をアストライアに聞いてみる。


「なぁアストライア」

「なんだ」

「俺の宝物庫って実はそれなりに貴重なもん揃ってたりするのか?」

「違うね」

「だよね」

「貴重な物しかない」

「…………」

「例えばナナシが持っている武器、あれは歴代の英雄が使い続けた武器であり現在は呪われているとは言え文化的、歴史的な価値が非常に大きい。そして何となく盗んだというあの巨大な絵は『神と始まりの信者の晩餐』と言う題名で文化的、歴史的、美術的な価値がありポラリスに売りつけようとすれば金貨を何千枚乗せるか分からない。そして書物に関しては彼の大賢者、ファウステス・マーが書き記した死者蘇生に関する記録。彼の研究の一部は現在の医療の基礎とまで言われ、その原本となれば医学会が是が非でも手に入れようとする」


 何と言うか……嫌がらせや適当な事をしている間に色々と貴重な物を集めていたらしい。

 確かにとりあえずと言う感じでぶっ殺した連中の絵とか本とか根こそぎ奪った事もあるけど、まさかそんな価値があるとは思ってなかったな。

 人生どうなるか分かったもんじゃない。

 あともう夕方だな……意外と時間食っちゃったな~。


「今夜は家に泊まる?」

「良いのか?前みたいに俺1人じゃないぞ、めっちゃ食うのが結構いるぞ」

「構わない。ただしナナシには後で身体で払ってもらおうと思っているが、どうかな」

「その場合レナが突入してくると思うけどいいの?」

「その時は3人で楽しもう」


 アストライアも意外とエロい事好きだよな~。


「な、それくらいなら良いよ」

「では家にご招待しよう」


 こうして俺達はアストライアの所で一晩お世話になったのだった。

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