暴食の階層
「……これはまたけったいな場所だな」
「ここは『暴食』の階層です。何か変ですか?」
嬢ちゃんはそう聞くがやっぱり現実ではありえない光景だ。
『暴食』の階層は辺り一帯が全て食材でいっぱいだった。
ヘンゼルとグレーテルに出てきそうなお菓子の家。
シュワシュワと沸き立つコーラの泉。
ビルのように建つ巨大なマンガ肉
超巨大な野菜で出来たジャングル。
川には魚の切り身が泳いでいる。
人工的な建築物のような物は全て食材の組み合わせで建築されている。
俺達以外の生物がいるような気配はなく、本当に地面以外は全て食材で出来ているような奇妙な景色だ。
マンガとかでたまに見るが……やっぱ現実で見るとやっぱり違和感がすごい。
というか魚の切り身ってもう死んでるじゃん。
「これは……何というべきでしょうか。マスター」
「まぁうん。やっぱ変な世界だよな。ダンジョン内とは言え好き勝手しすぎだろ」
「しかし非常に良い匂いがします」
確かにあちこちから食欲を刺激する美味そうな匂いがあちらこちらから漂ってくる。
焼いた肉の匂い、新鮮な野菜の香りなど嗅いでいて心地よいほどだ。
でもここは嬢ちゃんが言っていた『暴食』の階層。
正直ここにある物を食べて本当に大丈夫なのかと心配してしまう。
「嬢ちゃん。ここにある物って食べても大丈夫なのか」
「えっと……大丈夫、でもないかも?」
「ずいぶん中途半端な言い方だな」
「まず前提としてここにある食べ物は全て『暴食』のご飯なの。だから勝手に食べると『暴食』が怒って襲ってくるの」
「身体に害はないのか」
「そこがすごく微妙で……いくら食べても空腹感が満たされないの」
「空腹感が満たされない?」
「うん。だから制限なく食べてすぐに太っちゃうの。しかも食べたらすぐにお腹についたりするからあまりお勧めはしないよ」
「もしかして……あれが成れの果てか?」
俺がそう指さしながら言ったのは丸々と太った豚だ。
いや、豚と一定のか分からないくらいパンパンに太っており、まるで空気を入れた風船のように真ん丸なので本当に豚なのかどうかも分からない。
嬢ちゃんは頷く。
「全員集合。絶対個々の食べ物だけは食べるなよ。あれ絶対無効系のスキル関係なく影響出るぞ」
「流石に……あのようになるのは困ります」
レナの一言に全員が頷いた。
誰だってあんな風船みたいにはなりたくないだろう。
そうなるとこの階層を担当している悪魔に早く会って試練をクリアしなければならない。
「で、ここを担当している悪魔はどこだ」
「えっと……あれだよ」
嬢ちゃんが指さす方にいたのは無心になって当たりの食べ物をとにかく食べるやせ細った誰かがいた。
ギリギリ悪魔だと分かるのは尾てい骨あたりから生える悪魔の尻尾だけ。
あと頭に豚?と思われる小さな三角の耳がある。
後はボロボロのズボンをはいているだけで悪魔どころか浮浪者のような風貌だ。
「本当にあれか?」
「あれだよ。お~い、『暴食』~」
嬢ちゃんが声をかけたがそいつは無心で食事を続ける。
回り込んで顔を見てみると何というか……食事を楽しんでいるようには見えない。
何と言えばいいのだろう。
とにかく食べて燃料を摂取しているというか、楽しんでいる様子は一切ない。
食事というのは生きる上で必要な行為だが、嗜好品としての部分も大きいと思う。
同じ料理を食べたとしても濃い味付けの方が好き、薄い味付けの方が好きと本人の好みによって大きく変わる。
例えばラーメン。
細麺が好きな人がいれば太麺が好きな人もいる、あっさり系が好きな人がいればこってり系が好きな人もいる、さらに醤油や塩、味噌など細かい味付けだってある。
何でそんなに細かく味を変えるのかといえば自分の好みに合わせた物を食べたいからだ。
だから食事は同時に嗜好品だと思っている。
なのに彼は一切うまそうに食事をとっている様子はない。
何故だろうと思いつつ、『暴食』の近くにあったステーキを試しに食べてみた。
…………なるほど。
これじゃ満足できない訳だ。
「ナナシ!それ食べちゃまずいんじゃないの!?」
「カロリー量は普通の食材と同じみたいだ。だがこれはひどい」
「えっと、何が?」
「一口でいいから食べてみな。いや、一口でいいって言うだろうな」
俺の妙な言い方に疑問を覚えたみんなは試しに食べてみる。
そしてみんなすぐに吐き出した。
「な、なにこれ!?おもちゃ?それとも粘土!?」
「香りはしますが……味がない?」
「マズ」
「知っている食材に似ているだけあって、知っている食感と全く違うと感じます」
「不味いわね……」
「……以前マスターが試しに作ってみたというカロリーバーに似ています。栄養価はありますが味はほとんどしない、乾パンの塊のような印象を受けます」
正直俺にとってはユウの表現、粘土を口にしているという表現の方が合っていると思う。
確かに見た目に関しては俺達の知る食材と同じだが、舌触り、食感、口の中に残る異物感などが食べ物であると認識できていない。
ユウの言う通り粘土で俺達の知る食材の形に似せて加工した、と言ったら誰もが納得するだろう。
とにかくこんなもの食べ物とはとても言えない。
「これ違うの?みんな同じ形してるのに」
嬢ちゃんは1人よく分からなそうにしている。
やはり嬢ちゃんは悪魔であり、本物の食材を食べたことがないからこんな感想が出てくるんだろう。
「お前ら悪魔って食べ物を食べたことあるのか」
「ないよ。知識の中だけでしか知らない」
「……やっぱあの悪の神ってスゲー中途半端なことするな。それでここでどんなことをすれば試練をクリアしたっているんだ」
「それは『暴食』の設定次第だから……どうなの『暴食』?」
嬢ちゃんは聞くが『暴食』は答えない。
かと思ったら俺を見て引っかくように手を伸ばした。
俺は避けると『暴食』は飢えた獣のように唸りながら俺に襲ってきた。




