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Seg 31 震撃せよ、満たすべきは青き胃の腑 -02-

◆ ◆ ◆


「むぐ~!」

 ユウは口の中の物を()()む前に次の肉を入れ、(ほほ)が丸くなった顔で、急に立ち上がった。

「んぁ、どうした、ユウどん?」

 みっちゃんは、ユウがある一点を凝視(ぎょうし)しているのを見て、思わず同じ方を向く。視線(しせん)の先には、(まど)。さらにその先には、向かいのビルにある巨大(きょだい)なテレビが見えた。

 今いるレストランは駅前ということもあり、店舗(てんぽ)のみならず、外も喧噪(けんそう)でにぎわっている。そんな中でも、テレビはさらに(ひび)く音量で怪奇(かいき)現象という名のニュースを生放送で流していた。


「あー、ここ一ヶ月で急に増えたのう、この手のニュース」

 みっちゃんがコーヒーをすすりながらニュースを聞く。

 簡単(かんたん)に説明すれば、原因不明の爆発(ばくはつ)事件があちこちで起きている、という内容だ。


「では、現場のリポーターに(つな)ぎます」

 リポーターは、ドローンをスマホで操作(そうさ)し、瓦礫(がれき)と化した街並(まちな)みをゆっくりと(うつ)していく。時折、(こわ)れたブロック(べい)半壊(はんかい)の家屋の状況(じょうきょう)を説明し、悲惨(ひさん)な出来事だと報道をする。けが人やライフラインの復旧についても、速報データを受け取っては随時(ずいじ)報告を()(かえ)していた。

 テロ事件だ愉快犯(ゆかいはん)だと(さわ)がれてはいるが、じっと見つめる二人(ふたり)には、原因が何なのか予想がついていた。


 人に見えない、()れられない――つまりは、アヤカシ。


 不思議なことに、アヤカシはカメラなどの機械を通しての撮影(さつえい)は、ほとんどといっていいほど(うつ)らない。

 たとえ、(うつ)っていても機械が使いものにならなくなってしまうのだ。

 そのため、世間では怪奇(かいき)現象として(あつか)われる。

 みっちゃんは、ニュースを立ち上がって凝視(ぎょうし)するユウを見て、今更(いまさら)何が(めずら)しいのか(たず)ねた。


「あれがどしたんユウどん?」

「むっむゅん!」

 口の中が食材で満員状態なのを(わす)れていたようだ。

 ゴクンッと音を鳴らして(あわ)てて()()み、言い直す。

「みっちゃん……あの映像(えいぞう)!」

 ユウが身を乗り出してテレビ画面を指差す。

「んー?」


 アヤカシ(がら)みとわかっているみっちゃんには、さして興味のない内容。しかし、十数秒後にはユウと同じ行動をする羽目となった。


 生放送で現場中継(ちゅうけい)しているカメラで、何もないところが突然(とつぜん)爆発(ばくはつ)し、付近の木々が爆風(ばくふう)でなぎ(たお)されていく。

「あっ! ほら、あれ!」

 ユウの指がテレビ画面の(はし)へと何度も動く。

「あれ、ミサギさんじゃ……?」

「はあっ!?」


 映像(えいぞう)には、瓦礫(がれき)に向かって走る白っぽい長髪(ちょうはつ)の人間が(うつ)っていた。服装(ふくそう)が赤くなっており、ケガなのかもともとの服の色なのか、どちらにしろかなり目立つ。そしてそのすぐ後を、遠近法が(くる)ったかのような大男が追う。


 放送された二人(ふたり)姿(すがた)は、ユウの知る限りではミサギと木戸以外に思いつかなかった。


 と、次の瞬間(しゅんかん)、テレビ画面は(みだ)れ、『しばらくお待ちください』のテロップが流れ出す。


「あ……」

「あ~あ……ミサギどん、やってしもうとる」

「?」

 みっちゃんはやれやれといったため息を()らす。ユウが首をかしげていると、店員が両腕(りょううで)で限界まで乗せた料理を運んできた。


「た、大変お待たせしましたぁ~。こちら、4種のチーズインハンバーグとデミグラスチーズインハンバーグ、ビーフプレミアハンバーグ、ミックスグリルハンバーグ、温玉のせ和風おろしハンバーグになりまぁす……」


 店員もプロ意識と根性(こんじょう)を持っているのだろう。絶妙(ぜつみょう)なバランスで五品を運び、姿勢(しせい)(くず)さず、料理はできたてを、そして笑顔(えがお)を再び装備(そうび)してやってきた。

 両手で持ったミックスグリルハンバーグの鉄板をテーブルにそっとおろし、そのまま左右の手は(たが)いの(うで)に乗せた料理を華麗(かれい)に取る。

 食べ終わった料理の皿が回収(かいしゅう)され、できたての料理がみっちゃんとユウの前にきちっと(なら)ぶ。雑然としていたテーブルは肉料理で一気に(にぎ)やかとなった。

