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酷い男

 ユウの体調も落ち着き、愛の国に向かっている俺達。

 ただ道のりは非常に長い。


「悪いなサマエル。乗せてもらって」

『このくらいなんともありませんよ~。むしろご主人様に頼ってもらって嬉しいです』


 愛の国まで結構遠いのでサマエルの背中に乗せて飛んでもらっていた。

 他にも馬で走るとか、船で行くとか選択肢はあったが1番手っ取り早いのがサマエルの背に乗って行く事だった。

 と言っても背に乗っているのは俺、ユウ、レナ、ネクストの4人であり、ジラントとズメイは自分の翼で飛んでいる。

 やはり敵意はなくてもドラゴンの天敵と言える相手の背に乗るのは不安だったようだ。


 ゆっくりでもドラゴンが空を飛んで3日はかかるので結構遠いのだ。

 もしこれが歩きだったらと思うと……絶望しかない。

 少人数だったら前みたいにバイクで行けたが人数が増えるとやっぱ移動手段の確保必須か。


 ぶっちゃけドラゴンや獣人を乗せてくれる生物はいない。

 だから普通の人間だったらできる馬に乗って移動するという行為が出来ない。

 クソォ……こうなる事ならドワーフの国で車買っとくんだったな……

 でも基本的に道は舗装されていないし、確か乗員出来るのも4人くらいじゃなかったかな?

 色々考えるほどにレベルが高すぎるが故に移動手段が狭まっていく。

 どうにか移動手段を確保したいな……


「ところでナナシ。愛の国に着いたらどうするの?」

「まずはベレトの所に行ってまた屋敷の1部を借りようと思う。そのあと色欲について聞きたい事があるし、長期滞在するつもりだぞ」

「長期滞在?ちょっと意外かも」


 その理由は『怠惰』の発見なのだが、それともう1つ懸念している事がある。

 それが『切り札』の存在。

 連中に関する情報を何か持っていないか聞きたいし、ユウの保護という点でもベレトに頼みたい。

 これはあくまでも最悪の事態だが、サマエルが敵の光の神が製作した天使であり、ある程度こちらで妨害しているとはいえ向こうは製作者本人。どんな手を使ってくるのか分からない。

 実際サマエルは利用されていたようだし、少しでもこちらの情報が洩れる事態は避けたい。


 それならアストライアの方が安全と思う者もいるかもしれないが、こういう時アストライアは何もしてくれない。

 正確に言うと動けないっと言うのが正しいのだが、おそらくバランスを考えてすぐには動けない。

 神様には神様なりの理由と言う奴があるらしい。

 特にアストライアはバランスを司る神様らしいので人間によるいざこざは人間によって治めるべき、という考えが強いのでおそらく光の神が直接出張ってこない限りは防寒だろう。

