朝起きたらキュウビが食堂に居た。
人間領の闇討ちを阻止するための部隊が魔族領に向かった次の日の朝。
昨日の夜は皆が寝静まったころに、メアリーがどこかへ出かけていたのを寝ぼけ眼で見たが……起きると俺の隣でスヤスヤと眠っていた。
気のせいだったのかな?
とりあえず朝の運動をして、顔を洗い食堂へ向かっていると……何やら言い争いをしているような声が聞こえる。
「どうしたケンカか?
朝からあんまり騒がしくするな……よ……?」
言い争いをしている2人を見て、俺は言葉を詰まらせてしまった。
一人はドワーフ族、これはいつも見慣れているからいい……だがもう一人が問題だ。
「……キュウビか?」
「そうだ、こ奴がキュウビ。
メアリー殿の推測は全て大当たり、影法師も誰かに消され身柄を拘束しているのだが、村長ならこうするだろうと思って空きっ腹を膨らませてやろうとしたのだが……嫌いなものがあったのだろうな。
残そうとしたところをドワーフ族に怒られ、この言い争いだ。」
色んな人の人生を散々狂わせた人物がそんな事で言い争うなよ、なんというか威厳とかはないのか。
「ピーマンは苦いから要らんと言っておるだろ、食べなくとも私は今まで健康体で生きていた!」
「この苦みが美味いんだろうが、この料理との味付けとも合っておるから食え!」
しかもピーマンを食べるか食べないかとは、ますます力が抜ける内容だな。
「とりあえずその辺にしておけ、好き嫌いは良くないしこの村の野菜は美味いから食べてみろ。」
「うるさい!
何でも食べなければいけないなぞ思い込みだ、それが分かっておらぬから説明しておる!」
キュウビとの初めての会話がこんなくだらない事だとは想像もしてなかったぞ、好き嫌いは良くないから食べなさい。
「ぐぬぬぬぅぅ……。」
ものすごい嫌そうな顔をしてキュウビがピーマンとにらめっこをしている、そこまで嫌か。
「開様、おはようございます。
そちらは……キュウビですかね、何してるんですか?」
事情を説明すると、メアリーも同じくため息をついてうずくまった。
「必死に考えて裏をかき続け、やっと捕えた人物なのにピーマンが嫌いで食べあぐねてる姿を最初に見るなんて……。」
そうなるよな、俺だってそうなる。
「どうせ私は死罪だろう、残り少ない食事くらい好きなものを食わせてくれ!」
「それを決めるのは俺と魔族領だろう、事の成り行きによっては生き延びることはあるかもしれないぞ。」
キュウビの言葉に俺が返事をすると、その場にいる全員が俺を見てきた。
「この大罪人を生かすのですか!?」
まぁ、何かしらの裁きは受けるべきだろうが……きちんと反省して世の中に役立つなら死罪にする必要はないと思う。
知恵も力も兼ね備えた人物だし、多方面から恨みは買ってるけど。
「キュウビの態度次第だろう。
少なくとも俺は、即座に死罪と進言するつもりはない。」
まだキュウビの能力をすべて把握しきれていないのもある、役立つことが出来るならそれをしてもらったほうがいいからな。
「開様は……本当にお人好しですね。
オスカー様、そういうことなのでキュウビの監視をお願いいたします、私は魔族領へ行って謝罪をしてこなければならないので。」
「それは構わぬが、感謝されこそすれ謝罪とはどういうことだ?」
オスカーがメアリーに疑問を投げかける、魔族領を餌に人間領とキュウビを誘い込んだことだろうな。
「私の独断で魔族領を危険に追い込んだのと、昨日の夜間にグレーテさんと城に侵入して武力行為を行ったので……その件ですね。」
昨日の夜に起きていったと思ったのは気の所為じゃなかったのか……というか城で何をしてたんだ!?
「昨日の夜に前線に向かった部隊の一部が深夜になっても帰って来なかったので、人間領が闇討ちを仕掛けてきたと確信しまして。
先代魔王に影法師がついてると予想していたでしょう、それの始末にグレーテさんと向かっていたんです……気配遮断があったほうがスムーズだったので協力してもらいました。」
全員が啞然としている、もちろん俺もだ。
キュウビも観念したのかピーマンを食べながら肩を落としている。
「捕まった矢先にせめてもの爪痕を残そうと影法師を操ろうとしたら、反応が消えてたのはそういうことか……。
そなたがメアリーだな、よくもまぁそこまで読み切ったものよ。」
「それが私の仕事の一つなので、ですが先代魔王様が会議に参加していれば気づかなかったですよ?
