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Seg 17 言葉綴りし者たち -04-

 ◆ ◆ ◆


 (しゅ)(つづ)り。朱色(しゅいろ)(つづ)られた門で、字(つづ)りの試練ともいっていい。それは(つづ)ってもらう者が(いど)まなければならない、自分自身との葛藤(かっとう)である。


 ある者は、コンプレックスが再現され、また別の者は恐怖(きょうふ)とするものが現れる。


 しかし、必ずしも(だれ)もが(いど)むわけではない。言の葉屋が言織(ことおり)朱色(しゅいろ)で言葉を(つづ)ると現れるのだ。

 先程(さきほど)、中身を確認(かくにん)していた井上坂(いのうえさか)は不思議に首をかしげる。

 と、いうのも、言織(ことおり)には(しゅ)(つづ)りはなかったのだ。


 しかし、試練は始まってしまった。

 この門の中では、ユウに対する試練が始まっているはず。それが何かは、字(つづ)りをする井上坂(いのうえさか)すらわからない。

 わからないはずだが、天から(かす)かだが声が降ってきた。



 ――似てない……お(にい)さんに……

 ――もとが青い(かみ)……おかしい……



「なんだ? 何が起きている?」

 長年、字(つづ)りをしていた井上坂(いのうえさか)にとっても初めての現象だった。

 不快な声はさらに降り注ぎ、その言葉に井上坂(いのうえさか)苛立(いらだ)ちを(つの)らせる。


 ――さっきの怪我(けが)がもうない……

 ――バケモノ……まだ包帯巻いて白々しい……

 ――あいつだけ(ちが)う……



「これは……あの子の試練……? いや、記憶?」


 ――あの子の周りでだけ、おかしなことが起きるよ

 ――奇妙な……呪われているのでは?

 ――恐ろしい……


 ユウを否定する声に空を(あお)いでいると、井上坂(いのうえさか)の足元からも声が聞こえてきた。


 ――ボクはただ、こわくないよって言いたいだけなんだ


「!」


 石畳(いしだたみ)の一つが波紋(はもん)のように()らぎ、そこから生まれ出た(しずく)が人の形を成す。


 水の()らぎを持ったまま、それはユウの姿となった。


「ボクって、そんなにこわいこと、してる?」


「……」


「おなじことでも、きちんとしていても、ボクがするとみんなはこわがるんだ……ダメだっていうんだ」


 ユウは今にも泣きそうな表情だ。()()けられるものがあるのか、両手で胸を()さえている。


「ちがっても、おなじでも、ボクではダメってみんないうんだ」


「……っ」


 井上坂(いのうえさか)(あや)うく言葉を発しそうになったのを手で()さえた。

 本能が、(こた)えてはいけないと()っている。


 (おそ)らくこれはユウの試練だ。

 試練である以上、ユウ自身がやらなければならない。

 (かれ)が行動をした瞬間(しゅんかん)、言葉を発した途端(とたん)、予想もできない事態が起こるだろう。それが何なのかわからない。

 だが、今までにない事態が起きている以上、迂闊(うかつ)なことは出来ない。


 ――あの子は?


 (しゅ)(つづ)りの門を()(かえ)る。(かた)く閉じられたままだ。


 ――どうすればいい? あの子がこちらへ来ないと……


「ボクは、バケモノでしかない」

 水のように()らぐユウが泣き出してしまった。


 ――化け物


 その言葉に、井上坂(いのうえさか)の心臓が大きく脈打った。

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