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4話『初デート』

 寝ようと思うが寝れない。

 明日が楽しみすぎるのが悪い。

 緊張なんかは一切ない。

 ただ、単純にワクワクしているだけだ。

 なぜこんなにも心を躍らせているのか。

 それは数時間前に巻き戻る。





 ゆーちゃんと付き合い始めて数日。

 こうやって一緒に帰ることが当たり前になりつつある。


 ただ一緒に下校するだけ。

 それだけでこんなにも幸せな気持ちになれる。

 なれるからこそすっかり忘れていたことがある。


 せっかく付き合ったのにまだデートらしいことすらしていない。

 ただ学校で会い話をし、一緒に帰るだけ。

 正直やっていることは友達以下である。

 友達の方がまだ遊びに行ったりしている。


 「あのさ」

 「うん?」

 「遊園地とか行こうって言ったら行ってくれる?」


 デートといえば遊園地。

 というわけで早速誘ってみる。

 もちろんストレートに誘えるような勇気を持ち合わせていないのでこんなかっこ悪い誘い方になってしまう。


 「行きたいの? 良いじゃん! 私もれーくんと一緒に遊園地行きたいな」

 「じゃあ、行こう! チケットは取っとくから明日! 明日休日だしどう?」

 「ちょっとまっててね」


 彼女はスマホをちらっと確認しすぐにスマホをしまう。


 「予定入ってないから行こ! えへへ。楽しみだなぁ」

 「それじゃあ、チケット取れたら連絡するね」


 という感じにトントン拍子で予定が決まり、明日遊園地へ行くことになった。

 だから俺は今猛烈にワクワクして眠れないのだ。

 人生初デート、しかも遊園地!

 こんなのワクワクするなって方が無理だろう。


 それでも今寝ておかないと明日辛くなるのは目に見えている。

 良し。頑張れ俺。

 眠れよ脳みそ。





 集合場所は高校の最寄り駅だ。

 他の場所でも良かったのだが俺は彼女の家がどこにあるのか知らないし、きっと彼女だって俺の家がどこにあるか知らないはずだ。

 変に家の場所とか考慮して集合場所を擦り合わせるよりは確実に来れるであろう場所を集合場所としてセッティングした方が困ることもないだろうという判断で決定した。

 ちょっとばかし味気ないと思うかもしれないが今の俺に味気さを求める方がどうかしている。

 だって、初デートだぞ。

 何かあってテンパって失敗したら嫌じゃん。


 「お待たせ。ごめんね。遅れちゃった」


 ハァハァと息を切らしてこちらにやってきたのはゆーちゃんだ。

 髪の毛は軽くウェーブがかけられており、ベージュのワイドパンツと白い無地のTシャツ、カジュアルなファッションなのだが大人っぽさがあり制服姿とそこまでイメージが変わらない。

 まぁ、要するに可愛いってことだ。


 「まだ集合時間じゃないし俺も今来たところだから」


 集合時間の10分前だ。

 正直なぜ彼女かそこまで急いでいるのか俺には理解できない。

 もしかしたら、陽キャ内の暗黙の了解で集合時間の20分前には現地に到着していなければならない的なルールがあるのかも。

 うーん、分からないから今度雅人にでも聞いておこう。


 「ほんと? 良かった」


 ホッとしたような表情をしてくれる。

 別に俺は彼女のためなら何時間でも待てる気がする。

 流石に一日放置は泣いちゃうけどね。


 「特にすることなければ行こっか」


 俺がそう声をかけるとゆーちゃんは袖を掴む。

 待てということらしい。

 どうしたのかと俺は彼女の顔を見ると顔に不機嫌の3文字が書かれていた。

 怒らせてしまったらしい。

 意味がわからない。


 「何か言うことない?」


 彼女は口をムッと膨らませなにか言葉を待っている。

 なにか謝って欲しいのだろうか。

 ただ、謝って欲しいのであればきっと謝罪の一言だけで解放してくれないだろう。

 むしろ、「適当に謝るんだ」と怒りを助長させてしまう可能性もある。

 というかその危険性しかない。


 「ごめん。マジで分からん……俺さ、デートとか初めてだからテンプレとか分からないんだよね。だから、至らない所とかあったら教えて欲しい。その直すよう努力するから」


 だから素直に分からないと伝える。

 分からないのに分かったフリしてあれこれすると状況を更に悪化させてしまう。

 雅人とアイツと3人で遊んだ時に何度もそれを経験した。

 主にゲーセンでだけどね。

 本当さ、わかったフリしてチュートリアル抜かすのは良くないよ。

 うん、俺だけスコア1桁とか恥ずかしすぎたからね。


 「へー。れーくんって思ったよりモテてないんだ」


 意外と言わんばかりの顔をしている。


 「そりゃ恋愛経験ゼロ。コミュニケーション能力ゼロの俺がモテるわけないんだよ。正直今の状況が俺にとって異端」

 「ふーん。私的にはれーくんカッコ良いと思うけどね。今だってしっかりと素直になったし。私ね、れーくんのそういう所が好きなんだよ。ないものねだりってやつかもね」


 ふふっとゆーちゃんは笑う。

 どうやら機嫌を取り戻してくれたらしい。

 ありがたい。


 「モテないれーくんのために教えてあげる」


 人差し指を立てて嬉しそうに口を開く。


 「女の子と出会ったらとりあえず服装を褒めるべきだよ。今日の私は大体2時間ぐらい使って準備してきたんだからね。女の子は好きな男の子に褒められて伸びるんだから」


 どうやらファッションを褒めなかったことが怒りに触れてしまったらしい。

 怒りに触れるってのはちょっとばかし過剰表現だったかもしれないが様式美を無視してしまい悲しくなったって感じかな。

 まぁ、やってもらえると思ってたことをスルーされてしまえばそりゃ不安にもなる。


 「えーっと……大人っぽくてすげぇー可愛い。なんだろう……うーんと、抱きしめたくなっちゃう」

 「……」


 ゆーちゃんは顔を真っ赤にして俺の方を睨みつける。

 また変な地雷を踏んでしまったかもしれない。


 「そういうところまで素直にならなくても良いから」


 満更でもなさそうにニヤケながらそんなことを口にする。

 どうやら嬉しかっただけらしい。

 抱きしめようと思ったがそこまでの勇気は俺になかった。

 彼女が出来たら抱きしめ放題だと思っていたんだけど案外そうもいなないんなだなぁ。


 そんなことを思いながら俺たちはデートの目的地である遊園地へと向けて足を動かした。

 ここからどんなゆーちゃんの新しい表情が見れるのかワクワクが止まらない。

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