表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/61

Seg 16 言葉綴りし者たち -03-

「ほぁー……」

 ユウは(かれ)を見上げた。


 先ほどまで自分より低い言の葉屋を見ていただけに、余計にその男の身長は高く感じられた。


 言の葉屋に似た衣装(いしょう)だが、灰青色の服は(すそ)という(すそ)がふわふわひらひらしていた。

 (からす)のように黒光りする(かみ)は、ゆるくカーブし、うなじのところでまとめられている。


 井上坂(いのうえさか)と呼ばれた男は、ユウを一瞥(いちべつ)すらせず言の葉屋に(たず)ねる。


言織(ことおり)は?」

「これじゃ。早速(さっそく)じゃが(たの)むさね」


 言って、先程(さきほど)の言織を(かれ)手渡(てわた)す。その表を見つめ、それから初めてユウに目をやると、

「ああ、この子……」

 (かれ)の目がきつくユウを(にら)んだ。

 なぜ(にら)まれたかわからないユウは、丁寧(ていねい)に頭を下げる。


「は、初めまして。春日(かすが)ユウです、よろしくお願いします!」


「……初めまして」



「……」

「……」


 沈黙(ちんもく)()()りる。


「すまんの~、ユウ」

 氷の空気に()えかねた言の葉屋が、申し訳なさそうに言う。


「こやつは井上坂(いのうえさか)、字(つづ)り屋じゃ。ちょこ~っとこじらせておっての。無愛想なのは勘弁(かんべん)してやってくれ」

 井上坂(いのうえさか)はムッとしていたが、無言だ。反論しても屁理屈(へりくつ)を言って()(たお)すのが言の葉屋。昔からそれをよく知っている井上坂(いのうえさか)は、ただ(だま)って聞いていた。


「ほれ、井上坂(いのうえさか)! ()()ってないで、ユウを『えすこぉと』せい!」

 (しり)――には言の葉屋の足が届かず、太ももを()()げる。だがしかし、(かれ)へのダメージは皆無(かいむ)のようだ。何度も()られているが、それを無視してユウを見下ろした。


「……行こうか」

「は、はい」


 井上坂(いのうえさか)が言織をユウに(わた)す。

 (かれ)(ふすま)を閉め、再び開けると、その先はまるで神社に続く参道のように石畳(いしだたみ)と階段が続いていた。

 左右は竹林が(しげ)り、空は夕焼けに染まっている。


「わあ……どうなってるんだ?」

 (おどろ)きにキョロキョロしているユウ。井上坂(いのうえさか)は、慣れた手つきで提灯(ちょうちん)()の先に(つる)し、なにも言わず先へ進む。


 (めずら)しさに余所見(よそみ)ばかりのユウは、足を取られてよろける。が、井上坂(いのうえさか)は無視してどんどん先へ行く。


 (かれ)についていくには、ガタガタだがこの石畳(いしだたみ)を少し走った方がよさそうだ。

 しかし、石畳(いしだたみ)(はし)()んで(すべ)ってしまい、見事に転ぶ。

「……っ()う」

 転んだ拍子(ひょうし)に手をついたが、片手ではバランスが悪かったようだ。


 井上坂(いのうえさか)がちらりとユウを見た。ちょうど、ユウと目があったが、(かれ)はついと目をそらす。


 一方、ユウは転んだところを目撃(もくげき)されて、気まずさに顔が紅潮する。思わず手に力が入り、言織(ことおり)がシワになってしまった。


「だ、大丈夫(だいじょうぶ)ですっ! すぐ追いつきますから」


 聞いてか()かいでか、井上坂(いのうえさか)はそのまま歩きだす。

 すぐに立ち上がるユウだったが、目の前に突然(とつぜん)(とびら)が現れた。


「なんだ?」

 鳥居を模した(たたず)まいに、朱塗(しゅぬ)りの門がついている。

 それは開いてはいたが、徐々(じょじょ)に閉じていくようにゆっくりと動いていた。


「げっ!?」

 急いで門をくぐった。

 難関を突破(とっぱ)した風体(ふうてい)でひと息つく。


 (はる)か先には井上坂(いのうえさか)の背中が見える。そして、またもや鳥居と門が現れる。


「ちょっ……待って待って!」

 (さけ)んだのはその数にだった。


 いくつあるか数えるくらいなら、すぐに走り出す方が利口である、そのくらいの数はあった。

 しかも、そのすべてが先程(さきほど)と同様、閉じていくではないか。


「うわ、わ、わ、わ!」

 全力で走り出すユウ。

 門を(とお)()けるたびに気持ちが悪くなり、頭がグラグラした。耳鳴りか、金属音まで()(ひび)く。

 何とか井上坂(いのうえさか)のところへたどり着こうと足掻(あが)いたが、足の力がなくなって、もつれるように(たお)れる。最後の一枚で間に合わなかった。


 (さけ)(ごえ)()()いた井上坂(いのうえさか)は、初めて異変に気付き(おどろ)く。

「!? (しゅ)(つづ)り?」

 が、それも一瞬(いっしゅん)で閉じられてしまった。

 見えたのは、門一枚のところで(たお)()むユウの姿。


 井上坂(いのうえさか)は、予想外の出来事にしばし門を呆然(ぼうぜん)と見つめていたが、首を左右に()って思考回路を()(もど)す。

「どうして(しゅ)(つづ)りが?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