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隠者を捕まえる

 夜。

 隠者ハーミット達は人々に紛れながら勇者に関する情報を探っていた。

 愛の国では夜でも人の出入りが激しい。昼間に仕事を終え夜に愛を語る者も多いし、夜に愛をむさぼる事を仕事にしている女もいる。

 そのせいかこの国はなかなか眠らない。

 暗闇に乗じて暗殺するには不向きだが、情報を収集するのは楽であった。


 上位隠者達は神官より神託を聞かされた。


『勇者は大罪人に捕らわれている。勇者は色欲の国に居る』


 勇者の存在を知っている隠者達は即座に愛の国に向かった。

 ポラリスでは欲に溺れる事を罪としているため愛の国は色欲の国と言われている。

 色に溺れた者達はだらしなく、吐き気の催す者達とポラリスでは教育しているため彼らは愛の国に来てすぐにその意味を知った。


 愛の国で生きている者達は様々な臭いが混じり合い、不快な異臭を放っていると感じた。

 それは愛の国で売られている香水だったり、男女、もしくは同性同士で混じり合った際に付着してしまった匂いが混じっているからだ。

 勇者ほどではないにしろ、彼らは香水や男女が交わった臭いに慣れていない。

 情報収集で娼館や酒場に行ったりするが、これほど酷いとは思ってもみなかった。これならまだ掃き溜めやヘドロの匂いの方がまだマシだと思う隠者も居た。

 だがこれは勇者発見のための重要な任務であり、手を抜く事は出来ない。


 この愛の国で情報を集める最も効率的な方法は愛し合う事だ。

 だから彼らは性別に関係なく抱いて、抱かれてを繰り返す。

 その結果集まった情報は以下の通りだ。


 この国の支配者であるサキュバスの屋敷に転がり込んだ男女がいる。

 男は成人しているが、女はまだ幼い。

 男は屋敷に居る条件として毎日サキュバスに身体を捧げている。


 あまりにも少ない情報だがいくつか重要な情報も混じっていた。

 まずはこの国の支配者であるサキュバス。これに関してはポラリスでもどこにいるのか他の情報部隊も捉えているので一切問題ない。

 そしておそらく女と言うのが勇者であると予想されている。

 勇者は神のご加護によりその肉体を清い姿のままでいられる加護をお与えになったと聞いている。ならばその女がサキュバスの屋敷にいるのはほぼ確定だろうと隠者達は報告した。


 しかし問題は男の方。

 男の戦闘能力は未知数であり、最低でも勇者と互角に渡り合えるだけの実力はあると考えていた。

 現在の勇者がどれほど強いのか隠者達は知らないが、勇者と認められた者が弱いはずがないと仮定しているので最大の警戒をする。


 そしてもう1つの方が問題なのだが、勇者がサキュバスに犯されていないかどうかだ。

 サキュバスは性別、年齢、魔物、関係なく相手を犯す存在としてポラリスでは知られている。そのため非常に下品な魔物として扱われている。

 そのサキュバスの根城に勇者がいる。

 それでは勇者がサキュバスに籠絡ろうらくされるとは思わないが、それでも汚されていたら大問題だ。


 そのため隠者達は即座にサキュバスの根城に乗り込む。

 神の加護を受けたマントは他の存在に気付かれず、結界も容易にすり抜ける事ができる優れ物だ。

 下等な色欲だけの魔物に我々を捕らえる事すら出来ない、そう考えている。


 屋敷の中は意外と静かであり、サキュバスが誰かを犯している様な声は一切聞こえない。

 その事に不審に思いながらも彼らは勇者を探す。1階から手当たり次第に調べ、広い屋敷を探し回る。

 1階には誰もおらず、サキュバスの1匹も現れない事から本当にこの屋敷であっているのかっという疑問が出てくるが情報が間違っている様には思えない。

 この国の汚らわしい者共から情報を取り、勇者と思われる少女が男性と共にこの屋敷に入るところまで確認済みである。

 なのに誰もいない。すでに逃げた後かと考えたが、まだ2階を調べていないので調べ終わってからもう一度情報を確認しようと言う事になった。


 2階には客室ばかりで、しかも口に出す事すら恥ずかしいような道具や部屋ばかり。

 この国は狂っていると隠者達が考えている時に、ようやく普通と言える部屋を見付けた。

 その部屋から静かな寝息が聞こえ、誰かいるのは間違いない。

 隠者達はベッドで静かに眠る者の顔を確認するために――


「本当にお前らってバカだよな。いや、傲慢。と言うべきか」


 突然の声に振り返ろうとしたが、身体が動かない。

 振り向く事も、それ以前に逃げる事すら出来ない。

 神の加護を受けたマントは当然身につけた状態なのに何故こちらに気が付けた。


「何の対策もなしに敵陣に侵入、ターゲットがどこにいるのかも把握せずに突っ込むバカさ加減。このゲームそこまでヌルゲーだったか?それとも俺がいなくなった事で気が緩んでたのか??やっぱ俺って必要悪だったんじゃね??」


 振り返る事も出来ずに首に何か冷たい物が触れる。

 武器の類かと思ったが平べったく刃物のような様子はない。武器ですらない。それならこれは何――


 ――


 深夜。

 どうやら下級の隠者だったらしい。

 下調べはどこにユウがいるのかだけであとは行きあたりばったり、ターゲットが屋敷のどこにいるのかも調べずに侵入するってどういう事?

