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リブラに到着

 リブラに向かう途中、聖騎士団に襲われた。


「我々は聖騎士団!そこの罪人を捕らえよ!!」


 何て事を言うたった5人の集団が剣を片手に襲ってきたので丁寧に首だけを切り落として瞬殺した。

 いや、最初の戦闘でこれだけってのはないでしょって言いたくなるのは分かるけどさ、本当にこいつら雑魚くてそれぐらいの事しか言いようがないもん。

 恐らくプレイヤーレベルだと15くらい?聖騎士団に所属していると言っても見習いじゃなくなったばっかりぐらいの雑魚騎士なのでぶっちゃけワンパンで仕留められる。


 ちなみに聖騎士団とは前に俺が『傲慢』を得るためにぶっ殺した教皇の居る国の騎士団だ。

 聖騎士団、というよりは聖国ポラリスは世界の秩序と平和を掲げており、世界の警察的な事をやっているのである。

 そしてその宗教はよくある世界平和と人間による人間のための世界と言う物で、こいつ等は人間以外の生物を全て見下している。亜人と呼ばれるエルフやドワーフなども彼らにとっては汚らわしい魔物と同等の扱いで、何かと好き勝手していた。

 人間の国では人間の奴隷は違法でも、亜人の奴隷は違法として扱われていないのがいい例だ。


 そしてこの世界の人口は人間が7割、残りの3割が亜人や魔族と言われる種類で人間に近いが微妙に違うというのが多い。

 獣人と言っても狼男の様な感じではなく基本的にケモミミ、エルフは耳が長いだけ、ドワーフは顔がデカい分身長が低い様に見えるだけで人間より背が低いという事はないし、魔族は生まれながらMPが人間よりも多いだけ。

 唯一特徴があるのは龍族だけか。あの種族は誇りだ何だと言って龍の角、翼、尻尾を隠す事なく堂々としている。

 ちなみに獣人達がケモミミや尻尾を隠せないので仕方なく出している感じが多い。

 どうして獣人達は耳と尻尾を隠せないかというと、設定上獣人達には魔法の適性がなく、身体能力に特化した種族という設定だからだ。それ故に魔法の使える獣人は存在しない。


 そんなこの世界の裏側に関しては置いておいて、何でこいつ等はいきなり俺の事を罪人と分かったんだろう?

 流石にこの世界に来てから犯罪行為なんてスキルを使った盗みだけだ。ぶっちゃけバレなければ犯罪にならないので、気付かれていなければ報告もされないはずだ。

 それ以前に犯罪が常習しているような国で素直に警察、この世界では騎士団や衛兵と呼ばれる人達に頼むとは思えない。


 何でだろうと思いつつも俺は5人の死体を回収した。

 実は人間の死体とは結構いい素材だったりする。

 例えば悪魔を召喚した時にその対価として渡す事が出来るし、俺の場合だと『色欲』で適当に改造した後に怠惰で操り人形として動かす事も出来る。非常に便利な素材なのだ。

 なので5人分鎧や剣ごとアイテムボックスに回収し、馬を頂いて行く。

 馬の鞍には騎士団の所有物である証拠でもある紋章が刺繍されていたが、その部分だけ切り取り背に乗る。意外と馬は大人しくいう事を聞いてくれたので俺は便利な足を手に入れて再びリブラに向かう。


 ――


 馬を休ませながら進むこと2週間。その間やった事と言えばオークの群れを殲滅して全部肉に変えたり、川の水を飲んで馬と一緒にボーっとしたりしていただけだ。

 調理器具などは最初の町で奪ったが、調味料を奪うのを忘れたんだよな……だから飯は焼いた豚肉だけというちょっと寂しい食事ばかりだった。


 さて、リブラが目の前にあるので改めてリブラについて説明しよう。


 絶対中立都市、リブラ。

 犯罪者だろうと善人だろうとその国で罪を犯さなければ他国でどんな罪を犯していようが構わず受け入れる国。

 ここには世界最大の銀行が存在し、この銀行を利用するのは俺のような大犯罪者から世界の大富豪まで様々な人が利用している。この銀行は金や宝石類だけではなく、武具や愛車のような大型の物までなんでも最高の状態で保管してくれるためサービスも充実している。


