オホヒルメノムチと巨大隕石の処理をした。
「来たぞ。」
「やぁ……って、そういえば僕って一応君の世界では名の通った神様なのに、君は知人の一人のような対応をするんだね。
こっちも気をつかわなくていいから楽でいいけどさ。」
「そうだったのか、すまんがあまり信心深くなかったからな……オホヒルメノムチだっけ。
聞いたことない神の名だぞ。」
俺がオホヒルメノムチの言葉をさらりと返すと、少し不機嫌な様子になるオホヒルメノムチ、もっと崇めてほしいのだろうか。
でも気をつかわなくていいんならそれでいいよな、俺も気をつかうのはしんどいし。
というかまだ完全に許したわけじゃない、隙あらばあと数発は小突きたいぞ。
「まぁいいや。
君が担当する星を破壊する星はあっちから来るよ。
宇宙は常に動いているから気をしっかり持って……想像剣術は発動しちゃダメだよ、やるなら想像錬金術で塵にするか、想像魔術で確実に爆破するんだ。」
「あぁ、わかった……だが、なんで想像剣術はダメなんだ?
あれはあれでかなり強力だと思うんだが。」
「君が剣の達人であれを細切れに出来るなら別にいいけど、そうじゃないんだろう?
なら確実に破壊出来るどちらかを選ぶべきだと思うな。」
ごもっともだ、一応ナイフは肌身離さず持ち歩くようにはしてるが、これがあっても細切れにするような動きは出来ない。
だが想像錬金術か想像魔術か……使ったことない後者を使ってみたい気もする。
でもこれは世界の危機だ――もし失敗したら取り返しがつかないし、使い慣れた想像錬金術で対処するとするか。
「決めたみたいだね、想像錬金術なら十分対応出来る。
君一人の力じゃいくら神でも消えてしまう……僕の力も貸してあげるよ。」
「星ってそんなに強いのか?」
「星の核と神が同等の立場……いや、あっちのほうがやや上という時点で気づいてほしかったけど。
こっちに向かってくる星は死んでるとは言え、星に含まれている力は想像を絶するものだよ。
さぁ、よく目を凝らして僕の指先を見て……、向かってくる星を視認出来たら想像錬金術を発動させるんだ。
なるべく早くね、質量を認識して絶望する前に。」
オホヒルメノムチは真剣な口調でアドバイスをしつつ脅してくる。
あの飄々とした態度しか知らない俺からしたら想像も出来ない……それにこいつが俺を助ける為だけに力を貸してくれるなんて思いもしなかった。
何だかんだ俺を無理矢理転移させたことや神にさせてしまったこと、気に病んでくれているのかもしれないな。
小突くのはやめておいてやろう……今は隕石の処理に集中だ。
オホヒルメノムチの指先を見続けて30分ほどしただろうか。
何も無いぞと言おうとした矢先、何かが物凄い勢いで何かがこちらに近づいてくるのが視認出来た。
――あれか!
「オホヒルメノムチ、近づいてくる何かを視認したぞ。」
「今この周りの星を統治してる神に聞いた情報を纏めても、こっちに向かってくる何かは星を破壊する星しかないよ!
力を送るから、君はありったけの力で想像錬金術を発動してあの星を塵にするんだ!」
「分かった!」
俺はオホヒルメノムチの力を受け取り、想像錬金術を発動しようと試みる。
あの隕石は……よし、光ってるし死亡するというポップアップも出てない。
これは経験上成功するはず、行くぞ――上手くいってくれ!
俺は想像錬金術を発動すると、近づいてきていた星は塵になり……星があった場所から光が広がっていく。
……何かヤバいことが起きてないか?
ビッグバンとかスーパーノヴァとか、そういうやつが。
「さて、あーなったらあれは宇宙全体の問題――僕も手出し出来るね!」
そう言ったオホヒルメノムチは、光に向かって手をかざす。
すると無限に広がる勢いだった光が星のあった場所に集束しだす……そしてそのまま丸い光になって安定したのが見えた。
「何をしたんだ?」
「溢れ出した星の力を纏めて新たな星を作る術を掛けたのさ。
これは僕の得意分野でもあるし……と言っても、ツキヒトオトコの力も借りてるけどね。」
何だかよく分からないが、とにかく何とかなったという事だろう。
「お疲れ様、僕の力を借りたとはいえ神の力を上手く使えてるじゃないか。」
「想像錬金術は俺の十八番みたいなものだ、もうオホヒルメノムチだけの力じゃないぞ。」
「ふふっ、言ってくれるじゃない。」
事が終わり宇宙空間で神と談笑する……こんなトンデモ状況を体験するなんて思ってもなかった。
しかしどういう理屈で宇宙に長時間滞在出来てるんだろうな、星に帰ると呼吸している気がするのに。
まぁ、難しいことは考えなくてもいいか。
「ところでさ、僕の名前って本当に聞いたこと無いの?
君が前に居たチキュウにも少しの間滞在したし、神話として伝承が残ってるって聞いたんだけど。」
「本当に聞いたことないぞ、俺が住んでた国には神や仏がまさしく八百万の神々というくらいに沢山居るからな……全てを把握出来てる人なんて居ないんじゃないか?」
「むー、君が住んでた国の神話に残ってるし最高位くらいに位置してるって聞いて鼻が高かったのに。
もう昔の事なのかなぁ。」
俺が住んでる国で最高位の神様って……何なんだろうな?
伊邪那岐や伊邪那美だろうか、いや――天照大御神か?
でも天照大御神は伊邪那岐と伊邪那美の子だし……どうなんだろう?
「もう一つの名前の方が有名だったりするのかな。」
「オホヒルメノムチって別名があるのか?」
「うん、アマテラスオオミカミって言うんだけど。」
それを聞いた俺はブフッと吹き出してしまう、ちょっと鼻水も出てしまった。
「え、どうしたの。」
オホヒルメノムチ……いや、アマテラスオオミカミにちょっと引かれてる。
お前……いや、え……なんて呼べばいいんだ。
知識が無かったとはいえ突然のカミングアウトに混乱してしまう。
「アマテラスオオミカミって……本当なのか?
それなら俺も知ってるぞ、というか崇める崇めないは別にして俺の住んでた国では全員名前くらいは知ってるんじゃないかな。」
「そうだったんだ、道理で君に引き渡した星以外でも力が集まって来たわけだ。
異世界転移出来るようになるのが大分早かったからね、嬉しい誤算ではあったんだけど。」
「名前が伝わってるってことは、昔はチキュウと契約してたのか?」
「ううん、美味しいお酒があるから飲まないかって誘われて神々と立ち寄っただけだよ。
その時原住民に文句を言われたから神らしい事をしてやったら、崇められて神話になったってわけ。」
俺はその話を聞いてガクッと体の力が抜けてしまう。
そんなくだらない理由で訪れた神を、前の世界の人達は有難く崇めていたのか……ちょっと気の毒。
俺はそんな風にならないようにしなければ、アマテラスオオミカミを反面教師にしよう。
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