表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/61

Seg 23 在りし絆、綴りて証 -02-

「門の中で何があったかは()かないが、ここまで(ひど)いのは初めてだ」


 言いながら、(かれ)(ふる)える体に何とか力を入れて(ぬぐ)(つづ)ける。強く(にぎ)りしめた手は、ユウの(ほお)(さわ)る感覚がほとんど感じられなかった。


井上坂(いのうえさか)さん……大丈夫(だいじょうぶ)です」

 ゆっくり、(ささや)くように言葉が(つむ)がれた。

 ユウは、固く(にぎ)って(こわ)してしまいそうな井上坂(いのうえさか)の手に、そっと自身の手を()える。


「ボクは、大丈夫(だいじょうぶ)なんです」


 赤く染まる小さな子供は、薄菫色(うすすみれいろ)(ひとみ)をまっすぐに向ける。その先には、心配と不安で表情が定まらないでいる井上坂(いのうえさか)


「……お前のどこをどう見て大丈夫(だいじょうぶ)だなんて思えばいいんだよ……」


「え、えっと……」


 今にも泣いてしまいそうな井上坂(いのうえさか)に、ユウは立ち上がってボロボロの服を(まく)って見せる。


「ほら、こことか……ここも。血がついてるけどケガしてないですよっ」

 (うで)や足を指さして、無事であることをアピールをしていく。しかし井上坂(いのうえさか)はとうとう(うずくま)ってしまった。


「あの……心配かけてごめんなさい……! ホントにケガはもうしてないですから……あ、服! ボクのせいで(よご)してすみません!」


「……服なんて、いくらでも洗えば済む」


 井上坂(いのうえさか)(ひざ)(かか)()んだまま、()ねたように言う。

「けど、君は――」

 言いかけて口をつぐむ。

 ユウの身体は、確かに全身が血にまみれていた。それはすべてユウの血なのか。


 井上坂(いのうえさか)は、袖口(そでぐち)と口元を(うで)(かく)したまま、じっとユウを見る。

 字綴(じつづ)りの力を見せていないのだから、必要ないことなのだろうが、それでも(かれ)は口の動きを見せず、オロオロするユウに問いかけた。

「”本当に大丈夫(だいじょうぶ)?”」

「はい! 今はもう大丈夫(だいじょうぶ)です!」

 ユウはしっかりと答えた。


「”ケガはどうだったの?”」

「ええと、体中あちこち切られたりぶつけたりしたんだけど、これくらいならすぐに治るから平気です」


「……”敬語は(いや)だ”」

 ユウの口調に不満を持ったのか、井上坂(いのうえさか)はポソリと言う。だが、ユウには効いたようだ。

「うん、わかった。敬語をやめるよ」


「”ケガ、もう全部治った?”」

大丈夫(だいじょうぶ)、全部治ったよ」

 ユウはケロリとした表情で答えた。


 なるほど、と井上坂(いのうえさか)はユウの手足を見る。先ほど見たときには無数にあった()()かれた(あと)がなくなっていた。


 井上坂(いのうえさか)は、表情を見せないように、進む道を向いて立ち上がる。

 その袖口(そでぐち)からは、花びらがはらはらとこぼれ落ちていた。


 ユウがそれに気付いたかどうか。


「……ケガがないならいい。字綴(じつづ)りを続ける」

「わかった。で、何をすればいい?」

「言織は――あるな」

 そう言って、血でかすれた言織がユウのズボンに(はさ)まっているのを確認(かくにん)する。

「え? あ、こんなところに……()くしたかと思ってた」

「言織は常に持ち主のすぐそばにある。字綴(じつづ)りは歩きながらするのが習わしだが――」

 井上坂(いのうえさか)は、ケガがないと言った血まみれの子供を見た。


「ボクなら大丈夫(だいじょうぶ)だよ、歩けるし」

 先だって歩き出そうとするユウ。

「……歩かなくていい」

 井上坂(いのうえさか)は、自分の上着をユウに着せ、頭を(やさ)しく()でた。血の()みついた(かみ)がカサリと()れる。

(おれ)が歩けば問題ない。だから、無理するな」

 再び浮遊感(ふゆうかん)見舞(みま)われたユウは、(あわ)てて井上坂(いのうえさか)を止める。

「うわわっ! ま、待って待って! ボク歩けるから『お姫様だっこ( コレ )』はやめてくれっ!」


「……そうか」

 心なしか()()んでいるようだ。

 渋々(しぶしぶ)とユウを下ろし、今度は手をギュッと(にぎ)りしめた。

「転ばないよう注意しろ」


「☆※■&◎%!」

 初めて声にならない声を上げたユウ。言うまでもなく、顔は()()であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