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勇者は学ぶ

 今日は朝からベレトが不機嫌だ。

 理由はベレトの約束をほったらかしにして寝ていたから。

 いやだってさ……普通は寝るじゃん。夜になったら。

 そりゃエロい事は好きだし、現実になった訳だからエロい事をして気持ちいいと言う感覚もあるよ。

 でもそれよりも睡眠欲が勝っちゃったんだから仕方ないじゃん。


「今夜は約束守るから。それじゃダメか?」

「ご飯食べて少し時間が経ったらする」

「マジで?朝っぱらからヤるのか?」

「ヤる。絶対にヤる。疲れて寝落ちするまでヤる」


 ベレトの意思は固い。

 そうなると不安なのがユウをどうするかと言う点なのだが、部屋で大人しくしていろと言えばずっと大人しくしていそうだ。

 だがそれではユウに感情を教える機会が減るし、このまま人形の様になっているのは面白くない。

 個人的にはできるだけユウと一緒に居たいと思う。

 そんな俺の考えを悟ってか、ベレトがとんでもない事を言いだす。


「ユウちゃんは私達が愛し合っているのを見ててもらったら」


 その言葉に俺はつい吹き出してしまう。

 むせて咳き込んでいる中、ユウは不思議そうの俺とベレトを見る。


「お、お前はバカか!?こんなちっこい子供にナニを見せつける気だ!!」

「ナニに決まってるじゃない。真実の愛はこういう物名乗って教えてあげるのよ」

「真実の愛とか言ってんじゃねぇよ!!お互いにただ性欲を満たすだけの行為のどこに真実の愛って奴があるんだよ!!」

「あら?私はナナシの事好きだからヤりたいって思ってるのに」

「お前の好きって言葉は全然信用がないんだよ、このビッチが」

「とにかくその辺で見せておきましょうよ。そうすれば自然と性に興味が出るだろうし、とりあえず見せましょうよ」

「見せる時点で頭おかしいって事に気が付かないのな、このビッチは」


 もう呆れているとユウはじっと俺の事を見ながら言う。


「見てみたい」

「………………は?」

「性交、見てみたい」

「…………………………何だって?」

「性交、見てみたい」


 ………………マジで?


「ユウ。お前自分が何を言っているのか分かってんの?他人がエロい事してるの見てどうすんの??」

「性交。子孫を残すための行為。知識でしか知らない」

「そりゃ……子供の内はそんなもんだと思うけどさ。だからって他の奴がエロい事をしてるのを見るってのは……」


 子供が河原でエロ本見付けるのとあまりにも違い過ぎる。

 確かにユウには感情を取り戻して欲しいと個人的に思っているが、だからってエロ行動見せるってあまりにも酷過ぎないか?

 俺自身そんなの見せたくないし。


「ふふ。ユウちゃんも興味津々みたいだし、誰かに見られながらエッチするのもいいわよね~」


 だと言うのにこのビッチは……何顔を赤くして恥ずかしがってるふりしてるんだよ。本当は羞恥心の欠片もないだろ。

 俺はため息をついてからユウに諭す。


「あのな、ユウ。こういう事は人前でするものじゃねぇんだよ。ちゃんと感情を取り戻して、その後本当に好きになった奴とエロい事しろ。女の子なんだからその辺ちゃんと考えねぇとダメだろ」

「何で?」

「何でってそういう物じゃねぇのか?男はただ孕ませて終わりかも知れねぇが、女は子供を産んで育てるって行為に自然と繋がるんだぞ。後先考えずにヤって後悔するのはユウだぞ」


