玻璃の使い方と教育施設の計画について話し合った。
夕食はそのまま広場で食べた、ちょっとした宴会のようなものになったので、たまにはこういうのもいいかもしれない。
「さて、大分腹も膨れたところで話し合いの続きを始めるぞ。
マーメイド族に聞きたいが、人間領から玻璃や教育施設のノウハウなんかはもう村に入っているのか?」
「玻璃は入って来てます、ドワーフ族とアラクネ族の方々が使うという事でそのままお渡ししていますよ。
ノウハウは後日教育施設を運営されてる方がお見えになると伺っています。」
そうだったのか、まぁ今までも購入した物を逐一確認していなかったからそのまま使う場所へ運んだんだろう。
「ドワーフ族は手甲と盾、それに要望があったので杖も作ってみたぞい。
村の者の感想は上々じゃった、特段難しい物ではないし冒険者に試験的に使ってもらい好評なら商品にも出来そうじゃな。」
「アラクネ族はシュムックと同様装飾品を作ってます。
魔力関係の効果がほぼ確実に発現するので、前衛の方より後衛や補助魔術を使う方々にオススメかと。」
「概ね予想通りの物か、試作お疲れ様。
ちなみに玻璃の値段ってどれくらいなんだ?」
村で扱える商品が増えるのは嬉しいが、高すぎると躊躇する人が多いからな……そのあたりは重要だ。
「村にある標準的な荷車に満杯で金貨15枚だそうです、今回はお試しということで金貨1枚分を購入しました。」
「そんなに安いのか、ドワーフ族が作った武具なら銀貨10枚程度で村へ儲けが出せるぞい。」
「アラクネ族の装飾品もその程度でいいですね、玻璃のいいところはある一定の量を使えば効果は発現するので。」
「シュムックは違うのか?」
「シュムックは質の良さや大きさにかなり左右されます、効果量は大きくてもそのあたりが難しい物なので。
玻璃は少々質が悪くても効果に変動は見られませんでした、見た目の問題だけですね。
採掘と選別に人員を取られてない資材でこれなら充分かと。」
玻璃は思ったより便利そうだ、今まで剣や鎧といった近接戦闘の人が使う武具を主に扱っていた村が魔術を使う人に狙いを絞って武具を販売出来る。
シュムックは村でかなり厳密な選別をしてるし、効果が高い物の値段はかなりのものだからな……金貨の価値を知ってからあんな値段の物が結構売れているのに驚きだ。
村で採掘してもいいが、ここ最近ダンジョンを見に行った感じでは今以上に選別する物が増えたら少し大変そうだし……玻璃は購入するか。
「村長、玻璃は人間領から買うのか?」
「そのつもりだが、どうしたんだ?」
リッカが俺に声をかけてくる、何か不都合があっただろうか。
「いや、買ってくれるなら問題無い。
村では好きなものを何でも自分達で手に入れてるから……もし買ってくれないならお願いしようと思って。」
「確かにそうすることも出来るが、そうすればするだけ皆の負担が増えるから買える物は買わせてもらうよ。
それにこういった交易は商品だけのやり取りじゃなくて、積み重ねで信頼も得れてるからな。」
「それならよかった、玻璃だけじゃなく教育施設のノウハウもよろしく頼むぞ。
手紙では私が幼いころに教授をしてくれた人が来られるらしい、あの人はいい人だから。」
「分かった、楽しみにしてるよ。」
リッカを教えた人ならきっと優秀な人なんだろう、王族を教える人が優秀じゃないなんてことはないだろうし。
色々聞かなくてはな――他に話すことはあったっけ。
俺はメモを見返してみると今話したことで全部だった、こうしてみるとなんでこれくらいのを纏めるのにあんなに時間がかかったんだろう。
久々書類なんて作ったからかな、なんて思いながら解散を促そうすると「待ってほしいのじゃ。」とクズノハの声。
「どうしたんだ?」
「なに、村に直接関係ないことなんじゃがな……我が魔王に夫婦の契りを交わそうと言われたのは皆知っておると思う。
その正式な返事を先日行ってきての、魔王はもちろん家臣の方々にも無事許可を得れたことを報告しようと思ってな。
魔族領へ移り住む日程はまだ決まってないのじゃがな、式典とやらがあるみたいなのでそれに合わせればいいだろうと言われておっての。」
それを聞いた皆は一気に湧き上がる、クズノハへの祝いの言葉もすごいが女性陣のハグがものすごい。
「わぷわぷ……そこまでせんでも皆の祝いの気持ちは届いておるから!
