暴食の罪人
ユニコーン2匹を仕留めて戻ってすぐに飯。
その間にも俺達は状況を確認し合う。
「それじゃそっちは飯食ったら家に帰るんだな」
「ああ。息子の病も治った。しばらくはユニコーンの間引きをお前達がしてくれるのでいる必要がない。故に1度姿を消す」
「ポラリスの連中はしつこいからな。その方が安全だろうな」
「我々に用がある時は……“聖なる泉”と言うギルドに来い。我々はそこにいる」
「聖なる泉ね。分かった」
こうして恩を返してもらうために居場所も突き止めたし、まぁいい方だろう。
それにしても密猟組織が聖なる泉ってギャグ?
と言っても今行った場所はおそらくいくつかある身を隠すための拠点の1つでしかないだろうがな。
そう思いながら飯を食っているとおっさんは聞く。
「聞いていいか」
「どうぞ」
「お前達こそ何故この森に来た。聖獣から取れる素材が目的のようには見えない」
「俺達の目的はスキルの取得だ。大罪スキルって聞いた事ないか?」
「大罪スキル……あれは実在するのか!?」
「お。って事は話には出た事あるんだ」
「話と言うよりは伝承、噂話の域を出ないがその1つがここに?」
「そう。と言っても取得条件が聖獣を100匹食べる事だ。今の状況じゃ結構難しいと思うぞ」
俺があっさりと取得条件を言うとおっさんが何か驚いた様な、疑問に思うような、心当たりがあるような顔をごちゃまぜにした表情を作る。
そして確認を取るように話し始める。
「それは100種類ではなく?」
「100匹だな。聖獣認定されている獣は100種もいないだろ」
「ラタトスクのような小さな聖獣もカウントされるのか?」
「されるな」
「…………」
「…………」
え、もしかして取得条件満たしてそうな奴存在するの??
「え、誰だ?誰だその条件満たしてそうな奴」
「……言えん!」
「行ってくれたら今までの恩全部満たした事にしていいからさ!!」
「それでも言えん!!」
「制御できないとそいつもそいつの周りも結構危険な目に遭うんだよ!!」
強力なスキル程制御が難しい。
スイッチのオンオフすら出来ない常時発動型スキルだってある。
もしそれが大罪系スキルだったら?
大災害確定です。
「今すぐ言え!!俺はそれを確認しに来たんだよ!!」
「殺されても言わん!!」
「だからそいつもそいつの周りも――」
「うわ!?」
おっさんと一悶着起こしそうになっていると少年が何かに驚いた。
何だと振り返ってみたが特に変な様子はない。
何か落としたようには見えないし、特に変な事は……
っと思っている間に少年が急に落ちた。
まるで落とし穴に落っこちる様な感じで急に落ちたとしか表現できない消え方に俺はもしかしてと思いながら駆け寄る。
「わ!?だいじょう――」
「ユウは触るな!!」
落ちる少年にユウが手を伸ばそうとしたが、俺の叫びで手を引っ込めた。
それでいい。
今の少年は非常に危険な存在だ。今のユウが少年に触れたら、手を失っていた。
代わりに俺が少年のを掴み、これ以上落ちないようにする。
だが代わりにHPとMPがガリガリ失っていく。
「兄ちゃん!!」
「少年!!『暴食』を止めろ!!」
「え!!何の事!?」
「たった今お前は『暴食』のスキルを手に入れた!!お前は今全くそのスキルの制御ができていない!!制御出来なくてもONOFFくらいはできるはずだ!!」
「ほ、本当にできるの!?」
「もうお前の力だ!!できると信じてやれ!!」
それにしても俺の時よりも酷いかも知れない。
俺は初めて『暴食』を得た時に同じように落っこちたが、すぐに驚いて暴食を止めてしまった。
だが少年はその暴食を止める事すらまだできていない。もしこの状態で俺以外の誰かと触れば、食い殺される。
「ど、どうやったらできるの!?」
「まずは落ち着いて!頭の中と言うか心の中と言うか、とにかく確かにスキルは存在する!!それを確認して力を閉じると強くイメージしろ!!そうすればOFFにするくらいはできる!!」
まさかと思うが、少年がスキルを得るのがこれが初めてじゃないだろうな?
