重苦しい内容の会議が終わった。
石油取扱技術者が会議室に来たので、俺は一度村に案内するために席を外す。
「ここが石油の貯蔵庫だ、ここに居る種族はその割符を見せれば協力してくれるから。
俺はいったん会議に戻るが、準備出来なかったものは俺が戻れば準備するようにする、それまではどうすればいいか、どんな施設が必要か……どこに建設するかなんかを考えておいてくれ。」
「わかりました、私も仕事が無くなりそうだったところを助けていただいてもらった形ですので、精一杯やらせていただきますね。」
俺は技術者に簡単な説明だけをして、会議室に戻る。
あ、食堂の位置を言い忘れたが……まぁ割符を持ってるから誰かが案内してくれるだろうと信じることにしよう。
会議室に戻り、会議が再開される。
「では、メアリーどのの意見じゃが……確かに筋は通っておるの。
他の大臣は何か意見はあるじゃろうか?」
「突拍子もないとも言えますが、これを無視して魔族領に甚大な被害が出ると目も当てられますまい……まずは軍備の強化、冒険者からもいくらか戦力を募りましょう。
それから港方面へ配置、そして軍船をいつでも出航できるよう手配させておきます。」
あまりじっくり見てないから知らなかったが、軍船なんであったんだな……でも領を守る意味と捉えれば当然か。
「それと厚かましいのですが、未開の地の村からも戦力があれば百人力かと考えますが、いかがでしょうか。」
こういう話題になった時点で覚悟はしていた、そして俺の答えは決まっている。
「村から戦力を出すのは構わないが、やれるのは威嚇行為までだ。
村の住民が直接戦闘に参加するのは、村長として認められない。」
俺がそう言うと、大臣たちが「魔族領を見捨てるのですか!」と次々と食って掛かってきた。
そう、これは魔族領の問題だ。
そして俺は魔族領と友好な関係にある村の村長、魔族領にある村の村長ではない。
Win-Winの関係なら助けるが、今回ばかりは他人の命を奪う可能性がある以上村が被る不利益のほうが多いと考える。
俺の妻たちや村の住民に殺戮はしてほしくない。
際限なく甘えてきているわけではないが、こればかりは譲れないんだ。
「確実に命を奪わない攻撃程度なら許可は出来る、だが本格的な戦闘には参加させることは出来ない。
同じ人間だからという同族から来る情けではなく、村の住民が領という意思を持った組織の考えで個人の命を奪ってほしくないだけだ。
だが、物資供給なんかの裏方仕事は全面的に協力するつもりだぞ。」
「戦力として期待はしておったのじゃが、確かにこれは未開の地の村には本来無関係な話ではあるのじゃ。
威嚇行為だけでなく裏方仕事までしてもらえるのはありがたいと受け取っておくのじゃよ。」
それくらいはする、ただ村の住民の力量を推し量ることが出来る相手なら見た瞬間逃げていきそうだけどな。
人間は戦闘力も魔術適性も低い種族らしいし、でもその分技術面で発達しているのかもしれないな。
魔族領に石油を輸出しているということは、人間領への供給は間に合ってるということになる。
ダンジョンコアも無しに石油を掘り当て、それだけ採油出来ているということは相当な技術力を保有していることが容易に想像できるな。
「ちなみに聞いておきたいのですが、魔族領と人間領が本格的に戦争をするとなったら戦力差はどのようなものになるでしょうか?」
メアリーがさらりと物騒なことを聞く、確かに重要な情報だけれど。
「うーむ、人間は個々の戦闘力は低いがありとあらゆるものを利用する技術があるからの……こちらが知らぬ技術は当然あるじゃろうし、よく見て五分五分――最悪を想定するならもっと低いじゃろう。」
大臣が魔王に「そのようなことは……!」と言おうとしたが止められた、こういう場合は自陣が有利になると見たほうが足元をすくわれるだろうし魔王の見解が正しいだろう。
「では、魔族領が未開の地の村と友好な関係を持っていることは知っていますか?」
「それは知らぬじゃろ、いつも領間の取引は専用の港で行っておるからの。
魔族も人間も自分と違う種族の地に長くとどまろうとは思わんから、取引を終えたら帰っておったはずじゃ。」
メアリーはそれを聞いて笑顔になる、どこに笑顔になる要素があったのか俺にはさっぱりなんだが。
「それなら戦争になろうとも魔族領の勝ちですね。
せっかく有効な関係になれたので、それが途絶えるかもと思ったのですが安心しましたよ。」
メアリーを除く全員が疑問の顔をする、なんでそれだけで勝ちが確定するんだ?
