表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/61

Seg 56 封印、そして…… -03-

 ◆ ◆ ◆


 あまりの(まぶ)しさに目を開けられない(ほど)(はげ)しい稲妻(いなずま)の空間。だが不思議な事に、ミサギに(いた)みはまったく感じられなかった。


「……?」


 音と光がだんだんと落ち着いてくると、ユウはそっとまぶたを上げ目の前に立つミサギを見る。


 (おどろ)くことに、稲妻(いなずま)走る空間にいたのは、無傷(むきず)のミサギ。

 放電は続きバチバチと音までたてているが、これといったダメージは無い様子だ。

「み、みしゃぎ……しゃ?」 

「……何ともない」

 意外な結果にミサギは拍子抜(ひょうしぬ)けした声で(こた)える。

 頭上にハテナを飛ばすユウ。

 アラミタマも同じリアクションで(なや)んでいたが、再びミサギに(ねら)いを定めて、(かみなり)(たま)()った。

 今度は、()けることなく真正面から受け止めるミサギ。

 先ほどと同じ轟音(ごうおん)(ひび)かせ、辺りが光に包まれていく。しかし、やはり何も起こらない。

「ど、どういうこっちゃねん……?」


「メェ〜???」


 もしかして、と吉之丸(よしのまる)は気付く。

「東条さんの事、女性と勘違(かんちが)いしてるんじゃ?」

「は?」

勘違(かんちが)いしてて、男に変えようとしてるんじゃないっすか? 所長みたいに」

「えっ?」

 またもや核心(かくしん)()いてしまった吉之丸(よしのまる)


 その発言を聞いて、ミサギの表情が変わる。

 ()を向けられたユウ以外の(みな)は、この世で見てはいけない(いか)りを見てしまったと、後に青ざめながら語った。


「ふざけるな…………(ぼく)は男だ」

 かつてない冷気を放ちながら(つぶや)く。


「!!??」


 まさに、ガーンとショックの(かね)を鳴らすアラミタマ。


「お、落ち着けって…………な?」

「せ、せやで……ほら、アラミタマいうても、もこもこの羊さんやん? キレても、しゃ、しゃーないやん? な?」


 みっちゃんとアスカは決死の覚悟(かくご)で止めに入る。アラミタマを封印(ふういん)するのだから問題はないはず。だが何故(なぜ)か、止めないと途轍(とてつ)もない惨劇(さんげき)が起こる気がしてならなかったのだ。


 木戸も察しているのだろう、(かれ)から見えないよう大きな体でユウを避難(ひなん)させて(かく)す。


 その場にいる(すべ)ての存在(そんざい)が体の(ふる)えを感じていた。

 原因はきっと寒さだけではない。


 禍々(まがまが)しいオーラが周囲に(にじ)みだし、ミサギは小さく口を動かす。


「…………|ル シエ コンフェ ト シェス フェセス《こいつの毛を残らず刈り取ってやる》……!」


「ちょっ!? こ、言霊(ことだま)待って!? それ羊さんぜったい(こわ)がるやつ言うてるやろ!?」

「アラミタマ相手に、温情()ける必要があるの?」

「メヒェッ!?」

 アラミタマも恐怖(きょうふ)を感じたのか、(おび)えてひきつった声を上げる。


「……(ぼく)(いか)らせたのが悪い……!」

「や、やめたげてぇな……今はミサギどんの方が悪モンの顔なっちょるで~?」

「そ……それにさ……ほら、アラミタマは封印(ふういん)しなきゃ、ね?」



 ミサギは無言で無数に連なる氷の(くさり)(きり)を空気中から作り出した。

 アラミタマの起こした風は、ミサギの冷気と混じり(かみなり)が冷気に食われていく。

 ()んだ音をたてながら、刹那(せつな)のうちに小さな羊たちを(きり)(すべ)(つらぬ)き、(くさり)巨大(きょだい)なアラミタマを(から)めとった。


「メッ……メエエェ……」


 リィレァー……


 拘束(こうそく)から(のが)れようと、アラミタマはもがき始めるが、

動くな(ヴェスェス)

