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捕えた妖狐を村に招き入れた。

デニスにカレーが出来たと言われたので食堂に向かっていると、ダンジョン攻略部隊が続々と戻ってきているのが見えた。


早かったな、まぁあれだけの戦力に敵の位置まで把握出来たうえ、遠距離から情報を受け取れるならこの世界じゃ敵無しだろう。


……あれ、オスカーが何かを握ってないか?


こちらに近づいてくると、狐の尻尾をつけた獣人が見えた……まさか妖狐か!?


「オスカー、妖狐を討伐してくるんじゃなかったのか?」


「すまん村長、こいつが最期に益になる情報をくれるというのでな。

 ワシでは何が益かどうか判断しかねると思って連れてきたのだ。」


ミハエルを操って被害を出す人物に話し合いは通じないと思ってたが、まさか話す機会があるとはな。


「お主、人間に仕えておるのか?」


「村長とは友好・共存関係にあるから仕えてるわけではないぞ。

 我らドラゴン族が力と能力、村長が食糧と能力と言った感じで助け合っている。」


ミハエルは一番の被害者だからか、かなり不機嫌な様子でこちらを見ている――そりゃそうだよな。


「俺がこの村の村長の開 拓志(ひらき たくし)だ、お前がミハエルを操った妖狐か?」


「違いない、我があの魔族を操った妖狐最後の生き残り――名前はクズノハじゃ。」


開き直った態度、反省は無いが何をされても受け入れるというようにも取れるな。


「話は食事しながら聞こう、クズノハも食堂に来てくれ。」


「良いのか?

 我はここに居る全員から恨まれたり疎まれたりしておるぞ?」


「腹が減ってたら思考力が落ちる、せっかく危険を冒して村の住人がクズノハを連れてきたのに有益な情報を聞き逃すなんて大損したくないからな。

 今日は新しいメニューをドワーフ族が作ってくれてる、量も充分だろうし問題ない。

 それに、連れて帰ってきたということはうちの村の住民ならクズノハを即座に無力化出来るということだから安心もしてる。」


俺がさっさとカレーを食いたいのもある、皆もクズノハのことより新メニューに心奪われてる感じだし。


デニスが完成したと言ったなら俺が想像錬金術(イマジンアルケミー)で作ったものより間違いなく美味く出来てるだろうからな、俺もすごく楽しみだ。


クズノハも「え、我……あれ?」なんてつぶやきながら俺たちと一緒に食堂に向かってきた。




「「「「「うっま!!!」」」」」


カレーを食べた全員の感想いただきました。


「これ村長が前に居た世界の料理なの?

 こんな美味しいの好きな時に食べてたなんてずるい!」


これからドワーフ族が作ってくれたら食べれるんだから文句を言うな、でも俺だってここまで美味いカレーは初めてだからお互い様ってことで。


「ホントに美味いの……なんじゃこの村は。」


「俺は別の世界から神に連れてこられてな、俺の能力と住民の要望が合致して集まって出来た村だ。」


クズノハはものすごい勢いでカレーをかきこんでいる、やっぱりお腹空いてたんじゃないか。


かなりやせ細ってるように見えたし、間違いじゃなくてよかった。


「おこがましいとは思うが……お代わりをいただいてもよいか?」


「あぁ、いいぞ。

 好きなだけ食うといい。」


「村長まで、こいつに優しすぎじゃないですか!?」


ミハエルが叫ぶ、気持ちは分かるが今のクズノハは捕虜のようなものだしぞんざいな扱いをするつもりはない。


「話を聞くまではクズノハは来客として扱う。

 過去にクズノハが犯した罪を忘れて接しているわけではないから、落ち着いてくれ。」


俺がそう言うと「それなら……。」と言ってカレーを再び食べ始めてくれた、口に入れるとすぐ笑顔になるあたり本当に美味しいんだろう。


「クズノハ、有益な情報を渡してくれると聞いたが具体的に何が出来るんだ?」


「魔術とは違う、妖狐独自の妖術という物を扱うことが出来る。

 我が出来るのは攻撃妖術・影法師の使役……それにミハエルとやらを操った闇堕としの妖術じゃ。」


そこまではミハエルの話で分かっている情報だ。


「他に何か無いのか?」


クズノハが唸りながら考えていると、1つ思いついたのか手を叩いた。


「悪事にしか使えぬが、ダンジョンコアを生成することが出来るぞ。

 ただ1つ生成するのに結構な時間と妖力を必要とするがの。」


ダンジョンコアを生成だと……自然に生成されるものじゃなかったのか?


