ジラントの強襲
大監獄から別の町に移動しようと思ってテントなどを片付けている俺達。
それじゃ次はどこに行こうかと相談しているとレナが勢いよく振りむいた。
「レナ?急にどうした」
俺の声にすぐ答えないレナは珍しい。
「ユウ。結界お願い」
「分かった」
ユウもレナの反応に違和感を覚えたのか素直に結界を張る。
そしてすぐにレナが忌々しい表情をしながら俺に教えてくれる。
「あのバカ。こんな所にも来るだなんて。ナナシ様、数秒後にバカトカゲが来ます」
「今俺も捉えた。あいつ何しに来たんだ?」
俺の『森羅万象』にも反応があった。
レナが嫌うドラゴン、ジラントが高速で近付いて来ている。
その大きさは……以前見た時よりもかなり大きくなっていた。
「デッケー、ジラントの奴あんなでっかくなってたのか」
「あれがドラゴン……本当に大きいね~」
ジラントの大きさは100メートルくらいで立派なドラゴン型である。
背中には一対の翼に2本の角、ピンク色の鱗に関しては前より艶が良くなっているのではないだろうか。
ユウもその大きさに圧倒されており、レナは本当に忌々しそうにジラントの事を見ている。
そのジラントは大監獄に向かってドーン。
激突して塔を破壊していた。
「…………本当に何してんだあいつ?」
「恐らくあの塔にある宝を奪おうとしているのでしょう。ジラントは人間の国に対してあのように突っ込み、宝や武器を奪っていくそうです」
「本当に武器も奪ってたのか。『強欲』持ってるくせにあんな突入するとか脳筋は変わらないな」
「本当にあのバカよりも先に『憤怒』を手に入れておいてよかったです」
「確かにあのサイズで憤怒持ってたらかなり厄介だな。あ、あとお前達の隷属を一時解除するからちょっとおいで」
「何で隷属を解除するの?」
ユウが双眼鏡でジラントの行動を眺めながら聞く。
すっかり忘れている様なので改めてユウに言う。
「本当に忘れてるんだな。ユウはどっかの誰かさんから俺が奪ったこと忘れたのか?」
「………………そう言えばあの時なんで所有者が神様からナナシに変わったんだっけ?」
「俺が『強欲』で奪ったからだよ!それと同じ事をされたら困るから契約解除しておくんだよ」
「なるほど。でもそれでどうにかなる物なの?」
「最低でも俺の所有物ではなくなるからな。ジラントの命令を聞いて襲い掛かられるリスクは減らせる。それでも俺達の装備は奪われる可能性が高いけどな」
説明しながら2人の隷属を解除した。
それにしてもジラントの奴本当に武器や鎧を『強欲』で奪ってる。
ドラゴンが襲撃してきたので飛び出してきた看守達だが、すぐにジラントに武器や鎧を奪われてあっと言う間に裸になってしまう。
「ありゃ、18禁」
「貧相な身体ですね。やはりレベルによって筋力も変化するのでしょうか?」
「おお~、ナナシ以外の男の人の裸ってあんな感じなんだ」
のんびりやっている俺達。でも実際に戦っている看守達は大変だ。
何せパンツ1つ残らず全て奪われるのだからたまったもんじゃない。
恥ずかしいというだけではなく、面倒だからと言って裸のまま戦えば普通は死ぬ。
肉体的には人間は非常に脆弱だ。
それはこの世界でも変わらず、と言うかわざとじゃね?と言いたくなるくらい弱い。
何せ人間以外にも人類は存在している。
すぐそばにいるレナも人類だし、ジラントも今はドラゴンの見た目をしているが人類だ。
他にもエルフとかドワーフとか人魚が居る。
あれ?アストライアも含めれば神様も人類に含まれるのかな?
