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巨悪の魔人が無力になっていた

「どうした、巨悪の魔人か?

 やめてくれとは以前のお前らしくないな、目論見より早く企みがバレて怖気づいたのか?」


オスカーが煽るように巨悪の魔人だと思われるものに話しかける。


『私の名は巨悪の魔人じゃなくてミハエルだと何度も言っただろ、それに怖気づいてなんかないから!』


巨悪の魔人はミハエルというらしい、しかし様子がおかしいというか……思っていたのと違うというか。


『確かに私は巨悪の魔人と呼ばれる魔族だった、オスカーに負けてこの地に敗走したよ。

 プラインエルフ族の危機を助けてこの地で回復を図ってもいたさ、けど失敗してるんだ。』


オスカーが首をかしげてミハエルに質問した。


「失敗とはどういうことだ、お前の復活が近いから遠くからでも違和感に気づくほど気配が感じ取れたんだろう。

 そのような子供だましの言い訳が通じるほど甘くないぞ?」


現状だけで判断するとオスカーの言い分の筋が通っている、だが話だけでも聞いておいたほうがいいかもしれないな。


『オスカーに負けて回復を図るため、この地に逃げた時にプラインエルフ族の危機を見つけてな。

味方につけるチャンスだと思い、救ったのを最後に魔力も空になったから「長い年月をかけて回復を図るから、その間崇めるなりして守ってくれ。」とお願いして樹に身を包んだんだ。

 プラインエルフ族という種族がどういう種族かわからなかったが、エルフだから魔力もあるし、回復も早まるだろうと思い込んだんだよ。

 けど、プラインエルフ族って生活魔術がメインでさ、私の空になった魔力がプラインエルフ族に引っ張られて変異してな……攻撃魔術が一切使えなくなったんだ……。

 この樹から出ようにも、体が弱体化してるのかなまってるのか……出れやしないし。」


確かに、プラインエルフ族が魔術で魔物と戦ったりしているところは見たことがない。


警備だって武器を持っていたしな、まさか攻撃魔術が無いとは思ってなかったが。


「なら、動けるようになった時点でプラインエルフ族にそう言ってさっさと開放してもらえばよかっただろう。

 なぜわざわざ黙っていたのだ、しかもこのように事が大きくなってから言いおって。」


『意識が戻ったのはホント数日前、それまでは回復に専念していたよ……慣れない方法の回復だしどこかの誰かが容赦なくしてくれたおかげで。

 で、気づいたら俺の前でものすごい物騒な話をしてるのが聞こえて、ちょうどそれがオスカーだったから思念を飛ばして話しかけて今現在ってわけさ。』


「なら、別にほったからしでも問題ないってことか?

それならそれでありがたいんだが、ミハエルの話が全部本当なら厄介ごとにはならないだろうけど、面倒そうだし。」


オスカーに聞いてみると、「まぁ……ミハエルの話を全て信じるならそういうことになるな。」ということらしい。


楽でいいな。


『え、助けてくれないの?』


ミハエルがびっくりしたよう聞いてくる。


だって前科者だろ、何かの拍子に力を取り戻すかもしれないし……対処こそすれ、助ける選択肢は無いぞ。


『オスカーは?』


「開どのがそういうならワシも同意見だ。」


『そんなぁ……。』とミハエルはへこんでいるが、後悔先に立たずだ。


過去に暴れた自分を呪ってくれ。


『仮に体が復活しても絶対なまってるし攻撃魔術も無いし……どうやって生きていけばいいんだ……。』


復活しなきゃいいんじゃないか?


オスカーが笑いながら「案外ひどいな、開どの。」と言う、いや生きるだけならそれでいいだろ?


プラインエルフ族も村に来たし、生活魔術に困ることもないしな。


ミハエルにしか出来ないことがあって、村のために生きるって誓うなら話は別だけど……前科者だしなぁ。


『流石に余生をこの樹の中で過ごすのは嫌だよ、オスカーの村のために生きろっていうなら契約魔術を使っていいから出してくれない?

