メアリーの考えていることがさっぱり分からないんだが。
キュウビが人間領に居るとメアリーに言われ、混乱する俺。
陽が落ちかける時間まで会議をしてたのに、更なる問題を提示されて更に疲れてしまった……だが。
「しかし、いくら魔族領を疲弊させて侵略すると言っても……そこにキュウビが居る考えは少し突拍子もなさすぎないか?」
いくらメアリーの考えでも、流石に飛躍しすぎている気がする。
「では開様にお尋ねしますが、今回の会議に魔王様の父親である先代魔王様が見えませんでしたが、どこにいらっしゃるかご存知でしょうか?
私は現在の魔王様へ魔王職を引き継いで、相談役として政務は現役だと伺っておりますが……その相談役があのような重要な会議に何故出席してないのでしょう?」
……そう言われればそうだ。
最初に会って以来顔を見てない、他に仕事があるのだろうと軽く考えていたが、魔族領の危機より大事な仕事ってなんだろうな。
ここまで言われてハッとする、まさか。
「待てメアリー……先代魔王を疑ってるのか?」
「キュウビと繋がりがあるなら先代魔王様だと思っています、もしキュウビが居ないなら完全に人間領が大きなミスを犯しているだけですから……。
ボロを出さないために参加しないのか、それとも他の理由で参加出来ないのか……流石に不敬なのであの場で先代魔王様について聞くことは出来ませんでしたがね。」
そりゃそうだ……先代魔王を疑ってると分かればいくら何でも怒られるくらいじゃ済まない。
しかしメアリーから先代魔王についての突っ込みが入って色んな可能性が見えてきたな。
闇堕としの妖術のように先代魔王が操られているか、既に殺害されていてキュウビが化けているか、圧力や脅しを受けて情報を流すよう仕向けられているか……いずれにしても最悪だ。
そこでふと、一つ疑問に思うことが出てきた。
「なぁ、今回の作戦って会議で堂々と言ってたが……もし先代魔王がキュウビと繋がっていたら議事録から知られるんじゃないか?」
これは大きな問題だ、せっかく考えた作戦も筒抜けだと対策されてしまう――何より主戦力に見える村の住民は威嚇しかしてこないのが分かっているのは非常に危険だ。
「そうですね、知ってもらわないと困るので敢えて発言させていただきました。
あそこまで読み切って会議の場で発言し、その場の全員がそれに乗っかってもらう……それが狙いでしたので。
自分が優位だと思ってもらい、そこにつけこみたいですから。」
どういうことだ……ますますわからない。
考えても仕方ないので考えないことにする、そして新たな疑問を聞いてみることに。
「もしキュウビが人間領にいたとして狙いはなんだろうな、人間領に上手く入り込めて魔族領と取引をして稼げていたのに、それをフイにしてまであんなことをするなんて。」
「転移魔術じゃないでしょうか、私が思うに影法師か管狐を使って情報を仕入れていたのでしょう。
ミハエルさんとの会話をたまたま聞いて知ったんじゃないでしょうか、がめつくなったという時期とも合致しますし。」
なるほどな、確かに転移魔術は魔族領の王族しか使えないから侵略して手中に収めようとしているのか……。
「とりあえず、クズノハさんからキュウビの情報を出来るだけ多く仕入れて打てる対策は全て打ちましょう。
私が気づいたことですし、やれることは全てやらせていただきますよ。」
メアリーの表情は今までで一番真剣な表情になっている、メアリーだって魔族領を助けたいんだろうな。
カールを村の奥様方に預けてクズノハの家へ。
「クズノハ、いるかー?」
ドアをノックして呼びかける、しばらくするとトタトタとこちらに向かってくる音がした。
「なんじゃ、村長か……それにメアリー殿も。
子どもが産まれたというのに、魔術刻紙を作っててお祝いに行けず申し訳ないの。」
「キュウビのことで話がある、中に入れてもらっていいか?」
俺がそう言うとクズノハの顔が一気に真剣な表情になった。
「何かあったんじゃな、中で話そうかの。」
クズノハに招き入れられて家に入る……作業するのは良いがもう少し片付けたほうがいいぞ。