 都市は俺の知っている現代日本のオフィス街のようにビルが建ち並んでいる。ファンタジーからかなり遠く離れた感じではあるがエレベーターとか色々楽なので俺は嫌いじゃない。

 それに世界最大の銀行があるからか、意外と食べ物に関しては充実している。様々な商業施設が集中しているせいか、ビジネスホテルも多いし、お手頃な居酒屋から高級レストランまで存在しているので働く大人にとってはとてもいい環境だろう。

 その代わりレジャー施設はほぼなく、屋上に小さな公園があるとか、ビルの1つに本屋があるとか、地下にビリヤードやボーリングと言った屋内で出来る事ぐらいしかない。公園と言ってもベンチがあって緑があるだけだしな。

 外で思いっきり遊ぶような所は全くない。


 そして治安は非常によい。その理由は過激とも言える防衛設備の充実さからくる。

 まずこの都市のいたるところに監視カメラが存在し、誰がいつどんな罪を犯したのか即座に分かる。小さな罪ならタバコやごみのポイ捨て、大きなものなら窃盗から殺人まで罪を犯せば必ず逮捕される。

 その検挙率は100%。小さな罪なら罰金や注意ぐらいで済むが、窃盗などになればリブラの刑務所にあっと言う間にぶち込まれ、弁護士も呼ばせずに罪の重さだけ言われてその間ずっと豚箱暮らしと言う感じらしい。


 それゆえこの国は誰でも受け入れる事が出来ると同時に、誰だろうと罪を犯せば許さない国でもある。

 だから俺もこの国では罪を犯さないし、大人しく金を払っていれば好きに出来るので大人しくしている。


 さて、長々と話したがここで馬とはお別れだ。鞍を外して手綱も外して自由にしてから尻を軽くポンと叩くと馬はどこかに行った。

 自身が自由になったとすぐに察したのかあっさりとどこかに行ってしまう。

 俺はそんな馬がどこかに行った後にリブラの検問に向かう。

 リブラの検問を待つと担当してくれた人が俺のカードを見て信じられないという表情を作った後に俺に言う。


「申し訳ありません。あなた様のカードは非常に古いものとなっておりますので更新をお願いします」

「分かりました。所で更新するのに金ってとられるの?」

「更新では大丈夫ですよ。紛失した場合は払っていただく事になっておりますが」

「そうですか。それじゃお願いします」


 特に断る理由もないので素直に応じた。

 それにカードの更新と言っても新しいカードのに俺の情報を写すだけであり、俺は特別な機械の上に手を乗っけて待つだけ。

 更新用の機械に手を乗っけて少し待つと、あっさりとカードの更新は終わり新しいカードを渡される。


「お待たせしました。こちらがナナシ様の新しいカードとなります。以前のカードと違う点がいくつかありますがご説明しましょうか?」

「お願いします」


 新しいカードの情報と言うのはゲームで使えたステータス情報が表示される事と、クレジット機能の追加、そして通信機能の追加だった。

 それ以前は銀行にどんなアイテムをしまってあるかチェックしたり、事前にそのアイテムを取り出したいと申請しておく事が出来るだけだったが、これも遊戯ゲームから現実リアルになった変化の1つなのだろうか。


 とりあえず新しいカードを手に入れたので早速銀行に行って色々取り出しに行くとしよう。

 そう思っていると受付などを担当してくれた人がそっと言う。


「ナナシ様。申し訳ありませんがアストライア会長がお待ちです。車に乗っていただいてもよろしいでしょうか」


 どうやらこちらの動きはバレバレらしい。

 そう言えばあの設定本当なのか?


「分かりました。それで車はどこですか?」


 検問を出てすぐに車じゃなくてちょっとした列車みたいなひょろ長いリムジンに乗ってこの国のトップ、アストライアの元に向かう。


 アストライアはこの国のトップと言うだけではなく、俺が使っている銀行のトップでもある。そして本当にヤバい相手、俺の様に犯罪を犯しまくった客やギャングにヤクザ、世界の裏側で大活躍している連中の金庫番として有名だ。

