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ハチミツの使い方で色々話し合った。

食堂についてから数十分、ドワーフ族からハチミツの可能性についての熱弁をずっと聞かされている。


メアリーも途中で合流したが、その熱弁にいいリアクションを返すのでドワーフ族も嬉しくなっているのだろう。


俺は正直疲れている、料理が美味しくなるのは嬉しいけど……しかしここまで熱くなるのは初めてじゃないのか?


「栄養価が高いのを説明したらすごい熱が入っちゃってるのよね、ドワーフ族って結構健康志向なのかしら?」


「実際そうだと思うぞ、宴会が無い限りかなりバランスの取れた食事を提供してるし。

 仮にファストフードが食事で出てきたとしても、その後の食事はかなり野菜中心になってないか?

 来訪者側はお金をもらってるから好きな物を食べさせてるけど、村の住民はドワーフ族によって食事面での健康を管理されてると思う。」


「それだけじゃないですよ!

ドワーフ族は鍛錬所や狩り部隊、警備部隊といった体が資本の方々にはお肉や卵を多めにしてくれてるんです、有難いですよねぇ。」


俺はそんなことされてないけど、まだそこまで至ってないという事だろうか。


実際そうなんだけど、最近また鍛錬所に行けてないし……早く刀を使えるようになりたい。


「何も考えてなかったし気づいてなかったけどそういうことだったのね、道理で胃もたれや食べ飽きがないはずだわ。

 いつも美味しいからペロッと平らげちゃうのよね。」


「ほっほ、嬉しいことを言ってくれるの。

 だがそれはいい食材があればこそだ、いくらワシらが頑張っても食材がダメなら味はガクッと落ちる。

 誤魔化すことも可能だが限界があるからの。」


それは重々承知してる、前の世界で安くて同じなら安いほうがいいと思って買ったプライベートブランドで痛い目を見たから。


あのお酒に関してはトラウマになったくらいまずかったな……なんであのクオリティで流通しているのかが分からないくらいだった。


閑話休題。


「そこにハチミツが加われば更にいい物が出来るってわけね!

 ところでハチミツはお菓子なんかにも使えるんだけど、ドワーフ族は作らないの?」


「お菓子とやらは苦手なんだ、まず甘いものが酒に合いづらいからな。

 だが嫁達が作れなくはないと言っていたな、最初は忙しくて手が回らなかったが最近はちょくちょく作っているらしい。

 試食ついでにハチミツを試してもらうか、おーいお前ー!」


妻の呼び方って人それぞれだよな、前の世界だと呼び方一つで差別だなんだと騒がれていたが……別に家庭に問題が無ければ好きにすればいいと思ってる。


「はいはい、どうしましたか?」


呼ばれたドワーフ族の妻が厨房の奥から歩いてくる、いい匂いをさせているのでお菓子作りをしていたのだろう。


ちょっと食べてみたいぞ。


「作ったお菓子を皆に試食してもらっても構わんかの?

 それと、新しくコロポックル族が村に移住してハチミツとやらが手に入ったんじゃ。

 流澪殿曰くこれがお菓子にも使えるらしい、少し味見してみてくれ。」


「ハチミツ……それは村長や流澪様が居た世界の呼び名ですか?」


「そうだ、コロポックル族はホーニッヒと呼んでいたな。

 ビーナという虫が花から集めた蜜を分けて貰ってるんだよ。」


「やはりホーニッヒでしたか、初めて口にしますね。

 魔族領でかなり高値で取引されるんですよ、虫を使役するなんて不可能だと思われてますから。

 冒険者がたまたま外で見つけたものが流通するのを待たなければならないと聞いたことがあります。」


そりゃそうだろうな、持ちつ持たれつの関係を虫と築くなんて普通は無理だと思う。


そう考えると前の世界の養蜂家ってすごいな、どうやってたんだろう?


