リ・スタート
この日、とある大罪人の死刑が執行されようとしていた。
その大罪人は殺人、強盗、強姦。あまりにも多くの罪状があり過ぎて一部省略されるほど罪にまみれていた。
特に大きいと言われる罪状が7つ。
教皇の殺害。
多くの冒険者や騎士達の殺人。
高ランクの冒険者や名のある騎士達の隷属。
気に入らないという理由だけで殺した人数が1000を超えている事。
ドワーフの国の宝物庫で伝説の武器の強奪。
絶滅を危惧されてる聖獣の乱獲。
各国の姫や令嬢を強姦。
これらが大罪人と呼ばれる理由である。
その処刑は多くの人々が待ち望んでいた物であり、今まさに処刑される寸前である大罪人にみな罵倒を浴びせ、石を投げたりする。
大罪人は物を投げつけられながらもしっかりと歩き、一切の抵抗もなく大人しく処刑台に膝をつく。
逃げられないようにしっかりと処刑用の道具にはめると、この国の王が現れ、大罪人に問う。
「大罪人。最後に言い残す言葉はあるか」
そう国王に聞かれた大罪人は少し考えた後、凶悪な笑みを浮かべながら王を眺める。
その笑みだけで周囲の平民は恐れ戦いた。
狂ってる。
大罪人は言葉を出す。
「俺は十分に楽しんだ。あとは好きにしろ」
罪人の言葉とは思えない言葉を聞いた後、王は早く処刑しろと声を荒げながら言い、処刑人が執行した。
――
俺はGAMEOVERっと言う字を見てからVRゴーグルを外した。
たった今キャラクターは処刑され、その命を失った。
俺がやっていたのは18禁ゲーム、Freedom・Journeyっと言うゲームだ。
最初の頃は全年齢版であり、職業の様な設定などはなく、魔法も技術も全てプレイヤースキル重視の高難易度ゲームだった。
世界初のフルダイブ型VRゲームという事もあり、大ヒットを起こしたのだがとある問題が起きる。
それは現実でゲーム世界との区別がつかなくなった1部の学生が本当に人を殺してしまった事によりあまりにもリアリティのあり過ぎるゲームは廃止となった。
それで1度このゲームは配信禁止となり終わったのだが、18禁ゲームとして再び世界にそっと拡散されていく。
18禁版になった事により人や魔物を殺せば血が噴き出し、ただ殺しただけでは素材が手に入る事もなく、自分の手で剝ぎ取るか、剥ぎ取ってくれるNPCに頼むしかない。
剣や弓と言った武器も整備しなければならなくなったし、ポーションなどの回復アイテムなども今居る国によって値段が変わるなど、物価変動まで追加されていたのだからエフェクトだけではなくより現実味が増したゲームになった。
さらに興味深かったのは犯罪行為が解禁されていた事である。
全年齢版ではNPCに対して触れる事すら出来なかったのだが、18禁版だと触れて話す事も出来る。しかも決まったセリフをただ繰り返すだけではなく、AI機能が高まって普通の人のように話せるし表情も変わるのだからよりリアリティが増していた。
それによりNPCを殴る事も裏路地に連れて行って強姦する事も可能となっていた。流石に性的な感覚までは再現できてなかったけど。
それによりプレイヤーがNPCに対して暴力的な行動をしたり、逆に親しくなってNPCと友好的な関係になったりとプレイに幅がかなり広がったのである。
そんな風にプレイできるようになってから俺はあえて犯罪行為を行ってきた。
理由は現実で体験できない事をしたかったから。人を殺す事を現実で行なえばそれこそただの犯罪者だ。それに正直犯罪を犯してでも欲しい物はないし、誰かを殺したいほど恨んでいる事もない。
でもゲームの中では欲しい物がたくさんあった。
運営が何を考えているのか分からないがゲームに課金システムはなく、ガチャで強力な装備を手に入れる事などは出来なかったし、全てゲーム内の行動で手に入れるしか方法がない。
特に俺が求めてきた呪われた強力アイテムはどこかの国の宝物庫で保管されている事が多く、購入する事も何らかの依頼をこなして手に入れる事も出来そうにない。なので俺は犯罪を犯した。
どうしても手に入れたい物を手に入る唯一の方法が持っている相手から奪う事。それだけだったから実行しただけだ。
もちろんゲーム中だから気軽に行なえたって言う理由ももちろんある。現実だったらそんな事する根性はない。
ゲームの中だから出来た。それだけの理由である。
ただこの18禁版には1つの問題点がある。
それは死んだアバターは二度と使えない事だ。
人生一度っきりを再現してるらしいが不評である。
そりゃ俺だって何度も同じキャラで遊びたいがそういう仕様なのだからどうしようもない。
それに俺の様に殺されたはずの人が復活するというのは普通に恐怖だろう。
なんせゲーム内の国に殺されたんだぞ。それが復活するとか普通に怖い。
仕方ないと思いながらも次はどんなキャラで遊ぶか考えながら寝るのだった。
――
『こんばんわ。君、異世界転生に興味ない?』
…………おかしいな?俺普通に寝てただけなのになんかよく分からない人がいる。
人と言うか、子供?男の子か女の子か分からないぐらい幼い子供。
美形ではあるけど特に着飾っておらず、普通の感じがする。
それにしても異世界転生?何でこの子が?
『あなただよね、F・Jで大罪人って呼ばれてたプレイヤー、ナナシ』
…………おかしいな。リアバレするような事は言わなかったはずなのに何故バレてる。
オフ会とかも存在しないし、18禁だからそういうのをしようという話題性もないだろうし、オフ会しようなんて言い出す人が居たのかどうかも怪しい。
なのに何故バレた。
『だって私だもん。このゲームの18禁版製作したの』
……マジで?こんな小さな子供が18禁版作ったのか?それ以前に作れるのか?