 更に彼女は神様という設定がある。平等だか均等だがを司る彼女は、世界の均衡を保つために地上に降り立ち、そして世界を見守るためにこの国を作り出したと言われている。

 実際俺が銀行に何かを預ける時も、何かを引き出す時も担当しているのは彼女だ。

 俺はこの世界の悪の部分を大分占めていると言っており、特に危険視していた事は覚えている。

 とりあえず今の世界情勢について1番詳しいであろう女性なのは確実だ。愛車とか取りだすついでに聞いてみよう。


 そんな気持ちで5分ぐらい揺られていると、デッカイ高層ビルの前に着いた。

 ここは変わらないな~と思いながら運転手さんがドアを開けてくれたので降りる。運転手さんは俺に頭を一度下げるとリムジンでどこかに行ってしまった。

 さて、久しぶりという気分ではないが、久々の再会はどうなるのか少し楽しみにしながらビルに入る。

 ビルの中は火かの銀行よりもはるかに広く、多くの人でにぎわっていた。整理券を持って大人しく待っている人の方が多いのは、当然この国のセキュリティーや警備員の実力の高さから来る物だが。


 周りの様子を見ながら入ると、知っている顔があった。

 彼は俺に向かって丁寧に頭を下げた後に言う。


「お久しぶりですナナシ様。300年ぶりですね」

「久しぶりだな秘書君。俺としてはそんなに久しぶりじゃないけど」


 そう言ってから握手をする。

 秘書君の名前は知らないが、アストライアがこの地上に降りる前から彼女の側近として働いていたと聞いている。


「どうぞこちらに。会長がお待ちです」


 そう言われて俺達は最上階の会長室唯一行けるエレベーターに乗る。

 エレベーターの中でも彼の会話は続く。


「それにしても驚きました。まさか300年ぶりにまたこうして会う日が来るとは思ってもみませんでした」

「それに関しては俺もだよ。俺が預けてる金や物は無事なんだよな?」

「当然です。ナナシ様が預けて下さった金品や道具に関しては全て最高の状態で保管しております。しかしどうやって復活を?もしやあの時処刑されたのはナナシ様に似たダミーだったのでしょうか?」

「いや、あの時死んだのは確かに俺だ。その事も含めてアストライアには話す。どうして俺がこの時代で復活させたのかも分かるかも知れないからな」


 そんな話をしていると最上階に到着した。

 エレベーターから降りてほんの5歩先に扉があり、秘書君がノックをしてから言う。


「会長、ナナシ様をお連れしました」

「入りなさい」


 そう扉の向こうで声が聞こえたので彼が扉を開けてくれた。

 部屋の先に居たのは金髪のスーツを着た女性。働くカッコいい女性という姿を体現したような姿で、髪はストレートで伸ばし、ピシッとしている。

 そんな彼女は俺の姿を見て思いっきりため息をついた。


「君を蘇生したのは一体どこの神だ。ナナシ君は分かっているのか?」

「さぁ?俺もまさか死んで300年後に復活させられるだなんて思ってなかったから驚いたよ。これも日ごろの行いが良かったからだろうな」

「君が言った所で全く説得力がない。強盗に強姦、殺人など好きにやっていた君のどこに善行が含まれるというんだね」

「ホムンクルスの実験で死者蘇生が出来るかどうか確かめている錬金術師をぶっ殺した時は喜んでくれただろ?」

「確かにあれは生と死のバランスを崩す行為だったから神としては事前に防がれてよかったというべきなのは認める。だがあれの表の顔は大賢者だぞ。お陰で混乱の方が大きかった」

「バカな教皇をぶっ殺した時は?」

「大賢者を殺した時以上の大混乱だったな」


 そんな俺の事をよく知っているアストライアに軽口をたたきながら来客用にソファーにドカッと座る。アストライアも俺の前のソファーに座って話をする気満々の様だ。

 秘書君は音もなく俺達の前にグラスを置き、ワインを注いでくれる。

 そのワインを一口飲んでから俺は聞く。


「金を下して愛車を取りに来たんだが、このカードで金は払える様になったって言うのは本当か?」

「本当だ。最近だとカードで支払いをしたいためだけに銀行に金を預けに来てくれる客もいる程だ。最先端の技術というのはどれも魅力的に見えるらしい。持って行くのはバイクだけか?」

「それと現金を少しだな。金貨を……10枚でいいか。それぐらいあれば十分だろ。あとこの世界の情報を聞きたい。アストライアなら俺が復活させた奴の心当たりとその理由、分かるんじゃないか」