スキルの止め方も知らないとなるとその可能性が非常に高いが。
少年は必死に念じる様な顔を作ると俺のHPとMPの減少が止まった。
ホッとしながら俺も『暴食』を停止。少年を地面の上にあげて一息ついた。
「あ~驚いた。無事か?少年」
「う、うん。今の何?僕どうなったの??」
「暴食って言うとんでもない強いスキルを急に手に入れたからああなっただけ。これからは制御できるように訓練しないと危険だぞ」
「ど、どんなスキルなの?」
「簡単に言うと振れた物全てをHPとMPに変換する理不尽スキル。魔力に触れればMPになり、物質に触れればHPに変換される。つまり全部食べるんだよ、土も空気も人も魔物も関係なく全部食い尽くす。それが暴食ってスキルだ」
「そ、それじゃ急に僕が落ちたのって……」
「制御出来ず地面を食べたから、だろうな。俺が手を取らなかったらあのまま世界の裏側まで落ち続けてただろうな」
もしくはマントルの真ん中に留まり続けるか。
まぁ振れた物全てをHPMPに変換できると言っても何の耐性も無ければ火傷もするし毒状態にもなる。
俺は状態異常無効を持っているから問題ないけど、少年は持ってなさそうだから普通に死ぬか。
少年は訳が分からないという表情をしながら急に得た力の戸惑っている。
これは……しばらく俺が面倒見ないとダメか?
俺以外の奴が触れれば多分あっと言う間に食い殺される。
でも俺なら『暴食』をぶつける事で相殺する事ができる。
正確には食い殺し合うっていう表現の方があっていると思うが。
「とにかく、しばらくはここに残って制御できるようになるまで他の奴に触れない方が良い。あまり俺の傍から離れるなよ」
「父ちゃんもダメか?」
「ダメに決まってるだろ。むしろ制御出来るまでは親しい奴から離れている方が賢い。今の少年は誰彼構わず食い殺す危険な存在だ、お前の親食い殺したくないなら今は我慢しな」
俺が厳しく言うと少年は肩を震わせながら何度も頷く。
自分の親を食い殺すと聞かされてビビらない子供はいない。普通なら親を殺す事にためらう。
だがおっさんは俺の前に出て銃を構える。
「うちの子をどうするつもりだ!!」
「別に、ただ暴食の制御方法を教えるだけだ。それ以上の事はしない」
「貴様は怪し過ぎる!!暴食に関する情報を持っていたり、今はもう誰も使えないと聞く空間魔法を使ったりと、まるで――」
「『大罪人の様だ』?」
「!?」
お、当たった当たった。
だって俺その『大罪人』だし。
「その通り、俺は大罪人だよ。300年前にポラリスの連中にぶっ殺された例の大罪人だ」
「ば、バカな……いや、大罪人の名をかたるただの罪人だろう!!死者蘇生は神々が禁じた最大の禁呪だ!!許されるわけがない!!」
「信じる信じないは好きにしろ。どうでもいい。問題はお前の息子の方だ。このまま暴食を制御出来ずにつれて帰ったら本人の意思に関係なく何を起こすかさっぱり分からない。その方がよっぽど危険だと思うが?」
「私がスキルの使い方を教える!それでいいだろう!!」
「そこら辺にあるスキルの使い方を教える訳じゃないんだ。一歩制御を間違えれば親しい誰かを簡単に殺せる大罪スキル、その使い方を教えられるのは同じ『暴食』を持っている俺しかいない」
「既に息子は――」
「大罪スキルを甘く見るなよ。俺は使い方を教えてくれる誰かなんて居なくて制御するのにメチャクチャ苦労した。その間にどれだけの人間を食い殺したか知ってるか?どれだけの数の人間が犠牲になったか知ってるか?少年の力の暴走は同じ力を持つ俺にしか教えられない、そして暴走した時に止められるのも俺しかないない。その銃に関するスキルしか持ってなさそうなおっさんに自分の子供を救えると思ってるのか」
俺は言葉を発するたびに感情が冷めていく事に気が付きながらも止めずに言い続ける。
「俺は悪人だ。大罪人だ。どうでもいい人間がどれだけ死のうが知ったこっちゃない。でもな、その子は違うだろ。少年は悪人でも罪人でもない。そいつに罪を背負わせようとしているのなら――殺すぞ」
よく分からないが俺以外の奴は全員黙って動かない。
だから今のうちに聞いておく。
「少年。お前はどうする」
「……え?」
「俺の元で力を制御できるようになるか、それともできないまま外に出るか。選べ」
「……制御、出来るようになる?」
「なるんじゃない。するんだ」
「なら……お願い」
決断が速い事は良い事だ。
「それなら明日から暴食の制御を教えてやる。強くなれば大抵の理不尽には抵抗できる。大罪人の教え、叩き込んでやるよ」
ユウとは違い本当の意味で一から育てるのは初めてだ。
その事に少し面白いと感じながら、にやにやと笑うのだった。