表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/166

勇者を鍛える

 次の日の朝、久々に平和に起きるとユウはまだ俺の腕の中で寝ていた。

 穏やかに眠るその顔はどこにでもいる子供の表情で、ただの可愛い女の子でしかない。

 と言っても客観的に見た感想でしかなく、俺から見ればただの子供だが。

 でも子供がまだ寝ているし、俺ももう少し寝ているかと思っていると扉が開いた。


「ナナシ様、ユウ様。ご朝食の準備ができました」

「今行く」


 メイドサキュバスがそう言ってきたので仕方なく起きる。

 ユウの事も揺すると自然と目が覚めた。


「おはよう」

「おはよ。飯だってさ、歯磨いていくぞ」

「ん」


 眠たそうにしている割には結構意識しっかりしてるな。

 それぞれ着替えて飯を食いに行く。

 既に座っていたのはベレト。その表情は暗く、明らかに寝不足である事が分かる。

 サキュバスが夜更かしで寝不足と言うのも変だけど。


「よう。良い情報取れたか?」

「……全っ然ダメだった!!」


 俺達が席に着きながら聞くとベレトはテーブルに拳を振り下ろした。

 本当に大した情報を持っていなかったらしい。

 ここまで取り乱すなんて珍しいな。


「そこまで取り乱すなんてどんだけ雑魚だったんだよ」

「本当に雑魚よ。あれで上級隠者と絶対嘘、最低でも上級の中でも最下位よ。多分使い捨ての隠者ね。多分こいつ等が言っていたハーミット様って奴1人でやってるんでしょうね。詳しく調べてみたらこいつら全員に盗聴、監視用の魔法が付与されてた。私達の事ももう知られちゃってる。話を聞かれていたかどうかまでは分からないけど、部下を隷属させられたのは分かってると思う」

「俺の姿見られたかね?」

「監視の魔法は本人達の目を媒体にしていたみたいだから見られてはいないと思う。でも声は聞かれてると思うからもしかしたら……」

「声だけなら大丈夫だろ。まぁポラリスのヤバい所に目を付けられたと考えると今後不気味だが、まぁ力尽くでもどうとでもなる相手だからな。多分大丈夫だろ」

「多分って……世界一面倒な所に目を付けられたって言ってもおかしくないでしょ。それに、ナナシは大丈夫でもユウちゃんが大丈夫とは限らないでしょ」


 ベレトに言われて初めて、本当に初めて誰かを守ると言う行為をしなければならないと感じた。

 俺が旅をしながらレベリングしている時は誰かとつるんでいる時もあったが、守ってやらないといけないと感じた事はない。

 ぶっちゃけ俺とつるんでいた連中だ。ある程度強いし、悪知恵もあったしで面倒を見てやらないといけないと考えた事もない。

 だから俺が守ってやらないといけない。なんて思った事は初めてだ。


「……レベリングするか」

「ユウちゃんの?今レベルいくつなの?」

「ユウのレベルは53。半分だ」

「勇者にしてはレベル低いわね。もう少しあると思ってた」

「多分だけど温室栽培なんだろうよ。人間殺してないからレベリングの効率も悪いんじゃないか?」

「だよね~。人間殺す方が何故かレベリング効率が良いのは何でだろ?」

「確かに。経験値詰め込んでるんじゃね?」


 この世界の不思議なレベリング。モンスターよりもただのNPC、ただのNPCよりも戦闘職のNPC、戦闘職のNPCよりもプレイヤーを殺すとかなりの経験値を稼ぐ事ができる。

 何でこうなっているのかは分からないが、多分ゲームマスターだったあの悪神の設定としか考えてなかったが、現実となると疑問が残る。

 ゲームは設定の一言で片付けられるが、現実だと思うとやっぱり不思議に思う。

 なんでモンスターよりも人間を殺す方がレベリング効率がいいのか、ゲームの設定ではなくこの世界に合わせていたと言う方が正しいようなのでこの世界に合わせた結果と言える。