「心当たりはあるが理由までは思い付かない。それに最近は神としても少々忙しいからな」


 アストライアが神として忙しいというのは本当に珍しい。

 神様という連中は基本的に暇らしい。やる事と言ったらぼんやりと人間の営みを眺めているだけで、人間が想像している様な凄いことは一切していないと言う。

 そんな神が忙しいと聞けば何事かと思うのは自然だろう。


「何があった」

「2柱の神が現在行方不明なんだ。それを探している」

「行方不明?どっかふらっといなくなったとかじゃなくて?と言うかそれ以前に何の神がいなくなったんだ?」

「……善と悪の神だ」


 善と悪、ね。

 そう言えば俺の称号の1つに悪神の代行者って称号があったな。

 あれと関係あるのか?


「いなくなってなんかヤバい事でもあったか?」

「人間達の営みには関係ないが、あの2柱は神々の中でかなり強力な存在だったんだ。だから急に居なくなったことで混乱が起きている。それに自称正義の神まで出てきたほどだ。あいつの傲慢さは神の中でも1、2を争う」

「ふ~ん。で、その自称神の正体はどこの神?」

「光だ。太陽神の子で本当は大した事がないのだが、自ら正義を名乗る事で人間達からの信仰心が増している。そのせいで少しずつ力を付けてきていてな、さらに調子に乗っているせいで神々もうかつに手を出せない状況なのだ」

「どこにでもバカな奴はいるな。で、その行方不明の2人ってアストライアと何か関係あるのか?」

「……私の役割は均衡を保つ事。善と悪ほどバランスを保つ事は難しいのに、あの2柱がいなくなったせいで忙しくなった。それに人間の善悪ほどバランスを保たないといけない重要な問題だと神々を受け止めている。どちらか一方の力が強くなり過ぎると神々への反逆も視野に入れておかなければならなくなるからな」


 どこか寂しそうに言うアストライア。

 本当は面倒以外の感情も含まれているというのが見え隠れしている。

 なので俺は色々ぶっちゃける。


「多分だけど片方の神の居場所は知ってるぞ」

「片方か……片方だけでも?ちょっと待て、片方の神の居場所を知っているというのは本当か!?」

「お、おう。多分だけど」

「どっちだ!!どっちの神だ!!できれば善の方が好ましいのだが!!」

「た、多分善の方だって!!今から説明するから前乗りになるな!!」


 こいつマジで苦労しているんじゃないか?

 いくら何でも食い付き過ぎだろ。普段はクールキャラで何事も第三者目線で見てますよ~、平等に見てますよ~って感じの癖に。

 俺は更新したばっかりのカードを取り出し、称号の所を指差しながら言う。


「俺がこの世界に復活する際に増えていた称号だ。多分俺を復活させたのはその悪に関する神様で、助けて欲しいと言った相手が善の神なんじゃないか?どう言う神なのかまでは聞いてないけど」

「確かに。悪神の代行者と言う事は彼女の化身と言ってもいいぐらいの加護だ。それでどんな姿だった」

「彼女?あいつ女だったのか?幼い子供の姿だったから、男の子なのか女の子なのか分かんなかったんだけど」

「彼女だ。彼女はそうやって幼い少女の姿をして相手をからかうのが趣味なんだ。それで助けて欲しいという相手の特徴は?」

「大神殿に閉じ込められている男の事しか聞いてない。善の神の可能性はあるか?」

「十分にあり得る。あの2人は幼い男の子と女の子の姿をしていたが、夫婦仲は非常に良かったからな。恐らく夫を救うために、自称正義の神に対して最大の嫌がらせを行おうとしているんだろう。それに選ばれたのがナナシだった訳だ」