それ以外の貴女がしていた隠蔽工作は完璧でした、敵ながらお見事だと言っておきます。」
キュウビと軽く言葉を交わしてメアリーは魔族領へ向かった、一人で大丈夫だろうか。
「さて、見苦しいところを見せた上申し遅れた。
我がキュウビ、人間領に住み着き魔族領を陥落しようとした主犯だ。」
本当に遅いな!?
「俺がこの村の村長、開 拓志だ。
ただの人間だが神によって異世界から連れてこられ、特別なスキルを持っている。
それを頼って各種族がここに集まり、この村が出来たんだ。」
自己紹介をされたので俺もしておく、今更な気もするんだが。
「なるほど、この規格外のドラゴン族やあのような頭の切れる者が何故人間を長として認めているかそれで得心がいった。」
「すんなりと信じるんだな、もっと疑ってかかられると思ったが。」
想像錬金術を見せてるわけでもないし、俺の言葉だけで信じるとは思わなかった。
「ここの住民の態度とそなたの態度を見ておれば、信じるしかあるまい。」
なるほどな。
「ところで……私をすぐに死罪にしないというのは本心か?
今回の闇討ちを止めに来た者に魔族は1人しか見えなかった、恐らく魔族領の者ではなくこの村の住民だろう。
ということは、私に関係のあるものか恨みのある者がこの村に居るはずではないのか?」
「オスカー、ここでキュウビを死罪にすると人間領に恨みを買う可能性は?」
キュウビの質問を一旦置いて、オスカーに質問を投げかける。
「途中幻を見せられておったから確信は得れぬが、キュウビは人間領では頼りにされておるように感じたな。
自分を投げ打ってワシに向かってくる者も居た、慕ってないとそのような自殺行為はせぬだろう、恨みを買う可能性は十分にある。」
オスカーがそう言うとキュウビが目を丸くする。
「そういうことだ、俺は人間領に知らない技術や食糧があると踏んでる。
確かに恨みを持ってるヤツはいるさ、だからといって軽率に恨みを買ってその技術や食料を手にする機会を逃したくない……もちろん適切な裁きは受けるべきだと思ってるが。
恨みなんて、どこかで割り切らないと連鎖していくものだからな。」
俺がそう言うと、キュウビは大声で笑いだした。
「なんたる平和主義、そこまで行くと見事なものだ!
だが、そんな綺麗事だけでこれから先やっていけると思うのか?
これだけの村だ、食糧難だっていつ起こるか分からないだろう……その時どこかから略奪してでも住民を生かさなければならないのではないか?」
そう言われて、俺はキュウビを畑まで連れて行く。
「な、なんだ?」
「カタリナー、適当に種を蒔いてくれー。」
俺は大声で家に向かって呼びかけ、面倒くさそうに種を生活魔術で蒔くカタリナを確認。
それを想像錬金術で収穫出来るまで育てる。
「こういうことが出来る、俺が神に貰ったスキルの効果がこれだ。
ちなみに植物なら今のところ何でも可能、ダンジョンコアの主を俺にして家畜もそこに出現するようにしているし鉱石や石油も採れる。
この村は俺がいる限り食糧難どころか何も困ることはない、欲しいのは技術と未知の食材だけだ。」
俺がキュウビに実演含め説明すると、キュウビは頭を抱えて何かブツブツ言ってる……あ、倒れた。
様子を見に来たオスカーにキュウビを運ぶのを手伝ってもらい、食堂の隅に寝かせておく。
「じゃあ俺はカールを預けて魔族領へメアリーの様子を見に行ってくる。
その間キュウビを頼んだぞ。」
「うむ、任せておくがいい。」
食堂を出て魔族領へ向かうと、魔族領へ続く魔法陣から何人も出てきてこちらに向かってくる……何事だ?
よく見ると、先代魔王に魔王……それに大臣と衛兵か?
魔族領のトップがそろい踏みじゃないか、そんなに重役が抜けて城は大丈夫なのか?
「村長、この度は誠にご迷惑をおかけした!」
全員に土下座され思わずたじろぐ、その横に困った笑みを浮かべるメアリー……魔族領で何があったか説明してくれ。
隔日投稿(お昼12:00)していきますので是非追いかけてくださいね!