クズノハの言葉に、周りも驚く。


「じゃあ尚更こいつを逃がすことは出来なくなったわね、またダンジョンコアを生成して同じことをされたら魔族にまた被害が出るわ。」


「もうそんなことはせんよ、もし生き延びれたらするつもりではあったが、その気もこの村に来て失せた。

 この食事の雰囲気で遠い昔に失った家族を思い出しての、静かに余生を過ごして独りで逝ぬと決めたよ。」


クズノハがそう言うと、慣れない重い雰囲気に全員黙ってしまう。


しかし、決して弱い種族ではないと思うが――。


「何故最後の生き残りなんだ?

 何か天災に襲われてしまったとかなのか?」


「ただただ魔族との戦争に負けただけじゃよ、我はその恨みの意趣返しをしておったというわけじゃ。」


戦争か、理由はどうあれ俺がその過去の罪を判断することは不可能だな。


「魔族との戦争?

 そんなの文献には何も残ってないわよ?」


ミハエルが訝しそうにクズノハを睨みながら言う。


「魔族があの戦争をどう扱っておるか我は知らぬ、じゃが妖狐族の長の娘であった我はその戦争で真っ先に遠くへ逃がされ、その後数ヶ月独りで暮らし里に戻ると焼け野原になっておったんじゃ。

 戦争自体は魔族から仕掛けられておる、そちらに文献が残っておらずとも生き残りの我の命を懸けて事実だと言おう。」


戦争孤児、ということか。


「私、ちょっと父上に問い詰めてくるわ。」


クズノハの言葉を聞いて、そう言い残したミハエルは食堂を飛び出し魔族領に向かっていった。


比較的平和な魔族が戦争を……俺も考えにくいがクズノハの目は真剣そのものだった、嘘とは思えない。


まぁそれを罪かどうか話し合うのはクズノハと魔族であって、俺とじゃない。


俺が興味あるのは1つだけ。


「クズノハ、ダンジョンコアを生成出来ると言ったよな。

 それをこの村に提供してくれないか、見返りが必要なら可能な限り応える。」


俺がそう言うと、クズノハはびっくりした目で俺を見てきた。


「こんな平和な村のどこにダンジョンコアが必要なのじゃ?

 まさか、ドラゴン族と他の種族を利用して我と同じようなことをしようとしておるのではあるまいな?」


「この村の肉はダンジョンに発生する動物から頂いているものだ、効率の為にもダンジョンが複数あると助かるんだよ。」


それを聞いてクズノハは、しばらく黙った後大声で笑いだした――何か変だったか?


「ダンジョンをそのように使う者などそなたが初めてであろうよ、実際妖狐一族の誰も思いつきもしなかった。

 それを思いついておれば、妖狐も魔族ももっと仲良う出来てたかもしれんの……そういう使い方なら問題ない、食事のお礼に提供しようぞ。」


よかった、ダンジョンコアが複数あるだけでやれることは増えなくても効率的に動ける。


「村長、ダンジョンコアを提供された後クズノハはどうするのだ?」


オスカーがミハエルの処遇について意見を求めてくる。


「俺個人だとダンジョンコアは何個あっても有難いからクズノハには生きていてもらうと取引が出来て助かるし、村に住んでもらってもいいが……過去が過去だ。

 クズノハを受け付けない人もミハエルを始め居るだろう、魔族領が何も言わなければクズノハの言う通りどこか静かな場所に住んでもらえばいいんじゃないか?」


「過去に多くの犠牲を出したことに対しては、何も言わないと?」


「俺は戦争の件で魔族が善で妖狐が悪かどうかは考えない、その逆もだ。

 食物連鎖ではなく、知性ある生き物が己の欲だけで殺し合う戦争自体が悪だと考えてる。

 だからクズノハのような恨みを持つ人や、ミハエルのように巻き込まれる人が発生しているんだろ。

 これが戦争ではなく、どちらかが罪を犯していたならどこかで割り切ることも出来るだろう、でもそうじゃないなら当時戦争という殺し合いをした者同士が悪で、今を生きてるクズノハとミハエルは犠牲者だ。」


俺がそう言うと「なるほど……確かに。」という声がチラホラと聞こえる。


「なるほど、村長がそう言うならワシもその意見に賛同しよう。

 後はミハエルの帰りを待つだけだな。」


確かに、魔族領はこれに対してどう動くかが問題だ――面倒なことにならなければいいけどな。


隔日投稿(お昼12:00)していきますので追いかけてみてください!

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