 (かれ)の一言で、恐怖(きょうふ)とともに動きを(ふう)じられる。


「……」


 ミサギは大きく息を()()し、



 ダンッ



 と、片足(かたあし)で思いきり地を()みつける。


 その衝撃(しょうげき)だけで大地は()け、()(くぼ)み、数分にわたる地震(じしん)を引き起こした。


(ぼく)の気が変わらないうちに、早く封印(ふういん)して」

 落ち着いた、いつもの表情を見せているが、(くら)漆黒(しっこく)(ひとみ)無慈悲(むじひ)な殺気を宿したミサギに、一同は(したが)う他なかった。


 ◆ ◆ ◆


 緇井(くろい)は、急いで透明(とうめい)小瓶(こびん)を地面に置き、スマホをかざす。

 冷たい風が強く、かじかむ手で(びん)()さえていなければ飛ばされそうだった。

 スマホを持つ手から、明るい青緑の花びらが無数に()()て、風にあおられ花吹雪(はなふぶき)()す。しかし、AR機能で(うつ)()された画面には、小瓶(こびん)魔法陣(まほうじん)だけが(うつ)っていた。


 緇井(くろい)は、カシャリとシャッターを切る。

 すると、先ほどの魔法陣(まほうじん)(びん)(きざ)まれているではないか。

 小瓶(こびん)確認(かくにん)すると、彼女(かのじょ)はアラミタマへと(びん)の口を向ける。


「アラミタマを(ふう)ず……!」

 彼女(かのじょ)が念を()めると、小瓶(こびん)の周りに再び花びらが()い始める。魔法陣(まほうじん)(あわ)く青く(とも)り、風が徐々(じょじょ)(びん)へと()()まれていく。


 時を置かず、(びん)吸引力(きゅういんりょく)はどんどん増していき、アラミタマのもこもこから(かみなり)から、(すべ)てを()()くすまで止まらなかった。


 ()()み始めてから数分。

 ようやく最後の雲を()()わり、緇井(くろい)はすぐさまコルクで(ふた)をする。


「……メェエエ」


 外へ出ようとアラミタマが(うごめ)くと、(びん)()れた。吉之丸(よしのまる)があらかじめ用意していた麻紐(あさひも)()きつける。

「くっ、キツ……」

 吉之丸(よしのまる)は、抵抗(ていこう)するたびに解けていく麻紐(あさひも)を、()い緑の花びらをはらはらとさせながら力の限り(びん)()きつける。(ひも)()き具合がそのまま封印(ふういん)の強さを表しているようだ。


 アラミタマは、封印(ふういん)されてなるものかと(あらが)う。

「気合い入れろ! 今までのアヤカシとは(ちが)うんだぞ!」

 緇井(くろい)手伝(てつだ)ってどうにか封印(ふういん)完了(かんりょう)した。


 (びん)は、()きに()いて、バレーボールほどの大きな麻紐(あさひも)の玉になっていた。もはや(びん)なのか玉なのかわからない。


「アラミタマを(ふう)じるのは初めてだが、成功してよかった」

 そう言った緇井(くろい)は、出逢(であ)った時のすらりと凛々(りり)しい女性へと(もど)っていた。

「あ、所長! 元の姿(すがた)(もど)りましたね!」

「うむ。これで依頼(いらい)は達成できそうだな」


「無事に封印(ふういん)おめでと~う♪ いやあ、どうなることかと思ったけどよかったよかった♪」

 アスカが拍手(はくしゅ)して(ねぎら)いの声をかける。


「ね、それ、見せてもらっても大丈夫(だいじょうぶ)?」

「ああ、構わない」

 (びん)というよりもはや麻紐(あさひも)の玉となった物を受け取ると、アスカは()めつ(すが)めついろんな角度から観察し始めた。


「へぇ、これが封印(ふういん)……バレーボールができそうだね」

 不思議な事に()()わりがわからなくなっている。


「これは、麻紐(あさひも)()いた分だけアヤカシの力を(ふう)じることができるんだ。(びん)につけた魔法陣(まほうじん)は、どんな大きさのアヤカシも入るように術を(ほどこ)している」