「でもまだ確実ではないんですけどね、外務を担当している大臣さんの演技力次第ですし、魔族領の資産にも多少の打撃を被ることになるので。
それでもよろしければ、私の考えを発言させてもらいますが。」
「是非とも聞かせてほしいのじゃ、その程度で戦争になっても勝てるのなら痛くも痒くもないのじゃよ!」
魔王がメアリーにキスしそうになるくらい顔を近づけて興奮気味に意見を求める、それ以上近づいたらいくら魔王でも殴りそうになるからやめてくれ。
そう思ってると大臣が顔を赤らめながら「魔王様、それ以上は……。」と言いつつ抱き上げてメアリーから距離を離してくれた、ありがとう大臣。
「まず次の取引の際に、値上げの交渉と一緒に石油の輸入を今までの半分以下でもいいから入れてくれと懇願してください。
恐らく足元を見られるのでそれより少なくなっても構いません、一番大事なのはその懇願に乗って油断してもらうこと――それが出来れば魔族領の勝ちですので。
そして攻めてくるなら氷の季節が終わる少し前……石油が底を尽きて魔族領が疲弊してるだろうと思う時期です。
そこに全く疲弊していない魔族領の戦力と、未開の地の村の威嚇のみの戦力で立ち向かえば人間領の戦力は動揺して即座に崩れます、もちろんその時の指揮も大事ですが。」
……。
メアリーが敵じゃなくて本当に良かったと心から思うよ、ありがとう俺の妻で居てくれて。
会議に参加してた魔族も呆けているじゃないか――そりゃそうだよな、顔見せだけに参加したかと思いきや人間領の考えやその先の戦争に勝つための意見をあっさりと出すんだから。
頭の回転が速いとは思っていたが、ここまでとは……そりゃ将棋もめちゃくちゃ強いわけだよ。
「村長の奥方がここまで頭の切れる方だったとは思いもしなかったのじゃ。
うむ、もしそうならなくともその最悪の事態を想定して魔族領は動こう、人間領の動きは逐一村へ報告を入れさせるから、もしもの時は頼むのじゃ。」
メアリーの読み通りに行けば本当に威嚇だけで解決出来そうだし、それは全く問題無いから協力させてもらうさ。
「それともう1つ、人間領がそのようにがめつくなったのは何時からですか?」
まだ何かあるのか?
「ここ最近じゃの、それまではかなり友好な関係を築けておったのじゃが……。」
「そうですか、情報ありがとうございます。」
メアリーはお礼を言った後に、俺だけに聞こえる声で「後でお話があります。」と耳打ちしてきた。
俺は現状を把握するのが精一杯で、頷くことしか出来なかった。
その日の会議はこれで解散し、村に戻ることに。
家に帰りメアリーに話とは何なのかを聞くと「まだこれは確信を得れてはないのですが……。」と前置きを挟まれた。
大丈夫だ、魔族領で話さなかったのだからそれは何となく想像がついてる。
「恐らくですが、人間領にはキュウビが付いています。」
俺はその言葉を聞いて固まってしまった……ミハエルやクズノハを陥れた奴が人間領に居るだって?
隔日投稿(お昼12:00)していきますので是非追いかけてくださいね!