 そうなるとこの世界はなぜ人を殺す方がレベルが上がるのか、その疑問が残るが……どうせ悪神が何かしたんだろうけど。


「ま、考えても仕方ねぇ。どうせ人間同士ぶっ殺し合っている方が面白いとか、そんなところだろ。深く考える事ねぇよ」

「それはそうかも知れないけど……それで、ユウちゃんに人殺しさせるの?」

「……もう少し考えてから決める。普通ならさせないと言う所なんだろうが」

「そうだね。でももう少し様子見てからでもいいんじゃない。結論付けるのはもう少し後でもいいでしょ」

「だな。本人が人を殺してでも早く強くなりたいと思うのならそれでいいし、殺したくないと言うのであればモンスターを狩り続ければいいさ」


 気軽に俺達は話す。

 ユウは俺達の話に一切気にせず食事を続ける。

 最近は味が濃いとか言わなくなってきたし、心なしかうまそうに食べている様に感じる。

 いつまでも塩が少し入っただけでしょっぱいと言われるのはちょっと面倒だったから本当に助かる。


「ユウは人を殺してでも強くなりたいか?」


 気になった事を聞くとユウはゆっくりと首を左右に傾けながら考え、答えた。


「強くなりたいとは思わない。でも……」

「でも?」

「足手まといはヤダ」


 そういうユウの視線は真っ直ぐで、力を求めている事が分かった。


「分かった。それじゃ今日から修行な」

「修行?」

「力が必ずしもレベルによる物だけじゃないって事だ。レベルに加算されなくても強くなる方法は結構ある。そちらを鍛えていくって事だ」


 ユウはよく分からないらしく、首を傾げていたがこればっかりは経験だな。

 そうと決まれば旅は徒歩で行う方がいいかな?急ぐ理由もないし。


「ベレト、少しだけユウの修行に付き合ってくれ。そして奴隷達は末端の連中から仲間殺しをさせて少しでも情報網を狭めるために使う」

「奴隷の方は分かったけど……私ユウちゃんの修行に付き合わなとダメ?」

「俺の居ない300年の間にレベルは上がっただろ?元々お前はハメ技で強くなってきたんだからレベル差はあってない様な物だろ」

「そうかも知れないけど~……状態異常効くのかな……」


 ベレトが不安に思うのも無理ないが、多分大丈夫だろ。

 ユウを温室育ちと言う理由は戦いの経験が少ない様に感じたからだ。

 プレイヤーの中ではレベルだけが高く、実戦経験の少ないプレイヤーの事を温室育ちと言ってバカにされていた。それと同じようにユウはレベルの割に戦闘経験が少ない様に感じる。

 多分ある程度レベルが上がるまで強い誰かとパーティーを組んでレベリングしてもらったんだろう。

 もっと分かりやすく言うとちぐはぐなんだよな。


「効くか効かないかは分からないが、多分大丈夫だろ。基本的に防御特化の亀だし」

「亀じゃない。勇者」

「反論言うだけ感情も出てきたみたいだし、順調だな」


 ユウが無表情で振り向いて言うからちょっとだけ感情が出てきた事が分かる。

 ほんの少し前までなら否定なんてしないだろうしな。


「さて。それじゃ本格的に『最強勇者計画』でも始めようか」

「ネーミングセンスないね……それに最強にしちゃっていいの?いつか倒しに来るかもしれないのに」

「そん時は適当にあしらえばいいさ。もしくは逃げの一択とか?」

「大罪人の名が泣くよ」

「周りの連中が勝手に言いだした事だから別にいい」


 ぶっちゃけ大罪人って通り名もどうよ?個人的にカッコいいと言うよりも面倒な方が大きいんだけど。

 他のプレイヤーはさ、〇〇の何とか~って感じでプレイスタイル、所持してるレアスキルなんかで呼ばれてたのに。

 一応称号で大罪を背負う者あるけどさ。そこから来たのかね?


「とにかく、ユウはスキルの効果もあって防御力は俺以上だ。その代わり攻撃がカンターばっかりで自分から攻めきれてないし、決め技と言うか必殺技もない。とにかく攻撃がへたっぴなんだよ。だからまずそこからやる」

「必殺技ね……美徳系スキルって元々防御極振りみたいじゃない。攻撃力のあるスキルあるの?」

「ぶっちゃけない。本当に美徳系スキルしか持ってないから攻撃力は皆無だ。美徳系も何らかの統合スキルなんだろうが……何と統合しているのかまでは分からない。隷属化して見れるステータスは現在の物だけだからな」

「ところで疑問なんだけど、美徳系スキルは何で奪わないの?『強欲』でなら奪えるんじゃない?」

「え?普通に要らねぇ」


 俺が素で返すとベレトは随分驚いた表情を作る。

 そしてユウは自分が要らないと言われたように感じたのか、雰囲気がひどくしょんぼりした空気を作った。

 俺は飯を食べ終わったユウを膝の上に座らせ、頭を撫でながら理由を言う。


「元々俺はヒットアンドアウェイ戦法だから硬い盾は必要ないし、大罪スキルの方が使い慣れているから今更スキルを変えたいとも思ってない。それにユウのスキルがどんな物なのか、知ろうと思えばいくらでも調べる方法もある。今みたいに隷属化させてステータスを見るだけじゃなく、『嫉妬』でユウに変身して実際にスキルがどんな物か確かめてみるって手段もある。なんだかんだで無理矢理奪う必要もないんだよ」

「レアスキルだと聞いて手当たり次第にスキルを奪っていった大罪人は誰よ?」

「あの時はまだ方向性決まってなかった頃だっただけだ。お前と会った時はまだレベル30前後だったはずだぞ」

「あの時点でまだ30って本当に規格外よね、ナナシって」


 あの時はまだまだ弱かったと思うが?

 そう思いながら朝食を食べ終える。


「それじゃユウ。修行始めるか」

「ん」


 こうして勇者は大罪人に戦い方を教えられるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