キュウビの対応が決定した。
「とりあえず顔を上げてくれ、なんで土下座されているか分からない。」
土下座して全く動かなくなった魔族領の重鎮たちに声をかける、周りの視線も痛いしやめてほしい。
「しかし……。」
「しかしもなんでもない、いいから顔を上げてくれって。
そもそもメアリーの発案で魔族領を餌に使ってキュウビと人間領をあぶり出したんだ、謝るべきは俺のはずなんだがな。」
いくら最適解だったかもしれないとはいえ、多くの人が住む土地を危険に晒したんだ――俺が怒られるならともかく謝られるのはおかしい。
「私もそのように説明したのですが、守っていただけたと解釈したらしく……。
先代魔王様も助けてもらってありがとうと……間接式にはそうですが勝手に忍び込んで武力行使という不敬を働いたので罰を受けるつもりで申し上げたんですよ?」
今回に関しては本当に間接的に助けた形だ、魔族領の問題を解決したのは俺たちだが……そのために魔族領を利用している。
メアリーの戦略とオスカーたちの武力なら失敗は無かったかもしれないが、万が一失敗していたら被害は甚大だっただろう。
結果論とはいえ、悪いのは俺たちだと思う。
「人間領を撃退してくれたうえに父上まで救ってくれたのじゃ、一番近くに居た私たちが気づかなかったのが問題なのじゃよ……。
魔族領の問題を何の被害も無く解決してくれたうえ、村の住民を危険に晒した……それだけで謝罪に値する。」
うん、これは平行線になるな。
「よし、魔族領はそういう言い分で謝ってるんだな。
俺たちも魔族領を利用して人間領と勝手に戦い、妻が城で武力行使という不敬を働いて申し訳ない。
……これでおあいこということにしよう、これ以上謝り合っても前に進まないだろ?」
「村長……感謝するのじゃ。」
魔王がそう言って顔を上げてくれた、他の人も顔を上げてくれ……おでこが傷だらけになるぞ。
「とにかく、キュウビも村で捕えてるし人間領も再度攻めてくることはないだろう。
キュウビの裁きについてだが、魔族領としてはどう考えているんだ?」
即死罪ということはないだろうが、一応聞いておく。
裁判のようなものがあるなら、こちらから出頭させなきゃならないからな。
「キュウビに関しては色々考えておったのじゃよ、じゃが未開の地の村が捕えてしもうたからの……魔族領としては実際被害が無いのじゃ。
なので、魔族領としてはキュウビの罪状は村から刑を上乗せすることにしたのじゃ。」
予想の斜め上を行く解答だな……だが石油も村から出荷出来る以上被害は無いどころか人間領より安く買えそうだからプラスまであるのか。
「ミハエルの人生を狂わせたのにその程度なのか?」
「それを考慮して死罪にしてもよかったが、メアリー殿から村長が死罪にしなさそうだと聞いたからの。
なら村長の意見を汲んで、それに上乗せして魔族領に還元してくれたらいいと思ったんじゃ。
巨悪の魔人の件も修復は完了しておるし、お姉さまも元気じゃからの。」
そんなものか。
「とりあえず、キュウビは気絶したからその件は一旦保留だ。
後日改めてどうするか報告しに行くから、それまで待っててくれ。」
「分かったのじゃ、村長の心遣いに感謝して今日はこの辺で失礼するのじゃよ。」
何か食べて帰ればとも思ったが、これだけの重鎮たちが抜けている時間が長くなるのも問題だろうと思ったので見送ることにする。
さて、キュウビが起きるまでは村の見回りをするか……今日こそ石油取扱技術者のところに行かなければ。
少しの間カールはメアリーに任せよう、魔族領から来てくれた人を放りっぱなしも問題だからな。
技術者を探して村を散策、ダンジョンを含め見に行ったがどこにも見当たらない……どこに行ったんだ?
「なぁ、魔族領から来た石油取扱技術者を知らないか?」
近くに居たドワーフ族に聞いてみる、一番目撃する確率が高いのはダンジョンの近くに住居を構えてるドワーフ族のはずだ。
「あぁ、あの魔族なら羊皮紙が欲しいと言って渡してからダンジョン周りをうろついておったぞ。
それからは色んな種族を訪ねていたみたいじゃが、それからは分からんのう。」
「そうか、ありがとう。」
何かを手伝ってもらうつもりだったのだろうか、早めに対処してあげればよかったな……キノコの誘惑に負けた俺が悪い。
「村長、ちょっとお話が。」
しばらくうろついていると、森の警備をしているウェアウルフ族に呼ばれた。
警備が俺に話なんて珍しいな、武具の新調だろうか。
「ダークエルフ族とこの間来た魔族が村の外の森を一部切り崩し、何かを作っているのですが……あのままでよろしいのですか?」
なんだって?