 そう言う意味でもすぐに動けるベレトの方がいいと俺は考えた。


 ついでにサマエルが暴れる事に対する被害が考えていない。

 何せレベル90越えの奴に対してレベルの高くない奴がどれだけ集まったところで無駄な犠牲にしかならない。

 それだけレベル差と言うのは絶対的であり、それが10も超えるとプレイヤーの中では絶対勝てないと言われるほどだ。

 だからぶっちゃけ邪魔なだけ。


 そう考えるとレベル90を超えた奴が1人でもいるところの方が安全だ。

 そして俺は俺で『怠惰』を探し出しぶっ殺す。

 連中の言う儀式の準備がいつ終えるのかも分からないし、その辺は女帝の情報収集能力に頼らせてもらうか。


『ご主人様?』

「どうしたサマエル」

『いえ、何かお考えだったようでしたので何かな?っと思いまして』

「まぁあれだ。今後ポラリスの連中への対策を考えていただけだ」

『……ご主人様』

「なんだ」

『いざというときは私の事は気になさらないでください。ご主人様の足枷になりたくありません』


 ……いったいどこまで予想しての発言なのかな。

 それからさ、サマエル。

 俺はお前の事をぜった諦めないからな。


 そう思いながら休み休み飛ぶと事3日目の昼、愛の国に到着した。

 流石にドラゴンが飛んできたのは予想外なのか、国のギリギリ近くにおりてもベレトの支配下であるサキュバスが様子を見に来た。

 そして俺の姿を確認するとホッとしたように言った。


「ナナシ様でしたか~。驚かさないでくださいよ~」

「驚かして悪かったな。ベレトはいるか?」

「お屋敷にいますよ~。ご案内しますね~」


 こうしてあっさり愛の国に入国出来た俺達。

 ドラゴンがいたという事で少し騒いでいたが、まぁ少し時間が経てばいつも通り甘ったるい匂いで充満される。

 レナはその匂いに顔をしかめ、ネクストは初めて嗅ぐ匂いに顔を赤くしている。

 ネクストは少しほろ酔い状態みたいな感じなので少し心配だが、しっかりと歩けているからまだ大丈夫だろう。

 そしてベレトの屋敷に到着するとベレトが怒った表情で出迎えた。


「ナナシ!周りの子達が驚くからあんまり派手な入国しないでよ!!」

「悪い悪い。他に移動手段がなくってさ」

「そうだったとしてももう少しどうにかならなかったの?こうなったら今晩は身体で払ってもらうからね♡」

「最終的に下ネタにつなげるお前本当にスゲーよ」


 あきれ半分で言うとベレトはユウを見つけると抱き着いた。


「ユウちゃん!?おっきくなっちゃって!!これはそろそろ可愛い系の服だけじゃなくて綺麗系の服も合わせてあげないとダメね!!」

「ベ、ベレトさん。お久しぶりです」

「ま~ちゃんと感情も復活してお姉ちゃん嬉しい!!ちょっとだけお姉ちゃんの着せ替え人形になってくれない?そうしたら新しいお洋服いっぱいあげるから!!」

「そろそろ止めてやれ」


 俺が軽くチョップで頭を叩くと「あいた」っと言って渋々ユウから離れた。


「もう何で叩くのよ」

「ちょっと大切な話がある。みんなは好きにしてくれ」

「分かりました」


 ベレトの首根っこを掴んで俺は勝手にベレトの屋敷に入る。

 そしてベレトの執務室に入り、ベレトをソファーに座らせ、勝手に冷蔵庫を開けてワインを取り出す。

 ワイングラスを2つ置いて勝手に注いで飲む。


「ベレトお前何で『色欲』の事黙ってたんだよ」

「何でって……特にいう事でもないから?」

「大罪スキルを所有しておいてそりゃないだろ」

「なによ。私としては死んだのに大罪スキルを保有したままの方が驚いたんだけど」

「その辺りは別にいい」

「別によくないって」

「とにかく、そっちでポラリスの暗部に関する情報はどうだ」

「どうって言われても……例の『隠者ハーミット』に関してはまだ調べてるけど、他にそれっぽい情報はないわ。怪しいのも調べてるけど全部ハズレ。全然見つかんない」

「それに関して少し情報がある。これはまだ予測の範囲を出ないが、『隠者』は『怠惰』を所有している可能性が高いと俺は考えてる」

「……それ詳しく教えて」


 いつになく真剣な表情をするベレトに俺は素直に言う。

 獣人の国で『女帝』を捕まえた事、そこから『切り札(カード)』と言われるポラリスの上層部が存在する事。

 そしてその上層部の1人が『隠者』である事。

 そしてそいつらはユウを利用して何かをしでかそうとしている事だ。

 まだ予測の段階から出る事はないが、おそらく非常に大きなかかわりがあると俺は予想している事を伝えた。


「……なるほどね。ポラリスの上層部の1人が『怠惰』で支配されていた、か。確かにそう考えるのが自然かも」

「だろ?」

「でもいくつか疑問はある。まず1つは『怠惰』でそこまでのポテンシャルを発揮することは出来るの?あんな腐った組織でも一応は神に仕えている組織、『怠惰』を潜り込ませるだなんてできるの?」

