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8話『ファミレス』

 放課後。

 なんだか今日はゆーちゃんの視線が冷たかった。

 授業中も休み時間もずーっとまるで他人のような視線を送っては俺と目が合うと慌てて目を逸らす。

 なにかしてしまったかなと不安になったが思い当たる節はない。

 そのせいで今日1日授業に集中できなかった。

 まぁ、いつも集中してないんだけどね。


 「帰ろう」

 「……」


 俺がそう声をかけるとゆーちゃんは目を細めて汚物を見るような視線を送ってくる。

 口を開いたりはしない

 ただただその冷たい視線だけが痛い。


 「えーっと……?」

 「ん」


 バシッと手を掴まれると周りなんか気にしないでズカズカと学校から引きずり出される。

 強引に連れていかれた先は某イタリアンなファミリーレストランである。

 入店するなりゆーちゃんは空いている方の手で人数を示し、無言で席へ案内される。

 案内され、座ると真向かいに座ったゆーちゃんがじーっと俺の事を見つめてくる。

 まるで何かを選別しているかのように……

 黙ってずーっと見つめる。

 ここまで静かに見つめられてしまうと最早恐怖すら感じてしまう。

 突然「お前の最後の晩餐だ。好きなだけ食え」と言われても驚かない。

 そうですかと受け入れてしまうぐらいには現時点で恐怖がある。


 「あー、うーんと……その」

 「とりあえず何か注文すれば? 何も頼まずに居座るのは気まずいから」


 軽食とドリンクバーをふたつ頼んでおく。

 ゆーちゃんの表情が緩むタイミングはない。

 座ってから終始硬めだ。


 「あの……えーっと、どうしたの?」


 恐る恐る訊ねる。

 これ以上見知らぬ地雷を踏み抜く訳にはいかないので一言一言慎重に歩く。

 もしもここで地雷を踏み抜いたらどうなるだろうか。

 考えただけで恐ろしいのでやめておく。

 何はともあれ早く答えを出さなければならない。


 「うーん。れーくんはさ、私の事好きなんだよね?」


 心配そうにボソッと小さく問う。

 その問いに俺は間を開けることなく即首を縦に振る。

 この恋心を恋心と呼ばずしてなんと呼ぶのだってぐらいには三笠優花という人物にゾッコンだ。

 もうそれこそ自分の手元にやってきたのに更に自分のモノとして扱いたいと思ってしまうぐらいには好きである。


 「じゃあさ……なんで?」


 つーっと机の方に視線を落とす。

 怒っているというよりも落胆という感じだろうか。

 もうさっきまであった覇気すら感じられない。


 「朝」

 「朝?」

 「朝さ、私の知らない女の子と一緒に学校来てたでしょ。私の事好きなんじゃないの? なんで二股なんて。私は2番目?」


 声はこれでもかってぐらいブルブルに震えているし、涙を貯めている。

 どうやらゆーちゃんは原鶴との登校様子を見て俺が浮気をしたと勘違いしているらしい。

 俺と原鶴の関係性をしっかり理解出来ている人間であれば浮気なんて微塵も考えないのだろうがお互いの関係性を1ミリも知らない赤の他人がその光景を見れば確かに浮気をしているんじゃないかと勘繰ったって仕方ない。


 「いや……あれは。俺の小学生からの知り合いで。雅人と原鶴と俺の3人で良く遊んでたんだよ……えーっと、幼馴染? 腐れ縁? どの言葉が適切かは分からないけれど別に恋仲とかじゃなくて。俺だってあっちだって多分同性と絡んでるぐらいの認識だから」


 言い訳がましくなってしまうがそれでもしっかりと伝える。

 だって、原鶴は俺の数少ない友達なのだ。

 仮に原鶴が友達じゃなくなってしまった場合俺の友達は雅人だけになってしまう。

 友達1人しか居ないってもう、悲しいとかそういう次元を遥かに超えている。


 「ふーん。じゃあ、れーくんは私の事好きってこと?」

 「あぁ」

 「じゃあさ、証明してよ。私のことが好きだって」


 彼女の中で渦巻いていた心配が取り除かれたからなのか柔らかな表情でそんな意地の悪いことを口にする。

 証明って具体的に何をすれば良いんだよと思いながらとりあえずやることはひとつだなと口を開いた。


 「好きです。超好きです。世界で1番好きです。愛してます」

 「知ってる。私も好きだから。でも、それじゃあ証明にならなくない?」

 「……それじゃあ、逆に何を所望します? そ、そのキス?」


 所望とか言っておきながら俺の欲望でしかない。

 その言葉を聞いた彼女はしばらく惚け顔をした後に耳まで熟れたリンゴのように真っ赤にした。


 「キ、キスは時と場所を考えて……えーっと、うーん。とにかく、今はダメ。ここじゃその……あの、恥ずかしい……からっ。って、何言わせてるの。あー、もう暑い、暑い……飲み物取ってくるから。れーくん何が良い?」


 ゆーちゃんは立ち上がり俺も立ち上がろうとすると俺の行動にストップをかけた。


 「待って。優しいのは嬉しいけど……その、今は少しだけ1人にさせて。恥ずかしいから」

 「あ、え、うん……そうだな。それじゃあメロンソーダとかかな」

 「了解したよ」


 彼女はそれだけ受け応えるとパタパタとドリンクバーコーナーの方へとかけて行った。

 キスというひと単語を出しただけでこの盛り上がり様だ。

 実際に口を交わすまでにはまだ時間がかかりそうである。

 彼女だけじゃなく、俺の覚悟もまだ微妙に足りていない。

 ファーストキス……流れでしても良かったが確かにロマンある形でロストした方がカッコ良いかもしれない。

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