誰じゃ、どさくさに紛れて尻尾をもふもふしておるのは!」
クズノハがハグをされながらもみくちゃにされながら祝福されている、ちなみに尻尾をもふもふしている犯人は流澪だ。
「キュウビさんに断れたんだもん……はぁー気持ちいい……。」
もしかして人間領でキュウビに頼みたいことがあるって言ってたけど、尻尾をもふもふすることだったのだろうか?
そりゃ断られる、キュウビはクズノハと違ってあまり馴れ合いを好むような人じゃないし。
「まったく、多少しんみりするかと思いきやまさかこんな事になるとはの……。
じゃが気分が沈んだまま魔族領へ行かずに済むので良いやもしれぬ。」
ひとしきりもみくちゃにされたクズノハが落ち着く、ちなみに流澪は尻尾もふもふがバレて拳骨をもらっていた。
端っこで「うぉぉぉ……。」とか言いながら頭を押さえて悶えている、若い女の子が出していい声じゃないぞ。
そんなに痛かったのだろうか。
「とりあえずそういう事じゃ、式典の他に食事会もあるらしいから村の皆を是非招待したいと思っておる。
日取りが決まればまた伝えるゆえ、楽しみに待っててほしいのじゃ。」
「改めておめでとうクズノハ、その時は精一杯祝わせてもらうからな。」
全部知っているがクズノハに話を合わせる、あの時ぽろりと漏らした話を覚えてないわけじゃないだろうが気にしてないみたいだし。
「それはそれとしてじゃ。
村の皆よ、我が魔族領に行くと決まってから何を企てておるのじゃ?
村長に聞いても口を割らぬし、我は当事者なんだから教えてくれてもいいじゃろ?」
クズノハが皆に問いかけると、視線を泳がせたり逸らしたりしながらゆっくりとクズノハから距離を取りつつ解散しようとしている。
もちろん俺もその一人だ、まさかこんな堂々と聞いてくるなんて思ってなかったし。
「どうしても言えぬのじゃな、なら力づくで聞くまでじゃ!」
そう言ってアストリッドを追いかけるクズノハ、確実に追いつけるだろうと思った相手に飛びつくのはずるいぞ。
だがシモーネがアストリッドを掴んでクズノハを避ける、まさかそんな連携プレイを即席でするとは……アストリッドは驚愕の顔でシモーネを見てるけど。
「あなたに悪いようには絶対ならないから安心していいわよ。
村長はあなたを祝いたいの、でもそれが知られると楽しみが半減するでしょう?
その気持ちは分かってあげて。」
シモーネがクズノハを諭そうと試みる、アストリッドは「下ろしてくださぁい……。」と小さく呟いてるが大丈夫なのだろうか。
「むぅ……負担をかけさせたくないのじゃがな。」
「クズノハを祝う事は俺のやりたいことであり村の総意だ、気にせずその時が来たら受け取ってほしい。」
受け取れるものじゃないけどな。
「分かったのじゃ、そのようにさせてもらうのじゃよ。」
クズノハは誰かに問い質すのを諦めたようで一安心、シモーネの言う通りバレちゃうとサプライズ感が無くて面白くないんだよな。
ここまでバレてるとサプライズではないのかもしれないけど。
「では皆も散っていったし解散でいいかの?
我は流澪殿を少々借りていくのじゃ、尻尾もふもふはワル……魔王の特権じゃというのに。」
そう言いながらクズノハはまだ悶えていた流澪を抱えて研究施設に歩いていった、あまりひどいことはしてやるなよ?
というか魔王は尻尾もふもふさせてもらえてるのか、ちょっと羨ましいな……そう思っているとタイガ・レオ・トラの3匹が俺の近くに寄って来た。
グォッと鳴く3匹、もふもふしていいぞという事なのだろうか。
そう思うことにした俺は3匹にもたれかかるようにもふもふを堪能させてもらった、最近は警備と村の周りの魔物を駆除してくれてるらしく姿が見えないから久々だ。
久しぶりに3匹とゴロゴロしながら遊んでいると流澪の折檻が終わったクズノハに少々冷たい視線を送られる、そんな顔しなくてもいいじゃないか……。
極力毎日お昼12時更新します!




