魔王との謁見が無事終わった。
「はぁぁ……嫌な予感はしてたのよ。
やっぱり貴方が魔王を継いだのね、ワルター。」
2人は姉弟だったのか……その事実を知った家臣たちもとんでもない表情で驚いて固まってるぞ。
いや、俺たちも似たような表情なんだが。
「実力もカリスマも充分だったお姉さまが家出をして冒険者になったから、仕方なくという感じじゃよ。
でも、滞りなく先代魔王である父上と変わらない施政が出来てるのじゃ」
先代魔王もギルド長が言ってた噂を知っていたんだろう、だから討伐されたかもしれないという今回の報告に険しい表情をしていたんだな。
そう思っていると、奥の部屋から初老の魔族がこちらに入ってきた。
「ワルター、この者たちがグレーテと共に未開の地から来たという者か?」
「そうじゃ父上、噂通り巨悪の魔人となってしまっていたお姉さまを元に戻して救ってくれた恩人でもあるのじゃ。」
元に戻した大本の原因はオスカーのみで、村に住んだのは成り行きだけどな。
この初老の魔族が先代魔王か……出てきてすぐに、ミカエルは少しずつ後ろに下がって離れようとしていたが「衛兵、お姉さまを止めるのじゃ。」と魔王が命令して止められた。
「まったく……魔王になるのが嫌だったのも城を飛び出して冒険者として生きておったのも知っておったわ。
嫌なものをやらせるつもりもなかったのに、相談もなく飛び出したうえ世界を荒らしに荒らしおって……!」
いかん、事情を知らないから言葉の端々に怒りを感じる……。
「それに関しては説明するから、そのために当時仲が良かった冒険者仲間を呼びたいのだけど、現ギルド長をこちらに呼ぶことは出来るの?
実の娘の頼み、聞いてくれると嬉しいわ。」
ミハエルがそう言うと、先代魔王も「自分の娘じゃ、理由も無しにあんなことをするとは思っておらん。」と怒りながらも寛大な対応だ。
指示された衛兵がギルド長を呼びに行く。
良かった、こんなところで親子げんかに巻き込まれるのはごめんだからな。
「お待たせいたしました、如何な理由でございましょう。」
ギルド長が謁見の間に到着する。
「忙しいのに来てくれてありがとう。
私が巨悪の魔人になった理由を説明するために来てもらったのよ。」
ミハエルがギルド長に話しかける。
「なに、しかし俺はミハエルが巨悪の魔人になった理由を知らないぞ……そもそも俺はその噂を信じてなかったからな。」
「理由は誰にも話してないから仕方ないわ、でも私が巨悪の魔人になる少し前に先遣隊が報告した高難易度のダンジョンがあったのを覚えてるかしら?」
ダンジョン、しかも高難易度なんていうのもあるんだな。
オスカー、ワクワクするのは今はやめておいたほうがいいぞ。
「あぁ、そのことならよく覚えている……先遣隊も何人か亡くなったくらいのものだったからな。
当時の受付からミハエルが単騎で向かったと聞いて無茶なことをと思ったものだよ。
待てよ……その時期と巨悪の魔人が現れた時期って同じくらいじゃなかったか?」
「流石の記憶力ね、ギルド長に選抜されるだけのことはあるわ。
そうよ、私はあのダンジョンに向かって最奥部までたどり着いたの。
そこに居たのは妖狐、それを倒したと思ったんだけど影法師で……その死体から出た黒い霧が私に入ってきてから巨悪の魔人と呼ばれる存在になってしまったのよ。」
操られていたという魔物は妖狐だったのか、随分と前の世界よりの魔物が出てきたな。
しかし知性がありそうな印象だな、ダンジョンが高難易度になったのもそれが理由か?
