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第1話 追放

「ディザ、でかした。覚醒者になっただと。庶子のくずだと思っていたが、意外なところで役に立つ。母親が死んだ時に捨てなくて良かった。でどういうスキルだ」

「ポリゴンです、父上」

「訳が分からないスキルだな。何が出来るんだ」

「それが意味不明なのです。サブスキルが二つあるのですが、うんともすんとも言いません」

「やってみろ」

「【モデリング】。念じると箱や球の幻が出てくるだけです」

「もう一つの方をやってみろ」


「【具現化】。具現化に失敗しましたと言われました」

「なに、クズスキルをつかんだというのか。覚醒は一度きりなのだぞ。バッファ家の恥さらしめ。お前など追放だ」

「そんな」

「おい、路地裏にでも捨ててこい」


 そして、時は経ち。


 あー、口の中がじゃりじゃりする。

 そしゃくしていた物を吐き出した。

 なんじゃこりゃ。

 靴底の欠片じゃねぇか。

 この踵の形はまさにそう。


「ディザ、大丈夫。どこか悪いの」


 俺を心配そうに見る小汚いこの幼女は誰だ。

 頭の中にマリーという名前が浮かんでくる。


 マリーはピンク色の髪で、もはやぼろ布の貫頭衣としか呼べないワンピースを着ていた。

 木で出来た十字架のような物をひもに通して首に掛けている。

 なんだかな。

 浮浪児という言葉がぴったりだ。


 視線を下に落とすと垢まみれの小ぶりな手があった。


 嘘だろ。

 夢を見ているんだよな。

 俺は零細企業のプログラマー。

 やっている仕事はプログラムと名の付くものなら何でもだ。

 事務ソフトから冷凍倉庫の制御やらパチンコのアニメーションから建物の3D表示。

 なにしろ会社のモットーが来た仕事は全て受けるだからな。

 当然の事ながらブラック企業だ。


 えっと、さっきまでパチンコの大当たりアニメーションのプログラムをやってたはずだ。

 3D素材が届かなくって納期も迫っているから、プログラムを組むために仮の3Dモデルを作成していたはずだ。

 ボーンの組み方が不味くって、親子関係が滅茶苦茶になった。

 それで、足と手が絡まりまくって顔から突き出てしまったんだ。

 深夜テンションもあって、余りのシュールさに大笑いしていたんだよな。


「ねぇ、ねぇ」

「マリー、ちょっと静かにしてくれないか。状況が整理出来ない」

「熱があるんじゃないの。喋り方が大人みたい」


 ちょっと、待って。

 思い出してきた。

 その後に頭が猛烈に痛くなって。

 俺、死んだのか。

 死因、大笑いって何の冗談だ。

 デスマーチ中に過労死だな間違いない。


「うわ、転生かよ。浮浪児スタートってナイトメアハードだろ」


 俺の脳裏にディザの記憶が浮かび上がる。

 父親に捨てられたのだな。

 それまでの裕福さを見るに貴族階級だと思われる。

 くそ親父め。

 復讐リストの一番上に書いておいてやろう。


「やっぱり熱があるのよ。変な事、口走って」

「オーケー、オーケー。落ち着いた。俺の社畜頭脳をもってすれば、こんな苦境ぐらいなんとかなるはず。いや、なんともならん。助けて神様」

「やっぱり変。こういう時に食べると良い雑草があるわ」


「待てよ、チートがあるはずだ。転生チートが」

「もしかして、スキルに目覚めたの。そうでしょ。このごみ溜めから抜け出せるのよね」


 スキルだ。

 それしかないだろ。


「ステータス」


――――――――――――――

名前:ディザ LV1


魔力:15

筋力:11

防御:8

知力:47

器用:10

瞬発:12


スキル:ポリゴン LV1

――――――――――――――


 おー、出た出た。

 俺のスキルはポリゴンね。

 説明を寄越せ。

 おっと何か出た。


――――――――――――――

ポリゴン LV1

 100ポリゴンまでのモデリングをする事が出来る。


 サブスキル:

  モデリング

  具現化

――――――――――――――


「では、【モデリング】」


 モデリングの画面が立ち上がった。

 残りポリゴン数100と表示してある。

 100ポリゴンしか使えないのか。

 けち臭いな。


 まあいい。

 えっと操作はどうするんだ。

 箱出てこい。

 おっ出て来た。

 念じるだけでいいのか。

 こりゃ便利だ。

 設定が多いモデリングソフトはどの機能がどこにあるのか慣れるまで、わけわかめだからな。

 箱の胴体と頭を作って足と手を角柱で付け足して、セーブだ。

 名前をつけて下さいだと。

 人間っと。


 具現化はレンダリングの代わりだろうな。


「よし、【具現化】」

「具現化に失敗しました」


 むきっー、使えないツールを使ってるみたいだ。

 エラーなんか吐きやがって。


 おー、俺に対する挑戦だな。

 社畜なめんなよ。

 こうなったら。

 胴体も取っ払って、全てのパーツをワイヤーで構成。

 その名も棒人間だ。

 これなら文句ないだろ。


「よし、【具現化】」


 おー、棒人間爆誕。


「どんなもんよ」

「すごおい。ディザ、本当にスキルに目覚めたのね」


 マリーが棒人間を小突いた。

 吹き飛ぶ棒人間。

 えー、弱っ。


 そうだ。

 棒人間を消してと。

 消すとポリゴンの残り数値は回復するんだな。


 重さ設定をして。

 具現化。


 小突いてみた。

 倒れる棒人間。

 ですよねー。

 分かってましたよ。

 じゃ、重さ10倍設定。

 どうだ。


「具現化に失敗しました」


 おー、エラーの悪夢再び。

 重く見えないって事だろうな。

 つまりイメージが出来ないものは無理。

 たぶん炎をポリゴンで作っても冷たくは出来ないって事だろ。

 青い炎なら冷たくできるかもだけど。


 ここで問題だ。

 俺は学生時代、美術の成績が1の男。

 さて、どうしよう。


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