慌てて門を出て外を見る、すると俺の目に見知らぬ長屋と石油を加工するであろう施設のようなものが出来つつあるのが映っていた。
長屋に入ると、ダークエルフ族と技術者が中でうんうん唸りながら話し合っている。
「おいおい、なんでこんなところに長屋を作ったんだ?」
「村の敷地のどのあたりを使えばいいのかわからなくて、とりあえず原油が取れる真上あたりに施設を構えました。
ここなら汲み上げの機構を作ってそのまま採油から製油までのラインを作れると思ったので。」
石油じゃなくて原油だったのかあれ、知識不足がまた露呈した。
「私一人じゃ建物を作れないので、どなたか木を伐採しつつ建築が出来る種族は居ないかと声をかけたところ、ダークエルフ族が手伝ってくれるとのことで……ものすごい手早い仕事をしてくださり今現在です。」
「事情は分かった、けど今度から村の敷地内に作るようにしてくれよ。
俺とメアリーが居なかったからしょうがないかもしれないけど、プラインエルフ族のカタリナに相談したら何とかなるからさ。」
そのあたり何も説明してなかった俺が悪いんだけど。
「こちらこそ勝手なことをしてしまい申し訳ございません……ここは引き払ったほうがよいでしょうか?」
「いや、このままでいいぞ。」
外に出て村を囲っている壁を想像錬金術で広げ、長屋が入るように再び設置する。
「これで村の範囲内になった、他に何かいるものがあれば言ってくれ。
またしばらくは俺も村に居るからさ。」
「「な、なにが起きたんですかー!?」」
そうか、2人とも想像錬金術を見るのは初めてだったな……よく見る光景になるだろうし慣れてくれ。
想像錬金術を説明し、納得してくれた様子。
製油の施設に関しては俺も良く分からない、技術者がそのあたりの知識がありダークエルフ族ならそれを上手く作製出来るらしいので一任することにした。
足りない資材や道具があれば言ってくれよ、すぐに準備するから。
でもあの長屋木製だったよな……後でセメントなんかの不燃物で建物を建て替えよう、流石に危険すぎる。
今はまだ石油を扱ってないから大丈夫だろうけど。
そう思いながらキュウビの様子を見ようと食堂に戻ると、意識が戻っていた。
「お、気が付いたか。
俺がキュウビに罪を与えなければならなくなったんだが……どうしようか。」
「罪を与える本人に聞くでないぞ……。」
それもそうだ、でも実際どうしようか。
「だが、私も少し考えたのだ。
開殿……いや村長の力があれば多くの命を救えることに。」
多くの人の人生を狂わせた人物からは到底考えれない言葉が飛び出してるぞ?
「この地は未開の地と言ったな、ならまだ未踏破の場所やここに集まってない種族もいるはず。
私がこの地の地図を作成しつつ、里を構える種族をこの村へ誘致する役を担うことは罪滅ぼしにならんか?
ここに居ては顔を合わせづらい人物もいるのだろう、私が外に出ながら罪滅ぼしが出来るなら最適解だと思うのだ。」
「そんなこと出来るはずがなかろう、なぜ捕えたお前を再び野放しにすることがいいと思ったのだ。」
オスカーが即座にツッコミを入れる、いや実際その通りなんだが……提案自体は魅力的だ。
何より未開の地の地図が出来るのが大きい、嘘じゃないなら地図は欲しいぞ。
「提案自体は魅力的だ、俺の条件を飲めるならそれでいいが……どうだ?」
「村長、本気か!?」
オスカーが少し怒気のこもった声で叫ぶ、顔も怖いからやめてほしい。
「条件とは?」
「俺と契約魔術で主従関係を結ぶんだ、条件は<逃亡しようとする、契約魔術を無理矢理解除しようとする、及び理性ある者の命を奪うと自身の死>。
これ以上ないであろうきつい条件の契約魔術だが、これを飲めるか?」
俺が条件を伝えると、オスカーの表情も怖くなくなった。
納得してくれたのだろう、この3点の契約を破った時点でキュウビは死ぬからな。
「大丈夫だ、条件は飲める。
だが私からも頼みがある……人間領のやり残した施政とその引継ぎをさせてほしいのだ。
長らく人間領に戻ることもない、多大な迷惑もかけたしそれくらいはしてやらねば。」
すっかり丸くなったな、どこまで本当か分からないぞ。
「契約魔術を結んだうえで、村から監視を付けていいなら許可する。」
「うむ、それでいい。」
そうしてミハエルを呼んできて事情を説明し、俺とキュウビの間に契約魔術を結んでもらった。
念のため相当厳重にしたらしい、そんなことしなくてもいいのに。
キュウビの希望で人間領の件は早いほうがいいとのこと、オスカーに頼み人間領まで送りつつ監視をしてもらうことにした。
キュウビの対応も決まったし、明日は魔族領へ報告に行かないとな。
隔日投稿(お昼12:00)していきますので是非追いかけてくださいね!