とにかくこの世界の人類は人間、獣人、龍人、エルフ、ドワーフ、人魚の6種族が一般的だ。
アストライアみたいなのは普通は知られてないし。
その中でもっとも初期ステータスが低いのが人間だ。
つまりレベル1の状態で最もステータスが低いのが人間で、他の5種族は普通に人間より高いし、あとは特徴的にステータスの成長に幅あるくらいか。
話は戻してこの中で最もジラントと戦えるのはレナだろう。
レナは獣人で武器に頼った戦い方はしない。それに今来ている服も人型になっているから来ているのであって獣型の場合服は必要としない。
と言うかエチケット的な意味でしか服を着ていないのでぶっちゃけ人型でも素っ裸で戦える。
つまり最も道具に依存していない戦い方をする相手じゃないと『強欲』に勝てる要素は少ない。
ただ……理不尽な大罪スキルなので他のスキルも強奪する事ができるというのが1番厄介なんだよな……
流石に身に付けているアイテムほど奪いやすくはないし、狙ったスキルを手に入れると考えればかなりのレベル差がないと厳しい。
俺が検証した中では最低でもレベル20は離れていないと狙ったスキルを奪う事はできない。
多分レナとジラントのレベル差はそんなにないだろうからスキルは奪えないと信じたい。
で、そうなると問題はユウの方だ。
ユウの現在のレベルは62、悪くはないがジラントを相手にするのには厳し過ぎる。
ここで結界を張って身を守っている方がよっぽどいい。
俺はジラントとの戦闘になってもいい様に装備を少し変更。
極夜と服をしまい、武器は装備せず服も何の効果もないただのジャージに着替えた。
ベレトが前に着た時にダサいと怒られたな。
で、一応装備を1番しょうもない奴に代えて戦う準備は完了。
アイテムは奪われる可能性が高いので身に付けずに戦うのがセオリーだ。
ま、人間にはきついけど。
実際武器を奪われても戦い続けられる奴はそう多くないからね~。
特に人間は武器に依存している所があるし、武器を奪われる可能性なんて考えた事もないんじゃないだろうか。
例えスキルの力じゃなくても殺された後に奪われれば関係ないというのに。
「それにしても……ジラントのやつ塔のてっぺんに頭突っ込んでから動きがほぼ止まったな」
「確かあそこには武器ではなく宝物庫があると言っておりませんでしたっけ?」
「あ~それじゃあいつ宝分捕っていくつもりだ。相変わらずドラゴンって言うのは宝石に目がないな」
「ドラゴン手そんなに宝石が好きなの?」
「宝石も好きだが金の延べ棒も大好きだぞ。ドラゴンは必ず宝物庫を持ってるし、どれくらいの宝を持っているかもモテる基準だからな」
「それはナナシ様も負けていないと思いますが」
「でも俺の場合武器を調達した時のおまけだからな~。300年間何もしてなかった訳だし他の連中の方が宝持ってるだろ」
あいつら金塊でベッド作りたがるからな~。俺から見たら金塊のプールだけど。
お、ポラリスの上位陣が攻撃し始めた。
レベル50あるからか頑張ってるね~。
看守所長は魔法で攻撃、戦車野郎は槍で攻撃か。
あいつらドラゴンの事舐め過ぎじゃね?
たった2人でドラゴンを倒せるほどドラゴンはヤワじゃない。
それこそジラントレベルの血統になれば国1つが存亡をかけて戦うレベルの相手だ。
もっと分かりやすく言えばゴ〇ラだよゴ〇ラ。国全体でどうにかしようってやらないと絶対に勝てないから。
「あ、看守所長が尻尾にやられちゃった。凄く飛んでる」
「うるさくて尻尾で叩かれたからな。戦車野郎は……あ、あれ死んだな」
おそらく『強欲』で戦車を奪われた後、パンツ以外はすべて強欲で奪われ、思いっきり殴られた。
あれで生きてたら奇跡だよ。しかも地面に突き刺すような拳だったし、地面と拳のサンドイッチでぺしゃんこだ。
「宝の強奪、完了したようです」
レナの言葉を聞いて顔をあげるとジラントは飛び立った。
それだけで風が人々を吹き飛ばし、ゴロゴロと転がっていく。
ただ気になったのはジラントは1度俺の事を確認したのにこの場では喧嘩を売らなかった事だ。
昔は会うたびに喧嘩を売られ、勝手に一族のプライドをかけて~なんて言ってきたが、少しは大人になったのだろうか?
とにかく、世界最大の大監獄はジラントの襲撃により半壊、それを好機と思った囚人たちが世界各地に散らばったのだった。