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Seg 15 言葉綴りし者たち -02-

 ◆ ◆ ◆


 店の(おく)にある一室へ通されたユウ。

 言の葉屋は(ふすま)を閉じると、火鉢(ひばち)より(おく)にある座布団(ざぶとん)をユウに(すす)める。そして、自分はどっしりと向かい側に胡座(あぐら)をかいた。


手荒(てあら)なとこを見せてもうてすまんのう。ここでは用のない(やつ)は話ができぬ決まりでの。守る者は(まも)られる。守らず話すものならば、言葉に()られてしまうのさ。

 あ(やつ)には何度も厳しく言うておるのだが、世話好きが(わざわ)いしてるようだて」


 言の葉屋は「すまぬが一服するぞ」と言い、小さな(つぼ)が三つ乗ったお(ぼん)を引き寄せる。トントンッとキセルの火皿の葉を(つぼ)に落とし、別の(つぼ)からほぐした葉を火鉢(ひばち)の炭に当てる。


「あちちっ」


 言の葉屋はチリチリと火のついた葉をキセルの火皿にふわっと()める。


「さて」

 吸い口から軽く吸い、少し()(もど)して(けむり)をキセルから(くゆ)らせる。

 その一挙一動がとても風流で、ユウは魅入(みい)ってしまった。


(あお)小童(こわっぱ)よ、改めて話を聞かせてもらえるかの?」

 吸った(けむり)を舌で転がすように味わう。


「はいっ! あの、ボク、春日(かすが)ユウって言います。マホウシのライセンスを取りに来たんですが――」

 ことのあらましを身ぶり手振(てぶ)りで話すユウに、言の葉屋は(けむり)をゆっくり出し、静かに耳を(かたむ)ける。

 時に言の葉屋が質問し、ユウは戸惑(とまど)いながらも(こた)えていく。


「……なるほどのう……よう頑張(がんば)って話した。お前さんはえらいな」

 ニッコリする言の葉屋に、ユウは照れる。

「えっと、あの……」


「よかろう。お前さんの力になろう」

 立ち上がると、筆と(すみ)、それから和紙を出した。

(めずら)しいじゃろ。このご時世、もうほとんど目にすることはなかろう品じゃからな」


 ユウは興味津々(きょうみしんしん)にその様子を見る。

「はい。タブレット用で筆タイプのペンは見たことありますが、本物は初めてです」


「そうであろそうであろ♪」

 さらさらと何かを書き上げ、満足そうに(かか)げる。


 ほとんど一筆で書き上げられたそれは、文字のようだがミミズがのたくったようになっており、ユウには何が書いてあるかさっぱりだった。


「これは『言織(ことおり)』と言ってな。この紙に書いた言葉は、字(つづ)り屋によって(つづ)られるんじゃ」


「コトオリ?」


「そう、『言葉を()()む』と書いて『言織(ことおり)』。まあ、人によっちゃあ()()める意味で『(おり)』を用いて『言(おり)』と言っておるヤツもおるがの。アタイは()()む方が好きなんさ」


 よく意味が分かっていないユウが、何とも言えない顔をしていると、言の葉屋は軽くウィンクする。

「アタイの方が(やさ)しいってことさね」


 その和紙を横に二回折りたたみ、もう一枚の紙を取り出して包んだ。

「この紙は折封(おりふう)じゃ。昔よく使われとった封紙(ふうし)の折り方なんじゃ」


 言いながら、器用に手早く封紙(ふうし)を三つ折りにして手紙を包んだ。(ふう)紙の上と下の部分を同じ長さにそろえて折り曲げた。


「おーい、井上坂(いのうえさか)!」

 彼女(かのじょ)(となり)へ続く(ふすま)を少し開け、『井上坂(いのうえさか)』なる人物を呼んだ。

 開いていた(ふすま)はゆっくりと閉まっていき、残るはほんの数センチ。その隙間(すきま)から(のぞ)く目は彼女(かのじょ)拒絶(きょぜつ)しているようだった。


「……呼んだ?」

 低い声が(いや)そうに(ひび)く。


「仕事じゃぞい。ほれ、客は自分の目で確かめい」

「……わかった」

 そういうと、(ふすま)は完全に開き、声の主が姿を(あら)わす。

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