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クズノハの処遇が決定した。

クズノハが来て2日が経った、ミハエルはまだ帰ってきていない。


この氷の季節に外に放り出すわけにもいかず、クズノハには簡易住居を作ってそこに住んでもらってる。


村の住民になったわけじゃないし、どうなるかもわからない――ミハエルやグレーテの事を考えると普通の住居にするのはやめておいた。


「簡易と言ってたが、これで充分すぎるくらいなんじゃがの。」


まぁ衣食住は出来ないと困るだろうし、この村の基準で必要最低限って意味の簡易だから。


しかし、ミハエルの帰りが遅いな……何かあったんだろうか。


食堂で食事をしながらそんなことを考えている、メアリーとウーテも一緒だ。


「開様、考え事ばかりされると食事が冷めてしまいますよ。」


おっと、そんなにぼーっとしてしまっていたか。


この後も食料補充で想像錬金術(イマジンアルケミー)を使わなきゃいけないから、きちんと食べておかないとな。


食べて魔力が回復するかは知らないけど。


なんて思いながらスープを飲んでると、ミハエルが食堂に入ってきた。


「ただいま、クズノハが言ってたことを調べてきたよ。

 それと、村長にお客様だよ。」


魔族領から俺に客人――ギュンターとかか?


「私じゃ。」


ミハエルの後ろから魔王がひょこっと顔を出した。


「え、魔王!?

 いつか来るとは言っていたが、こんな急に来ると思ってないぞ。」


「実際急じゃし仕方ないのじゃ、妖狐の一件でクズノハとやらに話があって来たのじゃよ。」


クズノハと魔王が話すって、やはりクズノハは魔族領では大罪人の扱いなのだろうか、まぁ同族が殺されてるうえにミハエルも操られて甚大な被害を出させたし、仕方ないのかもしれないが。


「クズノハは家に居ると思う、そっちに行こうか。」


「分かったのじゃ。」


食事を終えた俺は、魔王とミハエルを連れてクズノハが居る簡易住居に向かった。




「クズノハ、入るぞ。」


「大丈夫じゃ――ミハエルとやらと……そちらの魔族は誰じゃ?」


「魔族領の現魔王であるワルターじゃ、そなたがクズノハじゃの。

 お姉さまから聞いた魔族と妖狐の戦争の経緯について話しに来たのじゃ。」


魔王自ら戦争の経緯を話すのか?


わざわざ赴いてこなくても、ミハエルに言伝を頼むか衛兵を連れてきたら事足りるだろうに、てっきり処罰の話だと思ってた。


「魔族領に先の戦争が記述された文献は残っておらんかった――いや、残してはおったはずじゃが処分された可能性があるのじゃよ。

 先代魔王である父上に話を聞くと『妖狐ではないが、狐によく似た魔物に魔族領の農村が次々と襲われ、これ以上被害を出さないためだった。』と言っておったのじゃ。

 妖狐一族はそのようなことをしていたか聞きたいのじゃ。」


なるほど、せめて話を聞けばとは思ったが被害を増やしすぎないために武力行使で無理やり解決したのか。


「狐によく似た魔物を操って襲われたじゃと!?」


クズノハが魔王の言葉を聞いて両手を机に叩きつけ、前のめりに魔王に近づく。


「そうじゃ、心当たりがあるのじゃな?」


「うむ……心当たりはある、そして魔族領に恐らくその一族の1人はまだ潜んでおる可能性まで出てきた。」


それは俺が聞いてもわかる、魔族領が危ないんじゃないか?


