フェンリルがどうやって封印から逃れたか分かった。
「村長直々に声をかけていただけて光栄です!」
フェンリルと少女が気絶してしまったので、一度村へ帰り介護をしてくれるミノタウロス族とケンタウロス族に声をかけた。
いつもは怖いくらいだが、こういう時は心強いので過去の事には目を瞑ることにする。
ついでに2人に渡す食糧も村から持っていくとしよう。
あんな雪山だし食糧は何でも貴重なはず……イノシシのお礼に渡してもいいだろう。
それとドワーフ族に声をかけて調味料を分けてもらうとするか。
「ちょっと待っててくれ、食堂へ行ってくるから。」
「「分かりました。」」
食堂へ瞬間移動してドワーフ族に事情を説明、すると休憩していた採掘班のドワーフ族と相談したドワーフ族が付いてくることに。
調味料は準備してくれるとのことだ。
だが、採掘班が別の場所についてくるなんて珍しい、理由を聞いてみるか。
「別についてくるのはいいんだが、本当に雪山で何も無いぞ?」
「山という事は岩がある……そうすればどこかに鉱石もあるだろう。
ノーム様までとは行かないが、どんな材質の石や鉱石があるかは洞窟が1つあれば少しは分かる。
それの確認だ、もし未知の鉱石があれば少し頂戴して村のダンジョンに生成するようにしてもらおうと思ってな。」
なるほど、そういう事なら是非ついてきてほしい。
前の世界で定義されてる金属も便利だが、この世界の金属は魔力を含んでいることがある……そういうのはここでまず見つけないと存在が分からないからダンジョンで生成出来ない。
今回の雪山は、そういった希少な金属を見つけるまたとないチャンスってことだ。
俺はドワーフ族2人を連れてミノタウロス族とケンタウロス族と合流し、雪山に瞬間移動。
瞬間移動した直後に思い出したことがある。
防寒着持ってくればよかった、他の皆はちゃっかり着てるし。
「さぶさぶさぶ……。」
「なんで村に帰って防寒着を持ってきてないですか……。」
俺は震えながら鍋を沸かしている火で暖を取る、ラウラからは呆れられたけど。
フェンリルと少女の症状はただの気絶、いつも通りの処置をしていればいずれ目を覚ますだろうとのことだ。
そうだろうとは思ったけど一安心。
「しかし、ここの家主が気絶していては食べづらいな……どれ。」
少しお腹が空いているのか、オスカーが2人をチラッと見た後に立ち上がってフェンリルの体を揺らす。
怖い物無しだな!?
「んん……うおぉっ!?
まさか某を覚醒させるほど体を揺らすとは……お主もただ者ではないな?」
フェンリルは体を揺らされて目を覚ます。
そりゃあんなぐわんぐわん揺らされたら誰だって起きるよ……。
「ふふ、ドラゴン族を束ねる者だよ。
いずれ手合わせしたいものだ……だが、今は大精霊様との話と鍋を優先したい。
よろしく頼むぞ。」
しかもその状況で自己紹介してるし。
「客人達、見苦しいところを見せてすまなかった。
この少女――リリーはもう少し寝かせておいてやってほしい、魔除けの魔術と菜園の世話で疲れているはずだ。」
「それは構わないわよ。
私は鍋より何より、あんたがあの封印から逃れた方法を知りたいんだから。」
ウンディーネはフェンリルの言葉に返事をする、確かに今回話すべきはフェンリルとウンディーネだからな。
でも一つ言いたいことがある。
器いっぱいにお肉と野菜を入れてそう言っても何も説得力が無いからな?
「さて、あの封印を逃れた方法は至極簡単だ……ウンディーネは某を封印出来てないという結論だからな。」
「何ですって!?
そんなはずないわよ、こっちはドリアード・イフリート・シルフの3人も居て一緒に封印にかかったのに!
あんたがいくら精霊だって言っても大精霊に敵うはずがない、そんな嘘にはひっかからないわよ!」
フェンリルが理由を説明すると、それに納得言ってないウンディーネが大声で反論する。
他の大精霊もフェンリルの言葉にはびっくりしている、他の皆も驚いているしフェンリルの言ってることは理解しがたいのだろう。
全員鍋をつついてなければ多少シリアスなんだけどな、まぁどんよりした空気よりいいけど。
「だが事実だ――それは受け入れてくれ。
しかし某もうまく逃れれるかは五分五分だったぞ、それにこの雪山だからこそ出来た芸当でもある。
なにせ某と同じ能力を有した分体に身代わりになってもらったからな……あのような質の高い分体はこの雪山から力を借りないと出来ぬ。」
「そういうことね―ーそれなら納得。
まさか大精霊4人の目を誤魔化すくらい質の高い分体が出せるなんて……もう1体はあのゴブリンの中ってことか。
してやられたわ、かなり悔しいけどこの件に関してはフェンリルが一枚上手だったわね。」
ウンディーネは心底悔しそうだが、フェンリルの実力を認めた。
口が悪いだけで結構サバサバしてるんだな、そのほうが気持ちよく話せるしいい事だけど。
だが、フェンリルの様子がおかしい。
ウンディーネの言葉を聞いて返事もせず、耳をペタンと閉じてブルブルと震え出した。
何かあったんだろうか?
「ゴブリン……ゴブリン怖い……。」
「嘘でしょ?」
フェンリルが震えながらつぶやいた言葉にウンディーネが呆れかえる。
ホブゴと何があったのだろうか……深く掘り返さないでおこう。
しかしゴブリンという言葉がトラウマになってるとは思わなかった、フェンリルがゴブリンに負ける世界なんてここくらいじゃないだろうか。
落ち着いたらフェンリルの現状とこの場所について聞くとするか。
今は話せる状態じゃなさそうだし、俺もそれまでは鍋をいただいておくとしよう。
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