「では、残りの品も持ってまいります」

 優雅(ゆうが)に一礼し、去っていく。


「やるのぉ……あの店員さん」

 ものの数十分で一流店員として飛躍的(ひやくてき)に成長したその(うし)姿(すがた)へ、感嘆(かんたん)の意を()らさずにはいられなかった。


「わーい! いっただっきまーす!」

 先ほどまでのニュースがどこかへ()()び、ユウは(ひとみ)(かがや)かせた。

 今まで食べた品数を見ても、大人(おとな)が十人がかりで食べるほどの量だが、ユウは嬉々(きき)として口へと(ほう)()んでいく。


「……ホンマ、おいしそぉに食うのう~」


 できたて熱々の料理は、鉄板にしたたる肉汁(にくじゅう)をジュワッと(はじ)けさせながら『食べてくれ』といわんばかりに主張する。()えられたポテトとブロッコリーも、はねた油がきらびやかに(いろど)りを加え、実に美味(おい)しそうな焼き目をつけている。

 誘惑(ゆうわく)に負けて頬張(ほおば)ったなら、口内の火傷(やけど)()けられない。


 しかしながら、ユウは百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の強者だ。次々に慣れた手付きで口へと運んでいく。


 ――まあ、昨日(きのう)のあの()げたてアツアツ唐揚(からあ)げを躊躇(ちゅうちょ)なく食ってたんだし、平気なんやろうなぁ……


 と、みっちゃんはぼんやり思いながらユウを(なが)めていた。


 そんな時だ。

 突然(とつぜん)にお笑い番組のメロディが流れ出したのは。


 ◆ ◆ ◆


「あ、すまん。ワッシのスマホじゃ」

 みっちゃんがポケットから取り出すと、スマートフォンの画面には木戸からのメッセージが表示されていた。


 タイトルは、木戸らしい事務的なもので、現状報告と依頼(いらい)簡潔(かんけつ)に書かれていた。


「あ~……やっぱりのう」

「おーあひはほ、ひっひゃん?」

 ユウは、半分に切ったハンバーグを頬張(ほおば)りながら(たず)ねた。

 無防備に()()いたみっちゃんは、子供(こども)特有のまあるいほっぺを見て、思わずスマホを落としそうになる。

「丸すぎやぁっ!」

 ツッコミ精神から思わず(さけ)んでしまったのは、仕方のないことだった。


 みっちゃんは、(とど)いたメッセージをそのままユウに見せた。

 口の中の物を急ぎ目に咀嚼(そしゃく)し、飲み下したユウの表情には疑問符(ぎもんふ)()かんでいた。

「何これ? い……づ、な? 漢字ばっかりで読めないよ?」

 言われて、みっちゃんはミサギに注意されたことを思い出す。


 義務教育が当たり前の中、ユウは兄であるヒスイとあちこち旅をしていた根無し草だったのだ。

 学校へ通う(ひま)すらなかったと聞く。

 今、ユウの知識は、園児()みといっても過言ではなかった。


「なあ、ユウどん……今度、一緒(いっしょ)に漢字の勉強しよーな……」

 みっちゃんはため息を落とした。


 改めてスマホをタップし、

「これはな、木戸はんからのヘルプの連絡(れんらく)なんや」

 サングラスで見えない表情が、真面目(まじめ)声音(こわね)で説明する。

 メッセージタイトルにある『緊急(きんきゅう)』の文字が、みっちゃんの気持ちに焦燥(しょうそう)()()んだ。が、ユウにそれが伝わったかどうか。


「さっき、生放送でニュース流れとったろ? 普通(ふつう)なら、アヤカシ退治はニュースどころか、街の便利屋さんで()むくらいの規模(きぼ)なんよ」

「え、でも――」

「せや、今回のは、ミサギどんと木戸はんの二人(ふたり)じゃ手に負えんくらいヤバいやつじゃ」

 スマホから視線(しせん)を外すことなく、みっちゃんは返信を()()みながら続ける。

「あの状況(じょうきょう)からするに、かなり手ごわいアヤカシで、しかもまだ退治できとらん。木戸はんの連絡(れんらく)では何体おるかも書いとらんが、もしかしたら一体じゃないのかもしれん。そーゆー時は、臨時(りんじ)でわっしも手伝(てつだ)っちょるんよ」


「えっ……!?」

 ユウの表情が(おどろ)きに()まる。


「みっちゃん……」

「こりゃ急がなあかんヤツや! ユウどん、悪いが――」

「ねえ、みっちゃん……」

「どしたんや!? まさか、またニュースに――」


 一人(ひとり)(あわ)ただしくする(かれ)に、ユウは冷静に、しかし真面目(まじめ)に問う。


「みっちゃん……戦えるのか……?」


「……………………は?」

お読みいただきありがとうございました!

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仕神けいた活動拠点:platinumRondo

【URL】https://keita.obunko.com/

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