閑話 ベレトの愛
ナナシが風呂に入ってからベレトは目を覚ました。
そんなベレトをじっと見ているのがユウだ。
ベレトはそんなユウを見ながら聞いてみる。
「愛について何か分かった?」
「分からない。ナナシはベレトとの性交に会いはない、ただの食事だと言っていた」
「そう……私は本気なんだけどな~」
そう言いながらベレトはベッドの上で横になりながらユウの事を見る。
「ねぇ。私の愛って分かり辛い?」
「分からない」
「そうよね……自分の感情も分かっていないくらいだしね」
その言葉に何か引っかかりを覚えたのかユウは首を傾げる。
その様子を見てベレトは1つユウにいい刺激になるだろうと思いながら話し始める。
「私はね、本気でナナシの事が好きよ。愛してる」
「何故?」
ユウは当然この話題に食い付いた。
愛とは何か、自身の持つスキルの中で唯一発動する事すら出来ないスキルを使う切っ掛けが見付かるかも知れないから。
表情には出ず、ユウ自身期待している事すら気付かず、ベレトに問う。
だがベレトは首を振ってからユウに言う。
「今のあなたじゃ理解なんて出来ないわよ。まずは感情を取り戻さなきゃ」
「どうしたら取り戻せる」
「まずは自分の気持ちに気が付く事。嫉妬でも怒りでも何でもいいのよ。もしくは色欲かしら」
「私にはない」
「あるわよ。だって濡れてるじゃない」
ベレトがユウの股を指差すと、ユウの股は確かに濡れていた。
指摘されてようやく気が付いたユウは羞恥心もないので何故こうなっているのか、と言う疑問の方に思考を運ばせる。
「尿意はないはず。何故?」
「それはナナシとエッチしたいって思ったからでしょ。それとも私の事を勇者様は抱きたいのかな?」
「私に性欲はない」
「性欲がないのにお股がグショグショになる訳ないじゃない。あなたは自分の感情に気が付いていないだけ、もしくは感情に気が付けけていないだけ」
そう指摘するベレトは確信しているかのように言うのでユウは何も言えない。
ベレトは息を吐きだしてからユウに話しかける。
「私は最初の頃ただのインプだった。しかも人間に捕まったサキュバスが産んだインプだったから扱いも最低でね……調教と言われてゴブリンと24時間生活させられてたからもう全身臭くて、ようやく終わったと思ったら今度はロリコン共の相手……モンスターで性に関する物ならどんな風に犯しても良いって考えているような連中ばっかりだったから、本当に最低よ……」
ベレトの目は遠くを見ながら何の感情もない表情をしていた。
今の自分はこんな表情をしているのかとユウは思う。
「そんなある日ついに逃げ出したの。何も考えずただ逃げ出して、お腹は凄く空いた状態だったけど走る力だけはあった。もう二度とあそこには戻りたくないって思いだけで走り続けた。
どれくらいは知ったのかは分からないけど、その時にはもう既にお腹は限界で、急いで精気を奪わなきゃって思った。だから人間を見付けて精気を奪おうと思ったけど、すぐ失敗した。
あの場所に居たせいか人間に対してトラウマを植え付けられたんでしょうね……人間を襲ったらそれ以上恐ろしい事をされる。あの場所以上にひどい事をされるんじゃないかって想像ばかりして、結局動けないままお腹を空かせてた」
何の感情もないまま話すベリトの言葉を黙ってじっと聞く。
しかし急にベリトの目に光が戻った。
「そんなときにナナシが現れたの。私は怯えて逃げる事も出来ない、ただ震えて痛い目に遭いたくない、酷い目に遭いたくないって感情だけで震えていたら、臭いって言って身体をキレイにしてもらった後連れていかれた。
初めて痛い事、怖い事をしない人間に会ったわ。ただ私の事を抱き上げて、『お前インプだろ。俺のMP吸っとけ』と言って私のお腹を満たしてくれた。
でもそれ以上に……温かかった」
その表情は安心しきった表情をしており、先程の性交をしている時と変わらない満足げな笑みを浮かべる。
「初めて温かいと感じたの。ホッとした、安心した、この人なら大丈夫って思えた。
その後は無責任に私の事を手放そうとしたから無理矢理付いて行って、ナナシのMPを食べてる間にサキュバスに進化して、更にサキュバスクイーンにまで進化した後にようやく独り立ちしたの。
その時に彼から力と自由を学んだわ。自由に生きるために罪を犯すけど、それは本当に力があるから出来る事で、普通はそんな事出来ない。だって凄く悪い事をしているのにやってくる兵士達を全員倒せるからって言って堂々と過ごしているんだから頭おかしいわ。
私はナナシと同じ事は出来ないけど、それでも罪を犯してでも欲しい物はあったから罪を犯しているの」
「罪?」
「この国を奪った事よ。当時の国王を魅了して私の傀儡にして、愛の国と言われるくらい発展させたの。表向きはただ同性愛を認める国だけど、裏では私達サキュバスが住み着いている訳だしね。だから私は今も罪を犯し続けているし、それを知っているからポラリスはこの国を敵視しているのよ」
話したい事を話してスッキリした様な表情を浮かべるベレト。
それに対してユウはさらに混乱している。
ポラリスの外側から見る世界、あの独房を守り続けている間にも様々な動きがあった事をユウは知らない。
しかし知ったからと言って何か感情が動く事もない。
「それで、結局ベレトの愛は何」
「私の愛はナナシに向いているって事。恩義から来る物だけど、これだって立派な愛よ。私はこの感情を大切にしていきたいし、誇りよ。だからユウちゃんもナナシと一緒に居れば自由と力が何なのか分かるはずよ。その過程で感情も自覚できるでしょうから頑張ってね♡」
そう言いながらユウの頭を撫でる。
自分の感情が本当に感情がまだあるのか、それ以前に愛を知る事ができるのか、様々な考えがユウの頭の中でぐちゃぐちゃになる。
「ユウの奴になに吹き込んでた」
理解できない事を無理に理解しようとして混乱しているとナナシが風呂から戻ってきた。
この理解できない物を開設してくれるかと期待していると、その前にベレトが耳元でささやく。
「次恋バナする時はユウも自覚している時にしましょ。また後でね」
そう言ってベレトは風呂に入る。
その後ユウはナナシに連れられ、部屋に戻った。