 攻撃魔術は使えないけど、生活魔術と転移魔術がある。

 転移魔術は魔法陣を書いて魔力を流すものだから今も使えるはずだよ。』


魔法陣を書いて魔力を流す……カタリナがトイレの処理のために書いてくれた魔法陣と同じようなものか。


「ミハエル、ワシの村じゃないぞ。

 ワシらドラゴン族が開どのの村に住まわせてもらっておる。」


『え、あのオスカーが人間の下に就いてるの!?

 どういう風の吹き回し!?』


何も知らなければそういう反応になるよな。


「開どのは異世界から来た神に選ばれし人間でな、この地の原住民は開どのの村へ集まりつつある。」


2人で盛り上がってるが、俺は転移魔術がすごく気になっているぞ……聞いてみるか。


「ミハエル、俺の気分は助ける方向に大分傾いてる。

 契約魔術と転移魔術について教えてくれ。」


「開どの、正気か!?」


オスカーが俺の言葉を聞いてものすごい形相でこちらを向いて叫ぶ。


正気も正気だ、転移魔術なんて便利そうなもの見過ごせないし。


『お、言ってみるものだね。

 契約魔術は主従関係を構築する魔術だね、その時結んだ契約を破ればその時決めた罰を即座に受けるという魔術だよ。

 転移魔術は移動したい2つの地点をあらかじめ決めておいて、魔法陣の中に入れば即座に移動出来るというものさ。』


おおむね思っていた通りか、是が非でもほしいな。


魔族領への行き来が非常に楽になるぞ、往復のために山へトンネルを空ける案を考えていたがそれをしなくてよくなるのはいい。


「効果はわかった、だが契約魔術を使えるものはこちらには多分居ない。

 ミハエルが使えて、尚且つ従う側になれるなら村へ歓迎するぞ。

 樹から解放して契約魔術を使うまではオスカーに首根っこ掴んでてもらうけどな。」


『魔術を使えるものなら誰でも使えるはずなんだけど……奴隷制度はこの地には無いのかな。

 まぁいいや、開さん……だっけ、言う通りに出来るから大丈夫だよ。」


「それと、先に契約内容と罰について話しておこう。

 <俺が思う村の不利益になる行動をしない、やむを得ない場合は周りに相談してから>というのが契約内容だ。

罰は<破った時から丸3日気絶>だ、これで問題ないか?」


『契約内容は事前に確認を取れば簡単だけど、罰が重めだね……普通は激痛とかなんだけれど。』


丸3日あれば何かが起きても対処出来るからな、そこは過去の自分を呪ってくれ。


『まぁ仕方ないか、条件を飲むよ。

 傷はいずれ癒えるだろうし、もう解放してくれて問題ないよ。」


「悪い、解放はもう少し先だ。

 ここのプラインエルフ族が村に移住するまで待っていてくれ、神の樹が巨悪の魔人だというのは周知の事実になってしまっているからな。

 安易に解放して騒ぎになっても困る。」


『そっか、わかったよ。』とミハエルは諦めたように聞き分けてくれた。


多少の危険は残っているものの、契約魔術をきちんとかけてしまえばそれも無くなるだろう。


「じゃあ移住が終わればオスカーとまた来るよ、それまで待っていてくれ。」


「急に復活して逃げるんじゃないぞ?」


『わかってるよー、まずここから出られないし他に行き場もないんだから信じて!』


ミハエルが少し怒り気味に返事をする、俺らを騙すならもっとマシで逃げ道のある嘘をつくだろうし多分大丈夫だろう。


オスカー、俺たちも移住の手伝いに行くぞ。


隔日投稿(お昼12:00)していきますので追いかけてみてください!

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― 新着の感想 ―
[一言] さて…ミハエルは果たして♂か♀か…一人称が私と言ったと思ったら俺とも言ったしなぁ…( '-' *)
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