「一族の1人ってことは、妖狐は先に魔族領へ攻め入ったってことで間違いないのね?」


ミハエルが険しい顔でクズノハに言葉をぶつける。


「それは間違いない、じゃが――その者は我が産まれる前に里を追放されておるのじゃ。

 我も親やじい様なんかに話を聞かされ、奴のようになってはならぬと教えられてきたという程度の知識しかない。」


「でも妖狐が犯した罪に変わりはないわよ!」


「お姉さま、それは違うのじゃ。

 追放されている以上、その者は妖狐であって妖狐でないのじゃ――確証が無いから完全に信用するのは難しいのじゃが。」


クズノハからこれを立証する証拠を出すのは非常に難しい、里はもう無いし他の妖狐も全て先の戦争で死んでしまっている。


口から出まかせを言っていると無理やり結論付けることも出来るだろうが、魔王はそうしないんだな。


施政者ゆえの行動だろうか、ミハエルも弟である魔王の言葉で口をつぐんでしまった。


「クズノハよ、その者について何か他に知ってることがあれば教えてほしいのじゃ。」


「もちろんじゃ、あの者のせいで一族が滅んだなぞ我も許せん――同族狩りになろうが喜んで協力させてもらうぞ。

 妖狐一族が扱える妖術全てを扱うことが出来る力の持ち主、人化けが最も得意とは聞いておる――名前はキュウビ。」


クズノハは怨嗟の念を宿らせたような目でキュウビの名を口に出した。


「キュウビ……人化けが得意となると見つけるのは至難の業なのじゃ。

 魔族領に潜んでおる可能性があると言っていたのじゃが、どういう意味じゃ?」


「キュウビは管狐という狐によく似た魔物……というより半霊体を使役することが出来る。

 里を追放された恨みか自身の趣味かは知らぬが、それで魔族領を襲い妖狐に恨みを持たせて戦争を起こしたと我は考えておるよ。」


キュウビ、面倒くさそうなやつだな……今度こそそいつが諸悪の根源なんだろうが。


魔王はクズノハの話を聞いて色々考えてるし、ミハエルは黙ってクズノハを見ている――少し前まで見せていた恨めしい目ではなくなっているが。


クズノハも一通り話し終えたのか、深いため息をついて目線を窓の外へ向けている。


重苦しい雰囲気にいたたまれない気持ちになっていると、ミハエルが口を開いた。


「ラウラ、どうだった?」


うん、なんでラウラの名前が?


「人を噓発見器みたいに使わないでほしいですよ……クズノハさんに敵意は全くないです。

 言ってることは本当だと見ていいと思うですよ。」


ラウラが扉を開けて、少しげんなりした表情で顔を出した。


ここまで話させてずっと索敵魔術で反応を伺っていたのか、確かにこれならクズノハの言葉は信用できるようになる。


ミハエルもラウラの言葉を聞いて、クズノハに謝った。


「「どういうことじゃ?」」


一言一句違わず魔王とクズノハは何が起こったか聞いてくる、ちょっと面白かったぞ。


「プラインエルフ族のラウラは索敵魔術といって、敵意を持っている者の位置がわかる魔術を使えるんだ。

 それを今までずっと使ってもらっていて、ミハエルが確認を取ったということだな。」


「ダンジョンで我の位置が即座にバレたのはそれか、合点がいった。」


「そのような便利な魔術があるのじゃな、未開の地は知られてないだけで様々な技術があるんじゃな――未開とは魔族視点のおこがましい言葉なのかもしれんのじゃ。」


俺が来るまで便利ではなかっただけで、技術はそれぞれ持っていたからな……俺が来てうまく活かせたというのもある。


食糧さえ豊富にあればもっと早くに発展してたと思うけどな。


「さて、この件は魔族領が持ち帰るのじゃ。

 水面下で怪しいものはおらぬか調べるようにする、クズノハが悪ならば処断するつもりであったがそうではないことも分かったのじゃ、この者の処遇は村長に一任するのじゃ。」


俺かよ!


「困ることを言ってくれるな、一番クズノハを恨んでいたであろうミハエルはどうなんだ?」


「そりゃ今でも恨んでる気持ちがないと言えば嘘になるけど、理由があるし。

 ほぼ無理やり問い詰めて、知らずにラウラで嘘かどうか判断してそれも嘘じゃなくて――それで信用しないなんて言ったら私が皆に嫌われるわ。

というか今思ったら私クズノハと戦っても絶対負けるわね。」


その様子なら大丈夫そうだ。


「クズノハ、村に住まないか?」


俺がそう言うと、クズノハは驚いた表情で目じりに涙を浮かべだした……どうした?


「我は、もう独りじゃなくてよいのか?

 悪いことをしたぞ、ミハエル以外からも恨まれておるぞ、それなのによいのか……?」


「魔族への恨みは考えなくていい、魔族領の長である魔王が俺に一任したからな。

 ミハエルもあの様子なら大丈夫だ、わだかまりがあるならこれから少しずつ解いていけばいいさ。」


「有難う……すまぬのじゃ皆……。」


「ただし、せめてもの贖罪に役に立つ妖術を覚える努力を可能ならしてくれないか?

 奪った命以上に助ける誠意と努力を見せれば、きっとみんな分かってくれるさ。」


そう言うと「もちろんじゃ……!」と言いながらクズノハは子どものように泣きじゃくりだした、強がっていただけでよほど寂しかったんだろう。


「さて、クズノハも無事村に住むということは宴会じゃの。

 私もその宴会に参加するのじゃ。」


魔王、絶対この展開を期待してただろ――すっごいウキウキじゃないか。


ちょっと空気を読んであげてほしいと思ってたところで、ミハエルに外に連れて行かれた。


まぁ、あれは仕方ない。


俺はクズノハが泣き止むまで傍にいてやるか。


隔日投稿(お昼12:00)していきますので追いかけてみてください!

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