「俺が最大の嫌がらせね。と言うかあの見た目で結婚してんの?同い年ぐらいなら見た目的に問題なさそうだけど、そうじゃなかったらヤバいぞ」

「2柱とも見た目は似てるからヤバい状況にはならない」

「あと個人的に善と悪の神様が夫婦って言うのも正直意外。大抵の神話だといがみ合っている方が多くない?」

「それは善と悪は表裏一体であるという教えのせいだ。どのような善行も見方を変えれば悪行となる。どのような悪行も見方を変えれば善行になる。こんな感じだ」

「それに関しては俺も納得できない面がないとは言わないが……意外過ぎるだろ。あと神様同士の問題なら直接ぶん殴ればいいんじゃねぇの?」


 俺はずっと思っていた事を言ってみた。

 詳しいことは分からないが、神様と言えば人間よりも凄い存在なのではないかという想像がある。それに他人に任せるよりも自分でやった方が効率がいい気がする。

 俺のような適当な奴に任せるより、自分でやった方がスッキリするだろうしな。

 そう思って聞いてみたがアストライアの答えは意外な物だった。


「だから最大の嫌がらせだと言っただろ。ナナシを使った方が最も彼女の復讐心を満たす物だと判断したからだ」

「復讐心を満たす、ね。人に任せてスッキリする物かね?」

「まず人間が神に一矢報いる。これは神にとってとてつもない敗北感と挫折を与える事が出来る。神は超常の存在であり、それをただの人間が超える事なんて滅多にない」

「まぁ……確かに?」

「さらに神は直接人間に手を下してはいけないというルールが存在する」

「え、そうなの?」


 目の前にアストライアと言う神がいるのに、直接人間に手を下してはいけないなんてルールが存在するだなんて思いもしなかった。

 それに対してアストライアは自慢げに言う。


「その辺りは少し調整した。私がしているのはただ人間の真似事をしているだけだからな、あくまでも直接手を下すというのは暴力的な事に限定している。つまり神は人間に対して攻撃を行う事が出来ないというルールだ。自称正義の神も神託と言って信者共の前に現れているしな」

「直接攻撃できないだけか。つまり自称正義の神が信者共に俺の事を殺せと言えば殺しに来るんだろ?これって直接手を下してないって言えるのか?」

「私がそう定めたから下していないという事になる。それにあの悪神は自称正義の神を嗤いたいのさ。人間ごときに計画を潰された、とね」


 計画ね……宗教関係者って何で地位が高いんだ?たかがとある神を信仰してますよってだけの話なのに。

 まとめるとこういう事か?

 悪の神様は夫である善の神を救いたい。おそらく善の神を閉じ込めた張本人である自称正義の神を最大の嫌がらせ、復讐をしたいと考えてる。

 そこで丁度俺がゲーム内で死んだので、復活させる代わりに復讐を遂行させようとしている。

 こんな所か。


「全く。復活させてくれたのはありがたいが、俺じゃなくてもよかっただろうに」

「いや、実はナナシにも全く関係のない話でもないし、最も成功率が高いと思ったんだろうね」

「関係ないって当時の教皇をぶっ殺した事か?」

「それだけじゃないけど、今の勇者さ。あれの先祖と君は因縁がある」


 勇者と言うのは確か称号のはずだ。

 俺の大罪人とは真逆でどれだけの善行を行ってきたかによって与えられる称号だと聞いた事がある。

 強力な称号とは聞いているが、その代わり世界に1人だけの称号であり、現勇者が死んだからと言ってすぐ次の誰かに称号が移る訳ではないらしい。


 その勇者の先祖と俺に因縁がある?

 300年前と聞くと大仰に聞こえるが、普通にプレイしていた時と考えると……心当たりが多過ぎて分からない。

 どっかの犯した貴族の女の子の親か?それともぶっ殺した冒険者か騎士の家族?あ、奴隷にした冒険者と騎士の家族か?

 俺が考えているとアストライアは言う。


「ナナシを捕まえた6人の英雄の子孫だ。因縁があると言えるだろう」


 そう言われて俺は思い出したが、俺は素で聞いてしまう。


「俺とあいつらに因縁ってあったっけ?」


 俺がそう言うとアストライアはぽかんとした。

 そして少ししてから大笑いをする。


「そ、そうか。君にとっては何の因縁でもないのか……」

「だってあいつらが言っている事って他のぶっ殺した騎士や冒険者達と何も違いねぇぞ」

「く、くくくく……わ、私を笑い死にさせる気か!!彼らがどんな気持ちで現勇者を生み出したのか本当に知らないんだな!!」


 そう言ってさらに大笑いをし始めたので俺は秘書君に視線を送る。

 秘書君は苦笑いをしながら教えてくれた。


「彼の6大英雄はまたナナシ様のような方が現れてもいいように6大英雄同士の子孫をかならず結婚させ、またこのような事がない様にと自分達のスキルに関する情報や、レベリングに関する情報を残しました。その子孫は現在の教国で勇者の称号を得て重要な任務を受けているという話です」

