魔王とクズノハの式典が行われた。
陽の季節もあっという間に終わり稔の季節になった。
大分涼しくなってきたなと思ったが、まさか陽の季節が終わっているとはな……リゾート地やデパートにホブゴにフェンリルとフラウ……トラブル盛りだくさんだったが無事に越えることが出来て良かった。
この村なら越えれない季節なんて無いだろうけどな、トラブルだってどうにかして解決する力も持っているし。
そして俺の家の改装、というより建て直しも終わっている。
図面は毎日見ていたから頭に入っていたが、流石にこの規模の建材はなかなか集まらなかったのだろう――本当につい先日図面通りの神殿兼俺の家が完成。
精霊石はもちろん、玻璃やその他シュムックにオレイカルコス、この村で取れるものほぼ全てが使われた建物だ。
俺の希望で居住区は落ち着いた雰囲気にしてもらったけどな。
そして現在、この神殿には着飾った魔王とクズノハ……そして村の住民・魔族領・人間領ほぼ全ての住民が集まっている。
そう、今日は魔王とクズノハの式典なのだ。
だがこの神殿がいくら大規模と言ってもそんな人数を収容するには無理だったので、観客席を数階層作り全員が座って見れるように。
前の世界のドームのようなものだな、これも流澪のアドバイスなんだけど。
あんな過去を持ってるのに、よくそんな事を思いつくよ……俺は家で野球観戦をしてたりしてたけど思いつかなかったし。
「村長、我はちゃんと出来ておるじゃろうか……。」
「安心しろ、今だけはクズノハが一番綺麗だぞ。」
それを聞いたクズノハが耳まで真っ赤にして手で顔を覆って耳をペタンとしてしまう。
妻達にも聞こえてたのだろう、少しムッとした表情をしたがクズノハを見て「仕方ないか……。」というような表情を浮かべて落ち着く。
俺の失言が許容されるくらい今日のクズノハが本当に綺麗だ。
「村長、私の妻になる人を口説かんでほしいのじゃが?」
横から魔王が不満げな表情で割り込んでくる、もちろん魔王も伝統の鎧を着てるし他の所もしっかり着飾っている。
改めて思う、2人とも苦しそう。
「そんなつもりはないよ、安心してくれ。」
「あっはっは、冗談じゃよ。」
魔王はすぐにいつもの表情に戻り笑いながら俺の肩に手を回す、まるで旧友が新郎の結婚式のようなノリだ。
「しかし良かったのか?
俺が前に居た世界の結婚式の流れに倣って……そんな大事な式典だ、慣例があるだろう。」
俺は魔王に質問する、これは話を持ってきた時にも一度言ったのだが……魔王とクズノハの希望で俺の世界で夫婦の契りを交わす時の式典に倣いたいとのことだった。
その時は2人がいいならと返事をしたが、当日になって俺が不安になっている。
だって、牧師の役目が俺だし。
一応流れは頭に入っているけど、やっぱり緊張する。
「もちろんじゃよ、慣例は大事じゃが時には新しい物を取り入れていかねばならんからの。
そして私のクズノハの式典は新しい物にするのにぴったりのタイミングじゃ、なんせ神である村長が初めて見届ける式典じゃからの。」
なるほど、そういう考えも出来るか。
「分かった、そう言う事ならしっかり務めさせてもらうよ。」
「よろしく頼むのじゃよ。」
そうして会話を終えると、魔王とクズノハは服装と化粧の最終チェックの為控室へ戻っていった。
時間的には後1時間ほどすれば式典が始まる、俺も流れの最終チェックをしておくとするか。
「つ、疲れた……。」
「お疲れ様です、開様。
ですがこれから披露宴という名前の宴会があります、そこでも司会をされなければ……。」
「そうなんだよなぁ……今日くらいは弱音を吐かずにしっかり頑張るとするか。」
実際本当に疲れたが、魔王とクズノハのため頑張ることに。
他の人ならもっとつつがなくこなすのかもしれないが、この役は神の俺にしか出来ないし誰かに譲りたくもない。
それに前の世界の結婚式を知っているのは俺だけだ。
流澪は参加したことがないらしい、年齢的にも仕方ないとは思う。
そして少しの休憩の後、宴会での挨拶を終え知り合っている種族ほぼ全員とどんちゃん騒ぎの宴会。
この人数は流石に圧巻だな、前に住んでいた世界でもここまで人が密集している場所はなかった。
「村長、今日は本当にありがとうなのじゃ。
せめてものお礼に、今宵の酌くらい取らせてくれ。」
「ありがとうクズノハ。
だが、それは魔王にしてやるべきじゃないのか?」
「ふん、魔王はダンジュウロウ殿やオスカー殿と食べ飲み歩きに出かけておるよ。
行くところ行くところで祝われておる、我は疲れたので抜けさせてもらったんじゃ。」
