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Seg 19 君であり君でなく -02-

 ◆ ◆ ◆


 井上坂(いのうえさか)の前には、幼い子供のように目を()り、(あふ)れる(なみだ)を必死にぬぐう、ユウの姿をした水人形。


 その姿に、井上坂(いのうえさか)は手を()ばす。


「ダメだよっ!」

 指先が頭に()れる直前、泣きじゃくっていたユウが、目を()()にして(かれ)を見上げる。


「ダメだよ」

「ダメ」

「助けないで」

 木霊(こだま)のように声が重なる。

 足元の石畳(いしだたみ)は、見る間に赤く染まった水が満ちていく。

 ()らめく水面から、井上坂(いのうえさか)を取り囲むように無数のユウが姿を(あら)わす。


(にい)ちゃんは助けちゃダメなんだよ。ボクが自分でやらなきゃいけないんだ。でも、ボクはバケモノで! だれもボクの存在をみてくれない! みとめてくれない! ボクは――」


 井上坂(いのうえさか)の中で、ユウの言葉と幼い自分が重なる。



『ボクはバケモノだから、ここにいちゃいけないんだ』



 その瞬間(しゅんかん)、水でできたユウが(かれ)の手を(つか)んだ。

 我に返った井上坂(いのうえさか)は、()(はら)おうとしたが、相手は水。()れることはできても(つか)めず、じわじわと体の自由を(うば)おうと身に(まつ)わりついてくる。



「いけないんだ」

「みとめてくれない」

「バケモノだから」


 耳元で(ささや)く声が聞こえてくる。

 (かれ)は半身以上を水に包まれてしまった。やがて顔も(おお)われてしまえば、呼吸ができず、死に至る。

 だんだんと水人形たちが(かれ)を囲いはじめ、頭上に一つの大きな水の球を作りだす。

 井上坂(いのうえさか)を水球に()()める気だ。


 (かれ)は目を閉じた。

 水人形たちは、チャンスとばかりにユウの顔で口の(はし)(ゆが)ませる。

 水球を落とそうと(うで)を挙げた瞬間(しゅんかん)

 井上坂(いのうえさか)は、(つか)めるはずのない水の(うで)(つか)んだ。水人形は(おどろ)きに目を見開いて(かれ)を見る。


 (かれ)(ひとみ)は閉じたままだ。

 しかし、口は音もなく言葉を(つづ)っていた。


 ――迷うな、(いや)だと思う方は選ぶな!


 (かれ)の自由を(うば)っていた水は、その瞬間(しゅんかん)(はじ)け飛んだ。

 今度は、(かれ)の声ではっきりと(つづ)られた言葉が周囲を支配する。


「“これは、(しゅ)(つづ)りとしてあるまじき事例である”」

 袖口(そでぐち)から数枚、短冊形(たんざくがた)の和紙が(すべ)()る。

 と、先程(さきほど)の言葉が(すみ)となって和紙に(つづ)られていく。


 ――やるべきこともわかっている!


 井上坂(いのうえさか)声音(こわね)が変化した。

「重ねて言う。“これは、(しゅ)(つづ)りの試練としてあるまじき事例である。よって、字綴(じつづ)り屋、井上坂(いのうえさか)介入(かいにゅう)をこれより開始する“」


 短冊(たんざく)は文字を(つづ)り終えると、(はし)から桜色の花びらとなって散っていく。

 井上坂(いのうえさか)が風を起こすように(うで)を広げると、それは辺り一面に()い散った。


 一枚一枚が意思を持つ存在のように、遠くへフワリと、近くへクルリクルリと、花びらは(おど)(くる)う。


「主無き試練は、試練に非ず。空間回帰のため、字綴(じつづ)りの一切合切(いっさいがっさい)を許すものなり!」

 発した言葉が別の短冊(たんざく)()かび()がり、それもまた花と散る。

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