第41話 シェード登場
遠征から帰って久しぶりのクランハウスだ。
「マリーちゃん、こっちもマッサージお願い」
「もう少し待って」
「マリーもてもてだな」
「マッサージを極めようかな」
美少女がおっさんらにマッサージしている絵面が浮かんだ。
なんかいやらしい。
「いや駄目だ。なんでか言えないけど駄目だ。マリーは俺の切り札だから、子供のうちはマッサージしても良いけどな」
「変なディザ」
「言ってやるなよ。坊主にも譲れない事があるんだ。自分だけにしてほしいのかもな。がはははは」
王打さんがニヤニヤしながらそう言った。
こいつからかっているな。
「そんな事言っているとお父さん嫌いって言われますよ」
「グサッときたぜ。流動スキルでもこれは受け流せないな」
この人結婚してたのか。
突然、クランハウスの扉が開け放たれて、五人の男女が入って来た。
この人らはクラン・デスタスのメンバーだ。
一人だけ知らない少年がいるな。
「この地で活動する事になった冒険者のシェード・バッファです。お見知りおきを」
少年がそう挨拶した。
ええとバッファ家の人間だと思うが見たことがない。
「ディザだけど、俺に用があるんじゃないのか」
「これはこれは。平民のディザ君。我らが父上がお怒りでね。僕に始末をつけるように仰せつかった」
我らが父上って事はこいつも兄弟か。
「お前の顔は屋敷で見たことがないが」
「ええ、別宅で暮らしていますしね。所詮側室の子供です。しかし、君には感謝している。ゼットが死んでくれたおかげでぐっと僕の継承の確率が高くなった」
「じゃあ、俺に構うな」
「そうは行きません。君のSランク昇格をなんとしてでも阻止しろと言われています。ふふふ、隙があったら自由にとも」
あー、そういう目的ね。
これは宣戦布告という奴か。
こいつはゼットほど間抜けじゃなさそうだ。
どうやってクラン・デスタスのSランクを説得したのか分からないが、引き連れている事からもそこそこやるのが分かる。
「坊主悪いな。装備を作ってもらっていうのも何なんだが、今日から敵味方だ」
「俺の大槌の前には立たない事だな」
「僕のスピードにはついて来れないと思うけど、張り合わない事さ」
「悪いわね。マリーちゃんはもらうわ」
「仕方ないな。勝負してやるよ。だが、決闘はしない。冒険者なら依頼で勝負だ。期限は一ヶ月。その間に俺がSランクに上がれたら勝ちだ。負けた場合は冒険者を辞めてやる」
「言質は取りましたよ」
そう言ってシェードは去って行き、4人もそれに続いた。
「坊主、Sランク4人に喧嘩を売るなんてやるじゃないか。気に入ったぜ」
「若気の至りですよ。失敗したら冒険者を一時辞めて、また登録し直します」
「はっはっは、ずるいな。そのずるさは嫌いじゃないぜ。確かに再登録しないとは言ってない」
「死ななきゃ何度でもやり直せるんです。負けたら不味いという戦いでもありませんしね」
「勝てよ。クラン・デスタスに目に物見せてやれ。ダンジョンコアを目先でかっさらって、既にこっちの一勝だ。一勝一敗にするなよ」
「もしかして、クラン・デスタスが敵に回ったのって、ダンジョンコアのせいですかね」
「ああ、間違いなくな。俺ならあんな事されたら、悔しくって眠れねぇ」
そういう訳か。
シェードはどこかで情報を聞きつけて交渉したんだろうな。
ちょっと実力を上方修正だ。
そこそこやるから、かなりやるにしてやろう。
「ディザ、大口叩いて平気なの」
「金を稼ぐ方法ならいくらでもある。負けて冒険者辞めたって、食っていく事はできるさ。マリーは心配しないでいいよ」
「私はごみ溜めに戻っても良いわ。ディザさえ一緒なら」
「あの境遇は勘弁してほしいな。たまに靴底を食ってた夢を見る事がある。悪夢はこりごりだ」
Sランクになる為の依頼をこれから受けるのは良いが、確実に邪魔してくるんだろうな。
隙を見せたら殺し屋が来ないとも限らない。
クラン・デスタスを雇う金を出して懐が寂しくなっている事を祈りたい。
一流の殺し屋が来たらどうなるか分からないからな。
とにかく用心だ。
家の周りはライオンが24時間、見張っているから良いにしても。
何か秘策を考えないと。
ポリゴンの能力は警備には向かないんだよな。
レーザー報知器なんかが作れればいいんだけど。