「へ~。あいつらそんな事してたのか。自分達の代で最強になるのではなく、子孫達に任せるというのはある意味人間らしいと言えなくもないけど。それって呪いみたいなものだよな。偉大な先祖の願いっていうのはさ」

「その情報により現在の勇者は歴代最強とまで言われている。6大英雄が残した最強のスキル、美徳系スキルを全て得ているという情報もある」


 アストライアからその情報を聞いて俺はワインの飲む手を止めた。

 俺の大罪系スキルとは真逆の激レアスキル、通称美徳系スキル。

 俺が持っているのと同じように7種類存在し、かなり厄介なスキルだと聞いている。名称も不明であり、美徳と言っても具体的のどのようなスキルなのか不明のままなのだ。

 でも1つの矛盾を感じて俺は秘書君に聞く。


「でも6英雄だよな?俺もあいつらと戦ったから名称や細かい点は分からないけど、ある程度はどんなスキルなのか知っているつもりだ。でもあいつら1人に対して1つの美徳系スキルを持っていたとしたら、1つ足りないんじゃないか?」

「その最後のスキルを手に入れたのが最強の由来。世界初の美徳系スキル全てを手に入れた勇者として、信仰の一因になっていると噂で届いています」


 確かに、俺とは真逆だからな。

 俺は悪行でスキルを増やしていったのに対し、そいつは善行を積んで美徳系スキルを手に入れたのであれば信仰の対象になってもおかしくないのかも知れない。

 流石美徳系スキル。持ってるだけでモテモテだ。


「信仰信仰ってさっきから言ってるけど、信仰って神様的にやっぱり重要なの?」

「はい。信仰心が神への最大の供物となるので。そのために自称正義の神は信仰心を必死に集めているのでしょう。信仰心をそのまま力に変える事が出来ればある程度は力のある神になれます」

「それじゃ逆に信仰心が減ったら弱ると?」

「ええ。と言いましても元々ある程度は力があるので消滅するという事にはならないが、魔法でいう所のバフがなくなる、と言う感じですね」


 一気に俗っぽくなったな。

 アストライアはようやく落ち着くと俺に向かって言う。

 でもまだ笑い過ぎて腹が痛いのか手で押さえている。


「悪の神がナナシを利用する最大の理由はそれだよ。神が神に負けるというのはあまり信仰心が減らないけれど、神が人間に負けたとなれば信仰心はダダ下がりになる。おそらく君が悪行を行い続けている間に奴自身が現れるのを待つ気だろう。最初は信者達だけに任せるかも知れないけど、信者達がもう手がないと神にすがった時に君が神を倒す姿を見せて二度と神と名乗れない様にするのが目的だろう」

「それが最大の復讐?」

「そうだろうね。信仰心の無い神なんてクソ雑魚だよ。神同士の目から見ても落ちぶれた奴として見られるだろうね」


 なるほどね……それで悪い事ばっかりしろ、か。

 色々納得したので俺は背を伸ばした。聞きたい事は聞いたし、あとは愛車と金を引き出すだけだな。


「さてと。それじゃそろそろ愛車とか取りだしたいんだけど出来るか?」

「あ、時間を過ぎてしまいまった。引き出しは午前10時から午後5時までの間となっておりますので」

「……おい」

「そんなに急ぐほどの旅路ではないだろ。明日出すから今晩はゆっくりすればいい。良いホテルを紹介するぞ」


 アストライアはそんな事を言っているが、酒のせいで顔がほんのり赤くなっている。

 確かに急ぐような旅路ではないがこちらの予定を他人が乱したと考えると正直イラつく。

 そしてふと思いついたので俺は秘書君に聞く。


「ところでアストライアってこれ以上仕事あるのか?」

「いや、今日はもうない」

「それじゃアストライア。お前の家に泊まらせろ」

「ん?それは構わないが……大したもてなしは出来ないぞ?」

「別にいい。目的は別だからな」


 という事で俺はアストライアの家に一泊した。

 そしてアストライアの事を襲った。

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