表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/61

Seg 41 個人情報保護法たちのディストレス -02-

 ◆ ◆ ◆


 ()けに()まっていた空は、すっかり元の明るさを()(もど)した。桃源郷(とうげんきょう)だった世界はいつの間にか終わりを告げ、ボロボロの工場(あと)に変わっていた。


 一段落(いちだんらく)ついた、とミサギは大きく()びをする。

「……何、ユウ君?」

 正面を見たまま、()びを続け(たず)ねる。


 しかし、問うた相手が何も言わないので、つい()()いてみると、ユウが(だま)って見上げていた。

「どうしたの? ケガでもした?」


「なんとっ! 再びミサギどんらしからぬ(やさ)しさ発言がぁっ!」

 そう言ったみっちゃんの姿(すがた)は、ミサギの()(はら)うように出した花吹雪(はなふぶき)によって(はる)彼方(かなた)へと()()ばされていた。


「言わなきゃ伝わらないよ、どうしたの?」

「すごいっ! ミサギさんスゴイですっ!」

「え?」


 子供(こども)特有の、純粋(じゅんすい)(ひとみ)(かがや)かせてユウは興奮(こうふん)気味に言った。

「あんなおっきなアヤカシ二(ひき)と戦えるなんてスゴイですっ!」

「そ……そうなのか?」

「そうです! スゴイ! なんかもう……スゴイッ!」

「ええと……語彙力(ごいりょく)

 ピョンコピョンコと()()ねて興奮(こうふん)している様子に、ミサギはそっぽを向く。その耳はほんのり赤かった。

「そ、それより、一(ぴき)()げたから報告をしなきゃ」

「はい、報告についてはすぐに……」

 あたふたとする仕草、初めて見る表情に、さすがの木戸も(おどろ)きを(かく)せないでいた。


「せやろー! すごいやろー!」

 何故(なぜ)自慢(じまん)げにしているみっちゃんに、ミサギはあっという間に不承面になった。いつ(もど)ってきたのか。


「どうして君が自慢(じまん)げに言うんだい?」

「ええやーん、ほんにミサギどんはすごいって自慢(じまん)したいやーん。な~、ユウどん! 木戸はん!」

「うん! うんっ! ミサギさんは強くてスゴイ!」

「はい、(わたし)にとっても自慢(じまん)の上司です」

「木戸まで――悪乗りはやめろ」


 ユウはともかく、木戸もその場の勢いで言ったのだが、(みと)められ、照れるミサギを見て、自分の事のように(うれ)しく思わずにはいられなかったのだろう。


謙遜(けんそん)しんなぁや。ほんま、伊達(だて)に『(あかつき)魔女(まじょ)』やあらへんな!」


 その言葉に、ミサギの表情がかたまる。


「さっきも言うとったんよ~。ミサギどんは言霊(ことだま)(あやつ)る『(あかつき)魔女(まじょ)』の名を代々()()ぐホンマモンの魔法士(まほうし)なんやからって」

 そばでユウと木戸が(あわ)ててみっちゃんに合図を送るが、努力(むな)しく気付いてもらえない。ペラペラとしゃべり続ける(かれ)に、二人(ふたり)はそろって合掌(がっしょう)した。


「……ミシェル」


「おん? なんや…………あっ……!」

 ようやく異変(いへん)に気付くが、時すでに(おそ)し。


 冷気がたち()め、(かれ)の周りにまとわりつく。

 (あわ)ててユウと木戸を(さが)すが、二人(ふたり)はすでに遠くへ避難(ひなん)し、(かれ)一人(ひとり)がミサギの前で棒立(ぼうだ)ちしていた。


「君さぁ……」


 ミサギの顔は、先ほどまでの表情が一転、冷酷(れいこく)(いか)りを(にじ)ませみっちゃんを(にら)んでいる。

「や……スマンて……! 言うたらアカンやつやったんな?」

「いや、別に? 気にしなくていいよ」

 (にじ)(いか)りのまま、にこやかな表情を()りつけ淡々(たんたん)(こた)える。

「ただ、まあ残念だよね。この話をする者はどこかの知らない場所に飛ばされて帰って来れないだろうから」


 そうして、みっちゃんがその後しばらく行方不明(ゆくえふめい)になったのは、また別の話である。


「ん?」

 スマホのバイブ音に気付いたユウは、ポケットから取り出した。

「ボクのじゃない……」

 鳴りやまないバイブに、木戸とミサギを見ると、ミサギが、

「ああ、(ぼく)のだけど別にいいよ」

「ええっ? 急ぎの用事だったらどうするんですか!?  (にい)ちゃんも言ってましたよ! 『カネはメシなり』って!」


 しばらくの沈黙(ちんもく)の後、ユウの(はら)が鳴る。


「?」

「おそらく、『時は金なり』では……」

 ユウの顔が、爆発(ばくはつ)するとともに()()になった。

「そ、それ! そうとも言います!」

「……はぁ」

「ちゃんと出た方がいいです!」

 言われて、ミサギは渋々(しぶしぶ)スマホをタップする。

 音量を極小まで下げ、耳から(はな)れたところにスマホを当てると、スピーカーにしていないのに男の怒声(どせい)が周囲にまで(ひび)(わた)った。


「東条ぉぉぉおおおおお! 何やってんだ君はぁあ!」


 あまりの勢いに、ユウは飛び上がって転んでしまった。


 耳鳴りやまぬまま、ミサギは平然と話を始める。

「お(つか)(さま)です、総領寺(そうりょうじ)さん。その様子だと、テレビをご(らん)になってすぐ対応してくださったようですね」

 務めて笑顔(えがお)だ。

 しかし、電話先の相手は(いか)りで興奮(こうふん)絶頂(ぜっちょう)である。


(だれ)がやったと思ってる! (だれ)が規制かけたと思ってる!? (わたし)がやったんだ! すっごいだろっ! 個人情報保護サマサマだろっ! いいから早くこっちに()いっ!」


 ――ちっ、面倒(めんどう)くさいな


「君、今『ちっ、面倒(めんどう)くさいな』とか思っただろ!?」

「さすがは総領寺(そうりょうじ)さん。

 わかっているなら、()びつけてばかりいないで、たまにはご自身でこちらにいらしては? お得意でしょう、視察(しさつ)という名のサボリ(わざ)

「ちょっ……やめろ言うな左沢(あてらざわ)に聞かれたらまた監禁(かんきん)される」

「ああそれもいいですね。(ぼく)が自由に動ける」

「とーにーかーく! (ほか)にも話があるから()てくれっ!」


 ミサギは仕方がない、とため息を落とす。

「……わかりました。三十分ほどで行きますので」

「それとあか――」

 総領寺(そうりょうじ)の話をぶつ切りにするように、ミサギは切電(せつでん)ボタンを()くようにタップする。あまりの乱暴(らんぼう)さにスマホが(きし)み、悲鳴を上げているようだ。


 改めて面倒(めんどう)そうなため息をつき、ミサギはユウと木戸へ向き直した。


「すまないけど、今からちょっと付き合ってもらうよ」


「はい、え? どこへ?」

「イヅナだよ」


「?」


魔法士(まほうし)の活動本部、魔法(まほう)特務機関・飯綱(いいづな)動力(どうりょく)監理院(かんりいん)だ」

お読みいただきありがとうございました!

評価やいいねしていただけると励みになります!


仕神けいた活動拠点:platinumRondo

【URL】https://keita.obunko.com/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