 それに敵戦力が居る事も分かっているはずなのにどれだけの数、どれくらい強いのかも調べずに突入するとか、バカとしか言いようがない。

 それともあれか?さっさとユウの事を取り返すために上から急かされたとか?


 まぁ考えても仕方がない。答えはもう既に手に入れている。

 今俺が隠者達につけた首輪は『隷属の首輪』だ。違法取引されている相手を隷属させるアイテムであり、問答無用で首輪をはめた相手に従う。

 300年後のこの世界だとこのアイテム補充できるのかな……


「ユウ。もういいぞ」


 寝たふりをしていたユウに言うとすぐに起きて俺の元に駆け寄ってくる。

 首輪をはめた隠者の数は5人。一切傷を付けず捕獲したのだから上出来だろう。


「あら意外。てっきり血の海になると思ってたのに、スマートに捕まえたわね」


 そう言うのはベレト。どうやら俺が一切容赦せず殺すと考えていたらしい。


「あのな、振りとは言えユウが寝てるのに返り血まみれにする訳にはいかないだろ。それにこの部屋借りてるし、血痕って落とし辛いじゃん。クリーニング代請求されてもパッと出せねぇよ」


 ため息交じりに言うとベレトはくすくすと笑いながら言う。


「相変わらずズレているわね。それよりその奴隷にした隠者達どうするの?」

「情報を引き出した後に仲間殺しをさせる。適当に部下共を皆殺しにするよう言えば少しは動きに師匠を出すだろ。経験値は特に欲しくないが、怠惰のスキル実験にもなる。300年経った影響なのか、微妙に知らなかった新情報あったりするし」

「情報を引き出した後は適当に捨てるって事ね。相変わらなずの悪党っぷり♡」

「リサイクルと言ってくれ。こいつ等に自由意志はないけど」


 隷属の首輪をはめてから目がうつろになってハイライト消えてる。

 この演出は前と変わらないな。

 さて、隷属させた効果も変わらないのかな~。


「お前達の中で1番情報を持っているのは誰だ」


 右端に居た男が無言で前に出る。


「何故ここに来た」

「ハーミット様よりご指示がありました。勇者様が謎の存在にさらわれたので発見し、ポラリスに連れて帰るよう命令されました」

「それってただの上司?それとも教皇?」

「上司に当たるハーミット様です。我々の内部でハーミットと言われるのはハーミット様だけです」


 そんな奴がいたのか。

 てっきり総称と言う意味だけだと思っていたのでこれは面白い情報だ。

 つまりハーミットと言う誰かさんがいる訳だ。

 少し面白いな。いつかそのハーミットを相手にするかもしれない。

 そう思うといつ戦う事になるか楽しみだ。


「他に知っている上司はいるか」

「知っているのはハーミット様だけです」


 隷属の首輪をつけている間は嘘を付けない。

 だが言い方を変えると聞かれた事しか答えない。意識がない状態だからか、言われた事しか出来ないんだよな……

 その代わり傷付こうが手足を失おうが言われた事を死ぬまでし続けるから楽に使い捨て出来る。


「俺の方はもう聞く事ないが、そっちは何かある?」

「そうね。もう少し情報を引き出しておきたいわ。借りてもいい?」

「どうぞ。俺は寝る」


 俺はユウを連れて一緒にベッドに入る。

 それを見たベレトは頬を膨らませながら言う。


「ちょっと!ユウちゃんだけズルい!!」

「終わったらそいつら返して。仲間殺しさせるから」

「そこら辺は変わらないのね……今度はエッチしてよね」


 そう言ってベレトは渋々部屋を出て行った。

 俺はユウを抱き枕のようにしながら寝ようとしていると、ユウが聞く。


「エッチ、する?」

「しない。せめて子供が出来るようになってから言え。孕めない子供を抱く趣味はない」

「なら、孕む様になったら抱く?」

「そんな訳――」


 ないと言おうとしていた時に見たベレトの表情は、どこか真剣に聞いている様に感じた。

 何故そんな風に感じたのか俺自身分からない。でも何となく真剣に聞いている様に感じた。

 だから俺は抱きしめてその視線を合わせない様にしてから言う。


「お前が感情を取り戻して、本当の愛って奴を見付けた後に決めればいい。本当の愛って奴を探してるならそう簡単に身体を許すな」

「分かった」


 ユウはそう言うと静かに寝息を立て始める。

 俺は意外と感情を取り戻すのは早いのではないかと、想像しながらまぶたを閉じるのだった。

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