 しかし……と、緇井(くろい)悄然(しょうぜん)とした面持(おもも)ちになる。

「正直、アラミタマがここまで強力だとは思ってもいなかった。封印(ふういん)の方法も改良する必要がありそうだな」

「よかったら(ぼく)手伝(てつだ)うよ。封印(ふういん)についてもっと研究も進めたいし。

 君さえよければいつでもイヅナに連絡(れんらく)して」

 アスカは名刺(めいし)名刺(めいし)と言ってスマホを取り出す。

 画面には「国軍超常(ちょうじょう)現象研究機関所属(けん)イズナ所属研究員」の肩書(かたが)きが、アスカの子供(こども)っぽい笑顔(えがお)の証明写真とともに(うつ)()される。


(ぼく)個人への連絡(れんらく)はこっちにしてね。イヅナの代表番号だと左沢(あてらざわ)さんが出てくれるだろうけど、多分室長の事で手いっぱいだと思うから」

了承(りょうしょう)した」

 二人(ふたり)名刺(めいし)交換(こうかん)をしている間、みっちゃんはキョロキョロと辺りを見回す。


「なあ、ミサギどんとユウどんは?」


「え?」

「そういえば……! ミサギ君、機嫌(きげん)悪いままだよ!」

「早く何とかせえへんと、いつ爆発(ばくはつ)してもおかしないで!」


 みっちゃんとアスカは()(さお)になって、手当たり次第(しだい)()(まわ)って(さが)す。


「でも、本当にいないッスね」

 危機感(ききかん)ゼロの吉之丸(よしのまる)も近くの(しげ)みなどに入ってみたが、見つけられずに(もど)ってきた。


「なに呑気(のんき)にしてるんだよ! あの性格破綻(はたん)者を()っておいたら大変な事になるよ!」

 思わず()()大事さに(さけ)ぶアスカ。しかし、視界(しかい)に大きな(かげ)を見つけ、救世主とばかりに(ひとみ)(かがや)かせた。


「木戸君っ! ああ君がいてよかった!」


 (みな)は、残された唯一(ゆいいつ)の希望、木戸へと一斉(いっせい)視線(しせん)を向けた。

「君ならミサギ君の居場所がわかるよねっ?」


「……」

 木戸は、相変わらず寡黙(かもく)(たたず)まいで(みな)の注目を浴びていたのだった。


 ◆ ◆ ◆


 木々が()(しげ)る中、ミサギは(ねむ)るユウを(かか)えて歩いていた。

 表情は見えない。(うつむ)いていて、何かを(つぶや)いているようだ。


 アンフェティト オイセオア

 シャンティレシャンティドゥ ヴィイレセア……


 それは子守唄(こもりうた)のように聞こえた。

 ミサギが言葉を(つむ)ぐたび、ユウの身体から(うす)(すみ)のような(きり)()()していく。すると、アラミタマの魔力(まりょく)にあてられ紅潮(こうちょう)していた(ほお)が少しずつ落ち着いてくる。


 もう少しでユウも回復するだろう。そう思うと、ミサギの表情は無意識に(おだ)やかなものとなった。


「まったく、世話を焼かせる……」

 顔がまだ少し赤い。熱を計ろうにも両手はユウを()きかかえて(ふさ)がっている。


 ミサギは、仕方無しに自身の(ほお)をユウの(ほお)にくっつけた。


 しばらく体温を確かめているうち、自分も熱くなってきた気がして顔を(はな)す。


「……?」

 ユウの熱が移ったかと思った。しかし、では、鼓動(こどう)が早まったのはなぜだろう。

 初めての感覚に戸惑(とまど)う。

 ミサギがその答えへと辿(たど)()くのは、まだまだ先のようである。

お読みいただきありがとうございました!

***************************************

【評価のお願い】

ちょっとでも楽しかった、面白かったと思っていただけましたなら↓の☆☆☆☆☆から評価をくださると嬉しいです。執筆の励みになります!

***************************************

仕神けいた活動拠点:platinumRondo

【URL】https://keita.obunko.com/

***************************************

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