第30話 オークエンペラー
こりゃ、ダンジョンが出来たのは確実だな。
街にこんなに近づかれて分からないとは他の冒険者は何をやっているのだろう。
はっ、もしかして夜の間だけ進軍したのか。
意外と賢いな。
いや統率する者がいるのかも。
今は考え事をしている場合じゃないな。
「倍化剣はちいちきゅうにいを再現」
いきなり最大回数の8192回を再現すれば良いんじゃないかと考えた。
でも剣は動かない。
確かにこれは倍化剣ではないな。
何だろ。
極化剣かな。
「倍化剣はちいちきゅうにいを極化剣と定義。極化剣、始め」
剣が動き出してオークを刻む。
いきなり最大回数を再現できた。
「岩神ご苦労様。休んでて良いよ」
岩神を止めた。
「ふぁ、眠い。眠気との戦いの方が大変だ。イオ、これを門まで届けてくれ。早馬が到着しても良いように緊急用の入口があるから引っかいてみて」
俺は手紙をイオの首に付けた。
これで援軍が来るはずだ。
眠気との戦いが始まった。
AIは寝てても作動するので、余計に眠い。
眠ったら緊急の時に指示が出せない。
うとうとして船をこぐ事5回。
やっと援軍第一陣が到達した。
「やっぱり僕が一番乗りだ。サクッと行ってくるね【俊足】」
極速の姿が見えなくなりオークが刻まれ始めた。
少し寝てもいいよね。
寝てたら、肩を揺さぶられて起きた。
「坊主、よく頑張ったな」
大軍がそう言って褒めた。
「勿体ないわね。女の子にしちゃいたい。どっかに性転換薬が落ちてないかしら」
暴風からは褒められたか分からない言葉を頂いた。
「後は任せろ」
そう言ったのはクラッシャー。
Sランクが4人も来たんだから帰っていいよね。
でもなんか嫌な予感もするんだよ。
もう少しここに居よう。
「【多腕】アーミースラッシュ」
「【打撃】超爆撃」
「【耐性】物理。さあ、かかってらっしゃい。いくらでも受け止めてあげる」
クラン・デスタスの面々の活躍でだいぶオークの数は減ってきた。
負けじと岩神とフライングソードにオークを駆逐させた。
その時、咆哮が鳴り響き、岩神が吹き飛んで光になった。
フライングソードも吹き飛ばされた。
クラン・デスタスのメンバーはと目をやると、暴風が空に打ち上げられ、多腕は全ての剣を取り落としている。
クラッシャーは大槌の柄が折れていた。
極速は大きい手で掴まれていて、オークの三倍もある巨大オークが斧をもう一方の手にせせら笑っていた。
あー、ピンチという奴か。
ここは俺の最大の攻撃をぶち当てる。
「【具現化】大岩【アニメーション】落下。潰されろ」
「ぐおっ」
巨大オークは短く吠えると飛んできた大岩を斧で真っ二つにした。
とうぜん大岩は消える。
効かないのね。
岩に勝てた攻撃と言えば破音剣だ。
よし、パクろう。
「暴風さん、相手を一時止めて」
「男の癖に指図するんじゃないわよ。でもオークエンペラーも男。倒さないとね」
暴風が斧の連撃を体で受け止める。
いくら物理耐性だと言っても、大丈夫かな。
そうだ、早く破音剣を作らないと。
破音剣の秘密は振動だと思う。
剣を振動させるアニメーションは簡単だ。
ただ、フライングソードは軽い。
宙を飛ばす以上、これはどうにもならない。
どうにかするんだったら、作れば良い。
「【作成依頼】鎧の戦士のモデルとそれから基本動作と破音剣のアニメーションを頼む」
「作成料として金貨30枚を頂きます」
「もってけ泥棒」
「作成完了」
戦士のアニメーションが破音剣を再現しきれていない場合を考えて、剣を振動させるアニメーションを作る。
ダブル破音剣でどうだ。
「【具現化】戦士と剣。頼むぞ、オークエンペラーを討ち取ってくれ」
戦士は頷くと駆け出して行って、極速を掴んでいる手をあの独特な音と共に斬り落とした。
返す刀でオークエンペラーの首をはねる。
ふう、なんとかなったぞ。
「みなさーん、無事ですかあ」
「おう、槌は壊れたが問題ない」
「手がしびれているが大丈夫だ」
「僕はちょっと駄目かな。走れそうにない」
「私は無傷よ」
「【具現化】オープンカー。じゃ、乗ってよ。街まで送るから」
ダンジョンの場所を突き止めるのは帰ってからでいいだろう。
何か忘れている気がするが、まあいいか。