「ふむ……ギルド長の記憶証言と一致しておるな。
大丈夫だとは思うが一応こちらでも調べさせてもらう、衛兵。」
「はっ!」
「先ほどの内容を冒険者ギルドの資料室に行き、時期を照合してくれ。
迅速に頼むぞ。」
「直ちに!」と言って衛兵はすぐに向かっていった。
「グレーテの未開の地の証言はここに居る原住民で充分なのじゃ、後日成功のお触れと報酬を冒険者ギルドに届けるので受け取るのじゃぞ。
後は照合を待ったのちにお姉さまとの話し合いになるが、グレーテも多少なりとも関わってると見える……参加するかの?」
「お願いいたします、異変に気付いたのは恐らく私が最初なので何かお伝え出来ることがあるかもしれません。」
そうだったな、大事にはならなかったが未然に対策出来たグレーテが気づいてくれたおかげだ。
「わかったのじゃ、開どのは村へ帰る時間などは大丈夫かの?
この後に控える謁見者も居る故、話し合いは後日別の場所で行おうと思っておるが……。」
「大丈夫だが、可能なら一時的にでもいいから転移魔術の魔法陣を展開させてくれないか?
俺の目的はグレーテの証言の他に、村にない食料や調味料を仕入れることが目的だからな、村に転移して物々交換、あるいは商品を売って買いたいんだ。」
「王家の秘術である転移魔術を易々と使うなと言ったはずだぞ、ミハエル?」
ミハエルはダラダラと冷や汗を流し、先代魔王から目を逸らす。
「ミハエルを責めないでやってくれ、自らの封印から脱出できない状態で助けるための交換条件として出してきたんだ。
巨悪の魔人だとはこの時点で判明していたから、俺もこの提案が無ければミハエルの封印を解いてなかったし、最悪殺す選択を取らなければならなかったから。
それに俺とミハエルは契約魔術を使っている、魔族領との関係が悪くなれば俺にとってマイナスだから契約不履行で罰が下るし悪用はさせないさ。」
「成り行きとはいえ見知らぬ者と契約魔術まで使うとは……まぁ命が助かっただけでも良しとせねばな。
わかった、転移魔術を一時的に城の裏庭に展開することを許可しよう、ワルターも良いな?」
「うむ、問題ないのじゃ。
だが裏庭ゆえ大きい物の転移は遠慮してくれ、あと一応双方見張りを村と魔族領に1人ずつ置くことにしよう、トラブルが無いようにするにはそれが一番じゃ。
じゃが、久方ぶりに家族水入らずで話したいこともある、お姉さまは話し合いまで城に残ってほしいのじゃ。」
ミハエルは冷や汗というか脂汗がダラダラ垂れてる……まぁ事故というのもわかってくれるだろうしひどいことにもならないだろう。
「わかった、その条件は何も問題ない。
一応売りたいものは食糧と調味料なんだが、それを人が持てるだけ持ってくるのは問題ないか?」
「大丈夫じゃが、一応城内への直接転移じゃから見張りに毒見はしてもらわんとな……それでよいじゃろうか?」
「それも問題はない、確かな信頼関係が築けるまでは当然でもあるしな。
物々交換で済めばいいが、もし売ることになったらひいきにしてくれると助かるぞ。」
「それは味と質次第じゃの!」と笑いながら魔王は答えた。
今日の謁見は終わりということで一度解散し、裏庭に連れて行ってもらえることになった。
日程が定まれば後日村まで伝えに来てくれるらしい。
裏庭で転移魔術を展開し、城の衛兵が見張りに立つ。
「では交代が来るまで私たちが見張りを、魔法陣を通る際はお声がけください。」
「わかった、俺たちは一度戻り村側の見張りにもこちらに来てもらう。
悪くない人だから仲良くしてやってくれよ。」
「あなた方は来賓者ですから、揉め事のようなことを起こすと私が罰せられますから大丈夫ですよ。」
案外厳しいな魔族領、住民には腕試しだとか言って組手とか吹っ掛けないように伝えなきゃダメだな。
俺たちは転移魔術をくぐり、村に通じるのを確認して首都を散策させてもらう。
どういうものがあるか、色々な文化を見て学ばないといけない。
伝言が届くまで商人や漁師に相談や売り込みをしなきゃいけないからな。
隔日投稿(お昼12:00)していきますので追いかけてみてください!