しかしハチミツって高いんだな、軽率に売りに出そうかと話をする前にその情報を聞けて良かったよ。


そしてドワーフ族の奥さんがハチミツを一口舐める、口の中でしっかりと味わってる様子だ。


そのまま物凄い思考を張り巡らしているような表情をして固まってしまった――と思ったらハチミツをもう一口。


「どうした、美味いのか?」


ドワーフ族、かける声はそれじゃないと思うぞ。


「美味しいのは当然でしょ。

 このホーニッヒ、どれくらいの量手に入りますか?」


「コロポックル族と要相談だな、収穫量が増やせるならどんどん増やしてもいいとは思うけど……高価なものと聞いて交易に出すのは遠慮したいと思ってる。」


「村の外には出さなくていいです、出したとしてもホーニッヒを使った料理程度に留めるべきでしょう。

 あなた、ホーニッヒの在庫が潤沢になればお菓子の提供に向けて本格的に動いてもいいかしら?」


それを聞いたドワーフ族は少し驚いたが、奥さんの表情を見てすぐに首を縦に振った。


相当真剣な表情だしな、お菓子も食の一つだしそれが伝わったんだろう。


「ちょうど手も空き始めたし大丈夫だろう。

 だが在庫を確保出来るまでは料理に使わせてもらうぞ?」


「少し分けてくれれば相当作れるから大丈夫よ。

 村長、それにメアリー様に流澪様――明日以降ホーニッヒを使ったお菓子を作りますので是非試食をお願いします。

 一応私の腕を知ってもらうために今作ったお菓子を持ってきますね。」


「やった、この村では珍しいお菓子が食べれる!」


「魔族領や人間領では結構見かけましたからね、美味しかったので楽しみですよ!」


俺も楽しみだと話していると、俺達の反応をドワーフ族がじっと見ていることに気が付いた。


少し凹んだ表情をしているが大丈夫だろうか?


「お待たせしました、これが魔族領でもポピュラーだったプレッツヒェンです!」


長い名前をしているがこれはクッキーだろう、いただきまーす。


「おいし!

 コーヒーや紅茶があれば完璧ね!」


「甘くてサクサクでこれはいいですね!」


「こっちはしっとりで俺好みだ、確かにコーヒーが欲しくなるな。」


俺達がプレッツヒェンを食べていると、ドワーフ族も「どれどれ……。」と手を伸ばして食べる。


それを見た奥さんは、顎が外れるくらいの勢いで口を開けて驚いていた。


「あなたがお菓子を食べるなんて!?」


「酒に合わんものは作らなくてもいいと思っていたが、酒好きの村長とメアリー殿があんなに美味しいと言っているなら需要があるのだろう。

 食べてみるのも一興かと思ってな……しかしこれは美味い。」


「その固定観念というかこだわりは捨てたほうがいいな、新しい発見をするために物凄い邪魔になる。

 酒に合うものも大事だがこういうものも大事だ、食後にコーヒーや紅茶とこのプレッツヒェンがあればいい口直しになると思わないか?」


俺がそう言うとドワーフ族は「なるほど、確かに……。」と食べながら考え出した、今までにないものだったから思考を整理するのに時間が掛かるかもしれないな。


「村長、メアリー様、流澪様……ありがとうございます!

 お菓子作りは趣味に留めておけと言われていましたが、一気に本格的な動きをすることが出来そうです!」


「言ってくれれば村の総意としてお願いしたのに。」


「実際ここ最近までは忙しくてまともに手が回せませんでしたから。

 プレッツヒェンに高評価を頂いてありがとうございます、ホーニッヒを使ったお菓子も楽しみにしててくださいね!」


「もちろんだ。」


ドワーフ族の奥さんはぺこりとお辞儀をして厨房へ下がっていく、ドワーフ族はまだクッキーをぽりぽりと食べてるけど……これ放っといていいのだろうか?


「ドワーフ族は私が見ておきますね、お二人は先に帰っていてください。」


俺がドワーフ族の対応について考えていると、メアリーが解決策を出してくれた。


「……分かった、ならメアリーに任せるよ。」


「ごめんね、メアリーさん。

 埋め合わせは今度絶対するから。」


「気にしないでください、今日はお二人で楽しまれるんですよね?

 他にもやりたいことがあれば今日のうちに済ませてくださいよ?

 明日はパーン族にハチミツについての話し合い……色々忙しくなりそうなので。」


「それにクリーンエネルギー機構もそろそろ稼働出来そうだから、話し合いの時に進捗報告するわ。

 ありがとうメアリーさん、今日はお言葉に甘えるね。」


流澪はメアリーの言葉に返事をすると、俺を引っ張って食堂の外へ出る。


もう結構遅い時間だけど、何をするんだろうな?


極力毎日お昼12時更新します!

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