『実際に作ったし、あなたはそれで悪行を積んだ。それだけじゃなくてログだってあるんだから。そんな事よりお願い聞いてよ~そのために呼んだんだから~』
子供らしく話すが何か違和感を感じる。ちぐはぐと言うか、見た目と行動が合わないというか。
いや、子供が子供らしくするのは何もおかしくないのに、なぜちぐはぐに感じるのかも分からない。
『とにかく異世界転移してF・Jの時みたいに悪い事して生きて欲しいの。本当にゲームと同じように好きに生きていいんだから』
いや、でもそれ現実になるんだろ?フィクションだからできたってのもあるんだけど。
『え~?それじゃ本当にしたくないの?好きな女の子を抱いて、面倒な事は奴隷に任せて、自堕落に生きられるんだよ。君のいう現実では絶対に出来ない事が全部できるんだよ?それなのに本当に止めちゃうの??』
…………確かにそういった事を現実でできないからゲームで発散させていたという面ももちろんある。
何かとルールの多い世界で、俺は自由に生きていると言う感じはしなかった。だからと言って犯罪を犯してでもやりたい事もない。
『でもあの世界には君はどうしても欲しい物があり、そのために罪を犯す事もいとわなかった。だったら欲望のままに生きられるあの世界の方が君にとって良いんじゃないかな。それとも何も起こらない現実で生きたい?罪を犯してでも手に入れたい物はなく、ただただ何となく生きて、ただ何となく周りに流されて、ただ生きてただ死んでいく平坦な生き方が良いかい』
やっぱりこいつ見た目通りの年齢じゃなさそうだ。
第一寝ている時にこんなハッキリとした夢を見る事すらありえないというべきだろう。
そして俺はいま現実の世界で生きるか、夢の世界に逃げ込むか選択肢を選ぶ事が出来る。
それなら。
「それなら、あの世界で生きられるのであれば生きたい。大してやる気の出ない現実で生きるよりも楽しそうだ」
『契約成立!!いや~君ならそう言ってくれると思ってたんだよ。それじゃちょっとこっち来て』
そういわれるがままに子供に近付く俺。
子供は俺に座るように指示をしたので俺はあぐらをかいて座ると、子供は俺のあぐらの上に座った。
「おい」
『重くないでしょ。それに君の世界に合わせて説明するからこの方がやりやすいんだもん。それじゃ君の転生後について話すね。
まず君が転生するのは君が死んで300年後のF・Jだよ。適当に治安が悪い国に放り込んであげるから、そこからスタートしてね。君の場合、治安が良い国よりも治安が悪い国の方がいいスタート切れそうだし、動きやすいだろうからね。
それから君の容姿は現実のものではなくてナナシの顔と声で始めるから。声に関しては今と変わらなかったよね?身長とかもあまり変わらないように設定されてるし、多分身長差とかで違和感を感じる事はないと思う。
それからスキルの関しては死ぬ前と変わらず全部使えるけど、『傲慢』『嫉妬』『憤怒』『強欲』『怠惰』『暴食』『色欲』に関してはメンドーだから統合させておくね。でも統合されてるだけだから使い方は何も変わらないよ、今まで通り好きに使えばいい。
その代わり君が持っていた所金と装備の一部はちょっとメンドーな事になってるね。所持金は君が預けていた銀行から引き落とす事が可能だけど、君が最後に装備していた武具に関しては各国に奪われたみたいだから自分で奪い返してね。
説明はこんな物かな?』
まとめるとナナシのままでゲームを再スタート、しかし装備と所持金に関しては0からスタートって事か。
しかも死んで300年後か。これって何か意味あるのかね?
「なんで300年後なんだ」
『これはただ単に君が死んで1年後とか1日後とかだと矛盾が発生しちゃうからそれの回避。まぁ適当だけどね』
深い理由はないって事か。
あとそれから聞いておきたい事がある。
「ところでお前の利点は何だ。わざと俺と言う大罪人を利用して何をしたい」
『ん~?別に大した理由じゃないよ。私は私の信仰心を復活させたいだけ。最近じゃ自称正義の神がウザいから、その嫌がらせの一環だよ』
「それで大罪人である俺を利用すると」
『そうそう。君が暴れまくっていた時は良かったんだけどね、君が死んだときに勝利がどうこうってつけ足したからメンドーになっちゃうんだよね~。そのせいでバランスがおかしくなっちゃってるし』
最後だけ真面目な感じに聞こえたが、何か事情があるようだ。
『それから1つだけミッション!!このミッションをクリアーしたら何か願いを叶えてあげるよ。これでも私は凄いから』
「凄いって、具体的にそのミッションが何なのか聞かないとやる気でねぇよ」
『大神殿に閉じ込められている1人の男の子を助けて欲しいんだよね。その子を助けてくれたらどんな願いも好きなだけ叶えて進ぜよう~』
「随分大盤振る舞いじゃねぇか。そんじゃその時に色々お願いを聞かせてもらおうかね」
大神殿に居る男の子を助けるね。
大罪人の俺に頼む依頼とは思えないが、頼まれたからにはやってやるのもいいだろう。
そう思っていると子供は俺の額に自身の額をくっつけて言う。
『これから君は私の眷属であり、私の化身だ。だから君は私の加護を与えておくよ。それじゃ元気に悪い事を真面目にやってみよー!!』
そういわれた後に目の前が真っ白になった。