村の周囲に住む魔物の説得に向かった。
「ふー……いい天気だ。」
俺は朝日で目が覚めて伸びをした、ウルリケにもらった時計は6時半を指している。
今日は村の周囲の魔物を説得する日、天気が崩れそうになくてよかったよ。
空は雲一つない快晴、季節も相まってかなり暑くなりそうだ。
「開様、おはようございます。
準備は昨日の内に済ませて門の手前に用意してありますので、着替えと朝食を食べて出発しましょう。」
「分かった、準備するよ。」
魔物を説得には俺もついて行くことになっている、どうせ俺は留守番だろうと思っていたんだが念のためついてきてほしいそうだ。
何故か聞いてみると、今回は村のワガママで住み慣れた土地を離れてもらうので極力向こうの要望を聞きたいらしい。
そこで俺の想像錬金術が役に立つかもしれない、という事のようだ。
魔物とはいえ友好関係を結べるのは良い事だし、そういうことなら協力を惜しむつもりはない。
「村長―、早くー!」
「分かった分かった、すぐに行くから。」
何を要望されるか想像しながら着替えていると、下からウーテが急かすように俺を呼ぶ。
まだ朝早いのに張り切ってるなぁ……それじゃ下に降りて朝食を食べに行くとするか。
朝食を食べ終わり軽く運動を済ませ、平原側の門へ向かう。
「おや、どうしたのでしょうか……?」
メアリーが何かに気付いてぽつりと呟く、どうしたのかと聞いてみると門を指差した。
よく見てみると何人かが固まって何かを話している、警備はいつもきちんと門の前か横に立っているので何かあったのだろう。
少し歩を早めて門へ到着、早速何があったか聞いてみよう。
「村長、ちょうどよかったです。
この辺りに住むゴブリンのボスがこれを私に渡してきたのですが……。」
俺が聞く前に警備から話しかけられる。
渡された物があるだって?
ぎこちないながらも箱を自作している、結構手先は器用なんだな……中身は何だろうか。
箱を開けてみると木の実と野草が詰まっている……どういうつもりだろう。
「村長、これは何だと思う?」
箱の中身を見ていると、ウーテが蓋を指差して俺に質問してきた。
「なんだこれ……自然に付いた傷じゃないな。」
「そうよね、恐らく爪か何かでわざとつけたものだと思う。
文字……なのかな?」
ゴブリンが文字だって?
いくら社会的だとは言っても、そこまで高度な事が出来るだろうか?
だが、もしも木の実や野草が謝礼や何かの品だとして、この蓋の傷が文字だとしたら?
その文字が挨拶文を表しているとしたら……そのゴブリンは最早この村の住民と大差無い。
そんな事が可能なのだろうか……だが、実際社会性は持っているし。
「あ、ゴブリン文字なんて珍しい。
どれどれ……村が広がると聞いたので奥地へ移動する、これは今まで討伐せず良くしてくれた謝礼――だって。」
全員で考えてるとウルリケがオーガを連れて到着したようだ、グレーテが隣に居るので気配遮断を使っているのだろう。
気付かなくて少しびっくりした。
だがそんな事はどうでもいい、ウルリケが蓋に書いていた文字を読み上げている。
「ウルリケ、これ読めるのか?」
「うん、昔研究していた時に解読したからね。
でもこの様子だともうゴブリンはここを去ったようだけど……もしかして仕事なくなったかしら?」
「えぇ……すっごい苦労したのに。
村の名誉がかかってますから、魔王様の城に忍び込むより慎重になったんですよ?」
グレーテはウルリケの言葉を聞いてうなだれてしまう。
「なぁ、この箱はいつ頃もらったんだ?」
「40分くらい前でしょうか、そんなに時間は経ってません。
それに立ち去る時も普通に歩いて去っていきましたし、充分追いつけると思いますよ。」
40分前にここを発った人に追いつくのってかなり骨が折れるはずなんだが、ウーテもいるし充分間に合うだろうな。
とりあえずこれを渡してくれたゴブリンを探しに行こうという話になり、ウーテはドラゴンの姿に。
全員で乗り込もうとした矢先、ウーテが何かを見つけたのか一人で飛んで行ってしまった。
しばらくすると他のドラゴン族を連れてこちらに戻ってくる……あれは、クルトか?
それにラウラも。
「どうしたですか?」
ラウラは状況を把握できず驚いた様子、クルトは人間の姿になって少し拗ねている。
ごめんな。
「ごめんラウラさん、2人でお出かけしていたかしら。
ちょっと協力してほしいの、実は――」
ウーテが人間の姿に戻り状況を説明。
「なるほど、そういう事でしたら協力するです。
クルト、荷物は任せたですよ。」
「えぇ、なんで僕が……。」
「ウーテさんはオーガ含めた全員乗せてるですよ?」
クルトは少し嫌がったが、ラウラの一声でぶるっと震えてコクコクと首を縦に振る。
尻に敷かれてるなぁ。
準備に20分ほどかかっただろうか、ちょうどゴブリンとの差は1時間。
かなり離されているかもしれない、急がなければ。
「よし、それじゃ急いで追いかけよう!
ラウラは索敵魔術、それに方向の指示を頼んだ!」
「分かったです!
――そのまま北へ、まだ索敵範囲内です!」
ラウラの指示と同時にウーテとクルトは凄いスピードで北へ飛び出した。
速すぎる、ちょっとスピードを落としてほしい。
さっきのラウラとの会話に少し違和感があったが、それよりスピードの恐怖が勝ってしまい何も考えられなくなった。
とりあえず降りてゴブリンとの話が終われば考えよう、今はオーガの後ろで目を瞑って隠れさせてもらう。
神なのに情けないって声が聞こえてきそうだけどな。
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