「そこまでは分からないし、今現在どこに『怠惰』がいるのかも分かってねぇんだ。あり得るとすればポラリスのどこかに住んでいる名のない誰かさんなのか、それとも安全のためにあの大監獄の中にいるのか、それともやっぱり奴隷を操る立場から檻の国に居るのか、全く分からん。だからそっちで何か新しい情報はないか聞きたかったんだよ」

「なるほどね。そういう事ならこっちもちょっと危険だけどポラリスに直接情報を引き出してみようと思う。その女帝ちゃんはナナシの隷属関係になっているのよね?」

「ああ。そろそろポラリスに到着する頃みたいだ。ついでに言うと部下5人も俺と隷属関係にある」

「ならその6人をこちらで使わせてもらう。スキルの『憑依』を利用してその子達に憑りつかせる。そこから情報を引き出せば少しは情報が手に入るかも」

「おいおい。お前にしてはかなり強引な手じゃないか?腐っても教会騎士だぞ」


『憑依』とは人間に憑りつく事が出来るモンスター限定のスキルだ。

 人間に憑りついて意のままに操ったり、こっそりと人間しか入れないようになっている場所などに潜り込む事が出来るスキルだ。

 ただし弱点も多く、最大の理由が弱体化してしまう事。

 しかも『憑依』をどうにかしようとすると必ずと言えるほどに光魔法が現れる。

 つまり光魔法に対して憑依は非常に相性が悪い。


「その辺りは高位のサキュバスちゃん達に頼むから逃げきれるはずだよ。問題はその子達がどれくらい使えるか、だね」

「女帝はどうにかなるはずだ。他5人もどうにかなるだろ。そこだけは保証できるが危険なのは変わらないぞ」

「それでも私は必要だと思う。だからその子達の事ちょうだい♡」

「共有だ。それからもう1つ頼む。個人的にはこっちの方を重視してる」

「どんなの?」

「サマエルの事を見ていてくれ。あいつを創ったのはポラリスの神だ」


 それを言うとベレトは真剣な表情をしながらグラスを置いて言う。


「言い方は悪いけど、とっくに捨てられたんでしょ。その可能性はあるの?」

「ある。と言うか実際にしてた。途中までサマエルの耳と目を使ってこっちの様子をうかがってた。『色欲』で妨害したが本当にそれでうまくいっているのかどうか分からない」

「……さすがに1人では無理よ」

「レナにはこの事を伝えてる。だからいざって時はレナと一緒に、だな」

「…………はぁ。本当に酷いひと。サマエルちゃんは本気でナナシちゃんの事大好きで一途なのに」

「おそらくそこにサマエルの意思は絡まないと思う。なるとすれば、天使に戻って意思のない生きた人形として、だろうな」


 サマエルが俺と敵対する可能性としてはこれが1番高い。

 俺の最悪な想像にベレトは俺のデコをデコピンした。


「あいた」

「大して痛くないでしょ。確かにそう言う最悪の展開は考えておかないといけないかもしれないけど、それを前提にするのはダメ。そんなことになったらこの世界が本当に終わっちゃうからそんな事させないから」

「……助かる」

「そう言うところだけは素直よね~。ま、私以外に相談できなかったんだろうし、その面倒臭くてやる気の出ないお願い聞いてあげる。1人で出かける気なんでしょ」

「ああ。しばらくユウ達の事を頼む。俺は早々に『怠惰』を殺しに行く」

「仲間に引き入れないの?」

「そんなつもりはない。とにかくしばらくは1人で行動したい。他のみんなにはこれから言う。もし光の神が行動を起こすとすれば、俺がいないこのタイミングだろうよ」

「でしょうね。その儀式にどれだけの準備が必要なのか分からないけど、ユウちゃんがカギを握っているのは間違いないと思うから」

「少し休んでから行く。その間頼む」

「ええ。その代わり、ひと段落したら赤ちゃんが欲しいな♡」

「それも良いな。俺もそろそろ自分の子供の顔がみたい」

「……え?」


 俺の返答が予想外だったのかキョトンとした表情を作る。

 俺は含み笑いを浮かべてからみんなの元に戻るのだった。

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