「早速ですがクズノハさん、キュウビについて知ってる能力を教えてください。」
「前に妖狐一族が使える妖術全てが使えると言ったの、これは我が知ってる妖術全てではないのじゃ……それ以外にも扱えるはず。
一応いずれ使うよう修行するかもしれぬ故文面には残しておるから、それを見てもらおうかの。」
クズノハはそう言いながら巻物のようなものを棚から取り出し、メアリーに手渡す。
メアリーはそれを開き1つ1つ読み始めた、俺も横から覗いてみたが色々ありすぎて覚えきれない。
「ありました、特定の人物を催眠に掛け使役する妖術。
もしキュウビが居たなら先代魔王様はこれを使われていますね。」
「なんじゃと!?」
メアリーの言葉にクズノハが驚く、そう言えばキュウビのことについて調べるようになった経緯を伝えてなかったな。
それ以外にも書き記されてる全ての妖術に目を通すらしく、もう少し時間がかかりそうなので俺はクズノハに経緯を説明することにする。
「――というわけなんだ。
今の魔族領は、もしかしたらキュウビに脅かされている。」
「あの一族の面汚しめ……どこまで傲慢になれば気が済むのじゃ!」
説明を聞いたクズノハは激昂している、クズノハの境遇やらを聞いてると仕方ないよな。
でもまだ確定じゃないから。
「ふぅ……とりあえず一通り妖術は頭に叩き込みました。
これには載ってなかったですが、管狐というものを使役して相手を攻撃する方法があると聞いてます、それについて対策はありますか?」
「どこに居るか分かれば対策は容易じゃよ。
管狐は2匹で竹筒1本くらいの大きさ、そして数は最大75匹と決まっておる……全員が入れる入れ物に大好物である油揚げを敷き詰めて、封印を施した札で閉じ込めてしまえばよい。
札は我が作れる故、必要ならば言ってくれれば大急ぎで用意するぞ。」
聞いてしまえば簡単だが、人を襲うほどの力のある奴をどうやって閉じ込めるんだろうか。
生半可な入れ物じゃ簡単に破られてしまいそうだが。
「クズノハさん、その札は使うことになると思いますので今すぐ用意をお願いします。
後の妖術は……並大抵のことではどうにもならない方が何とかしてくれるでしょう。
私はドワーフ族のところへ行ってオレイカルコス製の入れ物と油揚げを頼んできますので、クズノハさんも札が出来たらドワーフ族のところへ持ってきてください。」
また雑にオレイカルコスを使うのか、いや今回は包丁やまな板ほど雑じゃないのか?
「札は大急ぎで用意しよう、そこまで難しいことでもないので1時間ももらえれば完成する、用意出来たら我が持っていくのじゃ。」
「あぁ、頼んだぞ。」
札はクズノハに任せて、俺たちはドワーフ族のところへ行ってオレイカルコス製の入れ物と油揚げを頼みにいこうとすると、メアリーはオスカーに用事があるらしくそちらへ向かった。
俺はそのままドワーフ族のところへ。
こちらもすぐに用意出来るとのこと、油揚げはすぐに用意するかと聞かれたが氷の季節まで必要ないので断っておいた。
「あ、油揚げはすぐに用意をお願いします。」
オスカーのところから戻ってきたメアリーがそう言ったのを聞いたドワーフ族は、頷いてそのまま厨房へ下がっていった。
「氷の季節まで必要ないんじゃないか?
流石に生活魔術で保存しても痛みそうだが……。」
「キュウビが今回の議事録の情報を仕入れたなら、今晩か明日の晩あたりに使うことになるので大丈夫ですよ。
さて、とりあえず取れる対策は現状このくらいですかね……後はキュウビがずる賢いことを祈るくらいですか。」
いやいや、そんな1人で納得されても困るぞ?
「待ってくれメアリー、考えに追いつけてない。
どうして氷の季節じゃなく今日か明日の晩使うことになるんだ?」
「準備していただくのが最優先でしたので、詳しい説明をしてませんでしたね。
では順を追って話していきましょうか。」
俺は広場のベンチに腰を下ろし、夜風に当たりながらメアリーの作戦を聞くことにした。
隔日投稿(お昼12:00)していきますので是非追いかけてくださいね!




