invisibleworld
「最近は男性の看護師さんも増えてるよね。丁は似合ってるよ、優しいから。」
久しぶりに会った妹の寧々に言われた。
俺は高校卒業後、看護師であった亡くなった父への思い入れも多少あり、地元の看護学校に進んだが、双子の妹寧々は、『まだしたいことが見つからない。けど進学はしたくない、勉強、嫌だし・・でも都会には行きたい、』
なんていってさっさと東京に行き就職してしまった。
母は特別引き止めることもなく、『寧々ちゃんはあーだからねー。今のところ丁がそばに居てくれるし寂しくないや。』と苦笑い程度。
寧々は自由人だ。怖いもの知らずだ。
大手の文房具会社の確か事務だったかな?
トントン拍子に決まり、運もいい奴だ。
最近は現場にも立ってて、お客さんに商品説明することも多くなってきたと、楽しげに話す。
人相手の仕事としては一緒だが、
こっちは命の現場。
覚えることも多く、苦労も一入である。
あと一年で卒業だ。国試の事を考えれば気が重いのだが。
寧々は実家の母に会いに行くと
早足で『バスに間に合わなーい!』と走り去っていった。
さてと・・・
学生寮に帰ってきてから、後ろや部屋の廻りを確認したけど、
さっきの女の霊の気配はない。
病院のリネン庫からついてきた奴だ。ずっと後ろについてきてたんだが、寧々と話している最中も、横にぼやっと突っ立ってた。
ふ~っ。双子でもやっぱり寧々には視えてない。
俺は多少の霊感が物心ついた子供の頃からある。
怖い体験は何度も経験している。
病院実習となると、ネガティブ系の残留思念(黒いモヤモヤとか何か重い空気)や、
下を向いてたたずんでいる霊の姿に出くわす。
なれているというか、当たり前のことだが、やっぱり気持ちのいいものではない。
だが周りの人間は霊に気づかない者がほとんどだし
いちいち驚くわけにはいかない。
目に見えないものを説明するのが色々面倒だ。
苦労といえば苦労かな。
玄関の前の両脇にヒマラヤ岩塩の盛り塩を一昨日から置いている。
少し霊感があるという看護学校の友人に
お祓いに効くからと言われ、わけてもらったものだ。
打ち明け話してるうちに仲良くなった。
まあ、でも、まだ友達レベルには達してない。
似たような霊感があるだけだ。
急な訳あり転入で知り合ったばかりだし。
でも話しやすかったな・・綺麗な栗色のロングヘアーで可愛いし。少しカールのかかってる髪の感じは俺の好みだ。
周りに女子が多いのは嬉しいことだ。
でもいずれは同僚のひとりとなる。好きになったり
付き合うわけにもいかないかな···
もらった岩塩。これが効いてるのかな?
そういえば、あれから部屋鳴りがなくなった。
悪いものだけでなく良いものまで祓われてたりして・・
そういえば、あの女、さっきのリネン庫の奴、いつもの臭いがなかったな。
生臭かったり、線香の灰のような臭いがなかった。
透き通ってたから、霊のはずなんだけど。
若草色というのかな、みどり色のワンピースみたいなの来てたと思う。暗いリネン庫なのに妙にそれが印象的に浮き上がって・・
逆に、顔が全くグレーのぼやけたような、ピントの合わないような感じになってて、全く見えなかった。
よく見ようと凝視する心の余裕がなかったんだ。
同じリネン庫内にもっと衝撃的な、場違いな、目を覆いたくなるような者···いや、
者たちがそこに在たからだ。
男と女が抱き合ってた。 生身の人間だ。