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光明、差し込む?・5


「こら、クロエ。俺とロザリー嬢はそういう関係ではないよ。彼女は、アイザックの大事な人で、俺にとっても大切な客人だ。お前とも仲良くなってほしいんだよ」


「アイザック様の?」


 それこそ意外だ、とでも言うように、ロザリーの身なりをじろじろ見る。


「ふうん。でもでしたら、アイザック様が保護なさればよろしいのでは?」


「知ってるだろう、クロエ。アイザックにはその自由がない。だから俺が動くんだ」


「お兄様はいつもいつもアイザック様のことばかり。私のことなんてどうだっていいんですわね」


 ぷうとふくれて見せる様子は可愛らしい。ケネスの前でだけ、クロエは少しわがままな可愛らしい女の子になる。


「そんなことあるはずないだろう。お前は俺のかわいい妹だよ。夫候補は見つかったかい?」


「まだです。お兄様より素敵な男性なんてなかなかいませんもの。お兄様が一緒に来て見定めてくださればいいわ。今度の夜会はぜひエスコートしてくださいませ!」


「ああそうだね。またあとでゆっくり話そう。それより母上は?」


「お母さまならお部屋にいますわ」


「応接室に来てくれ、と伝えてもらえるかな?」


 やんわりとケネスが頼むと、クロエは少しばかりムッとした表情を見せる。


「お兄様が言うなら仕方ありませんわ。でも、私、使用人ではありませんのよ?」


「母上もお前の顔が見たいだろうと思ったんだよ、かわいいクロエ」


 かわいいという言葉にすっかり気を良くしたのか、クロエは踵を返して二階へと上がっていった。

 呆気に取られているロザリーに苦笑を返すと、ケネスはロザリーを連れて応接室へと向かう。


「悪いね。クロエはどうもわがままで。俺もついつい甘やかしてしまったから」


「クロエ様はケネス様のことが大好きのようですけど」


「ああまあ……社交界デビューすれば他所の男に目が行くかと思ったけど、あんまり変わらないことにびっくりしているところだよ」


 先ほど、ロザリーに向けた視線は敵意がむき出しだった。単純に兄を敬愛する妹の態度ではないだろう。

 十七歳であれば社交界にも出ているはずだが、あの調子では結婚相手を探す気があるのかどうかも危うい。


「私の社交界デビューの話ですけど。……ひとつだけ聞いてもいいですか? 社交界デビューするのは金銭的にも負担がかかります。私、そこまで甘えてしまっていいんでしょうか」


 父母が死んだ時点で、社交界デビューは諦めていた。男爵家にはタウンハウスはないし、老齢の祖父にそこまでの苦労もさせられない。なにせ、社交界デビューするには、それなりに費用がかかるのだ。白のドレスにティアラ、白の靴に白の手袋。最低限必要なものはそれくらいだが、通常はそれに加え、首元や耳元を彩る宝飾品も必要となる。

 それらをイートン伯爵家にまかなってもらうというのは気が引ける。


「甘えてもらえると助かるね。君を支援するのは、俺にとって都合がいいからだ。俺はザックを弟のように思っているから、あいつが落ち着いてくれないと、心配で自分の家庭を持とうという気にもならないよ」


 それにしたって、かいがいしすぎるのではないかと思う。じっと上目遣いで見上げると、ケネスは苦笑しながら両手を上げて降参の姿勢を取った。


「打算的な事情もあるよ。イートン伯爵家はバーナード侯爵の派閥に入っていて、今議会での立場が危うくなっている。家の安泰を考える意味でも、ザックには第二王子としての立場を盤石なものにしてほしい。それに、君には特殊な能力がある。嗅ぎ分けのできる人間がいてくれれば、なにかが起きたときに犯人を特定するのに非常に役に立つ。常に危険と隣り合わせのザックの側にいてくれれば、誰が危険で誰が安全か、判断することが可能だ。俺はそれも君に期待している。ギブアンドテイクだ。俺たちの関係はイーブンだから、君が気にすることは無いよ」


 あっさりと言われ、ロザリーの肩から力が抜けた。

 自分たちのためでもあると言われればいくらかは気が楽になる。


「ではよろしくお願いいたします。社交界デビューすればザック様に会えますよね?」


「うん。少なくとも今よりは会えるようになる。君を見て、ザックは驚くだろうしアイビーヒルに帰れというかもしれない。でも負けないでほしいんだ。ザックの力になってやってほしい」


「それはもちろんですけど。そんなにザック様の周りは危険なんですか?」


「……口止めされてるから、詳しくは言えないけど。安全ではないね」


「そうなんですか」


 ロザリーは、長身の王子様を思い出す。

 アイビーヒルにいたときはよく笑ってくれた彼だったが、今はどうしているのだろう。

 あんなにこまめにくれた手紙を止めるくらい、危険を感じているのなら何とかして助けになりたい。


「ケネス様、ありがとうございます」


「お礼を言われる筋合いはないよ。言っただろう。俺に都合がいいからそうしていると」


「嬉しいからお礼してるんです。ザック様の危機を知らないままアイビーヒルでのほほんとしていたら、あとで絶対後悔したと思うから」


 ケネスとロザリーは目を見交わし、笑い出す。


「俺たちは、ザックのことに関しては気が合うね。君とは良い友情が築けると思ってるよ」


「私もです!」


 ザックを守るのに、一人じゃないというのも心強い。ロザリーひとりでは、どう動くことがザックの助けになるのか分からないが、ケネスがいてくれれば安心だと思えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルからして、毒のニオイとかも覚えなきゃなのかな?(ぁ 無味無臭のタイプの場合はどうなっちゃうのか……気になりますなぁ(゜Д゜;)
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