表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/61

Seg 50 遇う者たちの生業 -01-

 翌朝(よくあさ)

 屋敷(やしき)食堂の席で、まさにユウとミサギが朝食へ(はし)をつける瞬間(しゅんかん)であった。


「や~や~♪ 朝メシちゃんと食っちょるか~!」

 みっちゃんである。食堂の(とびら)を勢いよく開けてやってきた。


「毎度いいタイミングに来るんだな、君は」

「そらもぉ日課になっとるけぇのう♪」

「おはようございます。朝食はこちらにご用意しております」

 木戸は、慣れた手つきでみっちゃんの分を(なら)べていく。


 今朝(けさ)は魚定食だ。もちろん木戸の特製である。

 (こう)ばしい焼き目のついた(さけ)が、横に()えられたたくあんと色を織りなし食欲(しょくよく)をそそる。パリッとした()海苔(のり)も、出汁(だし)の風味豊かな味噌汁(みそしる)も、(すべ)てが食べた者の胃を満足させる。

「おお、美味(うま)そうじゃのお!」

 みっちゃんは、いつものように元気よく合掌(がっしょう)して満足そうに平らげて去っていった。


「やあやあ諸君(しょくん)! 朝ごはん、しっかり食べてるかい?」

 勢いよく(とびら)を開け、今度はアスカが()()んできた。

「お、(たまご)もあるじゃないか。(たまご)かけご飯にして、(さけ)一緒(いっしょ)に食べると相性(あいしょう)最高なんだよね♪」


須奈媛(すなひめ)……なんだその(かみ)の色は?」

 ミサギが(あき)れて見るのは、明るい珊瑚色(さんごいろ)となった(かれ)(かみ)

 アスカはくるくる回りながら一同の前に立つ。


「いいだろ~♪ 海にたゆたう珊瑚(さんご)のようになりたくなっちゃってね~♪

 どうだい、似合ってるだろ?」

 ユウにウインクして同意を求めた。

 ふわふわと飛んできたウインクハートは、ユウの頭にコツンと当たったが、当の本人はアスカを見つつも口いっぱいのご飯をずっと咀嚼(そしゃく)している。アスカの予想していた効果はなかった。

「むいんあっぺあむんももも」

 何かを言っているが、まったくわからない。アスカはまったく気にすることもなく、ヒラヒラと手を()って笑顔(えがお)を返す。

「おっけおっけ♪ お()めの言葉ありがとう♪」


 ニコニコしている(そば)で、ミサギは食卓(しょくたく)(なら)ぶ食べかけの(さけ)視線(しせん)を落とす。

「……(さけ)の色だな」

「あっはは♪ それも美味(おい)しそうでいいね~。

 ……あ、(ぼく)の分は用意しなくて大丈夫(だいじょうぶ)だよ」

 木戸が朝食を用意しようと静かに動き出すのを、アスカは止めた。

 栄養ゼリーを取り出し、みっちゃんが食べた後の食器を見る。

「木戸君のご飯が美味(おい)しいのには定評があるからね。(くせ)になって、ミシェル君みたいにやめられなくなったら(ぼく)(こま)る」

「では、お席をご用意します」

「ありがと~♪」

 木戸は、(すで)に手にしていた椅子(いす)を、アスカの(そば)にそっと置いた。


「……ところでさ~ぁ、ミサギ君」

 行儀(ぎょうぎ)の悪い(すわ)(かた)をするアスカ。無駄(むだ)(ねこ)なで声を出す。

「週末、緇井(くろい)さんのトコ、行くんだろ~? 同行させてよ~」

 たくあんを食べようとした(はし)がピタと止まる。


 なぜ知っている、は愚問(ぐもん)だ。

 そんな事、総領寺が把握(はあく)しているのだから、(かれ)も知っていて当然である。


「例の勉強か?」

「そ! 緇井(くろい)さん、封印(ふういん)できるだろ? 前に見た報告書の中で見つけたんだ。それで、ユウ君にも封印(ふういん)の様子を見せてあげたいんだよ」


他所(よそ)をあたれ。(ぼく)邪魔(じゃま)をするな」

「何てことを言う!」

 アスカは信じられない、と驚愕(きょうがく)の声を上げる。

魔法士(まほうし)の仕事はそう滅多(めった)に! 都合よく! 定期的に画期的に来るわけじゃないんだぞ! あのキッズアニアでも体験できない貴重(きちょう)な仕事だぞ!」