まったく、めでたい場なんだから一緒に居てやればいいのに……。
だが、外交を考えればそういう行動もかなりいい効果が出るだろうな。
そこまで考えてるのだろうか。
まぁいいや、今はクズノハが注いでくれた酒をいただくとするか。
「ほれ、流澪殿や他の皆もこっちへ来るんじゃ。
我が酌を取ってやるぞ。」
「クズノハさん、貴女は取られる側でしょう?」
「何を言う、我はこの村で命から生活に伴侶――幸せになる全てを貰っておる。
いつでも会えるとは言え我は今日で村を離れるのじゃ、最後に何か一つくらい与えさせてくれ。」
そう言ったクズノハの目には少し涙が浮かんでいた、やはり寂しいのだろう。
それに気づいた妻達は何も言わずにクズノハに酌を取ってもらった。
流澪も雰囲気に流されてお酒を飲んでいるが、自己申告の年齢だと今は20歳のはずなのでセーフ。
そのまま注いで注がれで一気にお酒が進み、しんみりした雰囲気もどこかへ行ってしまいいつもの宴会に。
俺は具合が悪くなりそうだったので想像剣術で自身を治療、正直危なかった。
皆はその場で幸せそうにうつらうつらと舟をこいでいる、風邪を引かないように後で起こさないと。
とりあえず俺はお風呂に入ってくるとしよう、それで起きてなければ想像剣術で治療して起こすとするか。
風呂に入ると魔王・ダンジュウロウ・オスカーの3人が酒を飲みながら談笑していた。
「お、村長ではないか!
大分静かになったの、皆酔いつぶれたか?」
「そうみたいだ、あれだけしこたま飲んでたら誰だって潰れるさ。」
「ふっふっふ、我ら3人は食べ歩きをすることで飲酒量を減らしておったからの。
まだまだいけるのじゃよ!」
俺も治療してなければ酔いつぶれた側なのは黙っておく。
しかしあえて食べ歩くことで飲酒量を減らすとは、考えたのかたまたまなのか……それよりだ。
「クズノハも連れて行ってやればよかっただろ。
魔王とはぐれて俺のところに来ていたぞ。」
「何を言う、あれはクズノハ本人の希望じゃぞ?
村に滞在する最後の宴会は村長と一緒に過ごしたい、と前々から強い希望を聞いていたからの。
じゃから私はダンジュウロウ殿とオスカー殿を誘って食べ歩きをしておったんじゃ。」
「2人に案内してもらい色々な料理を知ったぞ、後でドワーフ族に教えて作ってもらうとしよう。
どれも美味であったからな。」
オスカーがちょっと羨ましい。
だが、クズノハがそんな希望をしていたなんて知らなかった……最初に言ってたあれは照れ隠しなのだろうか。
「そういう事なら早めに戻ってもう少し宴会を楽しむとするか。
と、言ってもどんちゃん騒ぎは終わったので、ゆったりとした食事になるけどな。」
「それもいいじゃろう。
今だけはクズノハをよろしく頼むのじゃ。」
俺は魔王の言葉に「分かったよ。」と返事をし、軽く体を流して風呂を出る。
途中家へ毛布を取りに行った後クズノハの所に戻ると、自分の尻尾を抱いて幸せそうに眠っていた……起こしていいのだろうか。
とりあえず想像剣術で治療を、と。
「んはっ、寝てしまっておったか!?」
「うわっ!?」
治療してすぐに起きたので少しびっくりしてしまう、もしかして起こさないとヤバい状態だったか?
妻達も心配になったが、お酒には強いはずなので毛布を被せて風邪だけひかないように。
「む……酒が抜けておる。
村長、我に何かしたじゃろ?」
「ちょっとな、魔王から聞いてしまって。」
「そうか、ではもう少し付き合ってもらうのじゃよ。
時間は短かったが、人生で一番濃密な時間じゃった……思い出話をさせてほしい。」
「いくらでも付き合うよ。」
俺だって色々話したいからな、泣き上戸にならないように気を付けなければ。
そうして俺とクズノハは時間を忘れて思い出話に花を咲かせていると、周りが続々と起き始める。
気付けば朝日が山から顔を出し始めている、もうこんな時間か。
「さて、そろそろ片付けないとな。」
「何を言う、風呂に入って寝てから飲み直すぞ?」
「またするのか!?」
「宴会の間は付き合ってくれるのじゃろう?
まだあと2日ある、付き合ってもらうのじゃ!」
まさか3日ある宴会全部だとは思ってなかった、あんな空気になったし今日で最後だとばかり思って話していたのに。
俺としても有難いけどさ、別れる前にしっかり話す時間が取れて。
それじゃあと2日、クズノハとゆっくり過ごすとするか。
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