 ぶっちゃけ男は性交に関するリスクは女に比べると低いだろう。

 だって孕んで生むのは女の方なのだから。

 特に好きでもない男との間に子供が出来たけど、その時におろすと言うと言うのならそれも選択肢だろう。

 しかし生んで育てるとなれば様々なリスクと問題が浮上してくるものだ。

 特に現在のユウは社会的に弱者と言っていい。金はない、家はない、頼りにある相手もいない、あるのは俺と戦った時の装備だけ。

 美徳系スキルは価値があるが、それじゃどうやって金を稼ぐのかと聞かれればどうすればいいのか分からない。

 今のユウはただ強いだけの幼女だ。

 ぶっちゃけ生活と言う点では俺の方が圧倒的に上だ。

 よく分からないと言う感じの表情をするユウに俺は呆れていたが、ベレトは都合がいいと言う感じで話を勝手に進める。


「それじゃ色々勉強しましょ。実際に見ればどんな物か理解できるし、今後のためにもなるからね♡」

「ほ、本当に見せるのか?」

「当然じゃない。そうじゃないと性教育にはならないし、何か反応くらいあるかも知れないでしょ?だからいこいこ」


 俺ではなくユウの手を掴んで部屋に行こうとするのがいやらしい。

 これじゃ俺だけ行かないと言う選択肢は自然と潰されたわけだ。

 俺は大きなため息をついてから、渋々ベレトの部屋に向かうのだった。


 ――


「ふぅ。あ~疲れた」


 ベレトとヤり終わった後、冷蔵庫から水を取り出して飲む。

 俺だけ飲んでベレトに配慮がない?ベレトはとっくにヤる事ヤって寝てるから問題なし。

 問題があるとすればユウの方か。

 結局ユウは俺達の行為をただじっと見て観察していた。

 その視線は恥ずかしがることは一切なく、動物の交尾をただ眺めているだけの様に感じた。

 こんな事で愛が分かるとはとても思えなかったが、そのようは当たっていた様だ。


「ユウもただ待ってるの疲れただろ。ほいジュース。それとも水の方がいいか?」

「水」

「ほい」


 俺は別の水を冷蔵庫から取り出してユウに投げ渡す。

 ユウは簡単にキャッチして瓶を開けて水を飲む。

 お互い瓶から直接水を飲みながら一応聞いてみる。


「それで、何か感じたか?」

「……私自身に変化はない。でも興味深い」

「興味深い?どこが??」

「ベレト、幸せそう」


 ユウが指を差しながら言うベレトの表情は確かに幸せそうだ。

 涎を垂らしてだらしなく幸せそうな表情をしているが、あれは愛情とかそういうの関係ないだろ。


「あいつの場合は満腹だからだ。食欲が満ちたから幸せそうな表情になってるだけだ」

「食欲」

「ああ、食欲だ。こいつらサキュバスって種族の主食は人間の魔力なんだよ。精気、とでも言えばいいか?まぁ~ゲーム的に言えばMPを吸って生きてる訳だが、こいつはサキュバスクイーン。必要な食事量も他のサキュバスと比べて多いんだよ。だから複数の人間を飼い殺しにして精気を安定して手に入れる環境を手に入れる必要があった。そのためにこの町、いやこの国は生まれたんだよ」


 愛の国なんて言っているが実際はそんなもんだ。

 確かに政治に関する問題は他の奴に譲ったのかも知れないが、この国の住人から精気を手に入れる事は止めていないはずだ。止めたらベレトは餓死してしまう。

 と言っても所詮この国に住んでいるのは普通の人間ばかりであり、この国の人間全員から精気を奪っても食えるのは精々腹八分目くらい。下手をすれば必要最低限の食事しか食えていない可能性もある。

 だから俺から精気を搾り取る行為は久しぶりに腹いっぱい食事を食べる事ができる機会でしかない。俺の他にMPが高い人間がいればそいつにすぐ移るだろう。


「だから最初から言ってんだ。愛なんてないってな」

「…………」


 ユウは俺の言葉を聞いて何か考える素振りを見せる。

 具体的に言うと俺とベレトを見比べて首を傾げ、また見比べる。

 それを何度か繰り返してユウは俺に言う。


「全くない、訳でもない?」

「何でそうなったんだよ」

「ベレトの表情、ナナシの態度」

「俺の態度?」

「無理矢理じゃなかった。相手の事、考えてた」

「……風呂入ってくる」


 俺はそう言ってからユウから離れた。

 どうせマジックミラーで内側から見えず、外側から見られているのは知っているが、それでもベレトが噛んだり舐めてきたので体がまだべた付いている様に感じる。

 シャワーを浴びて湯船につかりながら俺は考える。


 サキュバスとは非常に皮肉なモンスターだ。

 人間に寄生しないと生きていけないモンスターであり、人間が絶滅したら最も困るモンスターである。

 別に精気は人間でないと奪う事ができないと言う訳ではないが、ゴブリンやオークは量はいいけどクソ不味い、かと言って精気の美味い上位モンスターから搾り取るのは非常に難しい。

 味もよくそれなりに数もいるのが人間と言う種だ。1人2人食い殺してしまったとしてもいくらでも代わりはいるし、魅了を使わなくてもちょっと誘惑すれば虫のようにフラフラと寄ってくるバカな人間は非常に多い。

 だからサキュバスにとって最も都合の良い食材が人間である。


 だがその人間がいなくなってしまった場合、サキュバスのほとんどが死んでしまうだろう。

 上位モンスターの慰み者になるくらいならまだマシ、食事には困らないと言う点だけだが、ゴブリンやオークと言った種族から精気を絞り続けるのはかなりの苦痛だと聞いた。

 一部のそんな生き方しかできないサキュバスは知性を無くし、理性を無くし、言葉を無くし、ただの精気を搾り取るだけの獣になってしまう。

 そうなればサキュバス同士でも精気の絞り合いが始まるし、勝って理性などを取り戻した後は自身の行いに狂ってしまった同胞も居たそうだ。


 だからベレトはこの愛の国を作り上げた。

 同性愛を認め、好きな者と好きなだけ愛し合える国を作り、その裏でこっそりと国民から精気を手に入れる。

 正直サキュバスクイーンになれば人間なんて食いたい放題だろうに何故それを選ばなかったのかは不明だ。

 それにネタ枠だけど魔王だって一応居るからな。この世界。

 まぁ俺があっちこっちで大罪系スキルを手に入れるために暴れてたから、そっちにばかり目が行って魔王を倒す、なんて王道的な展開にはならなかったみたいだけどね。

 俺が死んだ後に関しては知らないけど。


 色々考えながら風呂から上がるとベレトがユウに何か吹き込んでいた。

 俺が風呂から出るのを確認したベレトは「また後でね」とユウに言ってから俺に顔を向ける。


「それじゃ次私入るね。ナナシが使った後のお風呂……ジュルリ」

「ジュルリって言う奴初めて見たよ。そしてユウになにを吹き込んでた」

「別に~。ただ私なりの愛について教えてあげてただけよ。それじゃおっふろ~」


 上機嫌で風呂に向かうベレト。

 脱衣所で俺の事を意識してか、ストリップの真似事をしながら脱いでいたが、無視してユウに聞く。


「ユウ。なんか変な事吹きこまれてねぇよな」

「ナナシはツンデレ」

「は?」

「そう言ってた」


 ベレトの奴、何言ってるんだ??

 服を脱ぎ終わったら浴室で俺がいない方向に向かって腰を振っているベレトに首を傾げながらも俺は新しい服を着た後ユウを連れて部屋に戻るのだった。

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