「職業として成り立っていないだろ」

 ズバリ核心(かくしん)()く。


「それに、ユウ君も……というより、君が見て見たいんじゃないのか?」

 さらに核心(かくしん)()(かれ)に、アスカは(かく)すことなくにっこり微笑(ほほえ)んだ。

「まあね♪」

「……」

 もう(あき)れて溜息(ためいき)しか出ない。

「なあいいだろ? どうせサポート案件だろ?」


「サポート?」

 反応したのはユウだ。

「ミサギさん、お手伝(てつだ)いするんですか?」

「そう――」

「そうなんだよ~! むしろ、ミサギ君に直接依頼(いらい)が来ることの方が(めずら)しいんだよ!」

 ()()まれて、ミサギはムッとして(だま)()む。

 一方、ユウは()に落ちたという表情である。

 いつも(いそが)しそうにあちこち行っていたのは、自身の仕事だけでなく、(ほか)魔法士(まほうし)のサポートに走り回っていたということだ。


 改めて、ミサギの事を何も知らない自分に初めて気付かされる。

 思わずアスカを見ると、察したのかにっこりと笑顔(えがお)が返ってきた。

「君も、ミサギ君の仕事とか見てみたいよね~。普段(ふだん)は平和な案件ばかりだけどさ、(かれ)が引き受けるのは、基本的に人間では対処(たいしょ)できないものばかりなんだ。ほら、こないだのサルとイヌのアラミタマを覚えてるかい?」


「小物に用はないよ」

 ミサギが止めていた(はし)を口に運ぶ。その表情は少し不貞腐(ふてくさ)れていた。

「アレを小物って言うか~」

 アスカは(かた)をすくめ、栄養ゼリーを()()した。

「なあ、今回だけ(たの)むよぉ~。ユウ君の学習のためにもさぁ」

 事実、見学などまったく問題ない。だがしかし、ユウを(たて)にしてくるアスカがなんだか気に入らなかった。


「……好きにするがいいさ」

 ミサギは眉根(まゆね)を寄せ、早々に食べ終わらせて席を立つ。

 その言葉を了承(りょうしょう)の意と受け取ったか、アスカは上機嫌(じょうきげん)でガッツポーズをした。

「ありがと~!」

 返事をしない(うし)姿(すがた)を見送り、(かれ)はすかさずスマートウォッチを操作(そうさ)する。


「……あ、緇井(くろい)さん? (ぼく)だよ(ぼく)~」

 どうやら通話をしているようだ。軽いノリで、詐欺(さぎ)と聞き(まが)常套句(じょうとうく)を使っている。


 指向性のスピーカーとマイクは、周囲に声が聞こえないはずなのだが、通話相手が女性で、(いか)りをぶちまけて(さけ)んでいるのがユウの耳にまで(とど)いていた。


「そぉんな楽しみそうな声上げないでよ~♪ 邪魔(じゃま)はしないからさ~。んじゃ、週末楽しみにしてるね~♪」

 通話先では、まだ(さけ)(ごえ)が続いていたが、容赦(ようしゃ)なく切られた。


 アスカの耳は、どんなに言ってもポジティブなセリフに変換(へんかん)される便利機能でも搭載(とうさい)されているのだろうか。


「よし♪ ミサギ君と行くお仕事体験決定~♪」

「え?」

 茶碗(ちゃわん)を持ったまま呆然(ぼうぜん)とアスカを(なが)めるユウ。


「楽しみだね、週末♪ んじゃ、また来るね~!」

 当の本人を完全に置いてけぼりにしたが、とんとん拍子(びょうし)に話がまとまり、アスカはウキウキしながら椅子(いす)の上から喜びのジャンプをして出ていった。

お読みいただきありがとうございました!

多くのタイトル長い作品に埋もれてしまってる稚拙作品ですが、評価やいいねしていただけると励みになります!


仕神けいた活動拠点:platinumRondo

【URL】https://keita.obunko.com/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